魔法少女リリカルなのはA's──記憶を無くした魔導師── 作:六道 天膳
海鳴市のとあるスーパー。
そこではやてはシャマルと共に買い物をしていた。今日の夕食のは鍋なのでかごの中にはネギや白菜など様々な野菜が入れられている。
ちなみに今日はすずかが夕食を食べに来るのでいつもよりも多めに材料を買っている。
二人は肉を買うために生鮮食品のコーナーに来ていた。
「そやけど、最近みんなあんまりうちにおらんようになってしもたね。」
肉を手に取りながら、はやてはそんな疑問をシャマルに投げかけた。
「え、ええまぁ……その……なんでしょうね?」
突然そんな質問をされたシャマルは少しどぎまぎしながら答えていた。
一方のはやてはみんなにやりたいことがあるんだったらそれでいいと、あまり詳しく聞こうとはしなかった。
「はやてちゃん、大丈夫です!今はみんな忙しいですけど……その……すぐにまたきっと……」
本当のことを言えないシャマルがはやてに言える言葉はそれしかなかった。
「そっか。シャマルがそう言うならそうなんやね。」
そして本当のことを知らないはやてはシャマルの言葉を素直に信じていた。
それから買い物を済ませた二人はスーパーを出た。
空は漆黒の夜に染まり、吹き付ける風は突き刺さるように冷たい。
「みんなも外で寒ないかなぁ……」
はやては手に息を吹きかけながら夜の空を見上げ、いつ帰ってくるか分からない家族達のことを心配していた。
◆◆◆◆◆
今、トウカは二人の騎士と対峙している。
まず一人目は一撃必倒。鉄槌の騎士、ヴィータ。
二人目は鉄壁の盾。盾の守護獣、ザフィーラ。
本来ならば一対一ですらトウカ一人が戦うにはあまりにも荷が重過ぎる相手。
しかし、心理的状況はややトウカに有利だった。
奇襲の成功したという点。
そして二人は先日のシグナムと近接戦闘で互角に戦ったという話を聞いていたからだ。
トウカの出方を伺っているのか、目の前の二人はトウカを睨みつけているものの、動こうとしないのが何よりの証拠。
(あー……これからどうしよう……一応出来るだけ本気で撃ったんだけどダメージほとんど受けてないんじゃないか……?)
しかし、そんな二人に対してトウカ本人は心中穏やかではなかった。
奇襲は成功したものの、ヴィータ達には軽傷程度の傷しか負わせることができなかった。
いや、見た所バリアジャケットが少し破けている程度なので下手をすれば全くダメージを受けていない可能性がある。
いくら攻撃魔法の威力がなのはやフェイト達よりも劣っているとはいえ、あそこまで綺麗に奇襲に成功したのにも関わらずほとんどダメージがないというのは流石のトウカもへこんでいた。
そんな風にトウカがへこんでいる最中、クロノが念話で話しかけてきた。
『トウカ。大丈夫か?』
『あぁ……とりあえず時間稼ぎは任せてクロノはなのは達が到着した後のことでも考えるなり、闇の書を探すなりしていてくれ。それくらいなら何とかする。』
『わかった。気をつけて。』
そう言ってクロノは念話を切り、トウカは再び目の前の二人に集中する。
「とは言ったものの……どうするかね。」
何とかする、と答えたものの、今のトウカの状況はあまり良いとは言えない。
今の状況で真っ向勝負を仕掛けても勝てる確率は高くはない。トウカの目的は時間稼ぎだが、あまり戦いが長引けば逆に窮地に追いやられてしまう。
そんなことを考えているとヴィータがふと口を開いた。
「おい、お前!名前は?こっち名乗ったんだ、そっちも名乗り返すのが礼儀ってもんだろうが!」
「断る。別に名乗るほどの者でもないしね……」
「こ、この野郎……!」
と、馬鹿にしているように答えるとヴィータはより一層、睨んで怒り心頭といった様子だった。
「ザフィーラ!手出さないでくれよ。」
「はぁ~……わかった。」
こういうことに慣れているのか、ザフィーラは呆れ顔で頷く。
(よし、いい感じに挑発に乗ってくれた。)
トウカはわざと煽ることによってヴィータにわざと攻めさせるつもりだった。
だが、想像以上に効果覿面だったらしい、トウカの挑発に乗ったおかげで2対1という悪い状況にならなかった。
「覚悟しろよ……てめえええええええええええ!」
怒りに任せた行動は得てして行動が単純になる。
ヴィータが鉄槌構えて突撃してくる。
対するトウカは迎え撃つつもりで槍を構える。
「はああああああ!」
「おっと。」
トウカは手に持つ槍で繰り出される鉄槌を軽く弾くようにして受け流す。
ヴィータの攻撃はまさに一撃必殺。
かすりでもすれば肉ごと抉ってしまいそうな一撃。
だが、重さあれど、シグナムのような鋭さはない。
となると、トウカが付け入る隙があるとしたらそこだと考えた。
一度受け流されたところでヴィータは止まるはずもなく何度も何度も繰り返し鉄槌を振るう。
「ちっ!まだまだ!」
「よっと。」
しかし、トウカはそれをことごとく受け流し、時には体を反らして回避する。
その一振り一振りはトウカを打ち砕かんと迫るがトウカは軽々と躱していく。
実直な動きだからこそ、その対応は簡単になる。
力を込め鉄槌を降りぬいた瞬間に力が入っている方向を反らすように少し弾くだけ、それだけである。
しかし、当然だがそれは決して簡単なことではない。
武器に力を入れるほんの一瞬のタイミングを狙わなければならないのだ。
少しでも弾くタイミング、方向を失敗すれば間違いなく武器ごとトウカの身体は鉄槌の餌食になるだろう。
普通の使い手ならばそんな芸当は難しいだろう。
……だがトウカにとってはそれほど難しいことではない。
「てめぇやる気がないならさっさと当たって楽になっちまえ!」
「んな無茶苦茶な……!」
一方のヴィータはまるで弄ばれているようなこの状況にイライラしていた。
そしてより猛々しく、より単純に攻撃を繰り出す。
「とはいえ……流石にしんどいな……とっ!」
それから10合ほど打ち合った頃、トウカは後ろに下がって4発ほどのソニックレイを放つ。
放たれた4発の光弾は上下左右からヴィータを襲う。
「ふんっ……!」
それを見たヴィータはどこからともなく4つの鉄球を取り出し、それらをハンマーで打ち出す。
「なんだその甘っちょろい攻撃は!」
打ち出された鉄球はトウカが放った光弾を打ち破り、そのままトウカへと迫る。
「ふむ、やっぱりそう簡単には当たってくれないよね。」
対するトウカは少し腕を動かした瞬間、4つ鉄球は綺麗に細切れになっていた。
ほんの一瞬で鉄球を斬り払ったのだ。
「……やるじゃねぇか。」
「そりゃどうも。」
ヴィータは一瞬で鉄球を斬られたことに内心冷や汗をかいていた。
(なんなんだあいつは……全然攻撃を当てられる気がしねえ……)
いくら自分の頭に血が上っていたとはいえ、何度も何度も同じように攻撃を受け流されていればいくら何でも少しは頭を冷す。
故に単調な攻撃に見せかけて何度かフェイントやタイミングを織り交ぜていた。
しかし、それらは同じように受け流され、極めつけは先ほどの鉄球を一瞬で斬り払った。
それほどの技量を持ちながら反撃したのは先ほどの光弾のみ。
ヴィータは考える、目の前の男が本気で反撃してきたら恐らくただでは済まなかったはずだと……。
(一体何がしたいんだこいつ……そういえばシグナムも全然反撃してこなかったって言ってたな……何が裏があるのか?)
お互いの射撃魔法が防がれ、再び睨み合うような形でトウカとヴィータ対峙する。
(……ふむ、とりあえず時間稼ぎはできてるな……っていうかなのは達遅いな。)
ヴィータが様々な思考を巡らしている一方で、トウカはヴィータの暢気にそんなことを考えていた。
トウカはあくまで”時間稼ぎ”が任務なので、無理に攻撃は仕掛けていないというたったそれだけの理由で反撃しないだけであった。
そしてトウカは現在の状況を改め思案する。
自分の遠距離攻撃の威力ではまずヴィータの防御を破ることは不可能。
ヴィータはベルカの騎士の中では珍しい射撃魔法を持っているが先ほどのように軽々といなすことができる。
近距離戦ではお互いほぼ互角。
むしろ守りに徹すればトウカは”今のところ”しばらく戦うことができる自信があった。
しかし。
「さて、このままだと埒が明かないけど……どうする?そろそろ止めない?」
「……ならこれならどうだ。」
ヴィータのグラーフアイゼンがカートリッジをロードする。
そう。今のところは、トウカはもうしばらく戦うことができるのだが……
それはヴィータがカートリッジシステムを使わずにいた場合ならの話である。
ヴィータがグラーフアイゼンのカートリッジをロードした瞬間、鉄槌は姿を変え、ハンマーヘッドが推進剤噴射口に、その反対側がスパイクに変形する。
あのなのはの防御もうち貫いたラケーテンフォルムである。
「食らえ!ラケーテンハンマー!!!」
ヴィータは今までとは比べものにならないほどのスピードで突撃する。
トウカも槍での受け流しをしようとするが完全に勢いを殺すことができず、逆に弾かれてしまう。
「ちっ……!」
「もらったああああああああ!」
そのすさまじい勢いと、先ほどまでとは比べものにならないほどの切り返しの速さで鉄槌がトウカの眼前へと迫る
トウカはできる限りの魔力を込めたシールドを展開すると同時に持っていた槍の柄でヴィータの攻撃を二段構えで防ごうとする。
しかし。
ガシャン!
というガラスが割れたような音と同時にトウカの腕に重い衝撃が走り、あまりにも凄まじい衝撃で一瞬意識が奪われたかのような感覚に襲われる。
「ぐっ!」
できる限り魔力を込めたシールドが一瞬で砕かれる。
なんとか槍で食い止めることができたものの、ヴィータの勢いは止まらない。
「そのまま吹き飛べえええええええ!」
ヴィータは渾身の力を込めて鉄槌をそのまま振り抜く。
同時にトウカは近くのビルへと吹き飛ばされ、ドォン!というすさまじい音を立てながらビルの壁に叩きつけつけられる。
「痛てぇ……」
二段構えの防御によりそこまで大きなダメージを受けたわけでもないが、あまりの衝撃に脳が揺さ振られたため、ヨロヨロと体制を立て直す。
上空にいるヴィータはトウカを見下ろしながらにやりと笑みを浮かべている。
「へっ!最初と立場が逆だな。大口叩いてた割に案外あっけないんだな。」
「やかましい。こっちは最初で半分くらい魔力消費しちゃって疲れてんだよ……」
トウカはすぐさま飛翔し、ヴィータと同じ高度まで上がる。
一方のヴィータは再び突撃してくるつもりなのか、鉄槌を大きく振りかぶる。
これ以上の時間稼ぎは不可能に近い、そうトウカが思ったその時。
『武装局員配置終了!OK、クロノくん!トウカさん!』
グッドタイミングでエイミィから通信が入った。
『それから今、現場に助っ人を転送したよ。』
その通信を聞いたトウカは静かに口を開いた。
「やっときたか……すまないが俺の役目はここまでだ。」
そう言ってトウカはくるりと翻した。
「おい!お前逃げる気か!」
「いや、選手交代。俺はもう疲れた。」
「何を言って……」
そしてその同時にヴィータは新たに現れた気配に気が付いた。
「───!!あいつら!」
ヴィータとザフィーラは気配が現れた方向に目を向ける。
その目線の先には二人の少女がビルの屋上に立っていた
◆◆◆◆◆
「レイジングハート!」
「バルディッシュ!」
「「セットアップ!!」」
その言葉を合図に二人は光りの中に包まれる。
彼女達の手にはそれぞれ新しくなったデバイスが握られている。
主を守るため。
主を助けるため。
全ては主のために一度壊れてしまった愛機はまた再び彼女達の手の中にある。
『Order of the setup was accepted.』
『Operating check of the new system has started.』
『Exchange parts are in good condition, completely・・・・・・・・』
「え・・・こ、これって・・・・」
「今までと違う・・・!」
『2人とも、落ち着いて聞いてね!』
そして、彼女達は決心した。
もう負けない。
もう誰も傷付けさせないと。
『レイジングハートもバルディッシュも、新しいシステムを積んでるの!!』
デバイスたちも主と同じ気持ちだった。
もう二度と主たちを傷付けさせない。
今度こそ主を守ってみせる。
だからこそ自分の意思で新しいシステムを入れて欲しいと頼んだ。
エイミィの声が2人の頭の中に響き渡る。
『呼んであげて、そのコたちの新しい名前を。』
「Condition, all green. Get set」
「Standby, ready」
それぞれのデバイスは新しいシステムの準備を終わらせたことを告げる。
そして彼女達は自分の愛機にそれぞれ新しい名前授ける。
「レイジングハート・エクセリオン!!」
「バルディッシュ・アサルト!!」
名を告げた2人に呼応するように、次の瞬間。
『『Drive, Ignition』』
先ほどよりも眩い光が彼女達を包み込んだ。
いつも読んで下さり有難うございます
というわけで16話でした。
もっと主人公を活躍させたいと思う今日この頃。
では次回もよろしくおねがいします。