だいたい殴れば解決する   作:三回転半ドリル土下座

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交流会団体戦1 虎杖悠仁

 天童大地は高所から、戦場を眺めていた。所詮お遊びとはいえ、悪くない空気を堪能する。戦いは好きだ。最強とは、追求していてとても楽しい。

 高い位置に陣取っているのは、ただの趣味ではなかった。東京校の位置を確認するためでもある。

 大地の呪力感知範囲は広く、この程度の距離ならば把握できる。が、直接目で見るのとでは、やはり違った。分かるのは呪術師の位置と、外に漏れ出ている呪力のみ。個別に判定まではできない。

 

「あれが宿儺……歴代最強の呪術師の器か。あの時分かっていれば、突っかかってみたんだがな。いや、どのみち仕事があったか」

 

 視線が捉えるのは、虎杖悠仁。宿儺の器。軽く見積もって五条悟と同等、もしかしたらそれ以上かもしれない。ひたすらに心が躍る相手だ。

 宿儺の器を殺せ――とは楽巌寺学長の言葉だ。

 彼に対して、大地が思うところは特にない。特級呪物を吸収する特異体質というのは、つまり周囲に対して“呪い”をまき散らすのと同義。保守派か改革派かなど関係なく、始末したい相手ではあるだろう。これに関してだけは、五条悟が甘すぎると断言できる。大地としては、どうせなら始末したい特級呪物を全部飲み込ませてから殺せばいいものを、と思うが。

 まあ、これはどうでもいい。大地が宿儺にしか興味がなく、幸吉もやる気なし、葵が反発している時点で、暗殺計画は破綻している。

 

「そういや、先生と悟もなんかごちゃごちゃやってたっけか」

 

 虎杖悠仁暗殺指令を聞いて(もとい聞き流し)東堂と高田ちゃん散歩番組を見ようとしたところ、悟に呼ばれた。

 タイマンしてくれるのかとウキウキしていたら、部屋には歌姫先生がいて、またぞろクッソしょうもない話だと知ってしょんぼりした。なんでも呪霊と呪詛師が手を組んで組織化し、呪術師から情報を抜いているのだとか。

 下手人はツギハギ呪霊なのだろう、というのが悟の予想だ。肉体のみならず脳まで改造できるならば、そこらの呪術師程度、いくらでも『素直』にできるだろうと。ただ、裏切り者の可能性も否定できないため、そちらを気にしておいてくれ、とは言われた。

 

「あっちもこっちも陰謀に策略にと、面倒なこった」

 

 大地の頭は悪くない。そういった事に対しても理解している。その上で、さして気にしていなかった。

 実のところ、呪術師およびその支援者が行方不明になるのはそう珍しくない。鉄火場で生きているのだから当然だ。相手から情報を抜き取る術式を持っていて、尚且つ残穢を残さない、もしくは見つけられない場所で始末できたとすれば。もうどうしようもなかった。

 所詮は呪いを祓う側と作る側、最終的には力でねじ伏せるしかない。大地はそう思うのだが。下手に政争など行うと、人間、こうなってしまうのかもしれない。面倒な事だ。

 スピーカー越しに、悟と歌姫の馬鹿っぽいやりとりが始まったところで、体をほぐし始めた。

 まず、虎杖悠仁に接触する。チンタラしていれば、東堂に全部持って行かれてしまうのだから。

 

『スタート!』

 

 合図と同時に、大地は跳ねた。一秒とかからずに、東京校が一塊になっている場所へと降り立つ。

 唖然として動けない様子の連中に対し、しかし大地は何ら頓着せずに、まっすぐ悠仁を指さす。

 

「虎杖悠仁。宿儺を出せ」

「は?」

 

 ぼけっとした返事をしながらも、体はいち早く臨戦態勢を取っていた。反応、判断力、重心の作り、どれも悪くない。これであといくらか経験を積めば、悪くない術師になるだろうと判断した。

 

「どうしたら出てくる? 半殺しにすれば勝手に出てくるのか? それとも勝手に出てくるのか」

 

 想定しているのは、呪霊に憑かれた場合だ。こういった場合は、得てして呪霊側が意図した時、勝手に出現する。存在圧の比重が呪霊側に傾いているため、あくまで主導権が相手側に持って行かれるのだ。

 

「いや、出す気ねえよ。俺が出そうと思わなきゃ出てこないし」

「…………? 勝手に出てくる事は?」

「一度変わった後意識を失うと、引っ込められなくなる時はあったけど……勝手に出てきたことは今のところないな」

 

 大地は半眼になって口を開けた。馬鹿馬鹿しい、と頭を掻く。

 

「こんなもん、宿儺の()じゃなくて宿儺の()じゃねえか。しょーもな」

「それなんか違うの?」

「宿儺と共存しているわけでも主導権を握られている訳でもなく、封じてるって話だ。あほくさ。今まで中立な立場を取ってたが、悟側に傾いた。お前には始末に困る特級呪物を詰め込めるだけ詰め込んで、寿命の直前に殺すのが一番いい」

「あんま俺を殺す算段とかしないで欲しいんだけど」

「もっとも……」

 

 すっかりやる気をなくし、呪力も引っ込め。道を空けるように脇へとどきながら、話を続けた。

 

「本格的な決定は、お前がどの程度()れるかだがな」

 

 背後から迫っていた馬鹿でかい呪力が、破砕音と重なる。直線上に存在する障害物を、すべてなぎ倒しながら来たのだ。

 東堂葵。特級という術師として一般的な尺度から外れた者を覗けば、在学生の中で最強の男。

 

「見つけたァ! 全員いるな!」

 

 瞬間――

 悠仁の飛び膝蹴りが、東堂の顔面を捉えていた。生々しい音と共に、葵の体が後退する。

 

(ほぅ!)

 

 芯をまっすぐ捉えたいい一撃。多少ながら武術経験はあるのだろう、技もしっかりしている。唯一、呪力だけは打撃に間に合っていないようだが、ただ遅れているだけで集中はしっかりできているあたり、センスを感じさせた。

 今はまだ大した戦力ではない。どれだけ背伸びをしたところで、準二級がせいぜいといった所か。が、逆に言えば、センスだけで戦って準二級なのだ。これでしっかりと体術を修め、呪力操作にも習熟すれば。あっという間に一級になるだろう。

 

(悪くない)

 

 俄然、悠仁を生かしたくなってきた。

 悠仁の一撃を皮切りに、東京校生徒は二つに分かれて散った。恐らくは、最初に大地が飛び込んできたのは想定外であり、同時に積みの盤面だったのだろう。本命は、真っ先に飛び込んでくるであろう葵を悠仁が単独で抑え、その間に呪霊を狩る。最初に相談していたとしても、悪くない動きだ。

 大地としても、この状況はありがたい。虎杖悠仁の観察に集中できる。

 悠仁は先手を取ったものの、追撃をせず、葵に体勢を整える隙を与えてしまう。ここは減点だな、と静かに評価した。纏っている呪力量から見て、彼の天与呪縛じみた膂力は天性のものなのだろう。チンピラとの喧嘩程度では、最初の一撃で終わる。まだその頃の癖が抜けていない、といったあたりか。

 

「中々悪くない。これだけいいのをもらったのは大地(ブラザー)以来だ。次は俺の番だ、一年。全力で守れ」

 

 言いながら、葵は拳を握った。ご丁寧に思い切り振りかぶって、タイミングまで教えている。初対面の相手によくやるやり方だ。

 防御は可能だが回避は無理。そんな絶妙な打撃が、悠仁に襲いかかる。打撃に完璧な呪力を乗せた右の拳が、悠仁の体を木数本巻き込んで吹き飛ばす。体が痺れて動けない彼に、間髪置かず頭部へ連続ストンピングを見舞った。

 今度は、木は抉れこそするものの、折れはしない。お手本のような半殺し。派手に吹き出た赤黒い血が、木と悠仁の体を染めていた。

 それこそ見た目は、凄惨な殺戮現場だが。

 

(浅いな)

 

 大地でなければ悟くらいしか見抜けないであろう、呪力の揺らぎ。あれだけの暴力にさらされてなお、悠仁は意識をしっかりと保っているのが分かった。

 一方的に殴られながら平気で立ち上がるメンタルといい、鍛えられて太い体躯といい、実に葵好みの男だ。かくいう大地も嫌いではない。一番許せないのは、見た目通りひょろい奴だ。自分の()()を自覚しているなら、体くらい鍛えなくてどうする。

 

「ってえぇぇ~。クッソ、頭ばっか好き放題殴りやがって。元々頭悪ぃのに、これ以上馬鹿になったらどうしてくれんだよ」

「高田ちゃんだって「頭より腕っ節」と言っていたんだ、それくらいの方がモテるさ」

「高田ちゃんってアイドルのだよな? なんでいきなりアイドルが出てくるんだよ」

「ほほう、一発で正解を当てるとは、お前は“分かってる”側の人間だな」

 

 ふふ、と誇らしげに笑う葵に、胡乱げな視線を向ける悠仁。彼の知るよしもないだろうが、東堂葵は虎杖悠仁という人間を、一定のラインで認めたのだ。

 ならば次に行われるのは儀式。

 

「虎杖悠仁。お前、どんな女が好み(タイプ)だ?」

「…………?」

 

 悠仁はきょとんとしながら。

 

「何の話よ?」

「小難しい事を考えるな。心の赴くままに答えればいい」

「ひたすら意味わかんねえんだけど……まあ、そうだな。(ケツ)身長(タッパ)のでかい女の子。ジェニファ・ローレンスみたいな」

 

 ――ドンピシャ。

 思わず指を鳴らす大地に、天を仰いで涙から鼻水から垂れ流す葵。その様子に、悠仁はせわしなく視線を行ったり来たりさせていた。やがて答えが出ないと分かると、何故だかしょんぼりしながら葵に向き返る。

 葵の脳裏に一体何が走っているのか、大地にも把握しきれない。ただ、激しく燃えさかっている事だけは理解できた。

 今までありそうでなかった、完全なる好みの一致。それは女に対してだけではなく、戦闘に対するスタンスまでもだ。どこまでも実直に、ストロングスタイルで、同じ道を隣で走る。

 今、葵のシナプスは、それこそ本人すら把握しきれない情報が交錯している事だろう。分裂していたパーツが一つに纏まっていき、やがて一つの形となる。それはひたすらに明確で、とてつもなく鋭く、しかし間違いなく一つの真理。

 

「地元じゃ負け知らず、か」

「?」

「俺達は……“親友”だったのだな」

「いきなり何言ってんの!?」

 

 間違いなく本人にも分かっていないだろうから、問いかける事に意味はない。

 真実とはそういうものだ。本人さえ承知していればいいし、結果さえ着いてくればいい。残ったすべては、ただただ些末。下らないだけの事実を詳らかにしたところで、一体何になると言うのだろう。いつだって、真実こそが事実を凌駕する。

 

「天童! 天童さーん!」

「ふ……これが絆というやつか」

「あ、こっちも駄目だわ」

 

 感じ入っていると、なぜかそんな反応をされたが。まあどうでもいい。

 もう少し感動していてやりたいが。

 邪魔がやってきた。

 空からやってくる呪力は、西宮桃のものだろう。他の面子でも飛べない訳ではないが、効率的でもない。機敏な動きは三つで、加茂憲紀、禪院真依、三輪霞あたりか。一人だけ、のそのそと動きが鈍いのは与幸吉。

 

(相変わらずつまらん連中だ)

 

 ため息すら出そうな心地で。

 それぞれ理由は違えど、上の言葉に唯々諾々と従っている。考えが足りないのではない。事情を察した上でなお思考を放棄し、頭ごなしに扱われるのを良しとしている。見たこと、感じたものを信じればいいのに、なぜかそうしない連中だ。

 どうしようもない雑魚どもだが、阿呆でも無能でもない。やると決めてからは展開が早かった。

 とりあえず、一撃ずつくらいは好きにさせてやる。この程度でやられるようなら、虎杖悠仁はその程度の男だったというだけだ。が、無用な心配ではあった。彼は期待に応え、さばききって見せたのだから。

 もっとも、彼の成果ばかりではない。連携ミスも目立ってはいた。戦犯は真依と霞。

 真依は今回の調整により、三級呪術師程度でしかなかったのが、一気に準一級ほどまで能力が上がった。何の訓練もなしにだ。上手く扱えば一級呪術師ほどに働けるだろうに、臆病風に吹かれたのか、今までと同じミドルレンジからの半端な銃撃を中心とした組み立てにした。これが失点。せっかく力を得て安全に試せる機会なのだから、安定ではなく挑戦を取ればいいものを。

 霞はもっと酷い。上の覚えを良くして出世したいなー、でも殺したくないなー、でもでも殺せって命令だしなー、でもでもでもなー。そんな考えがあからさまだった。踏み込みは雑、居合いは温い。あんなのをもらうのは能なしカス呪霊だけだろう。

 悠仁が憲紀の矢を払ったのと、やる気のない幸吉が到着したのは同時であり。とりあえずその気がある連中には一通り好きにさせてやったのだから、これ以上様子見をする理由もない。

 とりあえず一番遠い桃を引きずり下ろした後、全員を一カ所に放り投げて纏めた。

 

「ぐっ」

「グエッ」

 

 葵が術式を発動する直前だったので、こちらは任せろと手振りだけで伝える。

 

「阿呆共が、漢が強くなる瞬間を邪魔する馬鹿がどこにいる」

「虎杖悠仁に抹殺命令が下っている」

 

 憲紀が反論し、今度ははっきりため息が漏れた。葵ではないが、退屈と言いたくなるのも頷ける。

 

「少しくらい自分で確かめてから判断しろ」

「雑念だ」

 

 これまたきっぱりと、端的に答えてきた。彼には彼の理屈――加茂家次期当主たるべし――があるのだろうが、それを加味したところで、やはりつまらない。

 

「鬱屈している」

 

 だからこそ、大地もまた断じた。

 

「持て余し、くすぶっているからそうなるのだ。少し暴れて……発散してくるがいい」

 

 と、それぞれの襟首を掴む。悪い予感はしていたのだろう、暴れて抵抗してくるが、そんなものが大地に通用するはずがない。

 四人を持ち上げて、こちらに向かってくる呪力(推定東京校)へ向け、腕を引き絞った。

 

「待っ……」

 

 待たない。次の瞬間には、四人が空高く宙を舞っていた。

 最後に残った幸吉に視線を向けると、彼は諦めたように脱力し、うつむき加減になっている。

 

「だから嫌だって言ったんだ……」

 

 最後に残った、嫌だと言えるけど最終的には流されちゃう系男子を腕に巻き込み、こいつも空高く放り投げてやった。ちょっと加減を間違えて全身きりもみしているが、まあ幸吉程の呪力であれば、頭から落ちても痛いで済む。ましてや、受け身を取れないほど間抜けでもないだろうし。

 

「さて」

 

 邪魔者があらかた片付いたのを確認し、二人の“対話”へと向き返る。

 燃え盛るような語らい。夏を象徴するように、拳と拳が弾け合う。誰も踏み入れない――否、誰も踏み込んではいけない領域がそこにある。

 大地はおぼろげながら確信があった。悠仁の呪力はどんどんと洗練されていく。あとほんの一つ、些細な後押しさえあれば、彼は“黒閃”に至るだろう。

 黒閃とは本来、現象を指す言葉であり技名ではない。呪力の集中と衝撃が奇跡的な噛み合いをした場合、空間が歪んで黒い雷をまき散らす事からそう呼ばれる。だが、大地にとって黒閃の最重要点は、打撃時に破壊力を桁違いに上げてくれる事ではない。その副作用で発生する、呪力への理解度深化だ。

 つまるところ、黒閃とは自分の呪力を、とても高い精度で自覚させてくれるトリガー。反転術式と同じく、強くなるためには必ずいつかは踏むべき段階だ。

 呪術師になってたかだか数ヶ月の男が、そこに至ろうとしている。恐るべき戦闘の才覚。これからも、とんでもない速度で強くなっていくだろう。術式などなくとも、宿儺など関係なく、虎杖悠仁は強い。

 くく、と小さく笑った。

 惜しむらくは、正面に立っているのが自分ではないという点だ。真正面から受け止め、味わいたかった。

 

「この(にが)みもまた……」

 

 欲するならばどこまでも貪欲になるべきだ。同時に、欲張りすぎてもいけない。少なくとも今は、虎杖悠仁と東堂葵だけの時間。

 

「あれもこれもどれも……青春、か……」

 

 酸いも甘いも味わうし、たまには堪えなければならない時だってある。

 交流会が終わったら、五条悟に喧嘩を売ろう。そして、自分は自分の青春を味わう。そう決めながら、輝ける成長を見守った。

 

 

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