魔法少女リリカルなのはA's──記憶を無くした魔導師── 作:六道 天膳
時空管理局本局に搬送されたなのはは病室で診察を受けていた。
なのはのリンカーコアはすでに回復が始まっていて大丈夫らしいが、しばらくは魔法がほとんど使えないということだった。
なのはが医師の診断を受けているところにの二人の人物が入ってきた。一人はフェイト、そしてもう一人は黒髪の少年だ。
「あぁ、ハラオウン執務官」
このハラオウンと呼ばれた黒髪の少年。
彼はクロノ・ハラオウン。弱冠14歳という若さで時空管理局の”執務官”という時空管理局でも重要な役職に就いている。
そして、半年前の”プレシア・テスタロッサ事件”の時にはなのはと協力して一緒に戦った人物の一人でもある。
なのはを診断していた医師はクロノに話があることを告げ二人はそのまま退室していってしまった。
残された二人はどことなく気まずい雰囲気が漂う。
そんな中、最初に切り出したのはなのはだった。
「フェイトちゃん……あの、ごめんね。せっかくの再会がこんなで……怪我、大丈夫?」
「あ、ううん。こんなの全然……それよりなのはは……」
フェイトは左手に負った傷を隠しつつ、なんとか笑顔で答える。
なのははそんなフェイトの様子を察してか、安心させるように元気に振舞う。
だが、久しぶりに会えた友達を守りきることが出来なかったためなのか、どことなくフェイトの表情は暗い。
「助けてくれてありがとう、フェイトちゃん。それから、また会えてすごく嬉しいよ。」
「うん。あたしもなのはに会えてうれしい。」
そんななのはの言葉がうれしかったのか、フェイトはいつも通りの笑顔に戻っていた。
なのはは最初、足取りがおぼつかない状態だったが、なんとか動けるまでには回復していた。
着替えを済ませたなのははしばらく二人で会話をしていると、そこへ医者との話が済んだのか、再びクロノが入室する。
「久しぶり、クロノくん。」
「あぁ。ひさしぶりだな、なのは。もう大丈夫なのか?」
「うん!心配かけてごめんね……」
「そっか。それならよかった……ところで、早速で済まないが、なのはに会って欲しい人がいるんだけどいいかい?」
「え?……う、うん。」
会ってもらいたい人って誰だろう?となのはは不思議に思いつつ、クロノに連れられ病室を出るのだった。
◆◆◆◆◆
時空管理局本局のある一室にトウカはいた。
「さて、これからどうなることやら……てか何も無さすぎだろこの部屋。」
部屋のベットの上に寝転がりながら愚痴を漏らしていた。
長い時間ここで待たされているが誰も来る気配がない。しかもこの部屋には外側からロックされているため、外に出ることはできない。
この部屋には本もなければ机もなく、ただベットがあるだけの部屋なのでトウカは完全に暇を持て余していた。
ちなみに、今のトウカの服装はバリアジャケットを解除し、管理局側が用意した病人が着るようなシンプルな白い服を着ている。
この部屋に連れてこられた時、バリアジャケットを解除してこの部屋に待つように言われたが服がローブしかないことを伝えると、この服を渡されたのだ。
服のデザインには少々不満があるものの、裸でいるわけにもいかないのでしぶしぶ着ている。
ちなみにヘイムダルはここに来る途中で没収されてしまったので話し相手もいない。
「早く誰か来てくれないかなぁ……」
と、トウカが呟いた直後。
ドアのロックが外れ、少年と二人の少女が入ってきた。
「あ……え!?ト、トウカさん!?」
起き上がり声がした方向を向くと、そこには一人の少女がかなり驚いている様子で立っていた。
「ん?あれ、なのは?」
入ってきたのはなのは、フェイト、それにトウカにとっては見知らぬ少年、クロノの三人だった。
「やっぱり、なのははこの男のことを知ってるのか?」
「う、うん。昨日、私が魔法の練習をしてた時に偶然……」
だが、トウカがここにいるのに驚いているようでなのはは目を白黒させている。
「まあいい。僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。単刀直入に聞くが、君は一体何者だ?」
「俺はトウカ。それ以外のことなんだが……う~ん……」
トウカはどう説明したらいいものかと腕を組んだまま唸ること数秒。
「はぁ」とため息をつき、頭をポリポリと掻きながら、
「わからない。いや、知らない……かな」
アハハハ……
と、苦笑いしながらトウカは言っていた。
「「……」」
それを聞いたクロノとフェイトは疑い半分、呆れ半分といった様子で黙ってしまっている。
「いや、嘘じゃないぞ本当だ。」
「……ちょ、ちょっと待ってくれ。それはどういう意味だ?」
クロノは片手で頭を抑えつつ、質問を続ける。
「どういう意味も何も、そのままの意味だよ。自分が一体どこの世界の人間で何をしていたとか覚えてないんだ。いわゆる記憶喪失ってやつだ。」
「……それを信じるとでも?」
「信じないのはわかるけど、俺は嘘を言ってないよ。」
だが、簡単にそんなことを信じるわけにはいかないクロノはジッとトウカを睨みつけている。それはフェイト同様だった。
(まぁ無理もないか。”自分は記憶喪失です”なんて言ったら疑わないわけがない。)
疑っているフェイトとクロノの二人は何か考え事をしているのか、再び黙ってしまった。
だがこの二人とは違い、なのはは疑ったり呆れた様子することなく普通にトウカに話しかけていた。
「トウカさんも魔導師だったなんてびっくりしました……でも、なんで初めて会ったときに言ってくれなかったんですか?」
「まぁ、あの時は目が覚めたばかりだったからね……まだちゃんと状況を把握できてなかったから、簡単に言い出せなかったんだよ。」
言い出せなくてゴメン。
と、トウカはなのはに謝っていた。
「とりあえず話はわかった。怪しいことには変わりはないが、なのはと知り合いというのは本当らしい。ひとまず君は今からある人に会ってこれからのことについて詳しく聞かせてもらう。もちろん拒否はできない。悪いが、もう一度両腕を拘束させてもらう。」
「……わかった。」
誰と会うかは知らないが、再び両腕を拘束されたトウカはクロノに言われるまま部屋を出た。
大人しくクロノに付いていくこと10分後、トウカ達はと目的の部屋に到着した。
「艦長、失礼します。例の男を連れてきました。」
部屋に入ると、先ほどまでトウカがいた部屋と比べると2倍ぐらい広く、中央には大きなテーブルとソファがある。
「はい、ご苦労様。」
そしてソファには一人の緑色の髪の女性がお茶を飲んでいた。
「始めまして、時空管理局提督のリンディ・ハラオウンです。あなたは?」
「始めまして、トウカです。」
目の前に座っているリンディという女性は大人っぽく凛としている、というのがトウカの第一印象だった。
だが、トウカが感じたこの第一印象は次の一言で覆されることになる。
「みんなご苦労様。ひとまず、クロノ達は二人のデバイスの様子でも見てきてあげて。彼とは私と二人だけで話すから。」
「「え!?」」
クロノとフェイトはリンディの発言に驚き、固まってしまった。
(へぇ……面白いことを言う。)
固まっている二人と違い、トウカはリンディに何か考えがあるのか。
襲われても問題ないと思えるほどリンディが強いのか。
または何も考えていないのか。
リンディの言葉にどのような思惑があるのかと考えていた。
提督ということは、かなり高い階級の人間なのは間違いない。
そんな高い階級の人間が彼らにとって正体不明の人間であるトウカと二人っきりで話がしたいと言うのだ。
ここは時空管理局の本局。何かあってもトウカに逃げ道が無いのはクロノ達もそれはわかっている。
だが、ここがどこであろうとリンディが危険だという可能性が消えるわけではない。
二人が固まること数秒。
「……そ、そんな!リンディ提督!危険です!!」
「そうです艦長!まだ彼が何者かよくわかってないのに!」
ようやく我に返ったクロノとフェイトは焦った様子でトウカと二人だけで話すことを反対している。
少なくとも、言った本人もこんな正体不明の人間と二人だけで話すのは危険だということはわかっているはずだろう。
「大丈夫よ。たぶん彼はそんなことしないわよ。ね、なのはさん?」
「え?あ、はい。私もそう思います。」
いきなり話を振られたなのはは少々戸惑いながらも答える。
「ほらね?」
何を根拠に言っているのかはわからないが、リンディはあっさりとした様子で言っていた。
「はぁ……わかりました。では僕達は行きます。何かあったらすぐに教えてください。」
彼女のこういう事に慣れているのか、クロノは思いの外あっさりと引き下がり、そのまま3人は部屋を出て行ってしまった。
「とりあえず座って頂戴。まずはあなたのことを話してくれるかしら?」
「わかりました。」
それからトウカは目が覚めた時に記憶が無くなっていたこと。
なのはと出会った事。
なのは達が戦っている所を傍観していたことも含め、目が覚めてからの出来事、今のところ知っていることを全て話した。
「……ということなんです。」
リンディはトウカの話を聞きき何か考え事をしているようで、顎に手を当てている。
「……なるほど、話はわかりました。まだわからないことは色々あるけれど、あなたの言うことを信じましょう。」
「……本当ですか?」
「えぇ、あなたの身の安全は保障しましょう。なのはさんを助けようとした理由もこれでわかりました。クロノ達には後で私から説明するから安心して。」
(そんなに簡単に決めていいのか?)
こんなにあっさりと信じてくれたことにトウカは少々面食らったが、クロノという少年よりも話がわかる人のようでひとまずよかったと内心安心していた。
「あと、一つだけ質問があるのだけれど、あなたは目が覚めた直後になのはさんと出会ったと言っていたけれど、どうしてなのはさん達の戦闘を傍観していたの?」
「簡単に言うと状況を混乱させたくなかったからです。もちろん最初は助けるつもりでしたけどね。ただ、魔法文化のないあの世界で戦闘を始めた原因がわからなかったというのが一つ目の理由。更にフェイト達の加勢もあって状況が変わったというのが2つ目の理由です。」
「でもなのはさんの友人だとフェイトさん達に事情を最初から説明すればフェイトさんにあそこまで警戒されることも無かったと思うのだけれど。」
「フェイトやそ他の人達も含め、そんな冷静に話せる状況じゃなかったと思いますよ?魔導師のいないあの世界でフェイト達はなのは以外の魔導師がいるとは思わなかったでしょうし、もし俺が近づいても信じてくれなかったと思います。下手すればあの騎士達の仲間だと思われていた可能性もありましたしね。」
「確かに……私達もあの時は何が起きているのかわからなかったし、現場にいたユーノ君から話も聞いたけれど、フェイトさんも冷静な判断力を少し欠いていたようね。……もしかしたら、あなたがあの状況で一番冷静だったのかもしれませんね。あなたの判断は間違っていなかったと思うわ。」
「……でもまさかあんなことになるとは思っていなかったので本当になのはには申し訳ないと思っています。」
トウカはなのはが倒れた時を思い出し、自嘲気味に話した。
最初にトウカが加わればなのはが倒れるようなことは無かったのかもしれない。そう考えると罪悪感に苛まれる。
「またゆっくりなのはさんとお話すれば大丈夫よ。それに最終的に助けに駆け寄っていたみたいだし、なのはさんならきっとわかってくれていると思うわ。現にあの二人と違ってなのはさんは気にしてないようだったし。」
「……そうだといいですけどね。」
それからトウカはリンディからいろいろな話を聞いた。
まずはこの時空管理局という組織について。
時空管理局とは次元世界をまとめて管理する、警察と裁判所が一緒になったような組織で次元世界における司法機関。
そのほかにも文化管理や災害の防止、救助も主な任務としているそうだ。
そして、ここは次元航行部隊の本部。次元航行艦船を駆って多くの次元世界を行き来している時空管理局の2大勢力の一つである
ちなみにもう一つはミッドチルダにある時空管理局の地上部隊の本部があるとのこと。
話を聞く限り、時空管理局という組織はかなり大規模な機関ということをトウカは知った。
ついでに、現時点で一番の疑問だったなのはの事も聞いた。
魔法との出会い。
それから、フェイトとなのはが敵対していたこと。
そして、その事件でフェイトは母親を失ってしまったことも。
「そんなことが……でも、なのはとフェイトは元々は敵対していたなんて。」
「えぇ。母親であるプレシア・テスタロッサの命令で……」
仲が良さそうなあの二人の間にそんなことがあったとは思わなかったトウカは正直驚いていた。
しかし、これでなのはをあんなにも心配していたフェイトの様子に合点がいく。
「でも、いいんですか?自分から聞いたことですけど、こんな大切なこと僕に話しても。特にフェイトのことは……」
トウカは彼女たち時空管理局の人間にしてみれば正体不明の不審人物な上に全く関係の無い人間だ。
そんな人間にしかも会ったばかりだというのに、そんな重要なことを言ってしまっていいのか。
「もう過ぎてしまってことだし……あ、この話をしたことはみんなには内緒よ?」
「いや、それはもちろんですけど……」
「それに、トウカさんは悪い人には見えないもの。」
なんて、リンディは笑顔で言っていた。
(話がわかる人だけど……ほんと、読めない人だ……)
なんとなくだが、トウカはクロノの苦労がなんとなくわかった気がした。
「あ、そういえばハラオウンってことは……」
その時、トウカはあることに気がついた。
「あの、もしかして、リンディさんってクロノの……」
「えぇ。私はクロノの母親よ。」
「へぇ~そうだったんですか……」
なんでこんなに優しく包容力のある人からあの変に生真面目な子供が生まれるのかとトウカは是非教えて欲しかった。
◆◆◆◆◆
時は少し戻り、なのは達は自分達のデバイスの様子を見るためにメンテナンスルームに来ていた。
「なのは久しぶり!」
「なのは。」
「みんな……」
なのははユーノとアルフと数ヶ月ぶりの再会を喜んでいた。
そんな中フェイトは無言で傷ついた自分のデバイスの前に立った。
「バルディッシュ、ごめんね。私の力不足で。」
「破損状況は?」
クロノがユーノに尋ねる。
「……正直、あんまりよくない。」
ユーノの話によると、今は自動修復をかけてはいるものの、デバイスの基礎構造を修復した後にもう一度再起動して部品交換が必要らしい。
そもそも、インテリジェントデバイスは一般的に使われているストレージデバイスよりも様々な機能を持っているデバイスだ。
そのためストレージデバイスよりも修復するのは難しいだろう。
なのはとフェイトは心配そうに自身のデバイスを見つめていた。
「ねぇ、そういえばさ。あの連中の魔法って、なんかヘンじゃなかった?」
「あれはたぶん、ベルカ式だ。」
そんなアルフの問いにクロノが答えた。
「ベルカ式?」
アルフは聞き覚えのない言葉に首をかしげている。
「その昔、ミッド式と魔法勢力を二分した魔法体系だよ。」
「遠距離や広範囲攻撃をある程度部外視して、対人戦闘に特化し魔法で、優れた術者は騎士と呼ばれる。」
「確かに……あの人、ベルカの騎士って言ってた。」
バルディッシュを眺めたまま、フェイトは言う。
そして、あの時に対峙した赤い髪のシグナムという女性が”ベルカの騎士”と名乗っていたのを思い出す。
「最大の特徴はデバイスに組み込まれた『カートリッジシステム』って呼ばれる武装。」
「儀式で圧縮した魔力を込めた弾丸をデバイスに組み込んで、瞬間的に爆発的な破壊力を得る。」
危険で物騒な代物だな……
と、クロノは呟いていた。
「……なるほどね。」
と、アルフが納得したように頷いていた。
「それで、コッチの白いのは?」
そう言ってアルフは奥に置いてある白い宝石を指差した。
「それは、例の彼のデバイスらしいよ。ひとまず今の作業が終わったらそれを解析するつもり。」
そこにはトウカのデバイスであるヘイムダルがあった。トウカから取り上げた後、ヘイムダルはここに保管されていたのだ。
◆◆◆◆◆
リンディとの話しが一通り終えた後、トウカはリンディに管理局を簡単に案内してもらっていた。
「これからのことなんだけど……もう一人会って貰いたい人がいるのだけどいいかしら?」
「いいですけど……一体誰と会うんですか?」
「名前はギル・グレアム。時空管理局の顧問官をしている人で、私と同じ時空管理局提督。」
「なんでまたそんな偉そうな人が俺に?」
リンディの場合はクロノの上官なので自分と会う理由はあったのだろうが、そのグレアムという人物は少なくとも自分と会う理由なんてないはずだと思ったが
「心配しないで。いい人だから会っても損はないわよ。」
それから歩いて10分後、リンディに案内されある部屋の前にたどり着いた。
「私は今から色々と忙しいからここまで。また後で会いましょうね~」
リンディはそう言って、その場にトウカを残してそのまま歩き去っていってしまった。
自分に会ってもらいたいという人は?
会っていったい何を話すのだろう?
廊下に一人、取り残されたトウカはそんなことを考えながら扉を開け「失礼します。」と、言って入ると
「あ、トウカさん。なんでここに?」
「あれ、なのは?」
なんとそこにはクロノとフェイトとなのはの三人がいた。
「……ほう、君がトウカ君かね?」
そして、なのは達の向かい側のソファーには高齢の男性が座っている。
高齢の男性の髪の色はグレーで顔を覆う豊かな髭もグレー。管理局の青い制服に身を包んでいる。
「始めまして、トウカです。」
「私はギル・グレアム。時空間局の顧問官をやっている。」
簡単に自己紹介をして、グレアムは部屋に置かれたソファにかけるよう促し、紅茶を出した。
「君の話はクロノから聞いているよ。記憶喪失だそうだね。」
「は、はぁ……どうも。」
トウカは生返事しつつ、差し出されたカップを口元に運ぶ。
「それで、何か思い出したことはあるかい?」
「いいえ、何も……」
と、首を横に振りながら答える。
「それで、僕に一体何の話なんですか?それだけを話すために呼んだわけじゃないですよね?」
そう言ってトウカは再びカップを口元に運ぶ。
グレアムはふぅと息をつくと、穏やかな表情から一変して真剣な表情になり、口を開いた。
「……今回の事件、おそらくクロノたちの担当になるだろう。そこで、トウカ君。民間協力者として協力してみるというのはどうだろうか?」
「ぶっ!!」
さすがのトウカもグレアムの言った事に驚き、危うくもう少しで紅茶を噴出すところだった。
「な!?ほ、本気ですか?!」
「あぁ、もちろんだ。」
もちろん、クロノやフェイトたちも初耳だったようでトウカと同じく驚いている様子だ。
「し、しかし!正体不明の人間を民間協力者として手伝ってもらうだなんて!!」
「どちらにせよトウカ君はこちらで保護することになる。そもそも、彼は記憶喪失というだけで、なにも罪は犯してはいないんだ。自由に行動する権利も判断する権利もある。どうやら彼も魔導師のようだし、協力者は少しでも多いほうがいいだろう……もちろん最終的に決めるのはトウカ君自身だが。」
そう言ってグレアムはまるで試しているかのような眼差しでトウカを見つめ、話を続ける。
「もちろん協力してくれるのであれば、私達もできるだけ君の記憶を取り戻すための協力をすることを約束しよう。」
「なるほど……ね。」
めんどくさい事この上ない話であるとトウカは思った。
何故わざわざこのような条件をグレアムが提示してきたのかを考えていたが、今のトウカには帰る場所はない上に、時空管理局に協力すれば自分の記憶について協力すると言っている。
逆に考えるなら今ここで管理局の協力をしないならば、記憶を探す協力をしてくれない可能性もある。
協力しなかった場合どうなるかわからないが、再び振り出しに戻ってしまうということになる。
つまり、記憶を取り戻すためには管理局に協力するのが近道。
しばらく考えていたトウカは口を開いた。
「……わかりました。出来ることは少ないかもしれませんが、協力します。」
「そうか、ありがとう。」
トウカの答えにグレアムは満足そうに笑みを浮かべた。
その一方で上司達に振り回されっぱなしのクロノは一人、頭を抱えているが今はそっとしておいてあげることにした。
「君の事はまだわからないことが多い。だからいくつか約束してほしいことがある。まず1つ目、何か思い出したことがあれば話すこと。そして2つ目はリンディ提督やなのは君たちを裏切らないこと。それを守れるなら、私は君の行動について何も制限しないと約束しよう。」
「……わかりました。約束します。」
と、真っ直ぐにグレアムに返事を返した。
「それから、君のデバイスの事なんだが……」
(あ。そういえばここに連れてこられるときに没収されてたっけ?すっかり忘れていた……)
トウカはすっかりパートナーであるヘイムダルのことを忘れていた。
「それで、俺のデバイスは返してくれるんですか?」
「あぁ、もちろんだ。今はメンテナンスルームに置いてあるはずだよ。クロノ君と一緒に取りに行くといい」
「そうですか……それじゃあひとまず俺はそこに行きます。」
早速、ヘイムダルが置いてあるというメンテナンスルームに向かおうと席を立ったそのとき。
「あ、じゃあ私もいいですか?」
「……私も。」
という感じで、なぜかなのはとフェイトも次々手を上げていた。
◆◆◆◆◆
その後トウカはクロノに案内されてヘイムダルが置かれているというメンテナンスルームにやってきた。
部屋に入るとそこには、ユーノとアルフと一人の女性がイスに座ってコンピューターを操作している。
「あ~!!なんであんたがここに!?」
と、トウカを見たアルフは今にも噛み付いてきそうな様子でこちらを睨んでいる。
「まぁ待てアルフ。彼は”一応”だが協力者として今回の事件を手伝ってもらうことになった。」
「はぁ?!」
突然言われたことに混乱していているのか、3人はぽかんと口を開けている。
まぁ事情を聞かされていないので仕方がないのだが。
「そういうことだから、よろしく。」
ひとまずアルフのことは置いといて、なのはを助けていた少年ともう一人の女性の方を向いた。
「そういえば2人とは自己紹介がまだだったね。始めましてトウカだ。」
「始めましてエイミィ・リミエッタです。」
「は、始めまして。ユーノ・スクライアです。」
もちろんユーノとエイミィも動揺を隠せない様子だった。
捕まえた不審者が協力者になりました。なんて言われたら驚くのも無理はない。
自己紹介が済んだところで、トウカは自分の記憶が無いということと、グレアムから直接頼まれたので協力することになったことなどこれまでの経緯を話すと。
「「「……まぁそういうわけだったら。」」」
という感じで3人はかなり複雑そうな様子だったものの、なんとか納得してもらった。
「そんなことより、このデバイスの解析はすんだのか?」
部屋の中心にある機械には傷ついたバルディッシュとレイジングハート。
そしてトウカのデバイスであるヘイムダルが浮かんでいる。
「結論から言うと……わからないことだらけ。意思もあるしインテリジェントデバイスにかなり近い性能も持ってるみたいだから、ミッドチルダに近い技術で作られてるかもしれないけど、正直わからないことだらけ。この子も色々協力しようとしてくれてたんだけど、ダメだったよ。」
『お力になれず、申し訳ありません。』
「謝らなくていいよ~むしろ協力的なだけありがたいくらい。」
そう言うと、エイミィはバタンと机の上に突っ伏してしまった。
ヘイムダルは確かにインテリジェントデバイスに近い性能を持っている。
発動の手助けとなる処理装置や状況判断を行える人工知能ももちろんあり、その場の状況判断をして魔法を自動起動させたり、主の性質によって自らを調整したりする。ということまではわかったようだったが、エイミィ達はそれ以上の情報を得ることが出来なかった。
突っ伏してしまったエイミィの代わりにユーノが説明を続ける。
「それに……どうやらかなり強力なロックがかけられてるみたいで、外部からのアクセスを一切受け付けないみたいなんだ。」
「なるほど。ちなみにトウカはこのデバイスについて覚えていることはあるか?」
静かに話を聞いていたクロノが口を開く
「う~ん、どういう技術で造られたとかは思い出せないけど、機能とかそこらへんなら。」
「十分だ。教えてくれ。」
「わかった。ちょっとヘイムダル返してもらえないだろうか?」
「ちょっとまってね~」
そしてトウカはエイミィからヘイムダルを受け取るとこほん、と小さく咳払いをする。
「まず、このヘイムダルの大きな特徴を説明すると……」
トウカはヘイムダルを左手に持ち、ゆっくりと目を瞑って意識を集中させる
「ヘイムダル。ランサフォーム。」
『Yes,My Master』
トウカがそう呟くとヘイムダルは突如白く輝いた。やがて光りは収まるとトウカの左手には2mほどの白い直槍が握られていた。
「……なんだい、普通じゃんか。」
アルフの言うとおり、この状態では何の変哲もないただの直槍型のデバイスだ。
「まぁ見てなって、ヘイムダル。エスパーダフォーム」
『Espada Form.』
すると、ヘイムダルは再び白い光に包まれ、今度は白銀の片刃の剣がトウカの右手に握られている。
しかも、左手に槍を持ったままだった。
「まぁこんな感じにデバイスを生成できる、っていうところかな。もちろん武器なら形も大きさも自由に設定できる。」
「……クロノ。こんなデバイス見たことある?」
「いや、初めてだ。」
フェイトやクロノだけじゃない。この場にいる全員が驚いていた。
クロノは更に質問を続ける。
「それは単純に魔法で剣を作り出してるということか?」
「間違ってないけど正確にはデバイス自体を複製してる感じかな。」
「ならデバイス本体はどうなる?」
「どちらも本体だよ、もちろん意思は一つだけどね。戦闘中にもしデバイスを破壊さても直前に新しく生成すればダメージを引き継ぐことなく戦える。」
生成した武器はそれぞれが独立したデバイスとしての能力を持つというのがヘイムダルの大きな特徴の一つだ。
例えば戦闘中、相手がこちらのデバイスを破壊してきたとしてもその直前に新しく武器、つまりデバイスを生成すれば問題ないということになる。
トウカの説明を聞き、フェイトやクロノ達が驚くのも無理はない。
ミッドチルダ式のデバイスはベルカ式のように武器としての性能を重視したデバイスではない。
一方のベルカ式は確かに武器としての性能を重視としているが、武器を複数生成するようなことはしない。
ベルカ式やミッドチルダ式のデバイスは物理的にありえないような変形をすることもあるが、ヘイムダルのように形状が全く異なる武器を生成することはない。
なぜなら、一般的なデバイスはあくまで魔法を円滑に発動するために使用している装置であって、わざわざ”生成”する必要が無いからだ。
魔法によって魔力を具現化し、武器を生成すること自体は難しいことではない。
しかし、ここでクロノ達が驚いているのはヘイムダルには『デバイスを生成できる』という性能を持っている、という所だ。
前述したように、デバイスは装置である。部品を用意し、技術を用いて造られている言わば魔法を使用するために使う道具。
その道具を複製する性能をデバイス自体が持っている、という時点で既にクロノ達にとってあまりにも異質すぎるのだ。
「まぁ自由にデバイスを生成できるといっても、俺の場合は得意な武器の形しか基本的に使わないけどね。」
「ちなみに、デバイスを生成する時の魔力消費量はどうなんだ?」
「う~ん、正直に言うと魔力の燃費は悪いよ。魔力消費量は武器を大きさでも変わるんだけど……」
説明をしながらトウカは槍を消し、今度は右手に持っている物と同じ剣を生成させ左手に持つ。
「例えば、この剣の大きさだと2本でさっきのこの槍の一本分の魔力を使うっていう感じかな。俺の魔力量だと一回の戦闘で余裕を持って戦うなら……たぶん3、4回ぐらいが限界かな、無理すればできなくもないけどね。俺の知っていることはこれくらいかな。」
トウカが一通り説明を終えると、なのはやフェイト達は興味深そうにトウカが手に持っている武器を見ている。
「デバイスを複製できるデバイスか……なかなか興味深いシロモノだな。一度、無限書庫で調べる必要があるな。」
「でも、その前にマリーにも手伝ってもらって本局のデータを調べたほうがいいんじゃない?」
クロノとエイミィは何か二人で相談している。
「ほんと……あんたって一体何者?」
と、アルフは言っているが、それがわかってたらトウカは苦労はしていない。
「よし!」
突然、クロノは何か思いついたようである。しかも、なぜかトウカを見てニヤリと笑っている。
(あ、なんか悪い顔してる……)
その顔を見てトウカはなんとなく嫌な予感がしていた。
「……どうしたんだ、クロノ。」
トウカは自分の悪い予感が気のせいであることを願いながら恐る恐る聞いてみると
「たいしたことじゃない、ただ単に今から君の実力を試させてもらおうと思っただけだ。」
トウカの悪い予感は見事に的中していた。
「やっぱりか……一応聞くが、理由を聞かせてくれ。」
「君のデバイスを解析するための参考にさせてもらうのと……これから捜査に協力して貰うからには君の実力も見ておきたいんだ。もしかして戦い方も忘れているのか?」
「いや、そんなことはないけれど……めんどくさい。」
「そんなこと言える立場じゃないだろ?」
「まぁ、それもそうだけど……」
トウカは記憶を失っているが、一体どこの世界の人間で何をしていたかを忘れているだけで別に戦うことには問題ない。
しかし、トウカが嫌がっている理由はもう一つあった。
「ねぇ、エイミィ。参考のために聞いておきたいんだけど、クロノってどれくらい強い?」
そう、問題はクロノの実力を全く知らないからだ。
クロノが執務官という特別な役職というのは最初の自己紹介に言っていたが、具体的な実力はどの程度なのかを知らないのだ。
「かなり強いよ~あの若さで時空管理局執務官。そして魔導師ランクはなんとAAA+ランク!文句なしの第一線で戦える一流の魔導師だよ」
「俺はその魔導師ランクってのを知らないんだが、AAA+ってのはどれくらい強いんだ?」
「管理局の一般局員はD~Bくらいなんだけど、AAAランク以上の魔導師は全体の5%以下。」
「え、えぇ……」
今の話を聞いただけでもトウカは既にげんなりしていた。
「ちなみに、さっきまでこの子に色々話しを聞いてた時についでにトウカさんの魔力量教えて貰ってたんだけど、魔力量クラスはBランクくらいってところかな?魔力量クラスと魔導師ランクは別物なんだけど……正直かなりの差があると思うよ?」
と、苦笑いしながらちょっと気の毒そうにエイミィは言っていた。
魔力量クラスとは魔力保有量のことであり、例えばなのははAAAクラスの魔力量を持っている。
一方、魔導師ランクとは魔法や戦闘技術含めた総合的なランクで、クロノはこの魔導師ランクの空戦AAA+を保有している、
魔導師ランクは魔法に関する全ての要素を考慮して出される純粋な魔導師の強さの格付けである。
ちなみに一般的な武装局員で魔力量クラス、魔導師ランク共に平均はB程度。
魔力量クラスが高ければ強いというわけではなく、魔力量クラスが高ければ単純に魔法の出力が高くなり、強力な魔法を扱えるようになるが、これには戦闘等における魔法の運用技術は含まれていない。
逆に言えば魔力量が低い人間でも高い戦闘技術があれば高ランクを持つことができるのだが、そんな人間は非常に稀である。
「ちなみに、もちろん君には拒否権はない。拒否するんだったら僕たちに協力するという話は無かったことにしてもらう。ちなみに、その場合。今すぐミッドチルダの病院に連れて行って色々な検査をしてもらうから。」
と、最後にとんでもなく物騒なことを付け加え、更に追い討ちをかけるようにクロノは言う。
「わかったよ……やらせていただきます。」
トウカは諦めた様子で言った。
クロノはトウカに何か怨みでもあるのかという勢いだ。これではもう半分脅迫のようなものだ。
「ふっふっふ……君のせいで今まで振り回された分、暴れさせてもらよ。」
要するに今までトウカと上官に振り回された憂さ晴らししたいだけらしい。
「まぁ、やるって言うんだったら、やるしかないか……」
そう呟いたトウカからは先ほどまでめんどくさがっていた様子は完全に消えていた。
というわけで主人公とクロノが次回戦うことになります。
今回少し長くなってしまいましたが、次回以降は読みやすさを考えて全体の文字数を少なくする予定です。
それでは今回はここまでということで。
質問、感想お待ちしております。
それでは次回もよろしくお願いします!