だいたい殴れば解決する 作:三回転半ドリル土下座
対宿儺・羂索連合対策本部。彼らは今、全力での撤退を余儀なくされていた。
元々、余波が数十キロも弾けて届いていた戦場。それがここに来て、数倍に激化したのだ。もはや一級程度では包囲もままならなくなり、逃げるだけで手一杯の様相を呈している。
土地が収束している、というのも大いに関係あるだろうが。一番の理由は、宿儺と大地の力が想像できる限界を軽く飛び越えてしまっている為だ。
あくまで大地と悟が負けてしまったらという前提の上ではあるものの。この場合、ダメージの残っている宿儺と羂索なら、残った特級と一級を全員投入すればなんとかなると思われていた。結果的に、それは酷い思い上がりでしかなかった訳だが。宿儺の力は一割にまで減じたとして、こちらを殲滅するに有り余る。
そういった意味では大地もまた同様で、負ける前提だった彼は互角に戦っている。それこそ、かつての五条悟より強いと思えた(まあ悟は悟で、なんだか訳が分からないくらい能力向上しているのだが)。
今の強さは、黒閃らしき現象を起こした為もあるだろう。何故曖昧な言い方になるかと言うと、その規模の衝撃は誰も見たことがないからだ。
ほんの一瞬だったが、直径250メートルほどを、黒い雷がまるで領域のように包み込む。これを黒閃だと判断したのは、他に説明のしようがなかったのと、過去一人としてこの呪力規模で黒閃を発動した事が無いため、否定する材料がなかったからだ。直後に両者の能力が爆発的な向上を見せたというのも理由の一つである。
最悪なのは、想定外の実力者同士による被害の拡大と、土地の縮小が重なったことだ。
宿儺の術式片は前々から散らばっていたが、ここに来て、大地の打撃が地を抉る。驚くことに、彼は風圧だけでそれを成していた。
大地の打撃は威力が集中している。それこそ、そよ風も起こさず、岩を殴れば割れずに穿たれる程。にも関わらず拳圧が発生しているという事は、集中しきっておいてなお有り余るほど威力が上がっているからだ。
戦闘の激化と土地が収束する度、包囲は何度も修正してきた。が、それも限界が来ている。後方拠点の予定だった本部にまで届きつつあるために。
「おいバカタレ、もっと気合い入れんか!」
「無茶言わんといてや。こっちはとっくに全力や」
「冥冥! 状況はどうなっている!」
「あまりはっきりした事は言えないね。そもそもカラスがほとんど全滅してる。もう彼らは敵だ味方だじゃなくて、災害と見るべきじゃないかな。正直に言って、味方につけている烏を維持するだけで手一杯だよ」
「チィッ!」
大きく舌打ちする。それをなんとかするのが貴様の役割だろうが、と大声で罵ってやりたいが。どう考えても、現時点でよくやっている。それも非常に。
余波の迎撃は、はっきり言って間に合っていない。これでも、より中央に近い包囲陣よりはマシな筈だが、全くそうは思えなかった。一級術師を容易く切り裂く刃の破片が、まるで雨のように降り注いでくる。
「五条の小僧は何をやっとるのだ!」
「彼は羂索にかかりっきりだねえ。ラブトレインとやらと無下限呪術のかみ合わせが、思った以上に効いてる。迂闊に手を出せないみたいだ」
「あの無能ォォォ!」
血管が千切れそうな勢いで、直毘人は叫ぶ。
甘っちょろい悟の事だから、魂胆は手に取るように分かった。世界人口そのまま肉の壁にされている心地なのだろう。たかだか
決断を戸惑わせているのは、大地の存在もある。つまりは、彼が予想外に健闘しているのだ。そのために、悟が「まだ時間を掛けていい」と思っている。
「あの大馬鹿、戻ってきたら頭カチ割ってやる!」
「いうて羂索の相手は悟君以外だれもできんやろ」
「それに比べ、大地はさすが俺の孫!」
「ボケ倒すんもほどほどにしてな。突っ込むの、以外とめんどいんや」
突かれたように嘆息しながら、直哉が呻く。状況が状況なので、分からないとは言わないが。直哉が黙ってテンションを上げるタイプなのに対し、直毘人は喋った方が調子をつかめる。
まあなんだかんだ言いつつも、迎撃は直毘人と同等にこなしている。
しかし……
「お前はなぜそんなに、口ばっかり達者なクソガキになったんだ。どこで何を間違えたんだか」
「血筋やね。誇ってええで」
やはり口が減らない。
実力だけは十分なのに、どうしてここまで小生意気で小賢しくなってしまったのか。昔は、昔は……いや、直哉は子供の頃から変わっていない。やはり問題は血筋や育て方ではなく本人の気質だ。
思ってみれば甚壱はまあまあ素直だし(馬鹿だが)、その子である大地はとてもいい子だ。大地は幼少の頃からよく構ってきたし、よく懐いてきたからやはり気質が一番大事だな、よし! と勝手な理論武装をした。最早何がよしなのか、自分でも分からなかったが。
「庵準一級は無事か?」
「ちゃんと逃げているよ。お利口に、私達の直線上から外れないようにしている」
うむ、と小さく頷いた。
現在の均衡は彼女無くしてありえない。遮二無二逃げずに抵抗しているのも、歌姫を確実に逃がすためだ。投射呪法の使い手だけなら、圏外に出る程度、なんともないのだから。
「彼奴には、死んでも術式を解くなと言っておけ」
「教え子の命がかかってるんだから言うまでもないと思いますけど……まあ、一応伝えておきましょう」
それでいい、と直毘人は頷く。
分かっているから言わなくてもいい、などというのは、能なしの傲慢だ。分かりきった事でも伝えるという行為自体に意味がある。そういったものの重要性は、まだ三十にも届いていない冥冥には分からないのだろう。
もっとも、一級術師にもなってそれでは困るのだが。これは呪術師の慢性的な病だった。偏った実力主義であるために、社会人として当然の行いを理解していない者が多い。五条悟も含めて。
即断即応を求めると言えば聞こえはいいが、それは情報の齟齬を大量に生むという行為だ。しかも後から是正する術を持たない。だから保守派が状況に不満を持っていても改革派に賛同できなったというのに。
総監部が事実上の解散をし、保守回帰派も壊滅した以上、訂正は必要になる。そこで余計すぎる横やりを入れさせないのが、現総監部が今後すべき事だ。ましてや五条悟が復活した以上、改革派は調子に乗るし、本人も非常にうるさいだろう。勢いに逸る改革派は、五条悟以上に状況を分かっていないのだし。
(ま、どんな悩みも、とにかく勝ってからだわな)
人類全滅というのは、言うまでも無く最悪のシナリオだ。が、それと大差ないくらい、宿儺が生き残って事実上の支配者となった場合も酷い。それこそ人類絶滅よりマシと言えないくらいに。地上の覇権を握っていた人類が、全て家畜になる。
犬になるくらいなら、挑んで死ぬか、などと考えて。流石に悲観的すぎると空想を振り払った。まだ何が決まったわけでもない。
やっと危険域を抜けて、後退しながらも一息入れる。遠からず、ここにも攻撃が届くようになるだろう。状況を見ながらになるが、後退は続けなければならない。
「ひとまずは脱出できたか。冥冥」
「すでにやっているよ。逃げ切って再構築ができたのは14組。残りはまだ移動中で、中には怪我人が出て包囲を維持できない者がいる。そういった者達に対しては、他の組と合流するよう誘導済みさ。ひとまず死者だけはまだ出ていなさそうだ」
「うむ」
さすが冥冥、仕事が早い。
フリーの呪術師(名目上はしっかり公務員ではあるが)などをやっていられるのは、仕事の速さと確実さ故だ。この辺に抜かりがあっては、そもそも使ってもらえなかったろう。
ただ重宝される位置に居るだけで頼りにされるなどというのは、もの知らずの妄言だ。そこで成果を上げるには、相応の能力が必要だった。
「で、小娘の方は?」
「ぐったりしてるね」
「ふん。まあ不甲斐ないとは言えんか」
なにしろずっと、長距離の対象に術式を維持している。呪力消費は元より、精神的な疲れも相当なものだろう。準一級程度の未熟極まりない術師だが、直毘人をして、貢献を認めてやらんでもないと思える程度には働いている。
限界が近そうな歌姫を冥冥に背負わせて、移動を続ける。と、いきなり甲高い音が鳴り響いた。
あまりにも聞き慣れない音に、思わずぎょっとするが。そういえばと思い出し、懐に手を入れた。取り出されたのは、一昔前の携帯電話を一回り大きくした機械である。
これは事前に渡されていた衛星通信機器だ。戦いが始まった時点で山梨県内のあらゆるインフラが壊滅するのは分かっていたので、こういった道具を渡された。自衛隊からの借り物という事もあって、繋がる先は多くない。とりわけこの状況で掛ける相手など一人だ。
「どうした夜蛾」
『忙しい中失礼します、禪院老』
「本当にな」
非常に鬱陶しいが、無意味な連絡が来ない事も分かっている。前線にすぐ伝えたい程度には大事なのだろう。
『端的に伝えます。そちらに無数の核ミサイルが発射されました』
「どこだ? いや、どこでも関係ないと言えばそれまでだが」
『アメリカとロシアの原子力潜水艦から。国の決定か、一部の暴走かまでは分かっていないみたいです』
「ふん、んなもん暴走に決まっとるだろう。真実はどうあれ、事実はそういうことになる」
当たり前だが、我が身可愛さに核ミサイルのつるべ打ちなど、間違っても発表できない。この二国は、是が非でもそういう事にするはずだ。そして暴走した者を作り出し、内々に処理して全てを終わらせようとする。まあ国家としては当たり前の行動だ。
当然、周囲がそんな説明で納得するわけがない。あの手この手で責任を追及する。
「クソ厄介だな」
全て、日本が
つまりは、この戦いが終わった後にもややこしい問題が残ったわけだ。
政治家がどれだけ奇跡的な手腕を持っていようと関係ない。相手は、そもそも日本に滅んで貰わなければ困るのだから。これを覆せるのは相手を脅せる暴力――今後表舞台に立つであろう呪術師のみ。
無駄に仕事を増やされた殊に、苛立ちを憶える。黙っていればいいものを。
『驚かないのですね』
「あん? それ本気で言っとんのか?」
『いえ、失言でした』
確かに直毘人単体で核兵器をどうにかする力はない。食らっても、なんとか死なないくらいはできるだろうが。後は呪力防御を全開にして、影響の外側へ走って抜けたりなど。呪術師の中では常識だが、呪力を纏っていると、あらゆる外的干渉への抵抗力が強くなる。それが例え放射線だろうと。
が、こういった事は、特別一級術師でしかない直毘人の話。特級術師の中で、核兵器で死ぬような惰弱は存在しなかった。
まあそれ以前に……
「あ」
直哉がぼんやりと呟き、空を見上げた。遅れて直毘人も視線をやると、僅かに尾を引く呪力の跡が確認できた。呪力制御に比べるのも烏滸がましいほどの差があるため、本当に一瞬感じられただけであり、すぐに何も分からなくなったが。
何があったのかなど、まあ、考えるまでもない。
『……全て解決しました。いえ、解決したと言って良いのか分かりませんが』
「迎撃されたか」
『流石にこれは、日本政府すらも混乱しています』
これは呪術師全体に言えることだが、呪力を帯びたものが最大の脅威であるものの、純物理的衝撃を軽視していい訳ではない。故に呪力を利用した感覚器官の鋭敏化は、残穢を掴むよりも早く、誰もが習得する技術だった。優先的に憶えさせられる訳ではなく、その方が遙かに簡単だから自然にできるようになる、という話だ。
まあ直毘人も、大地が数十キロ離れたミサイルを察知する程とは予想外だったが。
大地が呪力砲で吹き飛ばしたように、宿儺も斬撃で切り払った様子である。
激震が一切中断されなかった所を見るに、彼らにはミサイルの迎撃など、片手間ですらなかったようだ。
「まったく……」
いくらそうそう歴史に現れないのだと知っていても。ああいうレベルの使い手は、特級とは別の枠組みを作るべきではとひっそり呟いた。
宿儺。平安当時は鬼神と恐れられ、やがては表舞台ですらも語り継がれた最強の男。そんな彼は意外にも、そして当然のように、実戦での黒閃経験はほとんど無い。
根本的に、宿儺にとっての戦いとはほとんど戯れだ。本気になった時、相手が10秒以上持った例など数えられる程度。だいたいが気力も定まらぬ初撃で決まるため、黒閃が出るかどうかは実力以上に運が左右した。当然、戦いの中、連続で黒閃が発動した事など一度も無い。
それなのに。
(なんだこれは……)
視界の中、至る所で黒い花火が舞い散っている。その数は、最早10や20では効かない。加えて大地が発したものまで数えれば、軽く50を超えるのではないだろうか。
体が限界を超えて走る感覚。レベルアップし続けているのが手に取るように分かる。このまま戦い続ければ、ただ畏れ崇められたが末のそれではなく、真に『神』まで昇るのではないかと思えるほどに。
ある意味に置いて、彼は初めて戦いの愉悦というものを理解した。全力を出すことが出来る喜び。強敵が存在してくれる事の喜び。ひたすら強くなり続ける事ができる喜び――
ああ。これに比べれば、孤高の最強であったのがなんとつまらないことか。
断言できる。今この瞬間こそが、人生の全盛期だと。
(噛めば噛むほど旨味が増す。まったく、愛い奴め)
また、大地は強いだけではなく、力の方向もひたすら宿儺好みだった。術式頼りではなく、最初から勝てないと当て込んで策にのめり込み溺れるでもない。正面から挑んでくる男の、なんとも愛らしいではないか。それを決断する者すら、久しく見ていないというのに。
手慣れた
「くく……初めて貴様に本気で感謝してやってもいいと思ったぞ、羂索」
宿儺は最強である。これは純然たる事実だ。故にこれまで、最強として振る舞ってきた。全て彼にとって、何一つ疑念の余地などない完璧な理である。
しかしここに来てそれを捨てた。最強であるから最強として存在するのではなく、最強を
もっとだ。
気付くのが遅かった。だがまだ手遅れではない。目の前には強さ比べを出来る男がいる。
「俺はまだまだ強くなっているぞ、天童大地ィ!」
「いくらでも強くなれよ! 悉くを俺が粉砕してやる!」
黒閃という力について、現代の術師はあれこれと理由を付けている。恐らくは、事象・現象という意味ならそちらの考え方が正しいのだろう。
しかし、それを知ってもなお、宿儺の解釈は違う。
黒閃とは発露だ。意思の表現。ある程度の才を持ち、それを伸ばし、なおも力を求めた者に訪れるもの。呪力が人を選んでいるのだ。そいつが呪いの真髄に近づく事が相応しいかどうか。
惑わぬ者だけが触れることを許される。より高きを求めた者には、より強く大きく微笑む。
だからこれは。
「グ……ぶっ」
「カハッ……!」
当然のことだった。
通常の綱引きでほぼ互角という事は、常に黒閃が咲いている状態だと防御などままならないという意味だ。お互い致命的な損傷こそないが、常に体の一部が欠損しているような状況。
これで初期の、中距離で差し合っている状況なら宿儺が一方的に潰していただろうが。時間停止と見分けがつかない超速移動により、接近させないというのはほぼ不可能。自滅に近い形で、なんとか単発で終わらせているような有様だった。
現在の黒閃発生率は、互いにおよそ二割。双方が活きているのは、運ではない。これだけ黒閃が発生していれば、なんとなくどれが成立するか分かるのだ。それに合わせて、体をひねったり手足を挟み込んだりして、体の一部を犠牲に死を遠ざけている。
(まずあり得ない事だが……このまま進めば、俺が先に力尽きる。呪力の消費が激しい)
確かにシビル・ウォーを発動している。御廚子の二重展開により呪力消費も倍になった。だがそんなものは、三倍以上ある呪力量を覆す程ではない。
体術、これが明暗を分けていた。
ただでさえ反転術式というのは効率が悪いし、その上、肉体を構築するのは莫大な呪力を要求される。大地は類い希な身体制御能力によって、ダメージを最小限に抑えていた。そのために、反転術式に要求される呪力が少ない。
人間を辞めている体術と、黒閃を察知する勘、それらに即対応できる呪力操作技能。全てが揃って初めて可能な、武神が如き御業である。宿儺ですら、逆立ちしたって真似はできない。
(遠からず叩き潰される)
これは全くの想像でしかないが。天童大地は近々、全ての攻撃が黒閃となる。少なくともそう思わせるだけの研鑽と下地はあった。
(それを見てみたい気もするが)
たどり着かれてしまえば、さすがに勝ち目がない。
相手が三流であれば、黒閃を連続で食らった所で恐れるに足らないが。天童大地ほどの存在であれば、一発で死ねる。ましてや自由自在に黒閃を発動するならば、それは呪いの神としか表現のしようがなかった。
こちらも予感でしかないが、この戦いが続けば、何れは宿儺も同じ所へたどり着く。しかし、確実に大地より遅い。積み上げてきたものの方向性が違うという言い訳はできるが、シンプルに実力が違う。敗北感を感じずにはいられなかった。それがまた面白い。
「無駄無駄無駄無駄無駄アアァァァ!」
愛すべき大敵は、今も元気に渾身の斬撃を砕いている。一発で山を両断するような斬撃を、よくもまあガラスを割るような気軽さで壊してくれるものだ。
彼と戦い続け、永遠に強くなり続けたい。奴がどれほどまで高く昇るかを見てみたい。とはいえ、分かってはいる。負ける可能性を作ってまでする事ではない。
とっておきはまだ
昔から術式を隠すような事はしなかったため(そもそも隠した手で相手を倒すような、せこい真似を良しとしていない)、伝承には伝わっている可能性が高いが。知られていた所で関係ない。切り札とはそういうものだ。
(成立させるのは少々手間だな)
今まではできなかったが。黒閃の連続経験によって急速なレベルアップを果たし、今までは考えもしなかった表現を可能にする。
後は必勝のタイミングを狙うだけ。
黒閃の間隔が短くなっていく。現状では宿儺が四割強、大地が五割程度の黒閃発動率を誇っていた。今はまだ些細と言っていい差だし、距離の優位がある分宿儺が有利だ。しかしこの差は、今後広がる事はあっても縮まりはしない。大地が黒閃を完全習得した時こそ、宿儺の完全な敗北が確定する。
数多の空間破砕によって、すでに景色はぐちゃぐちゃだった。
最初は色彩に違和感を憶え、徐々に白と黒にしか認識できなくなる。現在では距離感覚すら怪しい。
もっとも、それらは大きなファクターたり得ない。大地の時間停止および超速移動の前では、細かい距離の把握など役に立たない。ましてや御廚子は、制圧能力の高い術式である。むしろ、細かく距離を把握する必要がある大地が、平気な面で戦っているのが意味不明だった。
何度刃を砕かれようとも、とにかく敵を外へ追いやる。
世界を断つ斬撃は、勝負所の為に封印せざるを得なかった。これから行おうとする事と、両立させるのは無理だ。時間停止の発動がない事を祈るしかない。
双方とも下手を打ったりなどしなかった。しかしそれでも、勝負の流れとしか言い様がないものは存在する。瞬間的な要素によって、一時的な優位が作られた。
つまりは、宿儺の側に風が吹く。
一時的に術式の出力を上げ、同時に大きく後方へ跳ねる。
これをただの仕切り直しと考えるほど、天童大地という男は甘くない。故に、全力で接近を試みていた。だが、頼りの足を一時的に失った以上、追いつくことは敵わない。時間停止でも超速移動でも無理な間を見切ったのだから当然だ。
十分に距離を開け、宿儺は
そして。
戦いを決める言葉を呟いた。
「二重領域展開」