だいたい殴れば解決する 作:三回転半ドリル土下座
物的な破壊から、それこそ戦闘行動まで含め、派手な行動は慎みながら移動する。
術師は、生み出した何かを警報代わりにすることが多い。正しく言えば、計らずとも警報として機能する場合が多い、だろうか。呪的繋がりが途切れれば、当然術者にも情報が伝達される。これは結界術でも変わらない原則だ。
敵の首魁だと思われる呪霊操術の使い手が、どの程度それを察知できるかは分からない。嘱託式の“帳”と、呪霊操術。この辺は呪力の供給が必要ないため、本体からは独立しているように見えるし、壊しても直接は伝わらない可能性がある。だが、相手の腕前を考えると、楽観できるほど高い数字ではなかった。
故に大地は、可能な限り浮遊している呪霊に見つからず、祓いもしないように動くという、全く柄では無い働きを強要されている。
できない訳ではないが、向いてもいない。否応にもストレスはたまっていった。
(かといって、派手に進むこともできない)
はっきり言って、大地は縫い目男と戦って負けるとは、欠片も思っていなかった。むしろ負ける方が遙かに難しいとすら思っている。
それでも警戒せざるを得ないのは、相手の技量が高く、また手札が多いからだった。
少なくとも結界術という一点において、大地は縫い目男に大きく劣っている(大地がさほど得意ではないというのもあるが)。さらに、悟をも出し抜いた策略。六眼ですら見抜けない高度な結界で近くに潜んでいたのは間違いない。大地も呪力感知には自信があるものの、六眼に比肩されるものではなかった。悟が見抜けないという事は、大地だって絶対に見抜けない。
それに、縫い目男は逃げるのもやたらと上手かった。殺す気で近づいたのに逃がしたのは初めての経験であり、実のところ、それなりに驚嘆もある。という事は、さらに逃走手段の二つや三つは考慮しておかなければいけないと言うことだ。
取れる手段はただ一つだけ、相手に気付かれる前に必殺の間合いに入り、殺す。さすがにもう一度下手は踏めない。
地下四階まで降りて非術師封印の帳を抜け、地下五階に降りる。階段を降りて視界が通った瞬間に術式を発動、制止した時の中で周囲を確認した。
まだそれなりに残っている一般人と、戦闘跡。縫い目男は勿論、最優先で確保したかった獄門疆も、当然見当たらない。
「チッ」
舌打ちしながら、術式を解除する。
敵が誰も居ないという事は、獄門疆を動かせるようになったのだろう。その時点でこちらの計画が破綻するのは分かっていた。
大地の戦術は、あくまで「まだ獄門疆の移動が不可能」という前提に成り立っていた。獄門疆がそこにあって、敵がまだいるならば、全員殺せばいい。いなくとも最低限、悟の解放はできる。そんな算段だった。
残穢を辿るというのは不可能だ。元々、縫い目男は呪具を使用したものの、この中で目立った呪術は行使していない。ましてやここは、悟が領域展開まで使って大暴れしたのだ。大抵の痕跡は、彼の匂いに押し流されている。これを詳らかにして辿るなら、それこそ六眼でも必要だ。
(こうなると、どこに潜まれたかも予想できないな。上が思いのほか苦戦してるみたいだし、もしかしたらそっちを先に始末つけるべきか……)
縫い目男の取り巻き――と言っていいのかは分からないが、呪霊呪詛師の四人。いずれも引きはなしを優先したとはいえ、一撃で死ななかった連中だ。
現在三カ所で交戦しており、どれが誰だかは分からないが、いずれも劣勢。当てもなく縫い目男を捜すより、そちらを今すぐ始末しに行って、後は人海戦術をとった方が早いかもしれない。もっとも、この思考すら縫い目男の手の内だろう、という別種の問題があるのだが。
答えを出す前に、
「おい、あんた! あんたなんだろ!」
「あん?」
声をかけられ、いきなりしがみつかれた。
「本当に何……」
「早くここから出してくれ!」
「もうイヤぁ!」
「助けろよ! 何でもいいから!」
「ううう、父さん、母さぁん……!」
周囲から次々に声をかけられ、集まられて、大地は顔を引きつらせた。
この場に居る人間のほぼ全員が、発狂一歩手前の状態だ。選択を失敗すれば即座に暴動が起こる、と簡単に分かる程、強いストレスが与えられている。
(やられた――!)
罠にはまるのはこれからではなく、ここに来た時点ですでに罠の中だと知る。
大地は悟ほど甘くない。一般人が盾にされれば、容赦なくそいつごと殺す程度には思い切りがある。もし悟と同じ状況に立たされていたら、即座に必要な犠牲と割り切って、一般人もろとも呪霊を皆殺しにしていただろう。
ただし、多くの呪術師がそうであるように、必要以上に非道な訳でもない。この状況で見殺しにするというのは、明らかな「やりすぎ」だ。
今までを顧みて、縫い目男が大地の気質を知っていたとは思わない。彼にとっては出来たら儲けもの、程度だっただろう。五条悟に対する人質を、今度は天童大地に向けるなど、さしたる労力ではあるまい。
帳を一時的に機能不全にするのは難しくないが、それはあくまで帳に触れられる場合のみ。術者が接触できない帳となれば、直接触れられる結界よりも、遙かに時間と手間がかかる。かといってこれから帳の起点を探そうにも、姿を消せば少なくない犠牲が出るだろう。そもそも起点がどこにあるか、どんな物かも分からないのだから、見つかる補償もない。
「いちいち的確に致命的な一手を打って来やがる……」
大地は張り付いてくる人間をあしらいながら、うんざりとしつつ嘆息した。全てが計算ずくでないならば、それこそ運すら神がかっている。なにより一番嫌らしいのは、どこからどこまでが計算か、全く分からない事だ。
「くっそめんどくせえええぇぇぇ」
ひたすら嫌そうなうなり声を上げて。とりあえず大地は、ひときわ邪魔なまとわりついてくる奴を、怪我しない程度にしばく事から始めた。
「おい若造! どうにかならんのか!?」
「無茶っ……言わないでください!」
「あちちっ。ううむ、どうしたものか。まるで近づけん」
建人、葵、直毘人は、未だに火山頭――漏瑚と戦っていた。ただ相手の周囲をつかず離れず回りながら牽制しているだけの行為を、そう表現していいのなら。と、自虐的に建人は思う。
戦況は最悪では無い。ただし、最悪の一歩手前くらいではあった。
漏瑚という特級呪霊との戦い。最初の内はそれなりに優勢だったが、実のところ、そんな状況は長く続かなかった。
三人が三人とも一級の中でも上位に位置するし、実際、全員が特級呪霊討伐の経験を持つ。にも関わらずこうも押し込まれているのは、単純に漏瑚が特級呪霊の中でも図抜けて強いが故だ。
並の特級呪霊十体分はあるだろう呪力出力。少なくとも人間程度は長く生きたであろう、細やかな呪力制御と呪術の扱い。なぜこれほどの奴が最近まで未確認だったのかと、頭を抱えたくなった。
はっきり言って、これを相手に一級三人
(これで領域展開を使ってこない事に感謝しないといけないとは)
半ばまで焼かれた呪具。柄から伝わってくる熱に耐え、廃熱もかねて翻す。もう何度か打ち込めば折れるか焼け落ちるだろうと感じて、建人は嘆息した。
このレベルの力を持っていて、領域展開を使えないとは思わない。使えない事を前提に動くのは、間違いなく楽観だ。大地を警戒してというのも無くは無いだろうが、可能性としては薄い。一時期は危ない所まで追い詰められており、建人ならそのタイミングで発動している。
シンプルに、もう領域展開をするだけの余力が残っていないのだ。呪術の最奥と言われるだけあって、膨大な呪力と集中力を要求される技。最低でも、使用をためらうほどのダメージが残っているのだ。
呪霊は呪力さえあれば肉体の復元を可能としている。が、さすがに即座とはいかなかった。また、消費呪力もかなり大きい。
それに、これはあまり知られていない事実だが――実のところ、呪力の回復速度は、呪霊より人間の方が遙かに速いのだ。漏瑚はダメージ回復のために、呪力を『無駄遣い』してしまった。これ以上の浪費は、勝っても命に関わる。そんなところだろうか。
漏瑚は、こちらが手練れ揃い、かつ近接戦闘型のみと知るや否や、一枚の札を切ってきた。
熱の発散と滞留。一言で術式を表すならばそんなところか。恐らく、術式と呪力特性の複合だろうと建人は踏んでいたが、事実の究明などどうでもいい。目下重要なのは、これの攻略法であり、同時に全く目処が立たない事だ。
攻防一体の鎧。語るに陳腐なものではあるが、それを実現できるならばこれほど恐ろしいものはない。熱が発せられているのは、漏瑚の体表からおよそ50センチほど。決して広くは無いが、接近戦ならば十分なアドバンテージだ。
その輻射熱たるや、呪具は愚か、呪術師すらもたやすく焼いている。一級呪術師、それも
体そのものが発光しているのか、それとも周囲の熱がそう見せているだけか。漏瑚の体は赤白く輝いている。
この形態はどれほど維持できるのか、と計りそうになってやめた。どう考えてもこちらが力尽きるより遅い。
「若造、あとどれくらい持つ?」
「三発が限度ではないかと」
正直、それすら大分甘めに見積もった数字だ。
「正直、私よりあなたの心配をした方がいいと思うのですが」
「小僧に心配されるほど落ちぶれちゃおらん」
体を仰け反らせる。今まで頭があった場所を、漏瑚の拳が駆け抜けた。体をひねった勢いで、距離も空ける。攻撃は掠めてすらいないのに、肌が焼かれていた。当然、直接触れれば悲惨なことになる。
三人の中で一番ダメージを負っているのは直毘人であり、顕著なのは手だ。彼の両掌は半ば炭化しており、手を握るのすら難しいだろう。もしかしたら折れて千切れるかも。
全員が少なからず火傷を負っているとはいえ、さすがに彼は重傷だ。かといって、無茶をするなとも言えない。素の速力が直毘人に匹敵する漏瑚に攻撃を当てるならば、彼の術式による支援は必須だった。
(通常の術式を併用してこないのが、唯一の救いか……)
露骨なまでの対至近戦闘、それゆえに遠距離術式を使えないという欠点。多分、現在使用している術式は、使い慣れたものではない。
事前のダメージとこのギャップだけが命を繋いでいる。
もしかしなくとも、真人などよりよっぽど格上の呪霊だった。
(ここまでお膳立てされておきながら、申し訳ないが)
そろそろ大地の救援がなければ死ぬ。それも一人二人ではなく、全員が無駄死にするという形で。
切り札を使うべきか。判断に迷いながら、視線を彷徨わせる。
縛りによる呪力の制限と、時間、および『残業』をトリガーにした解放。加えて、『残業』中は呪具の使用を制限することで、擬似的に『黒閃』使用後に限りなく近い状態へ移行する。
ただし、『残業』に入った場合、相手の術式を考えると残弾は二発。片足を含めても三発だ。そのうち最低でも二つは黒閃を決めなければ祓えまい。
果たして勝算が高いのはどちらか。
勘定するのは難しい。そもそも、どちらであってもゼロに限りなく近いのだ。これに関しては、敵を舐めていたとしか言いようがなかった。
(死ぬならいっそ……)
全力を叩き込んでやる。
決めて、ネクタイを緩めようとした時に、声は聞こえてきた。
「あっつ! 何ここ南国か何か!?」
「いるだけで汗が噴き出てくるな」
「ちょっとした地獄だぞ」
言葉の主は、誰もが幼さを残していた。そのうち一つには聞き覚えがある。幼少期から呪術師として働き、何度か任務を共にしたことだってあった。現代最良の式神術式を有する男――
「飛べ!」
建人は咄嗟に叫ぶ。仲間が反応しない、などとは微塵も思わない。ワンテンポ外された漏瑚が、少しだけ惑った。
声を届ける相手は、共に戦っている二人だけに対してではない。こちらの様子に気付いた与班、その中でも恵に対して手を掲げた。
遙か昔、まだ恵の“おもり”が必要だった頃に決めたハンドサイン。覚えているかどうかは賭けだったが。恵は完璧な形で応えて見せた。
巨象の式神が現れる。パワーはあるものの、動きは鈍重。加えて、爪のような攻撃的長所など無い式神であるが。これには他の式神に存在しない特徴がある。大質量攻撃だ。
鼻から十数トン分もの水鉄砲が放たれる。昔はその場に水をまき散らすのがせいぜいだったのが、レーザービームのような形状で漏瑚へと飛んだ。
ただし。直撃したとは言え、相手は今や太陽の化身。全て触れる前に蒸発している。もっとも、フロアを沈めるほどの水量があった所で、鎮火できるかは怪しいところではあったが。
「あっっっっつ!!」
水蒸気が周囲に熱を運び、一気に不快感がある熱が広がっていく。体感で20度か30度くらい、室温が上がったのではないだろうか。
瀑布となって広がる熱は、呪力の防御がなければ死んでいた。
「ちょっと、何よあれ!」
真依が感情にまかせて怒声を浴びせてきた。完全に八つ当たりだ。
「見たとおり、呪霊ですよ。ただし、特級の中でも上澄みの」
「げぇ」
聞いておきながら、聞くんじゃなかったとでも言いたげに、彼女は舌を出した。気持ちは分からないでもないが、そういうのは後にして欲しい。
「七海さん、分かってる情報は?」
「特徴から、五条先輩が取り逃がした呪霊ではないかと。術式は火と土の複合ですね。そこら辺にあるものを何でも噴射口にして火を浴びせてくる事もあるので、気をつけてください」
「それ、気をつけたからってどうにかなるもんじゃなくないか……?」
恵の問いに合わせるようにして、ため息をつきながら、幸吉が呻く。視線は若干、建人らへ向けられていた。火傷と言うにはあまりにも痛々しい姿を見れば、思うところ一つや二つあって当然だ。
水蒸気によって歪んだ景色を手で払いながら、漏瑚がゆっくりと近づいてくる。
「ふん。所詮は雑兵三匹。増えたところで何があるというのだ」
反論をするには、中々耳に痛い言葉だ。
増援は与以外、呪力、経験共に大分劣る。順当に計算するならば、この程度の戦力増強は誤差の範疇でしかない。だが。
(中長距離主体の与班が来てくれたのは、とてつもなくありがたい)
つまり、これからの戦いは支援を期待できる。
漏瑚が可能性を考慮していない事もあり得ないだろう。ただし、全員が可能だとまでは絶対に思っていない。
(ふー……)
呼吸を落ち着かせて、呪力を充実させる。反転術式が使えないなら、こうして肉体の活性で誤魔化すしかない。
「さて。形勢逆転とまでは行きませんが……少しばかり楽になった」
「愚か者が。甘い希望に縋ったまま焼かれるがいい」
言葉と同時に膨れる呪力。この上でさらに出力が上がるのか、と建人は汗を増やした。
或いは――想像するのも恐ろしいが――この瞬間も成長しているのか。
ないとは言い切れない。非常に珍しいが、人語を解す呪霊がごく希に見せる現象だ。
呪霊の力とは、生まれる場所と環境に大きく作用する。人間が多ければより呪力を蓄えて生まれてくるし、こちらのロジックは未だ解明されていないが――影響を与える人間の数が多ければ多いほど、知性を獲得する割合が高い。同じ等級でも都会の呪霊はより厄介と言われるのは、そういった事情だからだ。
無論、都会の呪霊だから無条件に強いという訳ではないし、田舎なら弱いわけでもない。呪力はどうしてか情報(記憶ではなく記録)を伝達する。故に、土地神信仰や自然災害の恐怖が残る場所では、呪霊が強大化する傾向があった。つまり、準一級以上の、生得術式を持っている呪霊の誕生である。まあそれでも術式が想像しやすいため、都心で生まれられるよりはいくらかましではあった。
ともあれ、この漏瑚という呪霊は、恵まれた呪力と術式を持って生まれ、それなりに長く生きた。しかし、それだけでは得られなかったものがある。
経験。それも、本物の強敵と。
悟と戦ったのは参考にならない。強すぎて勝負にならなかったのだから。
ダメージを負って呪力を大幅に削られ、歴戦の一級術師三人と戦ってなりふり構わぬ手に出ざるを得なかった。彼は今、人生で初めて
今の力はただの小手先であってくれ、と建人は密かに願う。
「もう! なんで特級なんかと戦わなくちゃいけないのよ!」
「ごちゃごちゃ言わんと手を動かせクソガキ。お前ももう三級ではないだろうが」
「あら、おじさま。面白おかしい格好になられていますね。イメチェンですか? 盛大に滑っていますけどぉ」
「相変わらず口の減らん奴」
「クソ下らないやりとりは後にしてくれ!」
やたらとに刺々しい会話を、恵が中断する。文句をいいつつも、今は一級。準備はすでに終えていた。
制服の上着を翻して、背中に腕を突っ込む。取り出したのは、奇妙な形をした鉄の塊。それを僅か一秒ほどで展開し、構えたのは。どう見てもアサルトライフルだった。
これには漏瑚だけではなく、味方側もぎょっとする。いくら厳戒態勢下にあるとはいえ、まさか日本の街中でアサルトライフルが飛び出るとは、誰も予想していなかった。
彼女が引き金を引き絞ると、炸裂音と共に弾丸が射出される。アサルトライフルの連射速度は、秒に十発と少し。単に速度という意味では、直毘人の秒間二十四連打に劣るものの。最大の長所である、安全圏から一方的に、というのを生かしていた。さすがにこの速度で繰り出されれば、溶かしきるのも難しい。
「ぐ……!」
しかも、弾丸は固体に接触すると、扇状に破裂した。見ただけで分かる呪力の奔流は、ただ呪力を込めた弾丸というだけではない。そんなことが可能かはさておき――弾丸の内側に、半物質化した呪力を納め、炸裂させていた。
三秒弱で全てを撃ち尽くし、即座にマガジンを取り替えながら、呟く。
「あれ食らってほぼ無傷とか、ほんとやんなっちゃうわ」
などと言っているが、言葉ほど効いていない訳ではない。現に、漏瑚は真依への警戒を強めている。
「なんでいきなりそんなもん取り出すんですか」
「仕方ないじゃない。街中をアサルトライフル持ち歩いてふらふらできないんだし」
「いや、前はリボルバー使ってたでしょ」
「口経が違うのよ。最低でもこれくらいのサイズじゃないと
「まあ……そうすか」
「ちゃんとモデルガンに見えなくもないよう偽装してるから大丈夫よ」
大丈夫な訳ないが、それこそ建人が指摘するような事でもない。彼女とて禪院なのだ、駄目なら当主が直々に説教なりするだろうと目をそらした。
アサルトライフルの照準で脅し、時間を稼いでいる内、幸吉と恵の準備も整う。下手に手出しはしない。軽くでも連携を知っておかなければ、かえって邪魔になる。
腰だめに構えたアサルトライフルは右手だけで保持し、その間に左手で大型のハンドガン――こちらは有名だから知っている。デザートイーグルだ――をおもむろに放つ。弾丸は漏瑚からやや逸れて、彼の足下に着弾した。
「下手糞め、出来ぬ事をするからだ!」
接近戦型三人が、与班を守るように展開している。前傾姿勢の漏瑚を見るに、それすら突進力でなんとかしようとしているのだろう。
この時、少なくとも建人は、普通に外していると思った。それが間違いだとしったのは、漏瑚の足下に小さな領域が広がったからだ。
「自分がへぼの無能だからって、私まで一緒にしないでもらえるかしら?」
小馬鹿にするような笑み。広がりきった簡易領域が、漏瑚の術式と干渉し合い不安定にする。外したと思わせたのはただのブラフ。
「こっちは術式弾って言うの。開示の恩恵はないから、名前以外は教えてあげない。自分で味わいなさい」
簡易領域の影響は、発信源、つまり弾丸に近いほど強い。ならばと、無視して前に進もうとするが。幸吉の放った昆虫型傀儡が正面から迫った。
小さな舌打ち。すでに真依という布石がある以上、見た目通りの攻撃と信じることができない。漏瑚は背後に跳ねて――即座に一回転をした。
いつの間にか迫っていた玉犬・渾。その爪が、足を両断せんと振るわれるのに気付いたのだ。タイミング、威力共に申し分なく、右足を吹き飛ばす筈だった攻撃を、ふくらはぎを削ぐ程度に止める。
激憤しそうになる(無表情を装っても、頭が噴火するのですぐに分かる)のを堪えながら、すぐ構え直した。
「すみません、足を貰うつもりだったんですが」
「あれを躱されたら仕方ない。技術はともかく、反応、速度共に東堂以上か」
冷静で、冷徹で、爆発力はないが仕事に忠実。これが与班。
(なるほど、とてもいいチームだ)
ここまで分かれば、動きは自ずと決まってくる。
「儂らも行くぞ。休憩は終わりだ小僧共」
「ええ、分かっています」
「真依め。つまらん女だったが一皮むけたな」
落ち着いた事で呪力を整え直せ、体もいくらか回復した。葵など、指を弾いて不敵に笑ってすらいる。
高位の呪霊ほど再生が速い。肉ごと削いだ点を考慮しても、数十秒といったところか。勝勢とまでは言えないものの、明確な追い風。
「簡易領域の残弾は?」
「5」
「十分です」
残業開始。
命を犠牲にして無駄死にならば御免被るが、腕二本を代償に勝利ならば、悩む理由はない。
なおも状況は動く。
漏瑚が溶かしかけた天井の一部が蹴破られ、人が飛び込んでくる。真依によく似た姿、ただしこちらは若干鋭い印象がある。すでに激戦を超えた後なのだろう、全身に傷を負っていた。そんな状態でありながら、闘志も呪力も、全く萎えていない。
「あぁ? こりゃ当たりなのか外れなのか……」
「何よ真希。随分パンクな姿になったじゃない。呪術師よりミュージシャンでもやったら?」
「相変わらずうるせえ奴だな。こちとら特級呪霊と戦ってきたんだよ。いや、逃がしといてでかい口叩ける身分じゃねえけど」
さらに別方向から、階段を駆け下りてくる、というか飛び降りる音。近づいてきて、瓦礫の角から姿を現す。
「伏黒!」
虎杖悠仁。こちらも、死闘の後を感じさせる出で立ちだ。
「小僧、呪詛師とツギハギはどうした」
「呪詛師の方はわかんねえ! やられたと思ったのになぜか無事だった! あとゴメン! 真人は逃がした!」
「バカモン!」
「ほんとゴメンって! 止め刺そうとしたら呪霊に連れ去られたんです! んで、追いかけてたらここに来て……」
気になる点は多々あるが、ともかく、瀕死の真人も渋谷駅に逃げ込んだらしい。
この戦いで半分が脱落したとして、本来の想定よりは戦力が残っている。
決着の時は近い。建人は強く、そう感じていた。
真依の装備
デザートイーグル.50AE
SUB-2000)
術式弾
不義遊戯弾
使える。自分と対象の位置を入れ替える
支配握術弾
使えない。そもそも効果が発揮されない。縛りで原型の術式がぐちゃぐちゃになってる為だと思われる
傀儡操術弾
使えない。傀儡操術は呪力浸透後の操作が重要だからだと思われる
簡易領域弾
使える。対術式の強制浸食や、短時間ではあるが領域展開対策としても有効
付喪操術弾
使えない。愛用品でもないため当てても意味がない
赤血操術弾
使える。相手の血液で内側から破裂させる
こんなかんじ