現代の日本に転生したかつての勇者は学園生活で青春を謳歌する 作:虎武士
「うわああああああああああああっ!!」
朝。
絶叫マシンを体験したかの様に彼──
「ああああ…あ? え、あ……え?」
頭の中が混乱していて何がなんだかわからない。
綺麗に整理整頓されたベッド。タンスに物置などの家具が設置されていて、周りの雰囲気も
それもその筈。
心と身体は宇野川勇作のもの、彼はたった今、勇者だった前世の記憶を思い出したのだから。
前世の彼の名はエミル、此処とは異なる世界で勇者だった青年の名だったのだ。
煌びやかな短い金髪は黒髪になり、碧眼だった双眼は黒に変わっている。
(そうだ……彼奴と、魔王と相討ちになって……)
世界を混沌へと誘おうとしていた存在、魔王ヴァネッサ。
長い赤い髪と絶大な魔力と美貌を併せ持つ魔族の王である美女。
彼女率いる魔王軍の侵攻を阻止すべく、エミル率いる勇者パーティが迎え撃った。
エミルが勇者パーティの面々は一癖も二癖もあるが、志を一つとしている者達ばかりである。
王都では天下一品の双剣術の使い手にして、寡黙な性格のスウェン。
アポカリプス教会のシスターにして、聖女と讃えられていた清廉潔白なフローラ。
エルフ族の王族で女癖が悪いが、百発百中の弓の使い手のリオン。
流れ者の魔女で酒癖が悪いが、魔法に右に出る者がいない美女・ジュディス。
魔物を使役する召喚士である天才幼女、だが感情が乏しいフィオレ。
人生の先輩にして武術の達人、老練の拳士・ベルガー。
フィオレの使い魔にして人懐っこい白狼・ガウェイン。
文字通り一癖も二癖もある7人+一匹のパーティで挑み、魔王城に正面堂々と進むまで至った。
(魔王城は魔物や魔族の巣窟……熾烈極まる激闘が続く事を強いられる事を余儀なくされた)
中でも魔王軍の中枢とも言える四将軍を始めとする猛者達の前では、仲間達はエミルを魔王の下まで行かせる為、わざわざ残って死地へと飛び込んだ。
それを繰り返した先に奴は──魔王ヴァネッサは最上階の玉座にて待ち構えていた。
「良くぞ参った、其方が此度の勇者じゃな?」
「勇者エミル」
エミルは内心、彼女の美貌に見惚れてしまったと自嘲する。
この世界に高嶺の花と呼べる存在がいるとしたら、彼女以外に存在し得ないだろう。
だが目の前にいるのは人間界に害を齎す魔界の王、心を許せば隙を突かれる。
「当然僕達が此処まで来た目的も分かっているんだろう!?」
「無論。この妾を討つ為であろう」
妖しく笑みを作るヴァネッサ、エミルは惑わされそうになるが頭を左右に振り、邪念を振り払おうとする。
「そしてこの城は今、妾と其方の二人だけとなった」
血の気が引いた音がした。
エミルの様子を見て「信じられぬか?」とヴァネッサは真剣な表情と眼光が彼を見据える。
「先刻我が精鋭達の命が尽きた。其方の仲間達を道連れにな」
「……嘘だ」
「現実を見るのだ、そして自覚せよ。其方は旅の中で理解していた筈……旅の同志が何れ命を潰える事を」
頑なに否定しようにも美しい魔王は現実を突き付けてくる、例えそれが自分を揺さぶる虚実だとしても。
《
これまでの旅を共にして来た聖剣・エクシオンの声が響く。
《彼等は
此処で折れてしまえば彼等への侮辱行為となる。改めてエクシオンを持ち直し、その剣先をヴァネッサに向ける。
「……僕は君を憎む気持ちなど更々ない」
「どういうつもりじゃ。妾は魔王、魔族と魔物を束ねる王ぞ。上面で言葉を並べても内面は憎しみで溢れておるのだろう? 仲間達を、愛する者を殺した我々を殺して復讐を果たしたいと」
「僕は憎しみで君と戦わない。その怨念を絶つ為に君を止める」
あまりにも純真無垢な言葉は失笑ものだが、ヴァネッサは真剣なまでにその言葉を受け止めた。
「……ハハハハハハハ! 勇者よ、其方は面白いな! そこまで聞いてしまったからには、相応の覚悟を以て応えねばなるまいな! ──出よ、魔剣エビルス!!」
好敵手と見定めたヴァネッサは天に向けて片手を掲げ、禍々しい魔力で形成された不気味な剣を顕現させる。
「勇者……否、エミルよ! 存分に死合おうぞ、何方かが斃れるまでになぁ!」
「僕は君の道楽に付き合うつもりはない…!」
狂おしいまでに戦おうとする
勇作は目を閉じて魔王に挑むまでの経緯が脳裏に蘇り、ベッドから出てパジャマから普段着に着替えようとする。
トントンッと扉をノックする音が響く、勇作は「はーい」と応えると自分より年下の少女が入ってきた。
「兄貴〜、さっき凄い声を上げてたけど何かあったの?」
我が妹、
「ってか兄貴が早起きなんて珍しいね。いつも寝坊助で寝坊ばっかするのに、矢でも降るのかな〜?」
「うっさい、僕でも早起きするの」
ニヤニヤ笑って揶揄ってくる心優を足らいつつも、早く出るように促す。
「じゃあ下で待ってるからね〜」と退室し、階段を降りる音が聞こえていった。
大分意識もハッキリしていった。
あの最終決戦の果て、
だが死んだ筈の勇者の魂はこの異なる世界にある日本と言う国の一般的な家庭の少年に生まれ変わり、突然その記憶が残っているのは少々気になる。
だがもしも、他の仲間もこの
(もしかしたら……魔王軍も何処かで?)
有り得るかもしれない可能性を考え、
これが当時小学三年生だった宇野川勇作の小さな一コマである。