だいたい殴れば解決する   作:三回転半ドリル土下座

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予約投稿一日ズレてたゴメンネ


交流会団体戦2 真希と真依

「ダァーッハッハッハッハ!」

 

 狭い室内に、悟の馬鹿笑いが響いていた。腹を抱えて、それはもう情け容赦なく笑っている。

 

「ひーっ、ひーっ、面白すぎるでしょ!」

 

 言い返して、できることならば頭をひっぱたいてやりたくはあったが。何を言ったところで藪蛇にしかならないとは分かっていたため、歌姫は口をつぐんだ。実際、悟がいなければ、自分が同じ立場に立っていた事だろう。ただし、笑いの内訳は諦めと達観のそれだろうが。

 虎杖悠仁、はまあいい。宿儺という特大の爆弾さえ度外視すれば、普通の高校生だ。問題は京都校のあたおか二人組である。出会った当初(本当に最初期だけ)のようにいがみ合わられていれば、それはそれではらはらするが、だからといって結託しろとは誰も言っていない。

 なぜか虎杖悠仁を親友認定して指導している馬鹿に、それを後方師匠面して見守っている馬鹿。字面だけでも目眩がする。

 怖いと言えば、背後から感じる楽巌寺学長の圧力だって怖かった。

 大地は保守派というか楽巌寺派だと目されている。これは全くの勘違いであり、本人が特に反発しないのと、上層部受けがいいからそう勝手に思われているだけなのだが。ともあれ、概ね従順ではある。

 悠仁を見守っているのを、反旗を翻したとは誰も考えていない。シンプルに、それくらい頭がおかしい事は誰もが承知しているからだ。ただ――これは歌姫の被害妄想かもしれないが――背中に刺さる楽巌寺の視線から、なんでもっとしっかり指導しておかなかった、と言われている気がした。

 言い訳をするならば、土台無理な話である。大地が自分を尊敬してくれているのは知っているが、だからといって無条件に言うことを聞くほど大人しい人間でもない。ましてや補助型の準一級と戦闘型の特級、比べるのも烏滸がましい。

 

「しかし……分かってはいたけど、やっぱり大地の術式は見られないか。ちょっと残念」

「なんで天童の? あんたが一番見てるでしょ」

「見てるというか見れてないって言うか。やっぱ一度くらいは俯瞰して見てみたかったんだよね」

「?」

 

 言ってる意味が分からず、首をかしげる。そもそも悟の『六眼』であれば、こと呪術においては、相手の秘密などあってなきが如しであろうに。

 

「ほら、大地の術式って支配握術じゃん? それってさ……」

「ちょっと、それ私が聞いて大丈夫なやつなの?」

 

 面倒ごとはごめんだ、と言外に含めて釘を刺す。

 支配握術は禪院家の相伝術式だ。ただでさえ術式の詮索はタブーとされる世界で、しかも御三家の術式を知るというのは、控えめに言って自殺行為。どれだけ良くても禪院家の末端と政略結婚――そんな事をするほど、歌姫はまだ人生を捨てていない。

 それは承知しているのだろう、悟はへらへら笑いながら答えた。

 

「さすがに歌姫の人生が詰むほどの事をべらべらしゃべるつもりはないよ。あくまで誰でも知ってる程度の事だけさ」

「ならいいけど……」

「ともかく、支配握術ってのは無下限呪術や構築術式と同じで、とても呪力効率が悪い術式なのさ。それこそ本来なら、六眼でもない限り後方支援として扱われるような、ね」

「ふぅん」

 

 と、相づちを打つ。

 歌姫は相伝術式について、さほど詳しくない。それこそ一般的に知られている以上の事は分からなかった。だから、そこらの術式が効率悪いと言われても、そうか、という以外の返事ができない。

 

「けどさ、ほら、あいつって術式をぐっちゃぐちゃに弄ってるから、六眼の情報って当てにならないんだよね」

「……そんなに?」

「六眼はあくまで術式の情報を強制的に抜き取るようなものだから。そっから発展させた独自の技術とかは全然。だから拡張術式なんかはわかんないよ」

 

 初めて聞いた――が、これも知って良かったのかと思う。六眼も、ある意味相伝術式のようなものなのに。

 とはいえ、他の面子が当たり前のように何も言わない当たり、知っていて当然なのかもしれない。

 

「大地がどんな術式を使うか知ってる?」

「あの黄色い? 白い? 式神じゃないの?」

「うーん、正解は二割くらいかなー」

 

 それは外れと言っていいのではないだろうか。

 

「ぶっちゃけあれ、式神としては三流じゃん?」

「そう? めちゃくちゃ強いと思うけど……」

「それは式神が強いんじゃなくて、大地が強いからさ。よく考えてみなよ。特殊能力がある訳でもない、凄いスピードとパワーがあるって言ったって、射程距離はせいぜい十メートル。はっきり言って式神としては失格だね」

 

 言われてみれば、頷ける所もある。

 射程距離十メートルというのは、いかにも扱いづらい。死角から奇襲をしかけさせるには、心許なすぎる。かといって式神の力が本人の呪力と比例するならば、例えば歌姫が扱っても、さほど強くはならないだろう。少なくとも、自分の術式と引き換えに欲しいと思えるほどの魅力はない。

 ということは、大地の術式には要となる部分が別に存在する、という事になる。

 

「……それはそれで知っていいの?」

 

 多分だが、縛りの内容から何まで、禪院家の新しい相伝として秘される技術だ。下手に明かそうとするのはぞっとしない。

 が、悟はあはは、と軽く笑って手を振った。

 

「さっきも言ったけど、僕はそこまで詳しく知らないよ。それこそ真正面から見ても、術式が発動したんだろうっていうのは分かっても、そこで何が起きたかまでは分からないんだよね」

「あり得る事なの? 六眼を前に?」

 

 理屈の上では六眼を出し抜ける術式というのは存在しないし、少なくとも公表した範囲で、悟が見逃した事もない。

 六眼を欺くのは不可能だという前提の上手だが。悟が知覚できないほど展開から終息までが早いか、呪力の緩急がとてつもなく少ないため、起きたと認識できないか。どれであれ、欺くよりはあり得そうと言うだけであって、現実的な発想ではない。

 

「ほんと、どうなってんだろうね。だから外側から、一度じっくり発動の瞬間を見てみたいと思ってたんだ。じゃないと、そろそろぶっ殺されかねない」

「ぶっ殺されるのはともかくとして、一度くらいぶん殴られた方がいいんじゃない?」

「あはは! 殴られるだけなら、一度ならず数十回ともらってるさ」

 

 言葉に目をむいたのは、その場に居た全員だった。

 そもそも五条悟に攻撃を()()()()というのが極端に難しい。ただでさえ絶対防御を常時発動しており、まともに攻撃を届かせるには領域展開に頼るほかない。この時点で呪術師界隈では1パーセントを切る。

 さらに、無下限呪術の効果で、彼はぶっちぎりの最速。彼に触れられるほどの速度を持った人間というのは、それこそ領域展開を会得した術者より稀少だ。こちらなど両手の指で数えられる程度しかいない。

 五条悟を()()()というのは、正に異次元の実力だった。

 

(この馬鹿に比肩する術者なんて大げさに言いすぎって思ってたけど……もしかして、案外そうでもないの?)

 

 だとすれば、上層部がありがたがるのも納得がいく。

 

(東京校は悟の牙城、乙骨優太なんて怪物を含めて、全部改革派だと思われてる。そこに降ってわいた保守派――勝手に上が思ってるだけだけど――の特級、それも天童派には東堂と与っていう一級までいる。確かに五条と乙骨に対抗するためには、天童が不可欠だわ)

 

 完璧な理論ではある。大地が本当は無所属だという事実から目を背ければ。

 これでもう少し言うことを聞いてくれれば……などと思うが、さすがにそれは高望みだと気づく。何せ呪術師そのものが根暗な個人主義集団であり、特級呪術師は誰も彼も癖が強い。それこそ普段はいい子ちゃんに見える乙骨優太だって、あれでまともな精神ではないのだ。

 まあ、特級呪術師でまともな精神をしていたら、それこそあの夏油傑みたいに心を壊してしまうのかもしれない。

 

(相対的に天童がまともに見えてくるのがなんかヤだわ。あいつ、女にやたら嫌われるのを除けば、比較的真面目だし、仕事だってちゃんと終わらせるし)

 

 低い位置でまとも探しをするというのは、何というか、疲れる作業だった。

 

「というわけでいっぺん大地の術式をじっくり見てみたかったんだ。まあ今回はそれほど期待してなかったからいいんだけど。それよりほら、別の所でも動きがあるよ」

 

 画面の中では、大地に投げ飛ばされた京都校の生徒が、東京校の近くにどさどさと落ちている所だった。

 どちらもが慌てて準備を整える。誰にとっても計画をぐちゃぐちゃに壊された形になっているだろう(大地と葵は、そもそも計画など立てていない。両方とも、即興で建てた計画を成立させる力があるからというのもあるが)。団体戦とは何だったのか、と言いたくなる有様だ。

 とはいえ、歌姫とて暗殺という手段には反対だった。生徒が手を汚さずに済んだ事には素直に感謝しつつ、今度こそ学生らしく始まった戦いを、素直に眺めた。

 

 

 

 ――やられた。とは真希の言葉だ。

 東京側の戦法としては、面倒くさい奴(東堂葵)を悠仁が引きつけて、残りが呪霊を祓うという戦法を採用していた。なお、大地は遭遇したらゲームオーバーという、半ば即死ギミックみたいな扱いだった。とはいえ、その上で相手には与幸吉という一級呪術師がいる以上、手に余るのだがそれはさておき。

 真希の予想では、京都校が一丸となって悠仁を殺しに来ているらしい。順平にはいまいち事情が分からないが、どうも「宿儺の器」というのが駄目なようだ。これもよく分からなかった。

 呪術師としての内情は知らない。だが、順平としては、命の恩人であり友人を見捨てる事など絶対にできなかった。それこそ交流会の勝敗などどうでもいいくらいに。

 というわけで、とんぼ返りをしていたのだが。帰路を半分も進む前に、それらは墜落してきた。

 

「ぁぁぁぁぁぁああああああ!」

 

 悲鳴を木霊させながら落ちてきたのは、二人の女生徒だった。それぞれ枝をへし折りながらも、なんとか捕まって緩衝材にする。

 

「ぐえぇ」

「っだぁい!」

 

 それでも受け身を取り切れなかったようで、地面に叩き付けられながら、それぞれうめきを上げていた。正直、女性としてどうなのって言うような声であったが。言葉にすると多分怖いので、口には出さない。

 

「ごめん、真依ちゃん。受け止めきれなかった」

「仕方ないわよ。ったく、あの野郎」

 

 体に着いた葉っぱやら土やらを払っている二人を、真希は小さく鼻で笑った。

 

「間抜けだな。大方、天童にぶん投げられたって所だろ。せこい真似するからそうなんだ」

「うっさいわね、この馬鹿!」

「おいどうした? いつもの皮肉が全然ねえじゃねえか。切羽詰まりすぎだろ」

 

 真希の言葉に、悔しげ、というよりは忌々しげに返す真依。顔の造形は瓜二つだが、どうやら性格は真逆のようだ。

 

「あの、禪院さん。あまり煽らない方が……」

「あん? 姉妹煽らなくて誰を煽るんだよ」

「アンタはいっぺんイワしてやらなきゃいけないみたいね……!」

 

 なんでそんなに喧嘩腰なの、と問いたくなったが。付き添いの女生徒(確か西宮桃と言ったか)の「またか」といった様子を見るに、いつものことらしい。

 真希は首をこきりと鳴らすと、大股で真依に近づいていった。仕草が大変男らしい。

 

「丁度いい。上がった身体能力と呪力をまだ持て余してんだ。お前で試してやるよ」

「あんた、私が同じものを持ってるっての忘れてんじゃないの? そのすっからかんな脳みそで、もう一度よく考えてみなさいよ」

「あん?」

「ハァ?」

 

 様子は、もはや完全にチンピラ同士の粋がり合いだ。

 もうちょっと理性的な人だったんだけどなー、と思ったが、振り返れば最初から割と直情的だったな、と考え直す。もしかしたらこちらの方が素に近いまでありそうだ。

 もっとも、結論としてはどちらであろうと変わらない。つまり、極力関わり合いになりたくない人種。特に二人揃った時は。

 

「ッダ! コラァ!」

「ッスゾボケェ!」

 

 獣のように吠えながら、無駄に高度なキャットファイトを始める。忌憚ない意見を述べさせてもらうなら、普通に引いた。

 二人とも、長いこと呪術師をしているだけあって強い。だからこそ、粗も目立っていた。

 真希の体術は真依を軽く凌駕するものだが、反面呪力操作が拙い。それこそ自分以下だろう、と順平は目算した。他の生徒の話を信じるならば、基本的な体術だけではなく、武器術も相当やばい。

 反面、真依はあからさまに高い身体能力を持て余していた。ただし、呪力操作はとてもスムーズであり、動きが追いつかない分の防御を的確に行っている。ちらちらと、持っていないはずの武器がいきなり手元に現れるのは術式か。

 双方とも手持ちの札がちぐはぐだ。しかし、それも今だけだろう。恐ろしい速度で適合を始めている。やっていることはクッソ下らない姉妹喧嘩だが。

 今すぐにでも準一級になれる、と大地が語っていた。それはつまり、現状に慣れるだけで一級呪術師ほどに強くなるのではないだろうか、そんな風に思えた。

 

(これで吐いちゃいけない言葉で罵り合いながらじゃなきゃ、素直に見られるんだけどなあ……)

 

 暴言が飛び交っているせいで、どうしても色眼鏡がかかってしまう。順平に兄弟はいないからよく分からないが、もしこれが普通の兄弟の姿なのだとしたら、何というか、その、とても嫌だ。

 戦いが激しくなってきたので、順平はじりじりと距離を開けだした。慣れが不得手を補い、戦場の規模がどんどん広くなっている。遠からず、ここら一体は破壊され尽くすだろう。

 桃も同じ事を考えていたようで、生暖かい視線を向けながらも引いている。というか、心なし、こちらに近づいてきているような……

 

「んじゃ、私たちもやりましょっか」

「えっ」

 

 持っている箒に、呪力を込めたのが見て取れる。呪力をぱっと見で察知できるというのは、戦闘前提の出力という事だ。

 

「いやあの、これ呪霊をどっちが多く祓うかってルールで、別に生徒で殴り合う必要はなくて……」

「そうね。でも、ぶっちめて相手の数を減らした方が有利になると思わない?」

 

 にっこりと、さも当然と言いたげに笑いながら、桃。

 吉野順平、十七歳。年齢相応の経験はしてきたし、それこそ性格やたちが悪い女というのも結構な数見てきた。そんな中でも、ここまで直接的に暴力で訴えてくる例は覚えがない。

 こそこそと後ずさる。桃は引いた分の倍、壮絶な笑みを浮かべて距離を詰めてきた。

 凶暴な野生動物に追い立てられる気持ちで、順平は思う。ああ、本当に僕は女性運がない。

 

 

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