だいたい殴れば解決する   作:三回転半ドリル土下座

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東京第一結界03 最強の式神

 呪術高専東京校 出立前――

 

「伏黒、ちょっと付き合ってくれ」

 

 来い、というジェスチャーと共に呼ばれる。

 東京第一結界(コロニー)突入まであと数時間。ぼんやりとはしていられないが、かといって体を休めるにも中途半端。軽く飯を食って体を温めておくか、そんな風に考えていたところで、急に呼び止められた。

 

「なんだ?」

 

 多少警戒しながらも、そう問いながら続く。

 大地に呼び出されるというのは、あまり良い事ではない。悪いことばかり、という訳でもないのだが。

 とにかく彼はやることなすこと破天荒で、巻き添えで酷い目に合うというのは、残念ながら非常によく聞く。ただし、同じくらいまともで真面目な用事である事もあった。仕事中は特に。腹立つことに、この男はTPOを弁えられる有能な奴なのだ。そのため一概に無視できない、というのはややこしい。

 この段階で下手に消耗するような事はしないだろう、という程度の信頼はある。ただし、それは大地の基準。山が小石を認識できないとして、何らおかしくない。

 彼に連れられて向かったのは、体技室だった。普通の学校には絶対に存在しない部屋。

 体育館や武道場ではない。根本的に目的が違う。ここは、呪力を運用した運動の中でも、とりわけ戦闘を目的とした場所だ。部屋は二重構造になっており、鉄筋の外壁を、呪力で操作できる硬質な粘土で覆っている。これである程度の破壊はすぐ元に戻せるし、鉄筋にダメージがあっても簡単に取り替えられた。まあ、それでも術式まで使用すると、修繕不可能なダメージとなったりするのだが。

 恵が入学してから、すでに三回ほど、交換を行っていた。ちなみに年一回点検をしているらしい。

 大地と二人でここに入るのは、ひたすら嫌だった。が、まごついていてもどうせ詰め込まれる。仕方なしに入った。

 と、中にはすでに先客がいる。冥冥と憂憂だ。

 

「待たせて済まん」

「構わないさ」

 

 言葉に、ひらひらと手を振って返す冥冥。

 

「しかし、連れ立ってきたのが伏黒君かい? 何というかこう、不思議な組み合わせだねえ。私達も含めて」

 

 くくっ、と冥冥は小さく笑った。ともすれば嫌味にすら感じる仕草が、彼女には非常に似合っている。

 

「それで、私に依頼とは何だい? このご時世なんだ、それなりにするよ」

「百万」

「安いねえ」

「米ドルでだ」

「乗った」

 

 パチン、と冥冥が指を鳴らす。

 

「では内容を聞こうか」

「ここまで言っといて悪いが、頼みがあるのは冥冥さんにではなく憂憂だ」

「僕?」

 

 今まで我関せずと壁に待機していた少年が、不意に話を振られ、視線を向けた。

 

「君の術式で魂を入れ替える事ができると聞いた。正しいか?」

 

 問われ、彼は困ったように眉を下げた。そして確認を取るように、冥冥を見る。

 彼女は手で軽く憂憂を制し、一歩前に出た。

 

「ここからは他言無用で頼むよ」

「必要ならば縛りだって結ぶ」

「そこまでしてもらわずともいいかな。覚悟がある事は確認できたし」

 

 まあ、と彼女は小さく肩をすくめて。ついでにどこかニヒルに、小さく笑う。

 

「何をしたいのかは大体分かったよ。でも、失敗しても責任は取れないからね」

「構わない。入れ替えを実行した時点で、依頼成功と見なす」

「いいね。了解」

 

 大地がスマホを取り出して、操作を始める。初めて二分ほどだろうか、指を離して、冥冥へ軽く合図をした。彼女もスマホを取り出して、恐らく入金を確認した。にんまりと笑みが深くなる。

 ここでやっと、大地が恵へと向いた。

 

「さて伏黒、何をするつもりか分かるか?」

「いいや。話の流れからして、俺とアンタが入れ替わるって程度しか」

「なんで……いや、そうだな。お前にとってはある意味、盲点か」

 

 うっすらと悩んでいた大地が、きっぱりと言う。

 

「これから俺は、お前になって調伏を行う」

「…………。はぁ?」

 

 あまりに馬鹿馬鹿しい言葉。思わず恵は、間の抜けた声を上げた。

 何を言われたのか、というか何を考えているのか理解できない。発想が馬鹿か狂人のそれだ。まあ大地はどっちもだが。

 

「いや、問題点とか疑問点とか……」

 

 何を言うべきかも分からず、上手く言葉に出来ない。

 体を入れ替えたら、術式まで入れ替わってしまうのではないかとか。調伏は一人でしなければいけないため、大地と入れ替わっても大地が調伏、ないしは二人で調伏したとして無効になってしまうのではとか。他にも他にも、大小突っ込みどころはいくらでもある。

 何よりも、徒労である可能性が高いというのが問題だ。これから万全の状態で攻め込もうという時に、わざわざ消耗するなど。

 

「気持ちは分かるがなあ。短期間ですぐに強くなれそうなのがお前くらいで。時間も今くらいしか取れなかったんだ」

「理屈は分かるが……」

 

 分かるのは本当に理屈だけである。

 かといって、断るだけの理由があるわけでもない。まさか、なんとなく嫌だからとも言えないし。

 

「じゃ、始めてくれ」

 

 大地が短く言うと、体の入れ替えが実行された。瞬間、恵の視界が入れ替わる。

 

「う……っお!」

 

 急激に、呪力の制御が乱れた。正確に言えば、今まで極端なまでに整然としていた呪力が荒れ狂った。莫大な呪力を納めておけない。体から薄皮一枚に止められていた呪力が、まるで爆発したかのように燃え上がった。

 

(どういう精密操作だ!)

 

 思わず内心で罵る。

 どうしても呪力が落ち着かない。このままでは、ちょっと身じろぎしただけで、その辺を壊してしまいそうだ。

 

「落ち着け」

 

 険しい顔をしている恵に、大地が声を掛ける。余裕など全くないまま彼の方を見ると、自分の体とは思えないほど異様に整然とした呪力。

 

「深く呼吸をしろ。下手に意識するな。制御を全て体に預けるんだ。何年と制御してきた。俺の体が全て覚えてる」

 

 言われたとおり、乱れた呼吸を整える。そうすると徐々に呪力が収まっていった。さすがに肌の直上を滑るように、とまではいかないが。なんとか人型に見える程度には落ち着く。

 現段階の呪力制御でも、異常と言えるようなものなのに。これ以上緻密なものを、四六時中している。改めて大地の異常性を確認したし、これよりさらに上だという悟の規格外さも同時に理解した。

 

「さて。とりあえず、普通の式神を出してみるか」

 

 と、大地が手を構えようとして。いくらか逡巡した後、恵の方を向いた。

 

「とりあえず鵺あたりを出そうと思ったんだが、掌印が分からん。教えてくれ」

「いや、そこが分からない時点で失敗じゃないのか」

 

 肉体に付随する生得領域までもを認識できないというのは、事実上術式を使えないのと同じ。ここを知覚することで、経由し生得術式に触れるのだ。たまに無自覚で術式を行使する天才もいなくはないが、それこそ例外中の例外だ。普通は術式がないと判断される。

 

「どうだろうな。逆に、魂ないしは精神だけが変わった証明とも言える。なんにしろ、試してみなけりゃ分からん」

「私としても試すだけ試して欲しいね。貴重な情報だし、前例として申し分ない」

「まあ、いいけど」

 

 と、鵺の掌印を教える。玉犬でないのは、恵の調伏が引き継がれているかの確認も兼ねてだろう。

 発動の儀式さえ理解すれば、召喚は簡単だった。体に染みついているというのは逆もまたしかりで、踏むべき手順さえ踏めば、恵の体が勝手に動く。

 大地の背後から出てきた鵺は、恵が呼び出すものより三倍近い大きさになっていた。

 

「うーん、天童君が出したにしては小さいかな?」

「伏黒の呪力で呼び出してるからな。いくら呪力効率が違うって言っても、そう大げさには変わらないんじゃないか?」

「要検証、かな」

 

 小さいわけねえだろ、と心の中でだけ罵った。

 召喚した式神は呪力量に依存し、呪力操作による差は主に攻撃力などに出てくる。式神のサイズが変わるというのは、根本的な部分から呪力の操縦や練り出し方が違うという事だ。今日初めて使う他人の体で、あっさりとこなしていい真似ではない。

 そういう意味では、あっさりと現状を受け入れている冥冥も異常である。まさか歴戦の一級術師が、理解していない訳もない。

 いや、憂憂を抱えているのは冥冥だ。似たような経験があるのかもしれない。それでも随分と肝が据わっているが。

 

「余計な時間は取りたくない。では一発勝負と行こう。――魔虚羅召喚の手順を教えてくれ」

 

 五分後、体技室はこの世から綺麗さっぱり消滅した。

 

 

 

「おいおいおい……ふざけんな! 待てよこんなの……冗談じゃないぞ……!」

 

 絶叫しながら、レジィが顔を引きつらせる。目の前にいるのは伏黒恵。そして、すぐ後ろで圧倒的な存在感を発している式神――八握剣異戒神将魔虚羅。

 呪術師ならば見ただけで誰もが分かるだろう。そこらの式神とは訳が違う、圧倒的な性能を。

 大地の妄想じみた発案、調伏の代理、それは成功した。それも、この上ない形で。ただ一度のチャンスで、最強の式神を屈服させ、恵は現代有数の力を手に入れた。

 とはいえ、完璧な形ではない。

 当然だろう。どう言い訳をしても、魔虚羅は身に余る力だ。恵では逆立ちしたって勝てない式神。事実、以前は道連れ用くらいにしか思っていなかった。単純な存在の格もそうだが、維持し続ける呪力も足りない。言うなれば魔虚羅は、乙骨憂太のような存在で初めて有効活用できる式神だ。

 だが、それで使えないなどという話になるわけでもなく。その力は、ほんの短時間しか運用できないが、完全顕現したリカに勝るとも劣らない。

 

(やっぱり、一度でも経験しておいて良かったな)

 

 召喚でごっそりと呪力を持って行かれた。式神の中でもコストの重い満象と比べてすら、比較にならない。

 この状態で魔虚羅を殴り潰したのだから、大地は化け物を超えた、異次元の何かだ。それこそ人間や呪霊を超越した新生物と言われても納得できる。

 何より驚くのは、ほんの少し交差しただけの恵が、その領域につま先だけでも踏み入れた事だった。

 いち早く立ち直った、というよりは位置的に奇襲しやすかっただろう鉤爪の男。彼が恵の右手から、地を滑るように強襲してくる。

 式神使い、ないしはそれに類似する術式を持つ者は本体を叩け。セオリーに沿った戦術である。

 呪術師は体術が必須項目であるが、練度は人に、というか術式によりけり。どうしたって肉体と連動する術式持ちより、それ以外の者は劣る。実際、彼とまともに戦ったら、九割負けていただろう。

 少し前の恵だったならば、だが。

 

「ゲ……!」

 

 軽く身を引き爪を空振りさせ、カウンターで裏拳を入れる。浮ついた左腕を掴み、さらに右で顎に一発、膝を腹に一発。今度はうめき声も出さず、膝から力が抜けて崩れ落ちた。

 離した左手を腹に添えて、押し出す。男の体は吹き飛び、マンション備え付けの屋根付き駐輪場に頭から突っ込んでいった。

 一連の動きは、さして力を入れずに行ったものだ。今までの恵であれば、ダメージを与えるに至らなかっただろう。極端に滑らかかつ高圧縮の呪力が、何気ない動きを攻撃たらしめていた。

 大地と体を交換した際、一番の財産は何か。そう聞かれた時、恵は八握剣異戒神将魔虚羅を調伏した事とは答えない。最大の宝は、直接呪力操作の奥義を教えられた事だと思っている。

 大地の体で知った、魂の記憶。大地が体を運用した事で得た、肉体の経験。何より魔虚羅を調伏する際に、恵の体で実行した、複数回の黒閃。それらが、恵のレベルを二段も三段も上げていた。

 伏黒恵の覚醒。彼はもはや、特級術師を除いて頂点に立ちかねない程の域に達している。

 

「お前っ……三味線を弾いてたのか!」

「急激に強くなりすぎて、どの程度手加減すればいいか分からなかっただけだ」

 

 レジィの言葉に、軽く返す。言葉は全くの真実ではなくとも、嘘ではなかった。

 呪力の精密操作を、まだ完全に掌握しきれていない。ムラがあるのもそうだが、どの程度呪力を込めればどれだけの破壊力になるか、全く分かっていなかった。得られた感覚を自分のものにする以前の問題である。

 男への反撃だって、恵の感覚としては、撫でるとまでは言わないものの、全てジャブ程度。少なくとも悶絶したり吹き飛ぶようなものではない。

 軽く打ち合う程度のつもりでこうなったというのは、恵からしてもかなりの衝撃だ。

 

黄櫨(はぜのき)! 俺がなんとか時間を稼ぐからさ、デカいの頼むよ!」

「あぁ!? 術者の方はどうすんだよ!」

「あれと同時に相手するとか正気かい? 大技使ってるんだから、本体はそう派手な真似できない事を祈りなよ」

「チッ」

 

 レジィの推察、というかほとんど願望は、実のところ正しい。ただでさえ強大な式神である上、使い慣れてもいない。この上、自分自身が十全の戦闘はさすがに無理だった。

 順平を動かす気もない。魔虚羅が共闘できるかは未知数だし、もしもの逃走手段でもある。一番馬鹿馬鹿しいのは、魔虚羅の巻き添えで澱月が破壊され、恵も召喚の余波で動けない状態で敵二人が生き残る事。前のめりになりすぎて、最優先事項を見失うつもりはない。

 

「俺の術式って、中々便利でさあ」

 

 黄櫨が引くと同時に、レジィは懐へ手を突っ込む。

 

「起こす事象の規模と呪力が比例しないのよ、いい意味でね。だからこんな真似もできる!」

 

 取り出されたのは、一冊のバインダー。

 

「立体駐車場の管理委任契約書! まるごとぶっつぶれろ!」

「バッ……!」

 

 鉄骨製で、収容車数130台を超える巨大建造物。重量がどれほどかなど考えるのも馬鹿馬鹿しいそれが、空を覆い尽くして落下してきた。

 どんな術式かは判然としない。が、レシートの山にバインダーにと見るに、一つだけ分かったことがあった。それは、レジィの術式は、現代でこそ最大のパフォーマンスを発揮する。彼にとって今の時代は、そこら中に触媒が転がっているのと同じなのだ。

 

(死……!)

 

 さすがにこれは防ぎきれない。そう思って、無駄だと知りながらも、頭を両腕で庇う。

 だがそれは。魔虚羅を未だに通常の式神と同列にした、過小評価でしかなかった。

 魔虚羅が、剣をくくりつけた右腕を振り上げる。それだけで、立体駐車場は真っ二つに割れた。

 

「は?」

 

 レジィの間が抜けた声に誰が答える間もなく、魔虚羅は立体駐車場の残骸片方を左手で受け止めた。切断されたもう片方が、けたたましい音を立ててマンションに倒れ込み、もろとも倒壊させる。魔虚羅に降ってきた方がそのまま潰れなかったのは、瞬時に呪力を流して構造そのものを強化したためだ。それを、レジィに向けて投げつける。

 今度はレジィが無意味な防御をする番だった。高速で迫る巨大な鉄塊に、避けるような間などなく、ただ無意味な備えをするしかない。

 術式を切るのが間に合ったのか、それとも顕現条件を外れて自壊したのか、立体駐車場は命中する前に消える。巨大建造物と入れ替わるようにして、血を纏った腕が魔虚羅の方へと迫っていた。千切られたそれは、断面から肉と血をたなびかせている。ぱっと見でも、莫大な呪力が込められていた。

 

「消し飛べェ!」

 

 黄櫨の絶叫と共に、腕が魔虚羅と接触。それこそ術者自身すらをも巻き込みかねないほどの大爆発を起こした。

 これほどの威力でありながら、範囲は局限まで絞って威力を追求したのだろう。荒れ狂う爆風は、生み出した砂塵すらも瞬時に吹き飛ばす。

 中から現れたのは、左腕を胸近くから消し飛ばされた魔虚羅だった。体勢こそ崩していないが、被害は甚大。

 

(ちっ……戻すか? どうせ試運転なんだ)

 

 魔虚羅は最強の式神である。しかし、決して無敵などではない。大地が調伏した事からも、それは明らかだ。倒すすべはあるし、それこそ無下限呪術に比べれば遙かに御しやすいだろう。

 十種影法術の特性として、一度完全に破壊された式神は、同じ術者だと二度と呼べないというものがある。完全破壊された式神は、他の式神に特性を受け継がせるため、完全消滅する訳ではないとはいえ。どうしたって元の式神よりは、数段劣る。

 だが。恵は二度、魔虚羅を侮っていたと知る。

 魔虚羅の背中にある方陣から伸びた八つの玉。それが、玉一つぶんだけ回転した。他に何が起きたわけでもない。だがそれで、魔虚羅の姿が元に戻る。巻き戻しという言葉すら生温い、まるで今まであった事象を、全て無かったことにするかの如き超常。

 驚愕に目を見開きながらも、しかし敵の動きは速かった。レジィは次のレシートを取り出していたし、黄櫨も腕を再生する余力こそないものの、目玉を抉って投げつけている。

 攻撃はほぼ同時に、魔虚羅へと到達した。しかし、その二つが。あっさりと弾かれる。

 さすがに今度こそ、二人は絶句した。

 いくら前より小規模な術式と言っても、影響が完全に無い事はあり得ない。呪術師随一の肉体強度を持つ大地だって、殴れば体が揺れくらいするのだ。まるで物理現象、或いは術式の一切を遮断しているように見えた。

 同時に、これが最後の機会だった。

 二人が何をするより早く、魔虚羅の姿がかき消える。彼らには気づけなかっただろう、瞬間移動もかくやという速度で、魔虚羅が背後へ回り込んだなど。

 

(殺すな! 捕らえろ!)

 

 頭の中で、強く唱える。放っておけば恐らく二つの挽肉ができていたであろう場所で、魔虚羅の大きな手に押さえ込まれる形で二人がひれ伏している。

 小さく安堵の息を吐く。気を遣いすぎかもしれないが、それでも、魔虚羅の制御は神経を削った。強すぎるというのもいいことばかりではない。

 

「……で、あんたらはどうするんだ?」

「いや、こんなの降参でしょ。ねえ?」

「ああ。クソッ、どうしろってんだ」

 

 片や完全に諦めきって、片や悔しそうに告げる。

 恵は静かに、真意を探った。レジィ・スターは胡散臭く、嘘は言っていないが全てさらけ出したわけでもない、といった調子だ。反面、黄櫨の方は、ある程度の潔さがある。そう簡単に裏切るとは思えないが、ある程度のストッパーになってくれる、とは思えた。

 

「それで文句ないよね、針」

「あ゛ぁ゛~、ってぇ」

 

 いつの間にか起きていた爪の男が、殆ど呻きの返答をする。といっても、まだその場は動けないようで、体に乗った瓦礫すらもそのままだ。

 

「いやホント、現代チョロいと思ってたらめちゃくちゃヤバいじゃない。何よあの式神。強すぎて笑えてくる。卑怯でしょ」

「俺もこんなに強いとは思わなかったよ」

 

 ひとまず、魔虚羅を解除して。

 

「言っとくけど、俺より……というか魔虚羅より強い術師は、いくらかいるからな。ここで俺を刺しても、今度相手にしなきゃいけないのはそっちだ」

「分かってるって。俺達はもうゲームオーバーさ」

 

 重圧から解放されると、レジィはあぐらを掻いて座り、肘に体を預けた。仕草から伝わってくる、全力での「やってらんねー」感。

 どこまで信じていいかと問われれば、答えに窮するが。ひとまず、直ちに裏切る事はないと信じる事にした。そうするしかなかった、というのもある。どのみち、恵だって余裕があるわけではなかった。順平に任せるにしても、人となりはともかく、術師としてはあまり信用できない。

 順平が澱月を極端に広げて、複数人が乗れるサイズにした。

 

「麗美さんだっけ? どうしようか?」

「ほっといていいんじゃないか。こいつらがいなきゃ、一般游者(プレイヤー)でしかないしな」

 

 正直、腕前という意味でも人格という意味でも、積極的に戦いを挑めるとは思わない。また誰かに寄生して生きるのかもしれないが……それこそ勝手にしろだ。人の生き方にまで責任は持てない。

 

「皆さーん、乗ってくださーい」

「無茶言うんじゃねえよ」

「腕の再生も追いついてないの見えてねえのか」

 

 寝転がりながら、何故か態度の大きな奴が二人。順平は苦笑して、針と黄櫨に触手を巻き付け、ゆっくりと乗せた。レジィだけは自力で動く。

 

「で、どこ行く訳?」

 

 なぜだかやたら気安く恵に寄りかかりながら言う、レジィ。なんだこいつ、と思いながらも答える。

 

「万が一はぐれた時の合流地点。そこで天童が……あー、魔虚羅を一方的に殴り殺した奴が待ってる手はずだ」

「そりゃー怖いねえ」

 

 相変わらずの軽薄な笑みに背中を押されて。澱月は水の中を揺蕩うように進んだ。

 




原作で宿儺が伏黒の調伏を引き継いでいた(すぐに鵺を使えた)ため、こういう事も可能なのではないかと思いました
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