「ハッピーバースデー! エブリワン! 今日も元気に生きてるか!? バースちゃんです!!!!」
内容とはかけ離れる程に高音質な声が、今日も元気に俺の鼓膜を破壊した。
顔出し配信やVtuberなど、様々な形態でのゲーム配信がある中で、ただ身一つその声と語彙力と技術力だけで配信している。
歌やダンス、雑談枠などと言った分野にはほとんど手を出さずにひたすら同じゲームに打ち込む様は見ていてある種のカリスマのような何が感じて取れた。
今や何人居るか数える気にすら成らない配信者。 その中で原初故に目新しい、そんな温故知新とも言うべきこの配信者『バース』に俺は不思議と惹かれて行った。
喧しいばかりの女は好かないと思っていたが、俺も年なのだろうか? 初心者が初心者なりに上達していくのを見るのはとても気分が良かった。
そんな彼女を見て、はや半年になるだろうか? チャンネル登録者は500人を目前に控えたあたり。
こう言ってはなんだが、全体で言えばかなり下の方になる数字ではあるが、それでも彼女は元気に今日を生きていた。
「今日もセフィロやっていきます!!!! っしゃぁ、熱帯の海へ飛び込め!!!!!!」
そんな彼女もすっかり上達して、今では立派な中級者。
ロボット格闘ゲームに分類されるセフィロはその類に漏れず、煽りあいが前提のような部分があるので視聴者からは
『格下狩り専門業者』
『強者に絶対勝てない女』
『こいつに勝てたら上級者』
『登竜門』
などなど好き勝手言われていた。 俺も言った。 だってコイツ、マジで強者相手になると立ち回りアホになるんだもん。
ボタンの押し方忘れたお猿さんでもマシな動きするぞ? コントロールぶっ壊れたか????
「っは!!!! 雑魚め!!!! ラヴァルリンカーの生半可なジャンプ飛び込みが私に通じると思わないで欲しいですね!!!! 知ってますか!? レバーって後ろにも入れられるんですよ!!!! 今度はちゃんとガードできるようになってからまた戦いましょう!!!! じゃあね!!!!」
とはいえ、バースも口の悪さで言えば相当だった。 というか美少女の声でそんな事言うから初見はちょっぴり引いた。 見栄張ったな、ドン引きしたわ。
しかしまぁこのやかましさが何というか、労働で疲れ果てた身体に染み渡るのだ。 酒の肴になる。
まるでよく仕込まれた猿回しでも眺めてる気分だ。 程よく勝って、程よく負ける。 針の穴を通すような隙を突いて、老人でも見逃さないガバをする。
甘味と酸味を交互に食べているような、そんなプレイをボケーっと眺めて茶々を入れるのが俺の日課になっていると言っても過言ではない。
「アッ! 知ってる!!!! この人この前も負けた!!!! 嘘だ、私の攻撃がまるで通じない!!!! やだ負けたくない!!!! 馬鹿野郎1本取られたからってなんだよ!!!! 残り2本勝てば私の勝ちだが????????」
有名プロプレイヤーにぶち当たっているあたり、コイツの腕前もまぁまぁなんだろうなと思うのだが……
「あー! あー! 見えない! 何も見えない!!!! 先の見えない道を歩いてく!!!! 転んだって道がなくたって不安だって怖くたって歩いてくんだ私はー!!!!!!!!!!!!」
このざまを見ていると、やはり格上に当たると何かしらのデバフがかかってるだろとしか思えない雑魚ムーブになる。
あるいは格下と当たるととてつもなく強くなるバフでもあるのだろうか? 精神的なアレ?
兎にも角にも、格上には勝てないようだった。 中段と下段ぐらい見分けろ、そいつは見やすいほうだ。 対空打つのも秒単位で遅い、無線LANで対戦してんのか。
「くぅ……見てろよぉ、泥水啜って這い寄ってでも次勝ってやるからな……あ、ネココさん! この前の対策説明ありがとうございました、おかげさまでちょっとは上位勢相手食らいつけるになりましたよ! ……今負けましたけどこれは、アレです。 違います次勝つんで」
それとバースのもう一つの特徴としては、視聴者のことを個々にしっかりと覚えている事だろうか。
たった今名前が出たネココとは、厄介なプレイヤーとして様々なセフィロ配信者に嘴を突っ込んで居たのだが、バースは見事に受けきった上で吸収した。
またある日の配信、久しぶりに俺がコメントをしたら、それが何日ぶりか当てた上でそのまま他視聴者の悪ノリでいつどこでお前の名前を見たのかをテキパキと応えていた。
配信者と言う人種はある程度、覚えているモノだと聞くが、これほどまでに明確に覚えている人間を俺は見たことがない。
Vtuberなど人気を集める必要がある業種ならまだしも、ただの趣味でやってるような配信者がここまでするか?
思えば信じられないほどクリアな音質と環境音が入らない点からして、実はテレビか何かの撮影でつかっていたりするんだろうか?
……いや、ないな。
こんな暴言女を地上波で流して言い訳がない。 ネット上でも昨今リテラシーだのコンプライアンスだのが騒がれてるだぞ?
配信頻度と言い、改めて考えてみると不思議だが、対戦に熱中している彼女はその手の雑談コメントを拾えない。 拾わないのかもしれない。
『いや草、カカシのほうがまだ強い』
疑問を発泡酒で流し込み、俺はコメントを打った。
「ペッ! 雑魚共が! 文句があるなら指名対戦しに来てくださいよ!!!! それとも特定してオフラインだろうも対戦申し込み大量に飛ばしてやりましょうか!? えぇ!?」
だからこえーって、情報リテラシーは何処に行ったんだ……