魔法少女リリカルなのはA's──記憶を無くした魔導師──   作:六道 天膳

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いつもありがとうございます。
勝手ながら一週間ほど非公開にさせていただいてましたが、今日から再び公開します。
詳細は活動報告にて。
ではよろしくお願いいたします。


第20話「特訓開始 」

「特訓」

 

クロノがリーゼロッテとリーゼアリアという二人の協力者を得たその翌日こと。

バリアジャケット姿のフェイトがとあるビルの上で仰向けに倒れていた。

目の前に広がる青空を眺めながら早朝の澄んだ空気を思い切り吸い込み、深呼吸をする。真冬という事もありその空気はまるで氷のようで肺や喉を針のように刺す。しかしそれでもフェイトは何度も大きく深呼吸をし息を整える。

なぜそんなことになっているのか。

フェイトはこの真冬だというのに汗だくになり息も絶え絶えという状態だからである。

 

 

「おーい。フェイトー大丈夫かー?」

 

 

ちらと、仰向けの姿勢のまま軽く首を声の方を向ける地べたに寝ているフェイトの顔を覗くようにフェイトと同様にバリアジャケットの姿のトウカが立っている。

二人でこのビルに来ている理由。それは前にフェイトがトウカに頼んでいた戦い方を教えるという約束の為だった。

トウカの手には片手剣、つまりエスパーダフォームのヘイムダルが握られている。フェイトがシグナム戦の対策をする為である。

 

 

「大丈夫です。もう少しだけお願いします。」

「ちょっとフェイト大丈夫なの?トウカもあんまりフェイトをいじめないでおくれよ。」

「いや……いじめてるつもりは無いんだけど。」

「そうだよアルフ、私がお願いした事だし、それに……まだやれる。」

「無理しないでね、フェイトちゃん。」

 

 

声をかけているのはフェイトの使い魔であるアルフとフェイトの親友であるなのはだ。彼女達は二人の訓練を見学するために来ているのだが、二人が心配そうにしているのには訳がある。

 

 

「次は一本取ってみます。」

「よし、その意気だ。」

 

 

フェイトはバルディッシュを構える。

訓練の方法は至極簡単。魔法無しの単純な試合形式。

───相手の体に攻撃を当てればいい。たったそれだけだ。

 

 

「行きます!」

 

 

踏み込み、低い姿勢で下から半円を描いてバルディッシュを打ち込む。

鎌が風を切り、その勢いは正真正銘フェイトの本気の手加減なしの攻撃なのだが……

 

 

「真っ直ぐ来すぎだよ。速いけどそれだけじゃあ簡単に見切れる。」

 

 

鎌の軌道上にトウカの剣が差し込まれ、そのまま滑らかな動きで手首を回し、バルディッシュに絡ませるようにして巻き上げる。

見事に巻き上げられたフェイトは万歳をしているような体勢になり体の急所のほとんどを晒してしまうが当然、トウカはそれを見逃さない。

鳩尾、顎、顳顬、脇の下、手首、モモ、全て人体の急所。トウカの剣はそれらの急所を全て瞬く間に打ち込んでいく。

 

 

「かはっ……!」

 

 

フェイトは打ち込まれた衝撃で吹き飛ばされ、引っくり返る。先ほどと全く同じ場所、同じ姿勢で倒れ、再びフェイトの目の前は空が広がった。

 

 

「はぁ……!はぁ……!」

 

 

あれだけ急所に剣を叩き込まれているにもかかわらず、フェイトの体には傷一つどころか痛みも吹き飛ばされた時の衝撃の痛さしか無い。

こうしたやりとりをかれこれ1時間ほどずっと続けている。

フェイトは何度も違う方法で、更に全力で攻撃している。

最初はトウカの出方を窺う為に様子見を見ていたが、一瞬で距離を詰められ、次の瞬間にはフェイトは空を見上げていた。

次は見切ってみせると意気込んだものの、トウカも様々な方法で攻撃の仕方を変え、その度にフェイトは空を眺める羽目になった。それを繰り返すこと12回。しかしフェイトは見切ることができなかった。

次にフェイトは攻勢に出た。

避けられれば追撃し、防御されたならば反撃する暇を与えないほどの連撃を───

しかしそれも気が付けばフェイトは体に攻撃を打ち込まれていた。

ならばとフェイントを交え、様々な角度から攻撃を加えた。自分が知りうる全ての戦術、技術を試した。

だがそれもすべて対応されその回数は19回。

そして先ほどのやりとりである。フェイトはほとんどヤケクソに近い攻撃をトウカは当然あっさりと返す。

フェイトはまだ汗一つかいていないトウカを見て一つの考えが脳裏をよぎった。

 

 

(間違いなく手加減されてる……でも魔法が使えたら……きっと。)

 

 

当然だ。フェイトは魔導師であって戦士でも騎士でもない。いくらシグナム戦を想定した訓練だからといってもここまで極端に近接戦闘特化の訓練をする必要は無い。

と、フェイトが考えた瞬間。

 

 

「今……魔法を使えたらって考えたでしょ?」

 

 

ドクン。

 

 

フェイトの心臓は飛び上がった。

先ほど考えていた事はもちろん本心ではない。

しかし、ほんの一瞬脳裏によぎった考えを見事に当てられたのだ、驚かないわけがない。

顔をあげると、いつもの優しい笑顔でトウカはフェイトの顔を除いていた。その表情は怒っているわけでも皮肉を言っている様子でもない。

 

 

「よし、それじゃあ今日はフェイトはここまでにしよう。」

「……え?でも……」

 

 

その一言にフェイトは目を丸くした。

もしかしたら気を悪くさせたのかもしれないと思ったフェイトは不安そうな表情を浮かべる。

そんな捨てられた子犬のような顔をしているフェイトに気づいたトウカは少しバツが悪そうな顔をして頭を搔きながら。

 

 

「あ~……フェイト?今日はそろそろ時間的に終わらないといけないっていうのと、今日やったことを色々整理して考えた方がいいからね。それで、明日は魔法を使って模擬戦形式でやってみよう。」

「……っ!わかりました!がんばります!」

 

 

その話を聞いた瞬間、フェイトはぱっと明るい表情になる。

その様子はまるで……というかまさに子犬そのものだった。

 

 

「それでなのはも明日は参加して近接戦闘について色々教えてあげる。」

「ホントですか!お願いします!」

 

 

こうして第一回目の特訓は終わりを告げた。

彼女たちは日々成長している。

彼女たちは見失わない。

ただひたすらに堅実に、確実に、日々強くなっている。

それは彼女たちが努力をすることを苦に思わない向上心おかげなのか、彼女たちの魔導師としての才能なのか。

それともトウカという存在が彼女たちを見失わないように導いているからなのか。

それは今は誰もわからない。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

同時刻。シグナムとシャマルは疲労困憊の様子でソファに座っていた。

二人は昨夜、はやてが眠った後から蒐集を行い、ザフィーラとヴィータははやてを一人での残すわけにはいかないというのと、管理局の動向を探るためにはやての元に残っていた。

昨日の夜から蒐集し二人が戻ってきた頃にはもうすでに日が昇っていた。

 

 

「それでシャマル。結局闇の書の暴走の原因がわかったのか?」

「ううん……それがまだ……一体どうしちゃったのかしら。」

 

 

シャマルは膝の上に乗せている闇の書をそっと撫でる。

前回なのは達との戦った時、シャマルは闇の書を使用して管理局が展開した結界の破壊を行ったのだが、闇の書が何故か暴走し、必要以上の魔力を消費し破壊の雷を放ったのだ。

ただでさえ一刻も早く魔力を蒐集して闇の書を完成させなければ、はやての命が危ないという状況だというのに。

その結果、一回の活動に今まで以上に多くの魔力を蒐集をせざるを得ない状況になり、家にいられる時間が減ってしまった。

寂しい思いをさせていると思っているが、一方でそれも仕方ないと騎士たちは思っていた。

 

 

「闇の書がそうせざるを得ない理由があったとは考えられないか?」

「どうかしら……せめてこの子が話してくれるなら早いのだけど。」

 

 

闇の書にも意思がある。蒐集したページも400頁を超えたため単独行動も行えるようになった。

しかし、闇の書は喋ることができないためコミュニケーションを取ることはできない。

 

 

「でも……あの時……」

「何か心当たりでもあるのかシャマル?」

「心当たりってほどじゃないけれど……あれを使ったとき、この子……悲しんでたような感じがあったの。」

「悲しんでいた……?」

 

 

ヴォルケンリッターは闇の書から生まれたプログラムであり人間でも使い魔でもない疑似生命体だ。

それ故に精神的にリンクがあるため、時々だが闇の書の感情を感じる時がある。

 

 

「ええ。しかも、様子がおかしくなったのあのフードの男が目の前にいたときからみたい。」

「それほどヤツが危険だと判断したのか……?」

 

 

シグナムには理解できなかった。

闇の書は確かに意思はあるものの、少なくともこの状態で勝手な行動をしたことはシグナムの記憶に無い。

それだけでも十分おかしいが、それ以上にフードの男……つまりを認識した時からおかしい様子だったという。益々わけがわからなかった。

 

 

「ふぁぁ~……二人ともおはよう。」

 

 

ふと二人の背後から声をかけられる。

そこには先ほど起きたのか、眠そうにあくびをしながら目をこすっているはやてがいた。

 

 

「今日は二人とも随分早起きなんやね。」

「おはようございます、主はやて。今日は二人とも早く起きてしまったので朝食はどうしようかと二人で話していたところだったのですが、今さっきエッグベネディクトに決まったところです。」

「……え!?……あっ!そ、そうなのよ!すぐに用意するから待っててくださいね。」

 

 

あまりにも突然のシグナムの発言にシャマルは戸惑う。

シグナムは嘘はあまり好まないのだが、こういった突然のことで話を切り替える冷静さがシグナムにはある。

ちなみにシャマルはエッグベネディクトの作り方を知らないので更に動揺する羽目になった。

 

 

「主はやて、どうぞこちらに。」

「ありがとう、シグナム。」

 

 

 

エッグベネディクトの作り方を必死に考えながらあたふたしているシャマルをよそにシグナムははやてを抱えてソファに座らせる。

しかし、はやてはシグナムの顔から目を離さずじっと見つめる。

はやては不思議な目をしている、とシグナムはそう感じることが多い。その目に見つめられると自分の心の奥まで見通されてしまうようで、先ほど誤魔化しで言った言葉が嘘だとバレてしまいそうで。

シグナムは一瞬ドキッっとしたが、表面上は冷静さを保ちつつはやてに問いかける。

 

 

「……?どうしたのですか?」

「シグナム、ホンマにちゃんと寝てるん?ちょっと目にクマが出来てるで。」

「……実はあまり。」

「やっぱり。どうしたん?何か悩み事でもあるん?」

 

 

シグナムの悩み。それはシグナムだけの悩みではなくヴォルケンリッター全員の悩みである。

それはもちろん、魔力の蒐集のこと、そして蒐集し終わった後の事。

 

 

「悩み事は無いのですが……きっと忙しいからだと思います。」

 

 

それを当然言えるわけもなく、シグナムはまた話を誤魔化した。

 

 

「そっかぁ……最近みんな忙しいもんなぁ。手伝えることや相談があったらいつでも言うてきてな?これでもみんなの主なんやから。」

 

 

はやては本当に心配そうな様子でシグナムの手をそっと握る。

 

 

「大丈夫です。もうすぐ忙しい日々も終わるはずです。」

 

 

こうしてシグナムは自分行っていることを隠す。目的が達成されるその日まで。

彼女たちの行動の結果、どんな結果になるかわからないのにも関わらず。

そしてシグナム達は気づいていない。

自分の本心を隠していると同時に自分たちは周りを見えていないことに。

 

最も大切でかけがえのない存在であるはずのはやての気持ちを見えていないことに。

はやてが最も求めていることを見失っていた。

 




読んでくださってありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
では次回、またお会いしましょう。
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