だいたい殴れば解決する 作:三回転半ドリル土下座
姉妹校交流会が終わってから幾ばくか。大地は禪院家本家の敷地内を歩いていた。
周囲には誰も居ない。というか、下手したら敷地の中にすら誰もいないだろう。皆が皆、大地を避けているのだ。理由など、どうせ大地に絡まれるのを避けるためだろう。
数年前まで、そこらの人間に誰彼構わず喧嘩を売っていたのが祟っていると見える。
(別に、今は喧嘩を売ろうなどと思ってないんだがなあ)
ぼんやりと考えながら、人の気配すらない庭を歩く。
殴りかからない理由は単純で、今や一級呪術師すら相手にならないからだ。殴り合いが成立する相手ならばともかく、一方的に殴ったところで楽しくもなんともない。つまり落ち着いた訳では全くないのだが。
無論、喧嘩を売ってくるならいくらでも買う。雑魚を好き好んで小突き回すほど暇ではないだけだ。自分を見て逃げ出すようなヘタレに興味など無いというのもある。
「俺の部屋はどこだったかな……」
呟きながら、あたりを見回す。
禪院家本家は無駄に広い。母屋だけでも普通の家十件分以上の広さがあった。ましてや小学生の頃に家を追い出され、年単位でしか訪ねないような場所。立地がおぼろげになるのも仕方ない。気分的には、普段あまり交流のない親戚の家である。
今回訪ねたのは、通帳と実印を取りに来たためだ。
来年で大地も十八歳、手続きやら何やらが面倒になってくる年齢だ。ましてや現段階でも、彼は億単位で稼いでいる(税金関係に関しては、禪院家お抱えの公認会計士が一括で行っていた)。特級呪術師にしか回せない案件というのはそれなりに多いし、特級の中でも一番使い勝手がいいという事で回される案件も多い。まあ、彼としても強い呪霊を優先的に回してもらえるので、悪く思うことはなかった。
いや、と一つだけ訂正する。気配は全くの皆無ではなかった。一つだけ、大地を待ち構えるように存在している。
無闇に長い庭を抜けると、玄関に背を預けるようにして、人影があった。
「や、大地君」
「よう直哉。叔父さんって言った方がいいか?」
「やめぇや気持ち悪い。普通でええねん普通で」
機嫌がいいのか、やけににこにこしながらそう言ってくる。
禪院直哉。大地が存在しなければ、恐らく次期当主は彼だっただろう。そう思えるだけの強さは持っていた。
性格は、まあ一言で言ってクズだ。だいたい歯に衣着せぬ物言いをするし、偏見も選民思想も強め。しかも京都人らしくドストレートに口が悪いが、これに関しては呪術師としてはマシな方だと思っている。軍隊上がりやら一昔前の悟やら、もっと口が悪い人間はいくらでもいるし。
おまけに女の趣味も悪いが……こちらは同情すべき面がある。というのも、だいたい禪院家の女が悪い。禪院家にいる女は、総じて直哉など比較にならないクズだからだ。少なくとも大地はそう思っている。なにせ陰険かつ粘着質であり、他罰的で自ら行動しないのに被害者意識だけは人一倍。腐った女という表現は好きではないが、禪院家の女は間違いなく腐った女の集団だった。実のところ、禪院家にいる女はまともな奴から出て行く。そのため残るのは、行動力のないクズばかりという訳だ。
従順な女を求めるのも、そういった存在を忌避する裏返しという面もあるのではないかと思っている。もし自分も禪院家に残っていたら、似たような好みになっていたかもしれない。ああ恐ろしい気持ち悪い。
割と嫌われている直哉だが。大地は彼に対し割と好意的だった。今でも直哉だけは、自分に対し挑んできている。勝てないからと言って訓練すら逃げ出すカスではない。
向上心というただ一点に関してだけは、直哉のそれは他者の追随を許さぬものだった。
「
「俺もそろそろ成人だからな。必要なものを取りに来た。取るもん取ったらすぐ帰る。用事もないしな」
ため息交じりに告げた。
はっきり言って、禪院家はつまらない。性根が腐っている奴が多すぎるというものあるが、一番は強さに対し欲がない点だった。現当主からして呪術師の役割は呪霊を祓う事、他は二の次三の次という人間なので、仕方ないと言えば仕方ない。
言い分も分からなくはないが……大地にとってはあらゆる意味で退屈極まりなかった。
「直哉はなんでこんなとこにいるんだ?」
答えの分かりきった問いかけをする。
直哉はにっと口元を歪めながら言った。
「やらしい聞き方するなあ。ちょっと遊ぼか」
短い誘い文句に、思わず笑みがこぼれる。こういう所があるから、彼を嫌いになれない。
歩き出す直哉について行く。向かう先は修練場なのだろうが、大地の記憶からすっぽり抜け落ちているため、場所が分からない。
これは禪院家に限らず、大抵の家でそうなのだろうが。試合のための施設は障害物が多い。呪霊が発生する場所は千差万別あれど、暴れるのは大抵町中だ。そのため、どんな環境であっても戦える必要がある。地形を無視、もしくは無効化できるのは、五条悟のように飛び抜けた異能を持っている者のみだ。
「さ、やろか」
直哉が構えるのと同時に、大地も半身になった。直哉が明確に格下だからといって、舐めるような真似はしない。過去、彼が挑んできて、ただの一度たりとも無策であった事などない。それが通用するかはさておき。
(敬意は払う)
それに、楽しくもあるのだ。相手が自分を出し抜く瞬間が。
次の瞬間――直哉の体が爆ぜる。大地を中心にして、高速で走り回っているのが呪力の気配で分かった。とてつもない速度、もしかしたら、投射呪法を完成させた直毘人を越えているかもしれない。
投射呪法は、一般的な(つまり六眼と術式の抱き合わせを除き)最速の術式だと言われている。それはただ直線的な動きに限らず、打撃の回転やら何やら全てを含めた話だ。一秒間に最大24発の
「なんや、棒立ちでええの?」
高速移動のため、声が全方位から聞こえる。突風まで吹き荒れているためなお聞きづらい。もしかしたら音速にまで到達しているかもしれない。
「お前にも何か考えがあるんだろう? 投射呪法の性質上、割り込んで邪魔するのはそう難しくないが……出鼻を挫いて勝ち誇るような腰抜けだと思われるのは心外だな」
「ええね。本当に強い奴はそうやってどっしり構えとらなあかん。せこい真似すんのは雑魚の証や」
何か琴線に触れたのか、直哉は満足げに言うと。殆ど直角に進行方向を変え、襲いかかってきた。
左の順突き。腕を横から押し出すようにしていなす。
投射呪法の弱点として、威力不足というのがある。はっきり言って、見た目の速度ほど破壊力がないのだ。無論、一般的な尺度で言えば十分すぎる威力。分厚い鉄板を打ち抜くくらいはあるのだが。
理由は色々あるが、最大のものは攻撃を当てに行ってるだけというのがあるだろう。
投射呪法は、
なにより注意すべき点は、殴る蹴ると同程度の気軽さで相手に強制発動できる事だ。つまり、打撃点とは別の場所に術式を待機させておく事もできる。最悪の場合、攻撃を受け流した場所に術式を置いておく可能性もあった。これは、幸吉がしょっちゅうそういう術式の運用をするから知っている。
一目見たときに分かった。直哉はすでに、それを現実的に可能なレベルまで呪力操作を高めている。呪術師の中でも殆ど見ることが出来ない流麗な呪力の流れ。
「ちょっとは騙されるかわいげがあってもええんとちゃう?」
「俺はあくまで後を取っているだけ。直哉を舐めた事も侮った事もない」
「そりゃあんがとさん」
会話中も、直哉はちまちまとした攻撃を続ける。一見積極性に欠けるかもしれないが、実のところ、これが正解だ。もし一か八かで連打などしようものなら、容赦なくカウンターを纏めて叩き込んでやるつもりだったし。
(一回り強くなったな)
戦い方から雑さが抜けた。それに加えて呪力の隠蔽も上手くなっている。
一昔前は、驕りから来る無茶な攻めをしがちな所も見受けられたが、それが無くなっている。堅実かつ実直なのに、術式を忍ばせるという奇襲も忘れない。特級呪術師・天童大地をもってしても、いい術師だと言える程の力になっていた。
しかし。
ミドルキックをひねって、無理矢理投げ飛ばす。行動が予定から外れてしまったため、直哉の動きが硬直した。高めに投げたので滞空中に停止が解け、叩き付けられるような事はなかったが。
「おいおい、あまりじらすなよ。まだ奥の手があるんだろ? さっきから使いたくてうずうずしてるように見えるぞ」
「ははっ、かなわんなあ。呪力探知を極めるとそこまで見えるようになるもんなん?」
「自信満々に言いやがって。わくわくさせてくれるじゃないか」
方向だけ変えて直哉と正対した大地に対し、しかし彼は動こうとしなかった。
今までの攻防で理解していない筈がない。いかに最速を誇る投射呪法であっても、大地の速度はそれ以上なのだと。ましてやこちらは一秒ごとに行動を予約するという制限が存在しない。殴り合いでは話にならなかった。
「先に言うとくわ。俺も手加減するつもりやけど――死なんといてや」
呪力を極限まで高めつつ、言いながら。
直哉は掌印を組んだ。
「話してくれるのはいいけどさ。結局、なんで無限を突破できるのか分からんのよ」
それなりに長い話を聞いた後、パンダはそんなことをぼやいた。
この頃になると、悟の眠気はすっかり覚めていた。ただ徹夜明けのハイになってるだけかもしれないが。やっぱり若い頃ほどの無茶は効かなくなっていた。学生の頃など、不眠不休の上に慣れない術式を常時展開していても疲れたで済んだものなのにな、とぼんやり思う。
指摘されれば、確かにただ懐かしんでいただけではあった。話を戻すために、記憶を整理する。
「そうだね、パンダは僕の術式を突破するにはどうすればいいと思う?」
「え? 急に言われても……。そうだなあ、例えば野薔薇や棘の術式なら無限だけは通過できるんじゃないか? 通用するかはさておき」
「間違ってはない。攻撃性の低いものは素通りする設定にしてるから、ただの声に乗せる呪言は通るし、触媒を通した攻撃もその時点で成立してるから入る。でも僕が言っているのはそういうことじゃなくて、呪術師として普遍的な方法でどうにかする方法はって話さ」
「いや無理でしょ」
即答するパンダに、悟は指を振った。
「それがあるんだよねえ。領域展延って言ってたけど、謂わば簡易領域の上位互換技術らしいのさ。五条家の記録を辿ってもかなり遡らなきゃ出てこない技術だから、マジに骨董品だよね。肌の上に空っぽの領域を作って、そこに術式を強制的に流させるの」
「そんなのあるんだ。でも俺、聞いたことないぞ」
「単純に使い手が少ないからね。技術としてすごく高度なんだ。これを利用されると、術式で発生させた防御を無力化できる。それだけじゃなくて、大抵の術式による防御も割合カットなんて破格の性能なんだよねえ。しかも簡易領域みたいに、結界同士の競り合いが発生しないときた」
「……あ」
パンダは何かを思い出したように呟く。悟はふっと鼻を鳴らした。
「もしかして交流会で、野薔薇の術式が効かなかったのって……」
「そ。あれは儀式の後に発生した術式効果を、展延が届く前に流しちゃった結果なんだ。だから、純粋な耐久力で耐えられたんじゃなく、そもそも術式が発動する前に発散させられちゃったワケ」
「なおさらわかんなくなったぞ。そんな技、絶対にもっと使い手がいるだろ。難易度の高さだけじゃ説明がつかない、一級の必須技能になっててもおかしくないじゃん。簡易領域みたいに、流布を縛りで制限してる訳でもないんだろ?」
「相応のデメリットがあるのさ。領域展延使用中は、術式の発動が出来ない。僕も試してみたけど、呪力を込めて残した術式の余波くらいは残せるけど、新しく発動させることはできなかったね。世の中そんなにおいしい話はないって所かな。と、思ってたんだけどねえ……」
「随分含ませるじゃないの」
「正直な所、僕もあれにはびっくりしたんだよ」
言いながら、両手を挙げてひらひらさせた。舌を出してうえっと呻く。思い出されるのは、今でも苦く痛いもの。
「二年か三年くらい前だったかな。大地があんまりにも鬱陶しくて、思わず領域展開使っちゃったんだよね」
「ちょ……なにやってんのよ」
「あはは、あの頃の僕はまだこらえ性がなかったなあ」
けたけたと笑ってごまかすが、反応としてはパンダのものが正しい。
領域展開は呪術師の奥義にして、真の意味での必殺技。およそ同輩に使っていいものではない。多分、誰に言っても怒られるような真似だろう。
言い訳をするならば、悟の領域展開は精神に作用する技。短時間であれば、ちょっとおかしくなる程度で済む。これで痛い目を見て、襲撃の頻度が下がってくれればいいな、という程度で使ったのだが。
「なんとね、領域展開が通じなかったんだ」
「……? 意味がわかんないぞ」
「僕だって意味不明さ。大地が言うには、領域展延で必中効果そのものを流したらしいんだけど」
「そんな効果まであるのか?」
「普通はない。はっきり言ってあれは、僕でも真似できないよ。領域展延を極めた大地にだけ許された、そうだなあ……領域展開と極ノ番に続く、第三の秘技とでも言うべきものさ」
領域展開は、仕組みだけを説明するならば簡単だ。結界という形で区切りを作り、その中に生得領域を満たす。満たすという行為が必中効果となり、生得領域の具現が環境変化として術者へのバフとなる訳だ。
この生得領域で満たされた空間は、そのまま術式となり。術式を先鋭化することで必殺効果となる。これが現代式の領域展開だ。
つまり、領域内は水槽と同じ。空白があれば容赦なく水が流れ込み、絶え間なく必中効果が押し寄せてくる。当然強度は、通常の術式とは比べものにならない。それすら受け流すほどの領域展延というのだから、もう本当に意味が分からないとしか言い様がなかった。
「そりゃもうびっくりしたよ。領域展開は通じない、結界内だから逃げ場もない、時間停止まで使って容赦なく襲いかかってくる。かといって解除したら、術式が焼き切れて負け確定だしね。なんとか領域展開中に術式ぶっ放して倒したけど、その頃には僕もボッコボコさ。初めてだよ、あんなに殴られたの」
「今めちゃくちゃ矛盾があったぞ。なんで領域展延使ってるのに術式まで使ってるの」
「そこもあいつのおかしな点だよ。どういう理屈なのか、あいつ領域展延を使っておきながら普通に術式も使ってくるんだ。呪力特性がうんたら言ってたけど、よくわかんない。案の定真似できなかったしね」
はは、と乾いた笑いを一つ置いて。
「大地はね、常に領域展延をしてる。それこそ呪力を纏うのと同じくらいの気軽さで。断言するよ、あいつは呪術師の歴史で唯一の、領域展延と通常の術式を並列して運用できるただ一人の存在だってね」
つまり、という言葉は、口の中で溶けた。パンダに届いたかどうかも分からない。
「大地に対して術式防御や領域展開を頼りに挑むって言うのはね、自殺行為に等しいんだ」
領域展開――
大地には使えない――正確に言えば一般的な形での具現が出来ないため、詳細までは知らない。ただ共通認識として、呪術師の最終到達地点と目されている。ざっくりとした感想だが、呪力を扱える者全般が使用できる結界術、術式を扱える者が例外なく持っている生得領域、そして術式そのものの操作能力。全てを極めた者のみが到達できるというのだから、効果の程はさておき難易度で言えば最高なのは間違いない。
この領域展開、実は一つの重大な欠点が存在する。
文献に曰く。まだ呪術という名もなく、ただの
時の流れと共に省略する者が現れ、やがてそれがスタンダードとなり、ようやく現在『呪術』と言われているものの形となる。
つまるところ呪術とは、生得領域に根ざす最低限必要な手順だけを残して発動する特殊能力の事を指すのだ。
定義に正しく沿うならば、領域展開を呪術と呼ぶのは正しくない。なにせ、掌印という余計な動作を、未だ省略できていないからだ。
「領域展開」
世界が塗りつぶされる。誰にとっても等しい世界から、正しく「禪院直哉にだけ都合がいい世界」へと。
足下はない。正確に言えば、透明な板のようなものがあるのだが。
領域展開は幾度か経験した事がある。初めて食らったのは悟のものだが、特級呪霊は割と気軽に領域展開を使用してくるのだ。まあ正直に言って、大地には条件付きの簡易領域と領域展開の見分けなどつかないのだから、正確には領域展開ではないのかもしれない。
一口に領域展開と言っても、種類は色々ある。まあこれも大抵は大地に判断できない。彼が重視している点として、環境効果の大小があった。
環境効果が大きい領域は、シンプルに術式性能の上げ幅が大きい。それは必中攻撃を『これから当てに行く』という事だ。こちらの領域は、ただの視覚効果ではなく物理的な効力を持つパターンが多い。
逆に環境効果が小さいタイプは、領域に取り込んだ時点ですでに命中している類いのものである。威力で殺すのではないから、術式性能の向上を狙う理由がないのだ、と大地は思っている。
「
「おお、すげえな。ついに領域使えるようになったのか」
「……は?」
まあどちらであれ関係ない。効かないし。
「なっ、なっ……なんで普通に動いとんの!?」
直哉は未だ掌印を組んだまま、愕然と顎を落としている。
この反応は悟で体験済みなので、今更驚くような事ではない。初めて必死になった悟の顔は、正直ちょっと面白かった。
領域展開への対抗手段は、そう多くない。最適解としては、自分の領域を発動して相手の領域を中和する事だろう。直哉もそれを期待していたのだろうが、まさか領域が全くもって通用しないとは夢にも思っていまい。そもそも大地が一般的な領域展開を使えないという事実を知る者が少ないのだから仕方なくはある。
「すっかり忘れてるみたいだが、俺は常に対五条悟を念頭に置いてるんだぞ。領域対策の一つや二つあるに決まってんだろ」
「せやってなんぼなんでもむちゃくちゃやろ! そんなん聞いたことあらへんわ!」
「言われてもなあ。できるからできるとしか」
ちなみに、領域展延を突破された時の代替案として簡易領域や落花の情も使える。幸いなのか残念なのか、今のところ利用する機会はなかったが。
「しかし、未だその場から動かないあたり、領域の維持に集中して動けないんだろ。領域そのものは完成してると言ってもいいが、さすがに練度不足だな」
「…………」
「気を急ぎすぎだ。実戦投入にはいささか早い」
「ほんま、洒落にならんわ」
直哉の言葉は、大地の鉄拳が後頭部に叩き付けられるのと同時だった。
領域があっけなく崩壊する。完璧を求めなければ、領域を維持しながら戦うことも出来たのだろうが。直哉はこれで結構な完璧主義だ。半端な――直哉に言わせればしょーもない――領域は許せなかったのだろう。
術式も焼き切れて、うつ伏せに倒れ込む直哉。土が顔にかかるのを嫌ったのか、すぐ寝返りを打った。ただし、起き上がっては来ない。目元だけを腕で隠し、そのまま転がっていた。
「あー。分かっとったけど、やっぱ敵わんなあ」
「ま、そうそう負けてはられんさ」
術式の相性だ性能だで、よく優劣を語られるが。はっきり言って、そんなもので決まる強弱など二流まで。最終的に勝者を決めるのは、結局の所、地力。どんな技を使えるかより、どれだけ練度を上げたかこそ重要なのだ。
故に、直哉の敗因は至って単純。ただの鍛錬不足。
「でも、負けた割には悔しそうに見えないな」
「悔しくない訳やないで?」
「悔しさがないって言ってるんじゃない。悔しさと嬉しさが半々くらいって感じる」
せやろな、と直哉は独り言のように呟いた。その意味は、大地には分からない。
「やっぱ本物っちゅうんは、これくらいしてくれへんとな」
言葉の意味や真意を見抜くことはできなかったが。言った直哉が満足げだったのだけは、妙に印象的だった。