現代の日本に転生したかつての勇者は学園生活で青春を謳歌する 作:虎武士
入学初日で色々な人に出会う
──私立時ヶ丘学園。
東京都の某所にある古い伝統が残されている高等学校。
創立70年を迎えてもなお、老朽化することなく真新しい新学校と見紛う者も多々いるとの声が上がる程。
満開の桜が咲いて舞い散る花弁が今年入学する新入生達を出迎え、彼等の入学を祝福しているかのようだ。
「此処が僕らの新しい学校生活の場所になるんだな」
桜の花弁が舞う道を通って宇野川勇作が嬉しそうな声を上げ、正面の真新しい印象を受ける校舎を見上げる。
「うんうん。それにしても綺麗な学校だね? とても70年も経っているとは思えないよ」
その隣で黒髪に可愛らしいリボンを巻いて
「ゆーくんと同じ学校にまた通うとは思わなかったな〜。小中学一緒だから、流石に高校は違うかな〜と踏んでたから」
「どう言う事?」
勇作は幼馴染の言葉に苦笑いしながら突っ込み、共に校庭内を歩く。
徒歩で15分、バスで1時間揺られて漸く行き着いた新しい学舎で新しい出会いを期待して歩きながら辺りを見渡してみる。
鼠みたいに出っ歯が特徴の男子や犬みたいな耳の頭髪の女子、他にも目付きの鋭い女子やおかっぱ頭の気弱そうな男子。
挙げるだけでキリがないけど、個性的な新入生が揃いに揃ってこれからの学校生活に思いを馳せているのだろうと解釈する。
「失礼致す、急かせてくれぬか」
と、凛とした声と共に一人の女生徒が通る。
亜麻色のショートボブにツリ目が印象的で、慎ましいスタイルの少女だ。
「今の娘、変わった喋り方だったね」
「うん、何処かの良い所のお嬢様か何かかな? ……っと、早く行かないと入学式が始まるね」
勇作とさきは早足で校内へと足を踏み出していく。
「これより第70回、時ヶ丘学園の入学式を執り行わせて頂きます」
体育館に該当する多目的ホールの中でパイプ椅子に座り、教頭先生らしきツリ目の中年の女教師が挨拶する。
前方に勇作達新入生、後方に在校生と言う並びで座っている。
「先ずは学園長からの挨拶です、どうぞ」
「うひょひょひょ、初めましてじゃな新入生の諸君。学園長の
明らかにスケベそうな名前じゃん、と新入生一同は思った。
目つきも新入生……特に女生徒を品定めしている眼差しで、さきを含めた女生徒達は背筋を思わず伸ばす程だったとか。
(あの学園長大丈夫か? 責任問題で解雇されそうな気がするんだけど)
何だかそうなりそうな気がしてならない。
他の教員と言えばさっきの教頭らしき女教師の他にもいる。
大和撫子と言う言葉が似合いそうな着物を着ている女性に、髪が逆立ったジャージ姿の男性。
研究者風の怪しげな細身の男性に、黒いシャツの上に白衣を羽織った巨乳美人、眼鏡をかけた高圧的な印象の男性。
他にもいるけれど、印象が残るこの面々ぐらいだ。
「へえ。中々面白え学園生活になりそうじゃねーの」
右隣の席の方から陽気な声が聞こえてきた。
振り返ると勇作より背が高い男子生徒がいた。
オレンジ色の獅子の様な鬣の頭髪で、裾を捲ったブレザー姿だ。
「えっと君は?」
「俺は
「宇野川勇作だ、よろしく獅子堂君」
「王牙でいいぜ、そっちの方が呼びやすいだろうよ」
「なら僕も勇作って呼んでくれ」
動機が不純だが気のいい男なのだろう。
「以上、学園長からのお言葉でした」
知らない間に栄露井学園長の挨拶が終わっていた、まあ別にどうでもいい事なんだろうが。
「次に在校生を代表して現生徒会長・
「はい」
そう言って壇上に上がったのは一人の女生徒。
背中まである紫色のロングヘアーに凛とした眼差しをしている、上品な足並みで上流社会の人間だと言うのが分かる。
「お、おい……九条ってまさか」
「嘘、もしかしてあの九条グループの…!?」
ざわつき出す新入生達の声が耳に入ってくる。
「マジかよ…! あの九条財閥のお嬢様か…!」
「この国で最も財力のある権力者の一族がこの学園に在学していたんだ…」
「それに美人だよね、憧れちゃうな〜」
さきだけは呑気に聖良の美貌に見惚れていた。
「御紹介に預かりました、九条聖良です。この学園の生徒会長を務めさせて頂いてます。新入生の皆様、御入学おめでとう御座います。これからの三年間辛い事、楽しい事がありますけれど自分達の中でそれぞれの青春を謳歌して頂く事を願います」
礼儀正しく一礼し、拍手喝采が起こる中で聖良は静かに歩いて元の席へと戻っていった。
(それにしても……あの九条生徒会長……何か引っ掛かる)
確信はないがあの神聖な雰囲気、前世の──アポカリプス教会に属する聖職者に近しいものだ。
前世の仲間である"彼女"もそうだったが、だけど唯単に似ているだけの他人だと勇作は認知する。
「以上を持ちまして入学式を終了致します。クラス分けは廊下の壁に貼り付けていますので、其方を確認して自分の教室へ向かって下さい」
教頭先生の挨拶を最後に、入学式は終了された。
クラス分けの表欄は言葉の通り、下駄箱の向かい側にある壁に貼られていた。
新入生達はそれぞれのクラスを確認してその場を去っていき、勇作・さき・王牙もそのクラス表を確認する(ちなみにさきと王牙の挨拶は移動中に済ませている)。
「僕は……A組だね」
「私の名前もある!」
「俺もA組……右に同じくって奴だな」
三人はそれぞれの名前が同じクラスに記載されている事に安堵する、すると黄色い声が湧き上がる。
振り向いてみると金茶髪の男子生徒が多数の女生徒に囲まれている。一見するとハーレムを築き上げている様に見えるが、男子生徒の方は「み、皆さん! 道を開けて下さい!」と慌てふためく様子であった。
「……チッ、イケメン死ね」
「嫉妬丸出しだよ王牙」
「あんな光景見せられたら惨めじゃん!」
羨ましがる王牙の嫉妬全開の僻みに苦笑いする二人。
取り敢えず教室へと移動していき、やがて貼ってあるプレートに1年A組と書かれているので、その中へと入る。
机と椅子の数は30個、此処が新しい自分達の学び、教え合う場所だと実感させられる。
「僕は……彼処にある窓際の一番端だね」
「あっ、私ゆーくんのお隣の席だ! えへへ、嬉しいなぁ」
「……幼馴染の男女が隣同士の席、なんて羨ましいシチュエーションだよおい!」
入学初日から優越感を見せられている王牙は項垂れ、そのまま自分の席──窓際の最前列の席へと座る。
他の生徒達も和気藹々と話し合ったり、物静かに座ったりして親睦を深めている様子が見られる。
ガラッと引き戸が開かれ、一人の女性が入ってきた。
しかもその女性は先程、入学式にもいた着物姿の女教師だ。
「あっ、皆さん。既に着席していたんですね」
感心した様子で女性は優しく微笑み、教卓に教科書を置く。
「初めまして。今年度から皆さんの担任教諭を務めさせて頂きます、
上品に、そして優雅に挨拶する彼女に勇作達を含めた何人かの生徒は拍手喝采を送るのだった。