魔法少女リリカルなのはA's──記憶を無くした魔導師── 作:六道 天膳
冒頭部分になるので少し短めになっております。
ではよろしくお願いします。
プロローグ「記憶を失った男」
「ん……こ、ここは……」
ゆっくりと目を覚ます。
身体はまるで鉛のように重く、頭もクラクラしていたが、何とか身体を起して周りをゆっくりと見回すと、どうやらここは林の中のようだ。しかも非常に寒く、次々と体温を奪われていっているのを感じる。
「……ここはどこだ?」
だるい体を起こして立ち上がり、周りを見渡してみたがここは見覚えが無い場所だった。それだけではない。この場所が覚えが無いどころか。
「俺は……誰だ?」
自分は何も覚えていないのであった。
◆◆◆◆◆◆
それから自分は腕を組みながら、ひとまず覚えていることを思い出そうと思考を巡らせていた。
名前は……トウカ。
性別は男。これは間違いない、確実にこれだけは断言できる。
年齢は……覚えていない。
トウカはこの時気づいた……気づいてしまった。自分は記憶喪失なのだと。
「ん……?これは……」
ふと、トウカは鎖につなげた白い宝石が首にかけていることに気がついた。……これは思い出すことができた。
「ヘイムダル。起きているか?」
『はい。おはようございます。マスター』
トウカの言葉に反応するように、白い宝石から女性の声が聞こえた。これは自分のデバイスで名はヘイムダル。
……ということまでは思い出すことはできたが、やはりそれ以外のことは思い出すことができなかった。
「ヘイムダル。俺の詳細なデータ、以前どこで何をしていたかメモリーに残っているか?」
『……申し訳ございません。どうやらメモリーが破損しているようです。私にわかるのは自分の機能とあなたがマスターということだけです。』
「あ~れま~」
デバイスもメモリーが壊れているとなると完全にお手上げである。どうやら”自分たち”は”ここにいる以前の記憶”だけがきれいさっぱり覚えいるようだ。ひとまず自分の名前やデバイスのことを覚えていただけでも良かったと考えるべきであろう。
「とりあえずここで立ち止まっていても何も始まらないか……」
しばらくその場で今までの事を思い出そうと腕を組みながら考えていたが、いつまでたっても何も思い出せないので諦めたトウカはスッと立ち上がり歩き出したのだった。
◆◆◆◆◆
12月1日。時刻は6時35分。
ここは第97管理外世界『現地惑星名称”地球”』
その日本という小さな島国の小さな町、海鳴市の桜台に一人の少女がいた。
少女の名前は高町なのは。
私立聖祥大学付属小学校に通う、小学3年生。
しかし、なのはは普通の小学生ではない。
彼女はこの世界(地球)ではごくまれという魔力を秘めていて、春先に起こったある事件で「魔法の力」と出会い、その時からずっとなのはは自らの魔法と向き合い、訓練を重ねているわけなのである。そして、今日も朝早くから訓練に来ていた。
「それじゃあ今朝の練習の仕上げ、シュートコントロールやってみるね。」
『わかりました。』
と、意気込みながらなのはは、ベンチに置かれている赤い宝石に話しかけた。
ベンチに置いてあるこの赤い宝石。一見何の変哲もない宝石だが、実はこの赤い宝石は彼女のデバイスの”レイジングハート”だ。このレイジングハートはインテリジェントデバイスというミッドチルダ式魔導師の一部が扱う意志を持ったデバイスである。インテリジェントデバイスとは、発動の手助けとなる処理装置、状況判断を行える人工知能も有しているとても優秀なデバイスなのだが、その一方でその扱いは基本的に難しく、主の力が弱かったり扱う能力自体がなかったりすると、デバイスに振り回される何とも情けない魔導師となってしまう。
しかし、なのはは魔法において天賦の才に恵まれている上、レイジングハート自身もなのはのことが気に入っているのでその心配はない。
「リリカルマジカル」
なのはは空き缶を片手に持ちゆっくりと目を閉じて集中させると、ピンク色の光りと足元から魔法陣が浮かび上がる。
さらに意識を集中させながらゆっくりと左手を目の前にかざす。
「福音たる輝き、この手に来たれ。」
ピンク色の光の球体が目の前にかざした左手に現れる。
「導きのもと、鳴り響け。」
そして、呪文を唱えながら手に持っている空き缶を空へと投げ
「ディバインシューター……シュート!!」
叫ぶと同時に右手を天高くかざし、ピンク色の球体を上空へ投げた空き缶目掛けて放つ。このディバインシューターは誘導操作可能な射撃魔法でディバインスフィアと呼ばれる発射台を生成し、そこから魔法弾を発射する魔法で砲撃魔法が得意ななのはの主力の魔法だ。
「コントロール……」
なのははより集中力を高め、巧みに魔法弾を見事に操りながら当てていく。そして20回連続で当てたところで「アクセル」と呟き苦しそうな表情を浮かべながらも、速度を上げていく
『Ninety-eight……One hundred.』
そして見事、100回連続で当てたところで、なのはは「ラスト!」と言って左手を振り下ろし、最後に一回命中させて、見事にゴミ箱に入れることができた。
「やったー!やったよ!レイジングハート!」
『おめでとうございます。マスター。』
と、大喜びしていた直後だった。
「ぐはぁ!」
「……え?!」
すぐそば林から人の叫び声?のような声がした。何事かと思い、なのはは恐る恐る声をした方向に歩み寄ると
「え……えぇっと……」
なんとそこには長い黒髪の青年が倒れていた。
「……ど、どうしよう、レイジングハート?」
『……』
レイジングハートも何と言っていいか、わからないようである。だが、さすがにこんなところで倒れている人を放っておけないと考えたなのはは、自分より体格の大きい青年をなんとか運び、近くにあるベンチに寝かせた。
なのははやっとのことでベンチの上に寝かした青年を見る。一瞬女性と間違えそうになるくらい中性的な顔立ち。長い手足。そして、男の人とは思えないほどとてもきれいな長い黒髪を持っていた。服装はジャージを着ているので恐らく朝の散歩かジョギングをしていたのだろう。
「どうしよう……魔法見られてないよね……」
魔法の存在がアニメや漫画しか存在しないこの世界で魔法を見られてしまうというのは大変なことである。もしろんそのことを承知のなのはは魔法が見られてないかと心配しつつ、同じくらいこの青年の具合も心配だったのでしばらく様子を見ることにしたのだった。
この出会いがすべての始まりだった。