だいたい殴れば解決する   作:三回転半ドリル土下座

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伏黒恵奪還作戦 下

 岩手県は御所湖結界(コロニー)。なぜ宿儺がここを選んだのか分からない。前々から羂索と相談していたのかもしれないし、ただの気まぐれかもしれない。或いはもっと別の理由かも。

 ただ、ここを選んでくれたというのは大地達にとっても都合が良かった。少なくとも大阪府大阪城結界(コロニー)や、京都府旧平安京結界(コロニー)を舞台にされるよりはよっぽど暴れやすい。そういう意味では、こちらが気兼ねなく暴れられるよう気を遣ったのか。

 宿儺の気配は、大地の呪力感知外からでも感じ取れた。だいたい御所湖の中央に鎮座している。

 そこを目指しながら、大地は悟に話しかけた。

 

「一つ、言っておくことがある」

「今更?」

「まあそう言うな」

 

 大体何を言いたいかは察していたのだろう。肩をすくめた悟に苦笑する。

 

「俺の術式は支配の対象を世界に特化させる事で拘束力を高めている。で、ここからが本題なんだが、極ノ番は事象の改竄だ。正確に言えば、真実を別の真実で上書きするんだが、まあ方法についてはどうでもいいな」

「相変わらず、えげつなくて意味が分からない術式考えるねえ……。いや、そもそもんなよく分からない力を現実にできるのも訳わかんないんだけどさ」

 

 どこか呆れたような口調で、悟。

 

「言いたいのはだ、時間停止と真実の上書きは全く別のアプローチで行っているって点だ。通常の術式と極ノ番は、上手い表現方法が思い浮かばないんだが……回路が違うとでも言えばいいのかね。とにかく、切り替えるのに時間がかかる」

「なんでそんな術式にしたのよ」

「正直に言って、極ノ番の方はおまけだったんだよ。戦闘に関する術式は、時間停止で完成したと思っている。極ノ番に関してはもう、便利だったからとか、なんかできそうだったから作った、とかしか言えん」

 

 ついでに言うと、好みでもない。

 大地は自分が鍛え上げた肉体こそ一番信用しているし、最後に頼れるのはそれだけだと思っている。故に、フィジカルを最大限に生かせる時間停止があればいいと思った。領域展延(のような何か)を習得するまでは、無限をフィジカルで突破すればいいと本気で考えていたし。

 故に極ノ番に関しては、戦闘以外の利便性を求めた。かなり大雑把に、戦う以外の部分は全てそれで解決できればいいなくらいに思っていたのだ。まさか本当に何でもできる極ノ番が完成するとは、大地すらも予想していなかった。

 つまり彼のそれは、一般的な術者が考える術式と極ノ番の関係ではない。

 

「大雑把に、能力の切り替えには領域展開後に術式が回復するくらいの時間がかかると思ってくれ」

「ふーん。ちなみに極ノ番を発動するのにシークタイムは必要なの?」

「いらん。だが制限として一日における発動回数がある。これは縛りではなく、呪力消費の問題なんだがな。便利な分、どんな上書きを行っても一律の呪力を消費する。今日は一発使ったから、あと二発が限度だ」

「つまり宿儺をその場に止めつつ、君が潜り込めるだけの隙を作らなきゃ行けない訳ね」

 

 悟は小さく何度かうなずき、そしてふっと笑った。

 

「なんだ、楽勝じゃん」

「ああ、楽勝だ」

 

 他の者ならばともかく、五条悟と天童大地が組んでできない事ではない。

 御所湖へ到着する。宿儺は逃げるでもなく、当たり前のように佇んでいた。彼が空中にいるのは、大地が多用する何もない空間に足場を作る技術だろう。確かに見せた覚えはあるが、まさか一度で盗まれるとは思わなかった。これだけで六眼に準ずる洞察力と、悟に匹敵するセンスを持つのが分かる。

 

「へえ、逃げ回らないんだ」

「一時撤退は、天童大地に受肉の邪魔をされぬための措置だ。掌握しきれれば拘る程の事ではない」

 

 二人は言葉で何かを探り合っていると思い、黙っていた大地だったが。どうにもそういった様子はなかった。単に、どちらもトラッシュトークが好きなだけらしい。

 御所湖の周囲は騒がしかった。近くにいた游者(プレイヤー)が慌てて逃げ出し始めたのだ。

 宿儺が一人の頃は、まだ物陰に隠れて遠巻きに観察していただけだった。一国家転覆どころか崩壊クラスと一目見て分かる呪力の持ち主だ。近づきたくはないが、かといって完全に目をそらすのも恐怖が勝るという気持ちは一応察することができる。

 しかし、ここにきて国家崩壊レベルの使い手がもう二人。危険な呪力を発して対峙していたし、宿儺のそれも戦うためのものへと変った。事ここに至り御所湖結界(コロニー)にいるだけで巻き添え死しかねないと悟り、岩手からの脱出を始めたのだろう。

 

「俺もお前達二人を()()で相手する気にはなれん。使わせて貰うぞ」

 

 言いながら掌印を組んだ宿儺の影から、大きな闇がせり上がった。異形の巨人、八握剣異戒神将魔虚羅。

 それを見て、悟がぽかんとする。

 

「え、なに? 調伏に巻き込まれた? それとも恵が調伏したの? まさかこの短時間でアイツが調伏したって事はないよね?」

「伏黒がというか、俺がした」

「何それ意味わかんない」

「俺が伏黒の肉体に入り込んで代理でな。気をつけろよ。伏黒の呪力で顕現してもそれなりに手強かった。宿儺の呪力で、ましてやただ暴れるだけではなく、奴ほどの相手に制御されれば強さは数段上だと思った方がいい」

 

 元の強さを知らないんだけどなあ、と小さくぼやかれる。

 

「じゃまあ、勝手知ってる魔虚羅の方を任せようかな」

「あいよ」

「ふむ……まあいい。天童大地とは以前戦ったからな。来い、遊んでやるぞ現代最強」

「随分と粋がるじゃん歴代最強」

 

 静かに戦い始めた宿儺と悟とは対照的に、高く雄叫びを上げる魔虚羅。以前とは比べものにならないプレッシャーを浴びながら、大地は構えた。

 

(さて。どれだけ早く決着を付けられるかが鍵だな)

 

 以前魔虚羅を倒したときに流れてきた情報である、式神としての特性、事象への適合。これを攻略する一番簡単な方法は、速攻だ。何かへ適合される前に大火力で畳みかける。前に調伏した時は、意図せず実行していた。が、どちらかと言えば、問題なのは魔虚羅ではない。

 伏黒恵の魂。これが宿儺にどれだけ耐えられるか分からなかった。

 伏黒津美紀の例から見ても、通常の受肉ですら記憶と自己境界の混濁が起きるほど魂が疲弊している。これを無理矢理に、しかも宿儺ほどの圧で行えば、現時点で瀕死でもおかしくない。ましてや恵は、どう見ても悠仁ほど耐性がないのだ。

 この情報を、大地は悟に対し意図的に話さなかった。彼が聞いてしまえば、確実に無茶をするからだ。

 悟は呪術師ではない部分で見れば、欠点弱点が多い。仲間に甘すぎるというのは、わかりやすすぎる短所だ。宿儺に見せていい隙ではない。

 恵にもしもがあった時の罪と咎。これを背負うのは五条悟である必要などないし、彼ではない方がいい。適度に誰かのせいにすればいいのだ。自惚れでなければ、大地はそれを代われる数少ない人間だ。

 悟と共闘する以上、勝利は確定。後はどういう勝ち方をするかという問題だ。

 即終わらせる。そう決めて魔虚羅にラッシュを叩き込むが、すぐ違和感に気がついた。

 

(堅い……?)

 

 宿儺と恵の格が違うから、というだけでは説明のつかない防御力の上昇。単純な強度というよりも、打撃を拒絶されているような。

 

「なるほど。これが事象への適応か」

 

 以前、宿儺とは戦った時か、それとも魔虚羅の調伏を実行した為か。恐らくそのどちらかで覚えられたのだろう。まさか術式がない時代にまで遡行して適応を発動できるとは思わなかったが。

 だが、分かったことがある。魔虚羅の適応は完璧ではない。恐らく一度の適応に上限値が存在し、キャパシティを超える事象に対しては、複数段階を踏まなければ対応しきれないのだ。

 結論。今のままで問題なし。

 最適解と得意戦法が同じというのは、ありがたいと言えばいいのか気色悪いと言えばいいのか。他に出来ることもなく、ラッシュの強度を高めた。

 相手の装甲を概念的武装から剥ぎ取る。感覚的なものではなく、実際そうなるように殴った。そのうちいくらかは黒閃が弾け、魔虚羅はみるみるうち姿を無くしていく。

 しかし。

 背中の方陣が回ると同時に、まるでいままでの攻防がなかったかのように魔虚羅の姿が戻った。それこそ打撃に対する抵抗力すらも上がっている。

 

(今のが事象への適応プロセス)

 

 見たままを信じるならば、確かに魔虚羅は無敵に限りなく近かった。ただし、あらゆる面で完璧とは言いがたい。それこそ最後まで適応を終えても、自分なら攻略できると大地は踏んでいた。

 真っ先に上げられる魔虚羅の長所は、実は事象への適応ではない。他の式神とは隔絶した、圧倒的な基礎能力だ。格下は力尽くでひねり潰し、格上にはひたすら耐えて攻略できるようになるのを待つ、というのが基本戦術になる。

 欠点として、シンプルに適応が遅い。再度の適応発動にインターバルが必要なのか、それとも攻撃を学習するためにある程度食らう必要があるのか。どちらにしろ、いかにも自立して学習できない者のやり方だ。

 もしかしたら方陣の回転を邪魔することで、適応を阻害できるかもしれないが。こちらはあまり期待しない方がいい。呪術における視覚効果は、得てして無意味なものである。ただし能力の強度からいって、適応を阻害できる可能性があるという縛りで、これだけの術式を確保している可能性は十分にあった。まあどのみち、魔虚羅を相手にそれを実行するのは現実的ではない。

 

(悟だとむしろ苦戦していたかもな)

 

 五条悟はあれで、かなり術式に頼った戦い方をする。そして、無下限呪術は根本的に火力が低い。最初の一撃で決着をつけられなかった場合、かなり長引いていただろう。

 比較して大地は。

 確かに術式は補助型だ。事象への適応はあくまで本体の改変であるため、領域展延による術式効果の軽減は発動しない。

 それでも。極限まで高めた呪力操作と研鑽により、打撃の質を変える、つまり適応範囲外まで自分の色を変更するのは、ひたすらに得意だった。

 

「無駄! 無駄! 無駄ァ!」

 

 拮抗したかに見えて攻防が、またも大地側に振れる。再び防御力を無視、或いは超越して、魔虚羅をへし曲げ始めた。

 このままでは次の適応が来る前に負ける。それくらいは、獣程度の思考能力しか無い魔虚羅にも分かったのだろう。苦し紛れのように退魔の剣を振り上げた姿を見て――大地は嗤った。

 ナチュラルに反転術式を出力する退魔の剣。それはつまり、力の入れ方によっては通常の呪力も込められるという意味でもある。まともに食らえばいかに大地と言えどひとたまりも無い。まともに食らえば、だが。

 高密度の呪力が振り下ろされる一瞬前、大地が腕を掴んだ。魔虚羅の腕がみしみしと音を立て、指が少しずつ食い込み潰れていく。

 

「こういう使い方は好きじゃないんだが。まあ、負けたお前が悪い。好きに恨め」

 

 呟いて、空いている右腕を腹に叩き込む。

 

我が拳は“世界”を超える(ザ・ワールド・オーバーヘブン)

 

 現実の上書き。世界が別の形へ入れ替わっていく。

 方陣が回った時と同じように、しかし変化は遙かに劇的に。魔虚羅が消え失せた。

 大地はすぐ転身して、悟と宿儺が戦う方を見る。彼らの戦況は、悟にやや優勢といった形だった。宿儺の力がまだ完全に集まりきっていないとか、術式の違いというのもあるだろうが。一番の理由は、魔虚羅を呼び出した事だろう。あれだけ強力な式神なのだ、膨大なリソースを消費してしまうというのは、調伏の際に確認している。

 いきなり消えた呪力に、二人してぎょっとしている。さすがにそれで隙を見せるような無様は晒さなかったが、それでも特に宿儺は、戦い方の変更を余儀なくされた。

 

(魔虚羅を祓うのが予想より大分早かったみたいだな)

 

 もっとも、そうなるようにわざわざザ・ワールド・オーバーヘブンなどを使ったのだが。

 瞬間的に斬撃を大地へも割り振ってくるが、勢い任せが過ぎるため脅威にならない。数を優先すれば大地の体を突破できるほどの威力にならないし、少なければ迎撃が容易というジレンマを抱えていた。

 その間に、悟が格闘戦へ持ち込む。

 技術で言えば、さすがに宿儺が年期を見せるものの。パワー不足が否めなかった。そもそも素体となる悠仁と恵の時点で、肉体強度に天と地ほどの差がある。渋谷で戦った頃ほどのパフォーマンスを発揮できないのは当然と言えた。

 大地がプレッシャーを与えながら、強引に斬撃の中を潜り込む。

 悟は拳を合わせながらも、無下限呪術による邪魔を欠かさなかった。悟本人に対しては御廚子が通らないため使いどころはないのだが、発生させた術式は別。術式順転「蒼」や反転「赫」は、破壊する術を見つけ出したようだった。遠からず、絶対防御も突破するだろう。皮肉にもそのせいで、御廚子を分割発動しなければならなくもなっている。

 大地と悟。加えて無数の「無限」。さすがの宿儺も、対応が飽和する。ましてや相手をしている二人が、現時点の宿儺と同等以上の使い手なのだ。

 魔虚羅消滅から僅か十数秒。大地の拳が宿儺へと届く。

 あらかじめ準備しておいたザ・ワールド・オーバーヘブンを発動、真実の上書きが始まる。「伏黒恵と宿儺の体」から、「伏黒恵の体」へと。宿儺の器たる存在に、宿儺が居座れなくなるようした。伏黒津美紀に行ったそれと同じである。

 極ノ番は正確に発動し。

 伏黒恵の体から宿()()()()()()()

 

「――――!」

 

 今度はこちらが面食らう番だった。

 理解不能な現象に目を見開くが、それでも体は的確にすべきことを行う。つまり、恵の体を掴んで全力の退避。

 誰にとっても予想外だったとして、イニシアチブは宿儺が持っている。こちらには、新しく伏黒恵というお荷物が生まれたのだから。

 

「領域展開」

 

 そして宿儺は、当たり前の手を打った。

 以前にも見せた、開けた領域展開という絶技。逃げ道を与える必中必殺の領域は、一切の選択肢を与えなかった。

 救助対象を抱えている以上、大地がこれ以上戦闘を継続するのは不可能だ。恵を抱えながら全力疾走をして、斬撃の対処は式神に任せる。

 領域が広がりきる前に、領域展延に恵も巻き込んだ。自分以外に展延を適用するのは初めての経験だったが、やってみれば案外なんとかなる。さすがに、そのまま宿儺と戦闘するのは無謀という程度には高難易度だったが。そうでなくとも、呪力がかなり減っていたし。

 領域外へ抜け出る一瞬で、すでに宿儺と悟は大地の呪力感知外へと出ていた。開けた領域展開は、スタンドアロンで撃ちっぱなしにしたようだ。一応、視界の範囲にいるものの、それもすぐ見えなくなるだろう。

 恵を水辺に置いて、再度突撃を行うまでほんの数秒という所だったが。その前に悟が戻ってきた。宿儺ではない死体をぞんざいにぶら下げて。

 

「ごめん、逃がした」

「目的は果たしたんだから良しとしよう。で、それは?」

「知らね。乱入してきたと思ったら呪具か何かで宿儺を逃がしたんだ。とりあえず敵だと判断して殺したけど」

 

 ぐちゃぐちゃに潰され、すでに誰だったかも分からない死体が投げ捨てられる。一瞬とは言え彼らのレベルに乱入できるのだから、相当な術師ではあるのだろう。大地の知識で該当するのは、裏梅とか言う呪詛師だ。

 

「で、さっきの何? てっきりあれで宿儺が死んだと思ったんだけど」

「俺もそう思った。予想でいいなら言えることもあるが」

「じゅーぶん」

「伏黒の体を、宿儺と同居できないよう上書きした上で追い出した。以前使った時は、この副作用で魂が行き場を失い、そのまま霧散したんだけどな。どうも宿儺は、魂単体で自己を維持でき、しかも肉体まで再構成できたらしい。これについてはポテンシャルの問題としか言い様がないんだが」

 

 そう考えると、ある意味今までの想定が全て無意味になる。なにせ、指一本目覚めた時点で宿儺は自由に動けるのだから。それこそ器はただの起動装置でしかない。

 ある意味、最初に宿儺を起こしたのが、悠仁という檻だった事はとても幸運だったのだろう。

 

「そんなことあり得んの?」

「されたんだからできるんだろうとしか……」

 

 正直な所、言っている大地すら自分の言葉に懐疑的だった。術式の作用でも無し、呪力を物理的に具現化などできるものなのだろうか。それこそ開けた領域展開より、よほど絵空事じみていた。

 ともあれ。

 宿儺を倒しきれなかったのは痛いものの、どのみち指が残っている状態で倒し切れた可能性は低い。恵を取り戻せた時点で十分な勝利と言えた。

 ぐだぐだ話していると、程なくして恵が起きた。もしくは意識だけはあったが、やっと動けるようになったのか。肩から下ろしてやると、ふらつきながらも自力で立った。これは肉体的な疲労よりも、精神ダメージの方が大きそうだったが。まあ、魂を外側から無理矢理押し潰されたようなものなのだから仕方ない。

 いくらかの時間、状況をはっきり理解できていない様子だったが。やがて意識が鮮明になってくると、ぽつりと小さく呟いた。

 

「迷惑かけてすみません……」

 

 顔面蒼白になっている彼に対し、慰める言葉は見つからない。そもそもメンタルケアは仕事ではないのだし。

 だから、とりあえず少しでも気が晴れそうな言葉を放った。

 

「伏黒津美紀は無事だぞ」

「え?」

「お前に行ったのと同じ手順でな。そこだけは安心しておけ」

 

 言葉に、恵は涙ぐみながらほっとした。姉の一件は、よほど心に影を差していたらしい。

 後は姉弟二人の事情だろう。大地が世話を焼くような事ではないし、何もせずとも同級生がフォローをする。

 そんなことよりも。

 

「伏黒くゥん」

「……なんすか」

 

 大地はひたすらうざったい感じで、無理矢理肩を組んだ。気配を察して、恵が胡乱げな視線を向けてくる。

 

「俺はさぁ、君のこと結構信用してたんだよねえ」

「う……。すみません」

「宿儺に対処できなかったのは仕方ないとしてもだよお。その前はマジでどうよぉ? 姉は即魔虚羅出して捕らえる場面だっただろぉ? そうしておけば宿儺には俺が対処するか、そもそも出てこなかったんだからさあ」

「…………」

 

 ネチネチ言ってやる。さすがにぐうの音も出ないのか、恵は反論してこなかった。正直かなり苦労させられたのでこれくらいは言わせて欲しい。

 

「そうだよぉ恵くゥん」

 

 すかさず悟まで悪乗りを始める。こちらにはひたすら鬱陶しそうに睨んでいたが。

 

「正直事情とか全くわかんないけどヤッチマッタネー」

「じゃあなんで口を開いたんですか」

 

 悟が、わっかんねーと言いながらゲラゲラ笑い出す。絡まれる側からすれば普通に鬱陶しいだろうが。

 こういう所が悟の長所だと言えるし、欠点だとも言える。

 簡単に笑い飛ばせるのは、根本的に他者を頼っていないからだ。出来れば上出来、駄目ならば自分ですればいい、そんな考えが根底にある。何でもできてしまったが故に、本当の意味で他人に任せるという事を知らない。任せて失敗した大地が言える義理でもないと言われれば、まあその通りではある。

 そして。時には時には反省している人間に対しても、しっかり叱りつつ指摘してやる事が必要だとも。

 肩に回していた手を軽く上げ、がっしりと恵の頭を掴んだ。

 

「マジな話、今回は俺達がリカバーできる範囲でよかったが。次は仲間の命を無為に捧げる羽目になるかも分からん。猛省して、手遅れになる前に修正しろよ」

「分かってます。渋谷の時も、俺達がもっとまともなら、あの時点でアンタが羂索を始末しきれていた」

「あれは普通に俺の失敗なんだがなあ」

 

 分かっていたからといってどうにもならない事はある。それは双方承知していた。ただ、こういうのは心持ちから変えなければ結果が出ない。少なくとも今は、何かあれば魔虚羅を呼ぶ、その意識が生まれただけで十分だ。

 さて。

 せっかく特級が二人もいるのだから、御所湖結界(コロニー)を掃討すべきなのだろう。しかし、すでにここは一般游者(プレイヤー)以外は無人である。むしろ一般游者(プレイヤー)すら誰も居ないかもしれない。

 ただでさえ特級相当同士の戦いが発生した上、宿儺の領域展開で、呪力適正が無い者から見ても異常があった。今や御所湖の形状が一部変っている。むしろこれで逃げていなければ相当な阿呆だ。

 ただ、安全な結界(コロニー)が一つ増えたと思えば、そう悪いわけではない。……と、思うことにしておく。岩手の結界(コロニー)はもともと御所湖によって北と南が分かれていたため、処理が面倒くさい場所だった。

 すでにどうとでもできる御所湖結界(コロニー)の対処はいいとして。東京に戻るまでは、恵をいびることにした。

 

 

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