魔法少女リリカルなのはA's──記憶を無くした魔導師── 作:六道 天膳
なのはは時の止まったビルの中に追い詰められていた。
彼女のバリアジャケットとデバイスはすでにボロボロ。
自分も気を失いかけている。
もう、まともに抵抗する力はなのはには残されていなかった。
そして、目の前のにいる突然襲ってきた少女はゆっくりと手に持っているハンマーを振り上げた。
◆◆◆◆◆
P.M 7:30 桜台
トウカは再び桜台のベンチに腰を下ろして夜の町を眺めていた。
行くあてが無いトウカは最初に目が覚めた場所である桜台に戻ってきていた。
あの後も図書館でのんびりと本を読んでいたのだが、閉館時間になってしまったので仕方なく図書館を出ざるを得なかった。
そして図書館で知ってしまった事実。自分はこの世界とは全く関係ないということについてだが、半分予想していた事とはいえ、状況が全く変わっていないということに軽くトウカはショックを受けていた。
「はぁ~……これからどうしよう。」
という感じでトウカは完全に落ち込んでいた。
「俺は色々この世界について調べてみたけど、ヘイムダルはどうだった?」
この街を歩き、本を読み、様々な情報を得ることにより現状を打開する手がかりを探していたのは何もトウカだけではない。
ヘイムダルにはその間、壊れているというメモリーの原因の究明と修復に集中させていた。
ヘイムダルが話していないのはそれが理由だった。こうなればヘイムダルに残っている記録だけが頼りだった。
あれから一日以上経っているのでなにか進展はないかと思い、首に掛かっているヘイムダルに聞いてみたが
『残念ですが進展はありませんでした。ただ新しいことがわかりました。どうやら私のデータは壊れているのではなく、強力なロックが掛けられているようです。』
「ロックされている……?それは解除できないのか?」
『何度も解除を試みましたが出来ませんでした。ですが、普段の行動や戦闘には差し支えありません』
機械的にヘイムダルは答えた。
ロックされている。
そこにトウカは疑問を持った。自分で閉めた扉を開けるのであれば簡単である。
しかし、ヘイムダル自身で解除できないと言っている。
ヘイムダルの言うことが本当のことなら、この場合考えられるのは第三者が外から扉を閉めている状態ということである。
これは間違いなく自分が記憶を失う前に第三者により鍵を掛けられたとしか考えられない。
しかし、戦闘については問題無いとのことだが、ではなぜ過去のことについてのメモリだけがロックされているのか等、様々な疑問があるがそんなことを今考えている余裕は今のトウカには無い。
(状況は悪くなる一方……か。)
このままでは本当に行き倒れになるんじゃないか?そんなことを考えながら、トウカは「はぁ~」ため息をついて途方に暮れていたが、
状況は一瞬で変わった。
最も早く気づいたのはヘイムダルだった。
『マスター、魔力反応を感知しました。結界が展開されます。』
ヘイムダルの発言と同時に、市街地全体を包むようにドーム型の結界魔法が展開された。
トウカはすぐにベンチから立ち上がって展開された結界を眺める。
結界は市街地全体を包み込むように、かなりの広範囲に展開されている。
この現象がただ事ではない、そうトウカは直感した。
「ヘイムダル。この結界に誰にも気付かれることなく入れるか?」
しかしトウカは動揺すること無く、冷静に、静かにヘイムダルに問いかける。
『難しいですね。どうやらこれは探知と閉じ込めることを目的にした結界のようで、入ること自体は出来そうですが、探知されずに入るのはかなり困難でしょう。それにこの結界はかなり堅牢なようで一度入ってしまえば脱出することも困難だと思われます。』
(入ることができても探知される可能性があり、とはいえ脱出することも出来ない……か。さてどうしたものか。)
本来ならここは様子を見るべきだが、この規模の結界はただ事ではない。
「……仕方ない。とにかく入ってみよう。」
トウカが結界へ向かおうとした瞬間。
結界内のビルの屋上が突如爆発し、煙が立ち昇った。
『マスター。結界内で戦闘が開始されたようです。』
「……みたいだな。それにしても、一体誰が?」
まず、魔法を使える人間がいないはずこの世界でわざわざ結界魔法が発動されていることがおかしい。
そもそもこんなところで一体誰が、何の目的で戦闘を行うためにこの結界魔法を発動したのか。
(まさか……あの女の子……?)
一瞬、昨日出会ったなのはの顔が脳裏に浮かんだ。
もしかしたら昨日出会ったあのなのはという少女が戦っているかもしれない。
(……だとしたらなぜ?)
様々な疑問を胸に抱き、トウカは結界を目指して走り出した。
◆◆◆◆◆
それは突然の出来事だった。
いきなり発動された結界魔法。
それと同時に、何者かが自分に接近していた……
結界に取り残され、最初は戸惑っていたなのはだったが、接近してくる相手を待つことに決め、なのははビルの屋上で接近してくる相手を待っていた。
ビルの屋上でなのはは接近してくる正体不明の人物を待ち受けていると突然、空の向こうから一発の鉄球が猛スピードで飛んできた。
なのははすかさず魔法弾を防御魔法『ラウンドシールド』で防ぐが
「テートリヒ・シュラーク!!」
そう叫びながら、突然うしろから現れた赤い帽子と服を着ている少女は手に持っているハンマー型のデバイスを振り下ろす。
不意打ちの攻撃と共に現れた少女の攻撃をなのははかろうじて防ぎ、屋上から吹き飛ばされたなのはは、レイジングハートを起動させ、白いバリアジャケットをまとった。
だが少女は動じることなく砲丸ほどの鉄球を取り出しすと、その鉄球をハンマーで叩き、何も言わずなのはに向かってそれを放つ。
「いきなり襲い掛かられる覚えは無いんだけど……どこの娘?一体何でこんなことするの」
なのはは敵の放つ鉄球を防ぎながら襲撃の理由を問うが、少女はなのはの問いに答えず、さきほどの鉄球より小さい鉄球を指の間に2個出現させた。
どうやら話し合う気など最初からないようだ。
「教えてくれなきゃ……わからないってば!」
と言って手を横に振ると、少女の背後から弧を描いて二発の魔法弾が飛んできた。
「っ!?」
実は、先ほど鉄球を防いだ瞬間に、なのはは2発のディバインシューターを放っていたのである。
「うわ!?」
突然襲ってきた魔法弾に少女は驚きの表情を浮かべ、一発目の魔法弾を何とか回避し、2発目の魔法弾は咄嗟にシールドを張ってそれを防ぐ。
「っ!!この野郎ぉぉぉ!!」
赤い服の少女は怒った様子でなのはに接近しハンマーを振り下ろすが
『Flash Move.』
レイジングハートが自動使用した高速移動魔法のフラッシュムーブですかさず距離を取る。
『Shooting Mode.』
距離を取ると、レイジングハートはヘッドが音叉状の形態に変形し、光の羽根を広げてた。
なのははレイジングハートを真っ直ぐ赤い服の少女に向けると、なのはの足元に魔法陣が展開し、同時に膨大な魔力がレイジングハートの先端に集中する。
話を聞かしてもえらえないのなら、力ずくでも聞かしてもらうまで……
「話を……」
「っ!?」
危険を察知したのか赤い服の少女は一瞬たじろぐ。
『Divine……』
「……聞いてってば!」
『Buster』
そして、なのはの主力の攻撃魔法『ディバインバスター』を放つ。
なのはが放ったピンク色の閃光は赤い服の少女のすぐ横を通って少女を吹き飛ばし、それと同時に頭に被っていた帽子は破れて落ちていった。
「くっ!」
帽子を壊されたことに怒ったのか、少女はなのはを睨み足元になのはの使うミッドチルダ式の魔法陣とは違う三角形の魔法陣を展開させた。
「グラーフアイゼン!カートリッジロード!」
少女のハンマー型のデバイス。『グラーフアイゼン』にそう命じると、デバイス内に装填された弾丸が炸裂し、とたんに少女とグラーフアイゼンの魔力が高まる。
『Raketenform.』
少女の発言と共に、グラーフアイゼンのハンマーヘッドの片方が推進剤噴射口に、その反対側がスパイクに変形した。
「あ……えぇ!?」
見たことが無い状況になのはは驚いている。
「ラケーテン……」
噴射口が火を噴き少女はクルクルと駒のように回転し勢いをつけながらなのはに突撃してきたのだ。
咄嗟の判断でなのははハンマーを間一髪のところで避けたが、
「ハンマー!!」
少女は隙を見せることなく続けてもう一撃を放つ。
襲い掛かってくるハンマーをすかさずなのははラウンドシールドを発動させて受け止めるが、軽々と砕かれてしまう。
なのはは襲い来るハンマーをレイジングハートでなんとか受け止めたが、ハンマーの勢いは収まることなく、なのははそのまま吹き飛ばされてビルに突っ込んでいった。
「けほっ……けほっ……」
ビルに突っ込んだときに立ち込めた煙に咳き込むなのは。
しかも、先ほど受けた攻撃でレイジングハートはひびが入り、大破してしまっていた。
「でやぁぁー!!」
『Protection』
だが、レイジングハートは大破していたものの、主を守るために防御魔法を自動的に発動し、追い討ちをかけてきた少女の攻撃を防ぐ。
「うっ……ううっ……」
「っく!ぶち抜けーーーー!!!」
『Jawohl.』
少女の声に答えるようにハンマーの勢いはさらに加速し、なのはを守っていたバリアは攻撃に耐え切れずに破壊され、なのはにハンマーが襲い掛かる。
ハンマーがなのはに直撃した瞬間に彼女のバリアジャケットは最終防衛機能である『リアクターパージ』が発動され、上着の部分がバリアが割れるように弾け散りハンマーのダメージを相殺したが、なのははそのまま吹き飛んで壁に激突し、倒れた。
「はぁ……はぁ……」
赤い服の少女は切らした息を整えながらゆっくりとなのはに近づく。
「う……うぅ……」
なのははリアクターパージをして直撃を防いだものの、ダメージは大きく目の前が霞む。しかし最後の力を振り絞りつつレイジングハートを少女に向け、抵抗をしようとする。
(こんなので……終わり?……いやだ)
しかし、もうなのはには抵抗する力は残っていない。
デバイスもバリアジャケットはすでにボロボロ。
なのは自身もボロボロで気を失いかけている。
(ユーノくん……クロノくん……フェイトちゃん!)
そして目の前にいる突然襲ってきた少女はただ無言でハンマーを振り下ろした。
……だが、その攻撃がなのはに当たることは無かった。
なのはがゆっくりと目を開けると、目の前には鋼の響きと共に、少女の攻撃を受け止める黒いバリアジャケットをまとう金髪の少女。
そして、なのはの傍らには少年の姿もあった。
「っ!仲間か……!」
と問う少女に、なのはを守った黒いバリアジャケットの少女は漆黒のデバイスを構えて、静かに告げる。
「……友達だ。」
結界内のビルの中。
傷つき気を失いかけたなのはを守るように、漆黒のバリアジャケットに身を包んだ少女は赤い服の少女の前に立ち塞がる。
「民間人への魔法攻撃……軽犯罪では済まない罪だ。」
「なんだてめぇ!?管理局の魔導師か?」
「時空管理局嘱託魔導師、フェイトテスタロッサ。抵抗しなければ弁護の機会が君にはある。同意するなら武装を解除して……」
「誰がするかよ!!」
少女に武装解除を通告するフェイトだったが、少女はフェイトの話を聞かずにビルを飛び出していった。
「ユーノ。なのはをお願い。」
「うん!」
フェイトはユーノになのはを任せ、フェイトも少女の後を追った。
ユーノは気を失いかけているなのはに、治療魔法をかけながら事情を説明する。
なのはを守った黒いバリアジャケットをまとっている少女、名はフェイト・テスタロッサ。
春先に起こった事件で知り合った強くて心優しい少女。
そして、なのはの傍らにいる少年はユーノ・スクライア。
フェイトと同じく春先に起こった事件で知り合い、なのはにレイジングハートを授けた人物であり、なのはの魔法の師匠でもある。
『プレシア・テスタロッサ事件』
なのはが魔導師になるきっかけとなった事件。
その事件が起こったのは4月。
当時のなのはは本当に普通の女の子で、小学校に通う、ごく普通の小学3年生だった。
しかし、とある偶然から傷を負った異世界の少年ユーノを助け、彼らが発掘したロストロギア『ジュエルシード』が輸送中の事故でこの世界にばら撒かれたのを知り、なのははジュエルシードの探索に協力することを決意し魔導師となった。
そして、そのジュエルシードの探索中に自分と同年代の少女、フェイトが現れた。
これがなのはとフェイトの出会いだった。
フェイトはミッドチルダの魔導師で母親である、プレシア・テスタロッサの指示でジュエルシードを集めるために現れ、同じくジュエルシードを集めていたなのはとは幾度も戦いを繰り返した。
当初はなのはと敵対していたフェイトだったが、戦いの中何度も自分に呼びかけたなのはの真っ直ぐな優しさに少しずつ心を開いていった。
しかし、フェイトの正体はプレシアが事故で娘の”アリシア”を失ってから研究していたプロジェクト「F.A.T.E」によって生み出されたアリシアのクローンであった。
そのことを愛していた母親プレシアの口からそれを告げられ、さらに「あなたはもう要らない」と宣告されて、心を閉ざしてしまったが、なのはの言葉を胸に新たな道を歩む決意をし、なのはのピンチに駆けつけた。
そして、最終決戦でプレシアはアリシアの亡骸とともに時間の狭間へと消えて事件は解決したのであった。
プレシア・テスタロッサ事件の終結後、フェイトはなのはとの再会の約束を胸に、事件の重要参考人として裁判を受けていた。
フェイトの裁判が終わって、なのはに連絡をしようとしたら繋がらず、調べてみると広域結界が張られていることに不安を抱き、急いで訪れたということだった。
ユーノはなのはに先ほどの少女になぜ襲われているか聞いたが、なのははユーノの問いにわからない、と答えるしかなかった。
一方、フェイトと赤い服の少女の戦闘にフェイトの使い魔のアルフも参戦。
二人のコンビネーションで赤い服の少女を少しずつ追い詰めていき、一瞬の隙を狙って何とか少女をバインドで拘束することができた。
「終わりだね。名前と出身世界、目的を教えてもらうよ。」
閃光の戦斧の異名を持つ、フェイトの愛杖。”バルディッシュ”を真っ直ぐ少女に向けて言う。
「っく……」
この状況に決着がついたかのようにみえたが……
「……!! なんかヤバイよフェイト!」
アルフが危険を察知した瞬間。
突然、現れた甲冑を着た赤い髪の女性にフェイトは吹き飛ばされ、同時にアルフも銀色の髪を持つ、狼姿の男に蹴り飛ばされた。
「シグナム……?」
彼女と知り合いのなのか、拘束された少女が呟く。
「レヴァンティン、カートリッジロード……」
『Explosion.』
シグナムと呼ばれた赤い髪の女性は片刃の剣をかざし、宣言した瞬間。
彼女が持っている剣の刀身の付け根にあるパーツがスライドし、剣に焔が宿る。
「紫電一閃!!」
「はっ……!!」
フェイトは襲い掛かってくる炎を纏った刃を咄嗟にバルディッシュの柄で受け止めるが、軽々と真っ二つにされる。
そこへ
「はぁぁぁあ!!」
シグナムは更にもう一撃加えようと炎の剣を振り下ろし、フェイトに斬りかかる。
『Defensor.』
シグナムの一撃はバルディッシュが自動詠唱した防御魔法の”ディフェンサー”でなんとか防ぐことができた。
しかし、シグナムの強力な一撃にフェイトは耐え切れず、そのまま地上へ叩き落されてしまった。
「フェイトちゃん!アルフさん!」
「まずい……助けなきゃ!」
この光景をなのはとユーのノも見守っていた。この状況を危険と判断したユーノは目を瞑って両手で印を結び、
「妙なる響き、光となれ。癒しの円のその内に、鋼の守りを与えたまえ」
詠唱を唱えると、なのはの周りにサークルタイプの結界魔法が張られた。
「回復と防御の結界魔法。なのはは絶対ここから出ないでね。」
ユーノの忠告になのはは頷くと、ユーノはフェイトの元へ急いで飛んでいった。
「どうしたヴィータ。油断でもしたか?」
「うるせーよ……こっから逆転するところだったんだ」
フェイトを一撃で吹き飛ばして後退させたシグナムは赤い服の少女。ヴィータを拘束から解放する。
「だがあんまり無茶をするな。おまえがケガでもしたら我らが”主”も心配する」
と、シグナムはヴィータ少しだけ叱ると、若干拗ねているヴィータに帽子を返す。
「状況は実質、三対三。一対一なら我ら”ベルカの騎士”に……」
「負けはねぇ!!」
吹き飛ばされたフェイトに「大丈夫?」と気遣うユーノ。
「うん、大丈夫。ありがとう……ユーノ。」
傷を負っているものの、致命的なダメージを避けたフェイトは答える。
フェイトが握り締めているバルディッシュはシグナムの一撃によって真っ二つにされボロボロになっていたが、本体は無事だった。バルディッシュを修復すると、フェイトはゆっくりと立ち上がり空を見上げる。
「ユーノ。この結界内から全員同時に外へ転送……いける?」
「うん。アルフと協力できれば……なんとか。」
「私が前に出るから、その間にやってみてくれる?」
しかし、実際はそんなに簡単にできるものではない。あの三人はかなりの実力者だ。
その上、武器の強度、威力に関しては圧倒的な差がある。
それに、なのはを守りながらではかなり厳しい戦いになるだろう。
他にも方法はいくらでもあるだろうが、今の状況ではこの方法が最も確実だった。
「わかった。」
フェイトの提案にユーノは頷き、2人は空へと飛び立つ。
◆◆◆◆◆
同時刻。結界内のビル屋上。
トウカは誰にも気づかれずに侵入することが出来ていた。トウカ以外にも結界を破った侵入者が登場し、それに乗じて進入したためである。
今のトウカは先ほどまで着ていたジャージ姿ではなく、白を基調とした本来のバリアジャケットに身を包み、誰にも気づかれないようにこの戦いを静かに見ている。
『助けに行かないでいいのですか?』
「……」
ヘイムダルが問う。
もちろん最初は助けにいくつもりだった。
自分の目の前で誰かが傷ついている所を見ているのは気分が悪い。それがたった一度しか会ったことがない人間であっても。
だが、あの金髪の少女がなのはを助け、さらに赤い服の少女の仲間が現れたことにより状況が変わった。
戦いに割って入った金髪の少女が何者かわからない上、なのはを助けた理由やなのはとの関係もわからない。
現時点でわかることは自分となのはは少なくとも敵ではないということ。
それ以前に、魔法を使える人間がいないはずのこの世界で、なぜ彼女達が戦っている理由もわからない。
つまり、あまりにも判断材料が無さ過ぎる。
「もし、なのはを助けに行くとしたら、それは命に関わるような事態になったときだ。それまでは……我慢だ。」
『マスターがそうおっしゃるのでしたら。』
本当は今すぐにでも助けに行きたかった。
だがトウカは、そこに自分が乱入し、戦闘に加わることによって混乱を招く恐れがあると考えていた。
今の状況に腹が立って仕方が無かったが、トウカはこの戦いが終わるのを静かに待つことしかできなかった。
◆◆◆◆◆◆
ビルから飛び立ち、再び戦いを挑んだフェイトだったが完全に押されていた。
攻撃しても軽々と防がれ、攻撃を防いでも軽々とシールドを破られ戦況は圧倒的に不利だった。
カートリッジロードして、唸り上げるシグナムの剣の前に、防いだバルディッシュも傷つき、壊れてゆく。
「終わりか?ならばじっとしていろ、抵抗しなければ命までは取らん」
「誰が!」
ユーノはすでに転送の準備は出来ているのだが、空間結界が破れないのでかなり苦戦していた。
「いい気迫だ。私はベルカの騎士、ヴォルケンリッターが将。シグナム、そして我が剣、レヴァンティン。……お前の名は?」
シグナムと刃を打ち交わし、傷つきながらも戦いをあきらめないフェイトに、シグナムは自らの名を告げる。
「ミッドチルダの魔導師、時空管理局嘱託。フェイト・テスタロッサ。この子はバルディッシュ。」
互いに名乗りあい、フェイトは傷ついたバルディッシュを手に、さらに戦いを続けてゆく。
一方、自分がきっかけで仲間たちを危険な目に遭わせていることに、なのはは心を痛めていた。
「助けなきゃ……私がみんなを助けなきゃ……」
『Master, Shooting Mode, acceleration.』
するとレイジングハートはそんななのはの言葉に答えるかのように輝き、光りの翼を展開した。
「レイジングハート?」
『撃ってください スターライトブレイカーを。』
光りの翼を展開させたレイジングハートはなのはの最大砲撃魔法「スターライトブレイカー」の発射を提案する。
「そんな……そんなの無理だよそんな状態じゃ!」
傷ついた今の状態では本体破損の危険もあると止めるなのはだが、レイジングハートは「撃てます」と静かに告げる。
『I私はあなたを信じています。だから、私を信じてください。』
レイジングハートは傷ついて危険な状態であるにもかかわらず、なのはを信じてくれている。
その思いに答えようと、なのはもレイジングハートを信じてブレイカーによる結界破壊を決意し、フェイトたちにそれを伝える。
なのははレイジングハートを構えて魔法陣を展開させる。
『Count nine, eight, seven, six, five, four...』
レイジングハートはカウントダウンを開始し、発射の準備を整えるレイジングハート。
大掛かりな魔法を発動するのを察したベルカの騎士達がそれを妨害しようとするが、フェイト達がそれを阻止する。
『Three, three, three……』
「レイジングハート、大丈夫?」
『大丈夫です』
と、カウントに苦戦しながらも、レイジングハートは再びカウントを開始する。
『Count three, two, one……』
そして、なのははスターライトブレイカーを放とうとレイジングハートを振り上げた、その瞬間。
「っ!!」
なのはの体がよろめく。
そして、なのはの身体からありえないものが突き出ていた。
「な……のは。」
その光景にフェイトも驚きを隠せない。
なのはは自分の胸に視線を落とすと、なんと一本の腕がなのはの胸の辺りから突き出ていた。なのはを貫いた腕が一瞬引っ込むが、再びなのはの身体を貫く。
「あっ……あぁ……はぁ……」
再び貫いたその手には、魔導師が持つ魔力の源。「リンカーコア」を掴んでいた。
すると、吸収されているのか、だんだんなのはのリンカーコアが小さくなっていく。
「なのはーっ!!」
なのはを助けようと向かおうとしたフェイトだったが、シグナムが目の前に立ちはだかる。
◆◆◆◆◆
「なんだあれは……?」
ビルの屋上で見ていたトウカもこの異常な光景に驚いていた。
「行くぞヘイムダル!!」
『了解。』
彼女が危ない。
そう直感したトウカはなのはを助けに行こうとした。
その瞬間だった。
「ス、スターライト……ブレイカーーー!!!」
なのはは魔力を吸収されつつも最後の力を振り絞り、スターライトブレイカーを発射したのだ。
轟音が響き渡り、巨大なピンク色の閃光が発射される。
最後の力を振り絞って放った巨大な砲撃は、たった一撃で結界を破壊した。
「うっ……ぁ……」
なんとか最後の力を振り絞って結界を破壊することが出来たが、今までのダメージと先ほどの謎の腕によってリンカーコアをほとんど吸収されてしまったなのははその場に倒れる。
結界を破られ状況が不利になると考えたベルカの騎士たちは早々にその場を立ち去ってしまった。
「なのは!」
急いでなのはの元に向かっていたトウカは、なのはが倒れた直後に到着した。
「大丈夫か!なのは!」
トウカは必死に声を掛けるが、なのはは完全に気絶しているようで反応がない。
ひとまずトウカはうつ伏せに倒れているなのはをそっと仰向けに寝かせる。
トウカはなのはの胸の上に手をかざし、簡単な治癒魔法を発動させる。
「今はこれぐらいしか出来ないけど……」
なのはの身体が白い光に包まれる。
はっきり言ってトウカは治癒系の魔法はあまり得意ではないが、何もしないよりはずっとマシだろう。
とにかく、早く医者に診てもらったほうがいいのは明らかだった。
「なのはから離れろ!!」
背後からの声。
同時に背後から金色の刃がトウカに突如襲い掛かる。
「なっ!?」
突然の出来事にトウカはすかさず治癒魔法を止め、横に跳ぶことにより間一髪の所で金色の刃を避ける。
「はぁぁぁぁっ!!」
しかし、今度は背後から現れた人物に思い切り腹部を殴られ、そのままフェンスまで吹き飛ばされた。
「ぐっ!」
背中を強打して意識が飛びそうになったが、腹部を押さえながらなんとか立ち上がると、トウカの目の前にに金色の刃が突きつけられた。
「あなたは何者ですか?さっきの人たちの仲間ですか?」
目の前にはフェイトとアルフが立っていた
フェイトはトウカを冷たく見据え、静かに言い放った。
「ちょ、ちょっと待った。俺は敵じゃない。質問を質問で返すようで悪いが、君たちは何者なんだ?」
「……私は時空管理局嘱託魔導師、フェイトテスタロッサ。」
「私はフェイトの使い魔のアルフ。」
(時空……管理局?)
フェイトが言った単語にトウカは首を傾げた。何故ならそれは初めて聞く単語だったからだ。
トウカはこの国の機関を一通り図書館で調べていたが、そんな単語は本には一切書かれていなかったし、聞き覚えもなかった。
「……もしかしてあんた、管理局を知らないのかい?」
首をかしげているトウカを見てアルフが聞いてきた。
「え?……あ、あぁ。」
「……はぁ?だってあんた魔導師だろ?」
「そ、そうだけど……」
アルフは、本気で言っているのか?といわんばかりの表情をしていた。
(……何か変なこと言いったのか?)
「では、今度は私の質問に答えてください。あなたは何者ですか?なのはに何をしていたんですか?」
アルフとは違い、フェイトはいたって冷静に、そして冷たいままトウカに質問を続ける。
「俺はトウカ。何をしていたのかは見ての通り、ただなのはに治癒魔法をかけていただけだ。なのはとはちょっとした知り合いでね・・・何者かについては少し話が長くなるけど、それでもいいかい?」
「……わかりました。まだ、あなたに聞きたいことはまだありますが、ひとまず私たちについてきてもらいます。」
フェイトは少しだけトウカを見据えた後、静かにそう告げた。
断ったところでどこにも行くあてはないし、断る理由もない。逆にこれは自分にとってある意味ラッキーかもしれないとトウカは考えた。
「わかった、それでいいよ。」
「……そじゃあアルフはこの人を見張ってて。私はクロノに連絡しないと。それに……」
「わかってるよ。はやくなのはの所に行ってあげな。」
フェイトはアルフにトウカを任せると、急いでなのはの元に駆け寄っていった。
(それにしても、あのフェイトと名乗った少女……先ほどの戦いを見て思ったけど、かなり強そうだなぁ。とりあえず悪い人たちではないようだけど、あの様子だとなのはとの関係も深そうだ。)
それからしばらくすると数人の男たちがやってきた。恐らく彼らも時空管理局という所の人間なのだろう。
その中の一人の男がこちらに近寄ってくると
「では、こちらに来てください。念のため、拘束させていただきます。」
そう言って、トウカは両手をバインドで拘束され、そのまま連れて行かれることになった。
(俺……大丈夫かなぁ……)
若干の不安を胸に抱き、トウカは男達に囲まれながらその場を後にするのだった。
読んでくださってありがとうございます。どうにか前よりかは早く投稿できました!
途中無印の話を入れてしまった上、物語の進行上仕方ないとはいえ、なのは達目線の戦闘も入れてしまったので文章全体がくどくなってしまいました・・・反省反省。こういったSSを読んでいる方々は本編を見ていると思いますので、正直入れようかかなり悩みました。
でもこれでようやくフェイト達と合流出来たので、ここからはちゃんと主人公目線で進めていくことになります!
もう少し説明云々がありますが、ようやく自分が書きたかった所までいけそうですw
もし主人公目線以外になる場合は一話丸々外伝かサブストーリーとして書くかも?
それでは今後ともよろしくお願いしたします!感想等もお待ちしております!
追記:次回投稿後、主人公設定をUP予定。