魔法少女リリカルなのはA's──記憶を無くした魔導師── 作:六道 天膳
「クロノ。」
窓から修理中のアースラを眺めていていたクロノが振り返ると、そこには彼の母親で同時に上司であるリンディとフェイトがいた。
「艦長……フェイトも一緒か」
「うん。」
「今回の事件資料、もう見た?」
「はい。さっき全部」
流石クロノ、トウカの戦闘の後にヘイムダルの解析もやっていたというのにしっかりとやるべきことはやっていた。
ひとまず立ち話もなんなのでクロノは二人をイスに座るように促した。
「なのはの世界が中心なんですよね?魔導師襲撃事件って」
「そうね、なのはさんの世界から個人転送でいける範囲にほぼ限定されてる。」
「あのあたりは本局からだと、かなり遠いですね。中継ポートを使わないと転送できない……」
この三人が集まった理由。それは今後のプランを検討するためだった。
まず、最初の問題は拠点についてだった。アースラは整備中のためしばらくは使えない。しかも、他の艦も数ヶ月先まで空きがないらしい。
しかし、本局からではなのはたちの世界には数十分の転送タイムラグがあるため、事件が発生してすぐに出動してもなのはたちの世界に到着した頃にはすでに敵も撤退してしまっているだろう。
なので本局を拠点にするわけにもいかないので、どこを拠点にするか悩んでいた。
「……というかフェイト。君はいいのか?」
「なにが?」
「嘱託とはいえ、あくまで君は外部協力者だ。今回の件にまで無理に付き合わなくても……」
フェイトをあまり巻き込みたくないと心配するクロノだったが、フェイトはみんなが大変なのに一人で遊んでられない。と、自分から進んで事件への協力を申し出る。
「それに……”あの人”の事も気になるし。」
と、最後にフェイトはボソッと一言を呟いた。
”あの人”については言うまでもない、トウカのことだろう。
「そのことなんだけれど……」
ふと、リンディがばつが悪そうに口を開いた。
「フェイトさんはなんでそんなにトウカさんのことを警戒しているのかなって……やっぱりトウカさんのこと信用できない?」
リンディの問いにフェイトは黙り込んでしまった。
フェイトはトウカの行動を今まで見てきたが別に不審なところはなかった。
ただ、記憶が無く、素性も知れない人間を簡単に信用できるかといわれたらほとんどの人間はNOだろう。ある意味フェイトの反応は正しい。
「クロノはあの人の事はもういいの?」
「しばらくは様子を見るつもりだけど……まぁ、そこまで警戒することは無いと思う。」
クロノはこの中で一番反対していそうだったが、意外にもそれほど反対はしていないようだった。
しかし、フェイトはそれでもトウカに対して警戒心を解くことはできなかった
フェイトは不安だった。そんな素性も分からない人と一緒に任務をやっていけるのかどうか。
しばらく沈黙が続いたあと、リンディは口を開いた。
「フェイトさんが不安に思うのは仕方の無いことだと思うわ。でも彼は悪い人じゃない、それは私が保証するわ。」
「はい……」
と、返事はしているがフェイトの表情は暗い。
「う~ん……やっぱり、あれで行きましょうか。」
そんなフェイトを見てぽんっと手を叩いたリンディは2人計画していたプランを発表する。
◆◆◆◆◆
一方、特に何もすることがないトウカはベットで天井を眺めながらボーっとしていた。
「ふわぁぁ……眠い。」
しかもちょうどいい感じに睡魔が襲ってきていた。
「トウカいるか?」
と、ノックもせずに突然部屋に入ってきたのはクロノだった。
「……んぁ?どうしたの?」
「とりあえず来てくれ、今すぐに。」
「今から?」
クロノに呼ばれ身体を起こしたトウカだが、眠りかけのところを起こされたので、眠そうに大きなあくびをしている。
しかし、トウカは先ほどの戦いで体力を消耗していたので睡魔になかなか勝てることができず。
「ふむ、何がなんだかよく分からんが……おやすみ。」
再び、背を向けてベットに横たわってしまう。
「寝るなーーーー!!!」
クロノの怒号が部屋に響き渡る。
トウカはしぶしぶ立ち上がり、まだ身体が起きないのか、その場で大きく伸びをした。
「……はいはい、わかりましたよ。」
というわけで、何の説明もされないまま半ば強引にトウカはクロノに連れて行かれることになった。
◆◆◆◆◆
───結局どこに連れてこられてたかというと。
「え~っと……これは一体何事?」
クロノに無理やり連れてこられた場所には、なのはやフェイトたちを含めたアースラのスタッフ全員が集まっていた。
「とりあえず君は僕の隣に座って黙って話を聞いていればいい。」
「……はいよ。」
一体これはどういう状況なのかわからないが、特に反論する理由もないのでクロノの指示の通りにおとなしくイスに座る。
「トウカさんも来たようなので説明に入ります。私たちアースラスタッフは今回、ロストロギア『闇の書』の捜索、および魔導師襲撃事件の捜査を担当することになりました。」
最初に会ったときのような穏やかな表情は無く、真剣で凛々しい表情のリンディは現在の状況を説明した。
リンディの話によると、アースラがしばらく使えないため事件が発生した地域の近隣に作戦本部を置くらしい。
今さらだがここに集まっている理由は今後の作戦についての報告だった。
「分割は、観測スタッフのアレックスとランディ」
「「はいっ」」
「ギャレットをリーダーとした、捜査スタッフ一同」
「「「はいっ」」」
「司令部は私とクロノ執務官、エイミィ執務官補佐、フェイトさん。そして新しく民間協力者として協力してもらうことになったトウカさん。以上3組に分かれて駐屯します。それではトウカさん、挨拶を……」
最初は何の理由も聞かされずここに連れてこられたわけなのだが、今の話を聞いて大体の話は理解できた。
トウカはゆっくりとアースラスタッフ一同の前に立つ。
「皆さん始めまして、トウカといいます。今回、民間協力者として手伝うことになりました。よろしくお願いします。」
と、先ほどの眠そうな様子は無く、トウカはしっかりと挨拶する。
「ちなみに司令部は、なのはさんの保護を兼ねて……なのはさんの家のすぐ近所になりまぁ~す。」
最後に言ったリンディのそんな一言に、フェイトとなのはは顔を見合わせて、嬉しそうに笑っていた。
◆◆◆◆◆
翌日。
場所は海鳴市のマンション。
民間協力者であるなのはの保護をかねて、なのはの家のごく近所であるこのマンションが作戦本部として選ばれた。
ちなみにこの部屋のベランダからなのはの家が見えるらしく、なのはとフェイトの二人は楽しそうにベランダではしゃいでいる。
ちなみにクロノやエイミィは荷物の片付けのため忙しそうである。
一方のトウカはそんなことは気にせずソファでのんびりとしている。
ちなみに今のトウカはスキニーパンツにカジュアルなシャツという、この世界ではいたって普通の服を着ている。
これからなのはたちの世界で過ごすというのに普通の服が無かったトウカだったが、
『とりあえず、いくつか服を渡しておくわね。また今度新しく服を買いにいくつもりだからそのつもりでいてね。』
ということでいくつか服をリンディから渡された物である。
しかし、どれもサイズがぴったりというのはなぜだろう、という疑問もあったがとりあえずは気にしないでおくことにした。
「トウカもなにか手伝ったらどうだ?」
声をかけられたので振り向くと、クロノが重そうなダンボールを抱えていた。
ちなみに今は引越しの真っ最中でエイミィも忙しそうに管理局から持ってきた機材を調整している。
「遠慮しとく、だってほとんど管理局の機材ばかりだしあまり俺が触らないほうがいいだろ?」
「めんどくさいっていうのが本音だろ?」
バレていた。
とりあえず引越しは順調のようである。
ふと、気が付くとテレビの前に見慣れない子犬とフェレットが座っている。
「ねぇ、エイミィ。もしかしてこれって……」
「あぁ、トウカさんは知らないんだっけ?子犬の方がアルフでフェレットの方がユーノ君。」
「へぇ~……」
アルフは元々狼がベースの使い魔らしいので納得できるが、なんでユーノまで?というと思ったが、あまり聞かないで置くことにした。
「アルフちっちゃい。どうしたの?」
「ユーノくんもフェレットモード久しぶり!」
と、ここでベランダから帰ってきたなのはとフェイトは二匹に駆け寄る。
フェイトに抱かれている子犬形態のアルフとなのはに頬擦りされ苦笑のフェレットモードのユーノ。
「なのは、フェイト。お友達だよ。」
「「はーい」」
どうやらなのはとフェイトの友人が来たらしく、クロノに呼ばれた二人は玄関に向かっていった。
その後にエイミィから聞いた話だが、アルフはこちらの世界では犬として暮らすため、子犬フォームへと変身し、ユーノはこちらの世界ではフェレット形態でなのはの家出過ごすことにするらしい。
フェレットとはいえ一応少年であるユーノがなのはの家に住むということに疑問を持ったが、ユーノは半年前の事件の時もこの姿で一緒に暮らしていたらしいので大丈夫とのこと。
それにしても、なのははフェレットモードのユーノと一緒に住むことに何も感じていないようだが、一体なのはの中のヒエラルキーはどうなっているのだろうか
(ユーノよ……がんばれ。)
と、トウカは心の中でエールを送っていた。
「エイミィ。今からなのはさん達と出かけるけど後は任せても大丈夫?」
「あ、はい!大丈夫です。」
そんなことをしていたら、なのは達の友人に挨拶へ行っていたリンディが戻ってきた。
どうやらなのは達と一緒に出かけるらしく支度を始めているようだ。
「あ、トウカさん。これからなのはさんのご両親の所へご挨拶に行くのだけど、トウカさんも一緒にどうかしら?」
「え、まぁ暇なんでいいですけど。」
「じゃあ玄関になのはさん達がいるから先に行っててちょうだい。」
リンディに言われ、トウカは上着を着て玄関に向かうとなのはとフェイト以外に2人の少女が話していた。
「なのは~俺も一緒に行くことになったんだけどいいかな?」
「あ!トウカさんも来てくれるんですか!」
と、なのははうれしそうにしている様子だった。
「……」
一方のフェイトは何も言わなかったが少し複雑そうな表情をしているのをトウカは見逃していなかったが、あえて触れるようなことはしなかった。
トウカは玄関の先にいるなのはの友人に目を向ける。
そこに二人の女の子が立っている。
一人は金髪でいかにも勝気そうな少女、そしてその隣にいるもう一人にトウカは見覚えがあった。
「あれ、君は確か……」
「あ、この前図書館で会った……」
そう、先日図書館で車椅子の少女と一緒にいた紫色の髪の少女だった。まさかこんな所で会うとは思っていなかったのでお互い驚いていた。
「えぇ!?すずかちゃんとトウカさん顔見知りだったんですか!?」
「図書館でちょっと会ったなんだけどね。でも、まさかこんな所で会うとは思わなかったよ。自己紹介がまだだったね、俺はトウカ。二人ともよろしくね。」
「月村すずかです。改めてよろしくお願いします。」
と、すずかは自己紹介を終わらせたが、もう一人はなぜかトウカを見つめたまま固まってしまっている。
「よかったら君の名前も聞かせてくれないかな?」
「あっ!え、えっと!!わ、私は アリサ・バニングスです!よ、よろしくお願いします……」
緊張しているのか、若干上擦った声でアリサは自己紹介していた。
普段は勝気で言いたいことはハッキリ言うアリサがこのように動揺している様子はなのは達にとって初めて見るものだった。
「どうしたのアリサちゃん?」
「な、なんでもないわよ!」
「???」
なのはがアリサに聞くが、慌てた様子で「ふんっ」と言って顔を背けてしまった。
そんなアリサの様子にトウカも何が何やらわからなかった。
「お待たせ。それじゃあ行きましょうか。」
すると、ちょうどいいタイミングで支度を済ませたリンディがやってきたので6人と2匹は移動することになった。
(そういえば……なのはの両親って喫茶店経営してるってリンディさんが言ってたような……いや、まさか……)
この時トウカは一瞬、とある夫婦の顔が脳裏をよぎっていた。
という感じの引越し回でした。
次回も宜しくお願いします。