魔法少女リリカルなのはA's──記憶を無くした魔導師── 作:六道 天膳
「さて、次は図書館に行こうか!」
トウカに告げられた言葉に、二人は『あぁやっぱりか』、と言いたげな表情を浮かべている。
「……あれ?意外と反応薄い?」
「だってトウカさんがよく行くところって言ったらほかに図書館くらいしか思いつかないですもん。ね、フェイトちゃん?」
「よく本を借りに行ってたんでなんとなくそうかなって思ってました。」
毎日本に齧りついている上、気が付けば読んでいる本が変わっているというのは二人ともよく知っているので、考えるまでもなく次にトウカが行きそうな場所といえば図書館ぐらいである。
「ふむ。それもそうか……ってなると他には……」
トウカは顎に手を当てて思案する。
わざわざ知られているところに連れて行っても面白みに欠ける。
とはいえ、普段していることといえば正直もう無いと言っても過言ではない。
「いやまてよ、あるじゃないか一つだけ。」
トウカは一つ思い出した。
まだ二人に話していないもう一つの場所が。
すべてが始まったあの場所が。
◆◆◆◆◆
「さぁ着いたよ。最後の一ヶ所はここだ。」
場所は海鳴市の桜台。そのはずれにある林の中だ。
「ここは?」
「ここは……俺がここで目が覚めた場所だよ。」
そう言われて二人は周りを見回す。
「ここが……」
「トウカさんが最初に目が覚めた場所。」
とはいってもそこに特別なところは一つもないただの雑木林だ。
強いて言えば林の中でこの場所だけ不自然に開けているという点と、その中心に汚い布が落ちているという点だった。
「あの、トウカさんあの布は……?」
フェイトが林の中央にある太い切り株の上に置かれている布を指さした。
「あ、ちなみにそこに落ちてるのは俺が最初に来てたローブ。元々汚れてたってのもあるけど目印変わりにずっとここに置いてたから触らないほうがいいよ。」
トウカが海鳴市に引越して来た時、クロノに頼んで管理局に取り上げられていたローブを返してもらい、自分が目覚めたこの場所に置いていた。
「たまにここに来てね、色々考えてるんだ。自分がなんでこんなところで目が覚めたのだろうかって、あと記憶を失くす前はどんな生活をしていたのだろうかってね。とはいっても何にも思え出せずに空振りして終わるんだけどね。あとついでにここってまず人が来ないからここで軽く訓練して帰るっていう感じかな?」
トウカが呑気に言っている一方で、なのはとフェイトは全く違う受け取り方をしていた。
自分たちは記憶を失った経験はない。そして今までトウカの普段の様子から考えたこともなかった。
記憶を失った不安というものを。
「さて、大体俺の一日はこんな感じかねーあとはフェイトは知ってると思うけど家でダラダラしてるくらいかな。どう?」
「「はい!とっても楽しかったです!」」
しかし、二人は笑顔で答えた。
せめて自分たちがそばにいるときはトウカを不安にさせないように支え、協力しようと。
それから三人は何をするでもなく、切り株の近くで軽く談笑していると、その途中のでふと
「そういえば、この間の訓練の時思ったんですけど、トウカさんって教えるの上手ですよね。」
なのはがそんなことを言い出した。
「ん~そうかな?」
トウカ自身はそんな自分が教えることが上手だという事に全く自覚は無かった。
しかし、なのはやフェイトは訓練の中でそれを実感していた。
特に近距離戦での読み合い、自分の欠点、本人たちが持っている癖等、それらをトウカは的確に見抜き、指摘し更に改善していた。
「もしかしたら、記憶を無くす前は学校の先生だったりして!」
「いやいや、そんな柄じゃないよ。それに、こんなめんどくさがりな先生が本当にいるならその生徒は随分気の毒だな。」
仮に本当に自分が人に教えるような立場の人間だったらと考えるが、やはり想像もつかない。
「でも、私はトウカさんみたいな先生だったら嬉しいかも。」
「フェイトまでそんなこと言ってからかわないでくれよ。」
そういってフェイトの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「むぅ……からかってなんかいないですよ。」
フェイトにとっては本心で言ったつもりだったのだがトウカに軽く流されてしまう。
「あ!そういえば、トウカさんがこの間の訓練で言ってたクイズの答えなんですけど……」
自分より強い相手に勝つためには自分の方が強くないといけない。この言葉の意味は何か。
先日の訓練でトウカが二人に出題した問題だ。
「あぁそういえばそうだったね。じゃあ二人の解答を聞こうか。」
二人はそれぞれ考え、そして二人で相談して決めた答えだった。
「私はあの人達みたいに長い間戦ってきたわけじゃない。経験の長さはどうしても埋められない。」
「それでも私たちはどうしてもあの人たちに勝ちたいです……だから。」
一息置いて、二人が出した答えは。
「「自分より総合力で強い相手に勝つ為には、自分が持っている相手より強い部分で戦うことです!!」」
二人は声をそろえて答えた。
「そのためにももっと自分の一番強い部分を磨き上げて。」
「これならだれにも負けないって自信と気概を持って戦う。」
「「それが私たちの出した答えです!!」」
「ふむ、なるほどね。それが二人の答えでいいのかな?」
「「はい!」」
「分かった。じゃあ正解は……」
少し間をおいてトウカは口を開いた。
「それは無い、だ。」
「……え?」
「無い……?」
なのはもフェイトもトウカの答えに思わず耳を疑った。
「無いっていうのにはちょっと語弊があったかな?正しくは正解はその人それぞれといったほうがいいかな。そもそも二人にとって強さっていうのは何だい?生き残ること?相手を倒すこと?勝つこと?負けないこと?それとも生き残る事かい?」
「それは……」
「状況によると思いますけど。」
「そう、強さと一言に言っても多種多様ある。という事はその人にとっての”強さ”っていうのは変わる。」
戦いには集団戦、個人戦、場所、天候等の環境、戦う状況や相手の相性によっても変わる。
その人の戦い方や得意分野も人によって違う。前衛で戦うタイプのか後方で戦うタイプなのか、それは十人十色、千差万別。
という事はその人にとっての強さ……つまり”勝ち方”は変わる。
「要するに、なのはとフェイトが導き出した答え。”総合力で負けているならば、自分の強いところで相手に勝つ”というのはあくまで数多ある答えの一つ……てことになるんだ。」
「じゃあどんな答えでも正解ってことですか?」
「まぁある意味そうなるね。そもそもこの問題は、自分自身を見直して自分の強みや自分のスタイルを見直す目的で出したからね。」
「じゃあトウカさんの答えはなんですか?」
フェイトはそんな疑問をトウカに投げかけた。当然だ、出題者ならばこの問題の答えを一つ持っているはずだ。
「うーん、内緒!少なくとも、二人とは違う答えかな。」
「えー!教えてくださいよ~」
「さっ!そろそろ日も落ちてきて寒くなってきたしそろそろ帰ろうか。」
教えてほしそうにしているなのはを無視してトウカは先に歩き出した。
「話を変えないでください~!!」
さぁ帰ろう。
自分には帰る場所がある。
記憶があろうがなかろうが関係ない。今のトウカにとってそれだけで十分だった。
◆◆◆◆◆
時空管理局、無限書庫内。
そこでユーノは一人で無限書庫内の書物を漁っていた。
本来ならばリーゼロッテとリーゼアリアも協力してくれているのだが、彼女達は多忙の為、こうしてユーノは一人で作業をしている。
元々遺跡や古代史探索など過去の歴史の調査を本業とするスクライア一族のユーノにとってそこまで苦な作業ではない。
そのために検索魔法もしっかり用意している。
しかし。
「うーん……流石にこの量を一人でってのは辛いな。闇の書だけなら何とかなりそうなんだけど。」
その名の通り無限大にある書物の中から闇の書のデータを収集するだけでも一般的な局員にはかなりの重労働なのだが、ユーノにとっては何とかなる程度の作業でしかない。
それよりも問題なのが。
「それよりも大変なのはトウカさんの記憶についてだな。」
クロノから頼まれているもう一つの依頼。トウカの過去についての情報収集である。
リーゼロッテ曰く、”世界の記憶を収めた場所”とのことだが、それはまさにその通りで、この無限書庫は探せばどんなことでも大抵ちゃんと出てくる。
そのはずなのだが、トウカの過去の糸口になりそうな情報だけはなかなか見つけることが出来ず、苦戦していた。
「あんな特殊なデバイスなら少しくらい情報があってもいいと思うけどなぁ……」
何百年前の魔法技術から漁っても、武器型のデバイスを生成するようなデバイスは存在しなかった。
それ以外にも似たようなロスロギアが過去に存在していたのか、果てはトウカやヘイムダルの名前で探してみたのだがこれにも引っかかることは無かった。
そもそも、何十年前のミッド式の技術が使われているデバイスの情報をユーノがこれだけ探しても見つからないというのが異常というほかない。
「とりあえず、クロノからは闇の書のついででいいって言ってたし、一旦中断してさっき集めた闇の書の資料を見ていこうかな。」
ユーノの集めた資料。それは闇の書の始まりに関しての資料や、過去にマスターになった人物の情報、崩壊した次元世界、そして過去に管理局が関わったことがあることについてである。
ユーノは一つ一つ丁寧にそして迅速にそれらの資料に目を通していく。
「とはいっても、もうほとんど真新しい情報はあんまりなさそうだけど……」
基本的な闇の書の情報に関してはクロノから事前に聞いていた。
それは11年前の事。クロノの父であるクライド・ハラオウンの死に闇の書が関わっていたからである。
当時のクロノはまだ幼く、時空管理局の局員になってからは自分の父の死の原因になった闇の書の情報を集め続けていたのだ。
そのため、改めてデータを集めてはいるのだが、過去の事件、性能等の情報は殆ど真新しいモノのは無かった。
「それでも新しい情報を集めるのが僕の役目だ。」
そうしてユーノは闇の書が関わったとされる事件の資料に手をかける。
何百年前から存在している闇の書が関わった事件はそれこそ膨大にある。
それらをユーノは一つ一つ丁寧に読み解いていく。
「……?なんだろうこれ。」
その中でユーノはとあるデータに違和感があることに気が付いた。手に取ったのは過去に管理局が関わった闇の書の事件に関しての資料だ。
過去に管理局は何度か闇の書を捜索したという記録があるのだが、直接関わったとされるのはクロノから聞いている11年前、彼の父と当時その上官であるギル・グレアムが闇の書の停止に成功し、封印したものの、護送中に暴走した一件についてだ。
しかし、ユーノが違和感を感じたのはそれのことではない。
「おかしい。データを抜き取られた痕跡がある。」
まるで本の一部のページが丸ごと切り取られてしまったような、そんな感じだった。
しかもその切り取られ方というのが、誰にも気づかれないように、そして普通に読んでいたらわからないように巧妙に切り取られている。
文書探索に長けた人間でも四重、五重と細かくチェックしなければ気づかなかっだろう。
「この年代のデータのほんの一部だけ無くなっている……?」
それほどまでに巧妙に抜かれたデータ。
しかしユーノは主に遺跡や古代史探索など過去の歴史の調査を本業とするスクライア一族。
こういった一部のデータが抜け落ちることを発見するというのも長けている。
故に見つけることができた。
そしてユーノが気づいた無くなっているそのデータの年代は
――――新暦18年。
今から約50年前のデータであった。
大変ご無沙汰しております、ふがしです。
またぼちぼち執筆していこうかと思います。
今後ともよろしくお願いいたします~