魔法少女リリカルなのはA's──記憶を無くした魔導師── 作:六道 天膳
「さて、昨日から丸一日経った訳だけど、なにかいい考えは思い浮かんだ?」
「バルディッシュと一緒に考えてきました。」
「そっか、それは楽しみだ。」
翌日の早朝、フェイトとトウカそして再び対峙している。
昨日と同じようにアルフとなのはは対峙している二人を見守っている。
今日の特訓は魔法を使用しても模擬戦方式。
場所は昨日のビルの屋上ではなく、ある程度の広さを確保でき、早朝では人気が少ない桜台を選んだ。
「さて、簡単にルールを確認するよ。まず遠距離からの直射系、広域攻撃魔法はお互い禁止。但し、射撃魔法は使用してもいい。」
これはこの特訓はあくまで中距離から近距離での戦闘を想定しているためである。
射撃魔法を使用可能にしているのは射撃魔法は誘導、複数、連射とバリエーションが多く、近距離戦での応用もできるからである。
「防御、補助系魔法は使用可能。敗北条件は相手に急所等有効な攻撃を当てられるか、捕縛系魔法で拘束し相手に武器を突き付けるかリタイア宣言をする……ってな感じで大丈夫かな?」
「はい!大丈夫です。」
「よし、じゃあアルフ。結界の展開よろしく頼む。」
「あいよ!」
トウカに言われアルフは結界を展開する。
トウカは昨日と同じく白い片刃の剣、エスパーダフォームを出現させる。
フェイトも同じくサイズフォームのバルディッシュを構える。
「さて、一日考えた結果どんな作戦を立ててきたのかお手並み拝見させてもらうよ。」
「負けません!」
「よし、じゃあなのは!合図よろしく!」
「わかりました!二人とも準備はいい?……レディ……スタート!」
まず先に動いたのはフェイトだった。
「プラズマランサー……」
フェイトは周囲に複数のフォトンスフィアを展開させる。その数は8つ。
「ファイア!」
フェイトの合図とともに、フォトンスフィアから生成された8つの光の槍が同時にトウカに襲い掛かる。
「ふっ!」
威力、速度、貫通能力に長けたこの射撃魔法だが、その軌道は直線的。
トウカは上昇し、その槍を避ける。
「ターン!」
フェイトはトウカがこの程度の攻撃を避けることを想定した。
すかさず槍を方向転換させてトウカを追いかけ、同時にフェイトはバルディッシュを構え、トウカに向かって飛翔する。
避ければフェイトは再び射撃魔法の再誘導し追撃。さらに、逃げる方向を間違えれば迫るフェイトに隙を突かれる。
例え上手く避けても、状況は振出しに戻る。
更に結界が展開されてているため行動範囲が限られる以上、いつかは追い込まれる。
となると、トウカが選ぶべき行動は一つしかなくなった。
「なるほど。相手の行動を制限する状況を作り上げた……か。」
トウカは嬉しそうにつぶやいてプラズマランサーに立ち向かうことを選択した。
昨日までのフェイトはただひたすらにトウカに一矢報いればいいと攻撃を繰り返していただけだった。
トウカはただそれに対応していればよかった。
自分から攻撃することも、避けることも、受けることも、反撃することも次にどんな行動を選択するかを自由にすることができた。
昨日までのフェイトだったら、プラズマランサーでトウカを攻撃することしか考えなかっただろう。
しかし、今回はプラズマランサーを駆使し、同時に相手に迫ることによって、フェイトは相手の行動の選択権を制限させた。
更にプラズマランサーを砕くのは容易では無い。
誘導能力はある程度犠牲にした分だけ威力や速度だけではなく、その強度も高い。
現にシグナムがただ切り払っただけでは砕けず、わざわざカートリッジを消費してようやくすべてを砕くことだ出来たほどだ。
トウカは迫るプラズマランサーを後ろに下がりながら一つ一つと打ち砕いていく他ない。
(さてフェイト……この後どうくる?)
そしてすべてを砕くころにはフェイトは眼前に迫っていた。
互いの距離が縮まる。
間合いまであと3m。
まだ互いに動かない。
───あと2m。
───1m。
間合いに入る次の瞬間、フェイトの姿が消えた。
(……!?)
フェイトが目の前から消えた直後、予想していたのか、本能なのか、それとも直観だったのか、トウカは後ろに向かってヘイムダルを振る。
その瞬間ガキンッ!という乾いた音が鳴る。
トウカが目線を後ろに向けると、そこにはフェイトがトウカの胴をめがけて振り下ろしている姿があった。
「……!」
まさか初見で受け止められるとは思わなかったのか驚きの表情を浮かべているフェイトだが、更に速度を上げトウカに襲い掛かる。
トウカの目にはフェイトが消える直前、フェイトの体が一瞬ぶれたように見えた。
───フェイトは何をしたのか。それは高速で上下左右に体を動かすことによって相手の目を暗ますというフェイントの一種。
それ自体はいたって普通のフェイントなのだが……地上での戦闘では実行できない、立体的な戦い方ができる空中戦、そしてフェイトのスピードが合わさったことによってできる戦い方だった。
その姿は正に雷光の如く。
これこそフェイトは一日バルディッシュと共に考えた作戦である。
一見単純そうに思えるような作戦ではあるが、フェイトにとって最も持ち味を引き出しやすい戦い方である。
とはいえそれでもトウカはギリギリの所でフェイトの攻撃を受け止め続けていた。
「さて。フェイト、そろそろこっちから行かせてもらうぞ。」
トウカがフェイトの刃を受け止めそう告げた直後、フェイトが次の攻撃に転じようとした瞬間だった。
トウカは、手元でソニックレイを一発だけフェイトのバルディッシュに当て、フェイトは高音の弾けた音と共に吹き飛ばされた。
(スピードだけじゃ突破できない……それなら……!)
トウカよりも上空へ飛翔する。
数メートルの距離を吹き飛ばされたフェイトはすぐさま判断した。
速度で突破できない場合、次にどうするかをということだ。
ただ速度に任せているだけでは突破できないと考えたフェイトは一つの選択肢を選んだ。
「ハーケンセイバー!」
バルディッシュの先端に形成している魔力の光刃を飛ばす。
ただひたすらに勝つ為に選んだ選択……それは昨日の特訓ではできなかった魔法による戦い方。
直射、広域攻撃魔法は限られているが、近距離~中距離での魔法戦闘ならば、前衛戦闘型の魔導師であるフェイトはなのはよりも得意なほどである。
言うまでもなくトウカ相手ならば、純粋な魔法での戦いではフェイトに分がある。
「ぐっ!」
トウカはハーケンセイバーを受け止めることができたものの、その威力を完全に殺すことができず、そのまま光刃と共に地上叩き落される。
───更に
「プラズマランサー!」
再び周囲にフォトンスフィアを先ほどよりも多い12個展開。追い打ちをかけるべく、すぐさま射出しようとした瞬間。
───視界は真っ白に染まり、光と共に爆発に包まれた。
「きゃあ!」
爆発に包まれたフェイトにはなにが起きたのかわからなかった。
ただわかったことは何故か展開していたフォトンスフィアが突然爆発したということだけだ。
それだけでも十分驚いていたフェイトだったが、驚いたのはそれだけではない。
「勝負ありだ。」
眼前にはいつの間にかトウカが迫っていた。
トウカはフェイトに向けて刃を走らせる。
ほぼ無防備の状態のフェイトには防ぐ術を持ち合わせているはずもなく、フェイトは迫る刃につい目を瞑る。
「~~っ……!」
しかし、いつまでも斬られる衝撃が来ることは無かった。
ゆっくりと目を開けると、フェイトの首元にトウカの刃突き付けられていた。
「……参りました。」
こうして、フェイトとトウカの模擬戦はトウカに軍配が上がった。
(どうして……?)
フェイトはあの時何があったのか思考を巡らした。
そして考えられるのは一つだけだった。
トウカがやった事は非常にシンプルなもので、トウカの射撃魔法のソニッレイで展開していたフォトンスフィアを全て破壊されたのだと。
恐らく、ハーケンセイバーを受け止める直前にソニックレイを発動。こちらがプラズマランサーを射出するタイミングを狙ってフォトンスフィアを破壊したのだ。
実にシンプルだが、これは簡単なことではない。
そもそも、何故フェイトがプラズマランサーを放ってくると読んでいたのか。
確かにフォトンスフィア自体の強度は低い。フォトンスフィアはあくまでプラズマランサーを射出するための装置であり、ただの魔力の塊だ。
破壊されればそれなりの爆発が起きることは想像できるだろう。
しかし、あの時のトウカはハーケンセイバーを受け止め、地上に落ちていったはずである。
その状況にも関わらず、トウカはフェイトに気づかれずにソニックレイを操ってフォトンスフィアを正確に全てを破壊し、体制を立て直し、すぐさまフェイトに接近し、剣を突き付ける。
これが如何に難しいことであるか、フェイトは十分わかっているがそれ以上に恐ろしかった。
トウカの底知れない強さに。
色々考えてうなだれているフェイトにトウカはそっと彼女の頭に手を置いた。
「フェイト。実はこの模擬戦の後にフェイトにアドバイスしようと思ってたことがあったんだけど……たぶんもう必要ないとおもう。」
「それはどういう……?」
「実は教えたかったことのほとんどをフェイト自身が答えを出しちゃったからなんだ。ということで……おーい!なのはもこっちにおいでー!」
「はーい!」
地上に降りると共にトウカに呼ばれたはなのはは小走りで二人に近寄ってくる。
「本当は最後に教えるつもりだったんだけど……二人に一つ問題を出す。いいかい?」
「「はい!!」」
「いい返事だ。じゃあ問題。自分より強い相手に勝つためには自分の方が強くないといけない。この言葉の意味は何でしょうか?」
「自分より強い相手に勝つためには……」
「自分の方が強くないといけない……?」
二人はトウカの問題を復唱するが、見事に二人とも頭にクエスチョンマークを浮かべている様子だった。
「難しいかな?でも、二人にとって今一番ベルカの騎士たちと戦うのに必要なことだよ。」
「……フェイトちゃんこの問題分かる?」
「ううん。」
二人とも唸りながら必死に考えているが、なかなか答えが出てこない。
「答えはすぐじゃなくてもいいからさ。ゆっくり考えてみて。」
「「はい!」」
「よし!それじゃあじゃあ次はなのはの番だ!なのはは遠距離タイプだから近距離タイプの相手に対する対応方法を考えながらやってみよう。」
「はい!わかりました!」
こうして無事に特訓二日目は過ぎていった。
トウカが出したこの問題は今後二人の戦い方の基本になっていくのだが、二人が問題の解答を導き出すのは少し先の話である。
ということで21話でした。
また評価をいただいたようで非常に嬉しいです。
評価して頂いた方のためにも頑張っていきたいと思います。
そういえばちょっと前にReflectionが発表されましたね~どういったものになるのかとても楽しみです。
では、次回もよろしくお願いします。