だいたい殴れば解決する   作:三回転半ドリル土下座

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交流会団体戦8 インターバル

「ただいまぁ~っと」

 

 軽い足取りで拠点に戻り、吐き出した第一声がそれだった。寒気を振り払うように二の腕をさすり、肩をすくめる。

 はっきり言って、今回の襲撃、春太は何もしていないにも等しい。誰を倒した訳でもなく、たかだか生徒一人に押さえ込まれてしまった。あまつさえ五条悟侵入の気配を感じた瞬間の逃走。

 最後に関しては、間違った判断だとは全く思っていなかったが。それを度外視しても、悲惨な結果ではある。これは報酬減ったかなあ、とぼんやり思った。もっとも、春太としてはそれなりに楽しめたので、報酬が多少減ろうと別にいいのだが。ただ、怒られるのだけはちょっとだけ憂鬱だ。

 結果的に鞣造を見捨てる形になってしまったが……こちらはどうでもいいか。そこそこ気が合ったとはいえ、所詮は仕事上の付き合い。引き時を見誤った奴が悪い。

 

「ま、無事帰れたんだからそれだけで儲けものだよね」

 

 春太は悩まない。気楽な性質だというのもあるが、それ以上に、思案には価値がないと思っているからだ。

 人生楽しんだもの勝ち。悔やむよりはこれからの楽しみに思いを馳せた方がいい。そう思いながら、手の中で呪具を転がし……

 いきなり、呪具が崩壊を始めた。

 

「あれぇ?」

 

 どこかが砕けたというのではない。全体がまんべんなく崩れようとしている。

 この呪具の名前は知らない。確か同道した特級呪霊の術式を鞣造があれこれ弄って、生み出したものであり。此度の襲撃のためだけに作られたため、終わってしまえば無くなってもいいと言えばいいのだろうが。

 無用だとしても、どう控えめに見たところで隠蔽結界欺しの呪具など貴重で稀少だ。ましてや特級呪霊の術式を素材に使っていれば。これのおかげで秘密裏に侵入できたし、撤退時も植物と地面を利用して、瞬時に消えることができた。

 

「これって俺が怒られる系のやつ? それはちょっとヤだなあ」

 

 さしもの春太も、自分が悪くないのに非難を受けるのは勘弁願いたかった。

 祈りもむなしく、呪具は手の中でどんどん小さくなっていく。多分、これを止めるすべはないな、と判断した。嫌は嫌だが、諦めも大事だ。問題は、ありのままを告げるべきか、その辺に捨てて無かったことにすべきかだ。どうせ怒られるなら被害が少ない方がいい。

 

「あー」

 

 と、悩んでいるところで背中から声が掛けられた。呪霊には珍しい、完全な人型。名前は、名前は……駄目だ、忘れた。

 

「ちょっとォ、勘違いしないでよね。俺なんも悪くないよ。勝手に壊れたんだ」

「パソコン使えないお爺ちゃんかよ。今時中年だって勝手に壊れたなんて言い訳しないっつうの」

本当(マジ)なんだけどなァ」

 

 ぼやいていると、呪霊がひょいと呪具を奪っていった。このまま呪霊が壊したことにしてやろ、と密かに思う。

 が、呪霊は崩壊しつつある呪具を確認し、いきなり目つきが鋭くなった。

 

「……ねえ。これ、いつから壊れ始めたの?」

「さあ? 気づいたときには。タイミング的には、ここに戻ってきた直後だと思うけど」

 

 言うと、呪霊がくしゃりと呪具を潰した。大して力を入れたようには見えない。多分、すでに中身はすかすかになっていたのだろう。

 

「ねえ、花御は?」

「は? ハナミ? 何それ?」

「一緒に行った呪霊。どうなってる?」

「知らないよ。そもそも向こうじゃ会ってないし」

「チッ」

 

 なぜか苛立ち混じりに舌打ちをしながら、呪霊は呪具の残骸を叩き付けた。そして、虚空に向かって叫ぶ。

 

「夏油!」

「居るよ」

「わっ」

 

 現れたのは、僧衣の上に袈裟を纏った男。こちらの名前は覚えている、夏油傑。物覚えの悪い春太が一発で覚えられたのは、偏にこの男がとてつもなく危険だからだった。はっきり言って、勝てる気がしない。勝負すらすべきではない。直接接触したことはないが、もしかしたら特級呪術師とはこういう奴の事を言うのかもしれない、と思った。

 

「花御が祓われた」

「真人までそう判断したって事は、どうやらこっちの確認ミスって訳じゃなさそうだね」

「どういうこと? 逃げるだけなら相手が五条悟だって分の悪い賭けじゃないって言ってなかった?」

「間違ってないよ。だから花御に行ってもらったし、事実、途中まではその通りになってた筈だ。ただ、どうやら見込みが甘かった」

「花御を倒しきるほどの術師が、五条悟以外にもいたと?」

「ああ。私が見誤ったとしか言い様がない。謝罪……はもうできないね」

 

 話がいまいち見えてこないが、ともあれ花御とかいう同道した特級呪霊が負けたらしい。

 花御は、呪霊にしては温和な方だった。肉体的にも術式的にも防御方面に飛び抜けており、多分、同じ特級呪霊でもあれの守りを抜くのは難しいだろうと思えた。話を効く限り、逃走用の術も一つや二つ持っていただろう。

 そんな奴をあっさり祓うとは。おお怖い怖い、と春太はわざとらしく小さくなった。

 

「相手は」

「天童大地で間違いないだろうね。特級呪術師。てっきり、実力を高く見積もっても乙骨憂太と同程度だと思ってたんだけど……」

 

 とりあえず春太は、頭の中にその名を刻んだ。聞いたら一にも二にもなく全力で逃げるために。

 特級呪霊を瞬殺する特級呪術師とか頭おかしい。絶対に関わってはいけない類いの存在だ。土下座したら見逃してくれるタイプだったらいいんだけど、と密かに考えた。

 呟く傑に、真人が非難がましげな視線を向ける。

 

「なんで間違えたのか聞かせてもらうよ。場合によっては手を切るし、最悪、お前を殺す」

「怖いじゃないか。あんまり脅してくれるなよ。まあ、なんでかって言ったら、はっきり言って情報を信用していなかった」

「なんで」

「禪院家縁の特級呪術師だからさ」

 

 呪詛師の中でも特に同業者と繋がりの薄い春太には、言葉の意味が分からなかった。なんとなく面白いからと呪詛師をしている春太は、職業呪詛師が本来所属しているコミュニティやらに入っていない。だから、禪院家というのもどっかの旧家だろう、程度の認識だった。

 

「それが何なの」

「真人は知らないだろうけどね、御三家に限らず、呪術師の旧家ってのは所属する準一級以上の数で競うものなのさ。だから私は、天童大地は酷ければ、一級の上澄み程度だっていう可能性も十分あると思っていた」

「これだから人間は……」

「言っておくけど、乙骨憂太並っていうのも十分すぎる程の過大評価だったんだからね。なにせ彼は歴代特級の中でも上から数えた方が早い。それこそ全盛期なら、歴代上位の二割に入っていただろう」

「で、現実はそれどころじゃなかったと」

「この点に関しては責めてくれて構わない。完全に私の失策だよ」

 

 しばらくの間、両者の間に寒気がするほどの殺気が溢れた。どちらも普段浮かべている、軽薄でうさんくさい笑みを引っ込めている。

 春太は密かに距離を置く。巻き込まれただけで死にかねない――これは予感ではない。確信だ。

 やがて――先に矛を収めたのは真人の方だった。

 

「やーめた。こんなのただの八つ当たりだね。どのみち花御以上の適任はいなかったし、もう一人の特級を甘く見てたのはこちらも同じだ」

「そう言ってくれると助かるよ。とにかく建設的な話をしよう。最大の問題として、天童大地はこちらが思っているより遙かに強かった。我々は彼のことを知らなければならない」

 

 そして、二人ともまた思考の読めない笑みの仮面を張り直して。真人はその場を去ったが、傑は残ったままだった。

 

「さて、春太君」

「あ、嘱託式の帳は上手くいったよ。後でレポートにして渡すから。じゃ」

 

 嫌な予感がしたので、早口にそれだけ言って去ろうとし。しかし回り込まれてしまった。

 

「ところでもう一仕事しない? 依頼内容は『天童大地への威力偵察』で。報酬ははずむよ」

「絶対に()だ」

 

 きっぱりと言い切って、今度こそその場を走って逃げた。

 

 

 

 今回の襲撃において、高専側の被害は甚大なものだった。二級術師二名、補助監督五名、忌庫番二名。これが最終的な死者の数である。把に居合わせた準一級と二級それぞれ一名ずつは一命を取り留めたが、このうち二級はツギハギ呪霊の術式によって再起不能。悲惨な結果だった。

 とはいえ、これでも大分ましな方だろう。もし一級二名、準一級一名の救援がなかったら全滅していた可能性すらある。一級の内一人が楽巌寺と正道だったのも幸運だっただろう。なにせ対生物特攻術式を持つツギハギ呪霊には、基本的に接触は下策だ。中距離特化と呪骸による攻撃は、ツギハギ呪霊を倒すに至らずとも足を鈍らせるには十分だった。

 しかし。

 

「戦果らしい戦果は呪詛師一人と呪霊一体、ツギハギ呪霊は逃がしちゃって、多分目的も達成された。ま、これは負けだよねえ」

 

 悟は浅く座り、足を投げ出すような姿勢でこめかみに指を当てた。

 ツギハギ呪霊、もとい真人は高専忌庫に侵入、宿儺の指六本と受胎九相図の一番から三番までを持って逃走。特級呪物が敵に渡った事より、忌庫にたやすく侵入されたという事実が問題だった。

 多分、回収した宿儺の指に、残穢でマーキングされていたからストレートで侵入されたのだろうというのが予想だが。それにしたって鮮やかすぎる。まるで高専の構造を隅から隅まで知っているかのようななめらかさだった。

 

(やっぱ内通者? もしくは東京校上がりの呪詛師? んー、どっちもしっくりこないなあ)

 

 確かに奪われたものは大層だが。リスクに見合ったリターンかと問われれば疑問が残る。それは侵入という意味でも、裏切りもしくは寝返りという意味でも。

 受胎九相図についてはまだ分かる。手っ取り早く頭数を増やすには、それなりに悪くない手だ。忌庫に封入されている呪物の中では最高位であるのだし。

 問題は宿儺の指。はっきり言って、こちらには殆ど利用価値はない。

 悠仁の潜在能力強化を恐れて先手を取った、とこじつける事もできなくはないが。実のところ、悠仁本人が現時点では驚異と言えるような力は持っていなかった。宿儺の指そのものを呪的爆弾として利用しても、ハラスメント以上の価値を持たない。鬱陶しいは鬱陶しいが、最大20発ではあまり意味が無かった。

 

「で、伊地知。捕らえた呪詛師から何かが聞けたかい?」

「いえ……。口そのものは軽いのですが、どうも言っていることが要領を得ず難航しています。多分、最初から切り捨てられる前提で配備された、囮ではないかと。依頼者は中性的な白髪のおかっぱ頭な子供と言っていますが……」

「それも正しい姿か分からない、か。つくづく面倒だね」

 

 ということは、襲撃組の本命は真依と真希が遭遇したらしい、金髪を纏めた男となる。悟でも追いつかない逃走手段を持っていた以上、何を言っても仕方が無いものの。嫌がらせに一発くらいぶちかませばよかったと後悔した。金髪よりハゲの方が強かったのも作戦の内だったのだろう。

 

「歌姫達も逃がした上に、ほぼ情報無しか」

「う……悪かったわよ!」

「そうだよー、超悪いから反省してねー。……と、言いたいところだけど。あれは七海ですら取り逃がした呪霊だよ。数を頼りに倒せるとは最初から思ってない」

 

 七海建人は一級の中でも最大火力の一人。彼で駄目だったのなら、数を頼りになんとかなると思うのは甘かった。真人はすでに特級呪術師が出張る案件だ。

 

「一つ聞きたいんだが、本当にそれ以外盗られた物はないのかい?」

 

 冥冥の問いに、伊地知ははっきりと告げた。

 

「はい。少なくとも特級呪物および呪具に喪失したものはありません」

「ふーん。不思議な話だねえ。宿儺の指しかり九相図しかり、シンプルに戦力強化を目論むなら他に持って行くものはあっただろうに」

「呪具が一つもなくなってないのはちょっと気色悪いわよね。私たちの到着が想定より早かったから持ち出せなかったって可能性はある?」

 

 歌姫の疑問に、楽巌寺が小さくかぶりを振った。

 

「無いだろうな。奴と遭遇したのは、すでに品定めの後だ。最初から宿儺の指と九相図が狙いだと考えた方がいい」

「この襲撃自体がブラフで、忌庫へのマーキングが本命だという可能性はあると思いますか? 後から天元様を、とか」

「ないであろうな。残穢の洗浄は念入りに行っておる。仮に転移の能力があったとして、あくまで守護結界の一層を突破しただけに過ぎん。天元様を守る二層三層の結界はまた別物よ」

「つくづく目的が読めないねえ。あー、クッソめんどくさ」

 

 いっそ総戦力で挑んでくれれば、というのは強者の傲慢か。仮にどれだけの戦力を用意したところで、殲滅するだけならばそれこそ悟一人で事足りる。

 

(それに……)

 

 悟を殺したから何なのだという話でもあった。

 結局の所、何をするにしたって目的のための過程でしかない。ここまで執拗な真似をする連中の最終目的が、呪詛師ないしは呪霊の自由やら復権やらを唱えるわけでもないだろう。もっと大がかりに何かをしたいはずだし、多分、そのためには必ずしも五条悟殺害が要る訳ではない。

 ぐだぐだになった思考を振り払い、悟は立ち上がった。

 

「ま、今ある情報でこれ以上考えても仕方ないでしょ。それよか先にやることやろうか」

「やる事って……何の話?」

「そりゃあもちろん、交流会についてでしょ!」

 

 ひょい、と建物から出て行った悟を慌てて追ってきたのは、歌姫だった。

 

「ちょっと! 交流会について話し合うならなんで出て行くのよ!」

「そりゃ決めるのは生徒だからだよ。交流会の主役は生徒だよ? なんで僕達が勝手に決めんの」

 

 うぐ、と言葉に詰まる歌姫。

 

「でもこんな状況で……」

「それこそ危ないだなんだってのは僕らの事情でしかないじゃん。生徒(あの子ら)がやりたいって言ったら、それに全力を尽くすのが教師のすべきことでしょ」

「くっ。あんたに青臭い事言われると腹立つわ」

 

 悟に(珍しく)正論で殴られ、悔しそうに歯がみしている。こういう素直さがあるから生徒に好かれているんだろうな、となんとなく感じた。教師としては彼女の方が数段上だという自覚はある。悔しさも覚えられないほどに。

 にまにま笑いながら彼女を見ていると、胡乱げな視線を向けられた。

 

「あによ」

「いいや、歌姫は弱いからなーって思って」

「うっさいわね!」

 

 噛みつかれるが、そんな事は気にしない。

 そう、歌姫は弱い。だから、いざとなったら自分の後ろに隠れればいい。彼女だけではない。誰だって、いざとなったら一にも二にもなく助けを求めればいいのだ。そうすれば、必ず救ってやる。

 一番苦しいのは、助けられる準備もなく死なれてしまう事だ。

 

「とゆーわけで、君達どうする?」

「おわっ?」

 

 いきなり扉を開けて、主語なしに問いかける。その場に居た生徒全員が、ぎょっとしてこちらを振り向いた。どうやら、けが人は全員治療済みらしい。

 

「あんだよ悟、藪から棒に。ちゃんと説明しろ、説明」

「やーねー虎杖さん、また五条さん()の子よ」

「そうよねー釘崎さん」

「はいはいそこ、近所のおばちゃんごっこはそのへんで」

 

 真面目な問いかけの中に悪ふざけを添えて。ちょっと前に殺し合いをしておきながらこの図太さは、さすが自分の生徒だと思った。多分、夜蛾正道が見たら呆れかえった後、自分がげんこつを貰うだろうが。

 

「交流会の話だよ。いろいろあったし死人も出てるけど、続ける?」

 

 これはちょっと卑怯な言い方だったかな、と告げてから思った。

 止める言い訳を与えるなら、疲れてるからとでもしとけばよかったのだ。わざわざ死者を引き合いに出す事はない。実際、どうするって言われても、という雰囲気が漂っていた。

 空気を変えたのは葵だった。継続を掲げ、正論に理論詰めに、最後は青春までぶった。とてつもない説得力はあったが……思わずお前何歳だよ、と突っ込んでしまう。

 が、そんないい台詞も、霞のずびずびと鼻をすする音で台無しだ。葵こそ気にした様子はないが、一番近くに居る大地がとても嫌そうな顔をしている。

 

「お前さっきからずっと泣いてるの何なんだ」

「だって……思い出しちゃうんだもん。ローン……三百万円……私の刀……」

「俺は理由を教えろと言ってるんじゃなくていい加減泣き止めと言っとるんだあほたれ」

 

 東西問わずひたすら面倒くさい奴扱いで見られているのにも気付かず、霞はすんすん言い続けた。

 三百万の呪具。大層に聞こえるが、実のところ、呪具の相場としては最底辺だ。恐らくは買えて四級呪具だろう。だろう、となってしまうのは、そんな安物の呪具など、悟は見たことがないからだ。五条という大家(たいか)の出身、五条家忌庫に納められている呪具は最低でも二級からである。

 呪具で居合い刀で三百万というのは、およそ現実的な数字ではない。ということは、多分普通の刀だ。下手に呪具を求めるより、現代技術の粋を集めた武器に呪力を通した方が強いという事は往々にしてある。

 大地がちらりとこちらを見た。悟が首を振ると、彼はため息をついてスマホを取り出し、電話をかけ始めた。

 

「……ああ、じいちゃんか。いや、そんなつもりはない。今回の用事は余ってる居合い刀の呪具はあるかって聞きたかったんだ。あん? 俺が使うかよ。同級生が三流品使ってた上に折っちまったから代用品をな。二級か三級でいい。……なんだ、三級ねえのかよ。じゃあ二級で。用事はそんだけだ、んじゃな。……つうわけで、三日もすりゃ京都校に代わりのもんが届くぞ」

「いや、でもそんな、お金が……」

「いらねえよ。どうせ忌庫の肥やしだ」

「天童君最高! 愛してる!」

「ひっつくな鬱陶しい気持ち悪い。好きでもない女にひっつかれて喜ぶ趣味はないんだよ。あ、ハニーならいつでも大歓迎だぞ!」

「死ね」

 

 霞の頭を押し返しつつ、野薔薇に投げキッスをして。反吐が出るといった様子を隠しもせず吐き捨てられる。

 その様を見て、悟は思った。ああ、野薔薇はやっちまったんだな、と。だから忠告しておいたのに。まあなってしまったものは仕方ない。学生らしく青春らしく、惚れた腫れたを楽しんで欲しい。鬱陶しいだけ? 知らんがな。

 

「じゃ、個人戦か。腕が鳴るな」

「いや、今年は個人戦やんないよ」

 

 ばっさり言うと、全員が頭に疑問符を浮かべた。

 様子など気にせず、悟は勝負方法の入った箱を恵に投げる。

 

「僕、ルーティーンって嫌いなんだよね」

「その割には去年、個人戦やったじゃん」

「そ。だから飽きちゃった」

 

 桃の言葉に、あっさりと告げて。

 恵が取り出したのは、『タッグマッチ』と書かれている紙だった。

 

「こんなん書いてありましたけど」

「うーん、各校七人いるんだよね。2-2-2-1だとつまんないから2-2-3にしよっか!」

「しよっかって……」

 

 そんな雑でいいの、という雰囲気が蔓延する。そんなんでいいのである。

 とはいえ、この振り分けだって本当に気分で決めたわけではない。謂わばこれは温情措置だ。

 去年は、団体戦も個人戦も、全部憂太が持って行った。今年から参加する大地は、どう控えめに見ても憂太以上だ。てこ入れをしない限り、大地の一人勝ちは揺るがない。それこそ面白くもなんともないだろう。

 

(とはいえ、これはちょーっとまずいかな)

 

 ルールでがっちがちに縛った団体戦なら、特級が相手でも十分勝ち目はある。が、ルールが少なくなればなるほど大地有利だ。

 大地なら加減を心得ていると知っている。それはそれとして、彼相手に戦法も知らないというのは危険極まりなかった。

 

「はーい、じゃあ皆準備してねー。あと東京校の子らはこの後ちょっと集まって貰うから集合ね」

 

 最低限の情報さえあれば、自分達でなんとかするでしょ。そんな期待を込めて、悟は生徒を再集合させた。

 

 

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