現代の日本に転生したかつての勇者は学園生活で青春を謳歌する   作:虎武士

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イケメンが忠犬キャラだった

「あーもう! 頭に来るなー!」

「全くだ! 勇作を扱き下ろした上、とことん上から目線で見下しやがって!!」

 

 昼休みの空き時間、食堂にさきと王牙の不満に満ちた声が響く。

 

 米粒を咀嚼しながら眉間に皺を寄せ、HR前の戦線布告を思い出していた。

 

 罵られた勇作は特に気にしてない様子だったが、さきと王牙の心の胸中はとても穏やかではない。

 

 パクパクと米粒を箸で口に運び込み、水で水分補給すると言う繰り返しである。

 

「って言うかゆーくん! 頭に来ないの!?」

 

「そうだぜ? 俺も勇者の生まれ変わりだなんて話信じてねえが、ムカつかねえのかよ?」

 

 箸で勇作を指して王牙が催促する。

 

 二人の指摘通り、普通の子供なら怒ってもおかしくない中傷レベルの侮蔑発言である。

 

「そこまで怒る程の事かな?」

 

 だが勇作は空の様に心が広かった。

 

「まだ僕達は知り合って間もない。まだお互いの事を知らないし、知ろうとするだけでその相手を恐れてしまう。一種の防衛本能と言うなら、鮫島君達の行動は正しいと思う」

 

 自分なりの見解を伝えると二人はポカンと口を開口、暫くしてさきが「ゆーくんらしいったららしいね」と納得する。

 

「あー……分かったようで分かんねえ、頭悪りいからこんがらがるわ」

 

「これから学んでいけば分かってくるんじゃないかな」

 

「そうだな」

 

 渋々と王牙も同意。

 

「キャー! 天川君!」

 

「桃士君、写真撮らせてー!」

 

「げっ」

 

 黄色い声が食堂に響き渡り、振り向けば天川(あまかわ)桃士(とうじ)が女子達に囲まれていた。

 

 本人は苦笑いしながら「あの、道を開けて下さい。通れないのですが」と呟くも、女子達は彼を包囲して黄色い声を上げている。

 

「あのイケメン野郎〜〜……一週間もしねえ内にハーレム出来上がってんじゃねえか」

 

「いや、全然違うと思うんだけど」

 

 寧ろ恋する乙女と言う名の野獣達の巣に放り込まれた、可哀想な小動物と言う構図にしか見えない。

 

「…天川君を見てると、ちょっと()()を思い出すなぁ」

 

「もしかして…前世の記憶って奴?」

 

「うん。愛用の剣の事をね。流暢に喋る奴でさ、やたらと()()()()()()んだけどかなり変わった性格の剣なんだよ」

 

「は?」

 

「まあ気持ちは分かるよ? 子供の頃、私もそれを聞いて戸惑ったよ。そんな気持ち悪い剣いるわけないじゃんって、今も思ってるけど」

 

 さりげなくディスってくる幼馴染の毒舌を流しつつ、勇作は続ける。

 

「だけどそんな奴でも僕を支えてくれたんだ。ダンジョンで強大な魔物に苦戦していた時も、雪山で遭難した時も、火山の火口に落とされて命の危機に晒された時も、こんな僕を励ましてくれた」

 

 武器と言えど彼奴は立派な相棒、その魂を忘れられない勇作(エミル)は黄昏れる様に共に駆けた冒険の旅路に思い耽る。

 

「……なんかさらっととんでもねえ事言ってっけど、突っ込んだ方がいいのか?」

 

「ツッコむだけ無駄だよ、思い出話に巻き込まれるだけだから」

 

 とても作り話と思えない英雄譚に王牙の脳内はキャパオーバー寸前であり、頭が沸騰しそうな彼はさきに問い掛けるも一蹴されてしまう。

 

「あ、あの……宇野川君? 今、何と仰いましたか…?」

 

 女子生徒の包囲網から解放されて、桃士がヨロヨロと勇作達のテーブルにやって来た。余程もみくちゃにされたのか、疲弊しているようだ。

 

「げっ、な、何だよ急に」

 

「はいはい睨まない。別に何もないよ? ゆーくんの痛い夢の話だから気にしないでね」

 

 地味にディスるさきの毒舌は置いといて、桃士はジーッと勇作に視線を向ける。

 

「えーと……天川君? どうかしたのかな?」

 

 マジマジと此方を見つめる桃士に勇作は困惑する、一体どうしたのかと思っていると、彼は静かに口を開く。

 

「……魔王ヴァネッサとの最期の一騎討ち」

 

「……!?」

 

 桃士の口から思わぬキーワードが発される。何故それを知っているのか、と勇作は目を大きく開いて驚く。

 

「勇者エミルは魔王との同士討ちによって致命傷を負い、その死と引き換えに世界を救いました。愛する者との約束を果たされる事なく、その魂は天へと旅立たれました」

 

「???」

 

「ほえ?」

 

 このイケメンは何を言い出すのか? 困惑の色が尽きぬ勇作は只々桃士の言葉に耳を傾けるだけだ。

 

「……やっと。やっとお会い出来ました」

 

「天川君、ひょっとして君は──」

 

 前世の自分が知り得る体験、それを知る彼に何か確信を得た勇作が言葉を紡ごうとした瞬間──校内にチャイムが鳴り響く。

 

「げっ、もう午後の授業を知らせる時間じゃねえか!」

 

「話している間にすっかり忘れてた! ゆーくん、早く食器片付けよう!」

 

「あ、うん。天川君、話は放課後に!」

 

 三人は慌てて食器をトレーに乗せて、カウンターに戻そうと去っていく。

 

 勇作が桃士の横を通り過ぎる瞬間、桃士は口パクで勇作に何かを告げる。

 

 勇作はそれを聞いて視線を向けるも、今は教室に戻らんと早歩きで食堂を退室していった。

 


 

 1-Aの教室にて、藤乃弥生による授業が開かれていた。

 

 現在は6限目の授業であり、勇作達はしっかりと耳を傾けている。

 

「人と言う文字を皆さんはどう捉えてますか? 人と言う文字は、人が二人なら二人は人が、三人なら三人が合わさってできている文字ですよね。だから一人を失くせば人と言う文字はなくなるんですよ。つまり皆さんが一人になれば人と言う文字はなくなるんです」

 

 相変わらず着物姿で弥生は花の様な笑顔で教科書を開き、一人一人の様子を見て足を進める。

 

「一人を失くせば人で失くなる……と言う事でしょうか」

 

「天川君は良い線を突きますね。この問いに正解は存在しません、この学校生活で人として自分がどう言う"人らしさ"を求められるのか、他人に対してどう認められるかです」

 

 その問いに反応は半々。勇作や桃士の様に聡明な者がいれば、さきや王牙の様に乏しい者がいる。

 

(う〜〜ん……意味不明)

 

(まあ……要は大切な人に恥じない人間を目指せって、事じゃないかな?)

 

 

 

 やがて放課後となり、勇作達三人は校舎裏のグラウンドへと足を運ぶ。

 運動部やレクレーション、昼休み等で使われる事が多いこの場所で、アスレチックの頂上に座る青年の姿を勇作達は目視する。

「……天川君」

「……ふふ」

 にこやかに微笑んでアスレチックから飛び降り、桃士は華麗な着地を披露する。

 さきは素直に「すごーい」と拍手喝采し、王牙はケッと舌打ち。

「──()()()()()()()()()()。この言葉は僕の前世──勇者エミルとその仲間達しか知り得ない合言葉だ」

「え?」

「おいおい、っつーことはつまり…!?」

 与太話と思っていた事がひしひしに現実味を帯び、さきと王牙は桃士に疑惑の眼差しを向ける。

 勇作自身も“その可能性“に行き着き、彼をじっと見据える。

 そして──

 

「──勇者エミル! 我が担い手、再びお会い出来て嬉しゅう御座います!!」

 

「………はぁ」

 

『は?』

 

 目の前のイケメンが土下座の姿勢で勇作に恭しく頭を下げ、勇作は溜息を吐く。

 そして勇作は前世の記憶に残る、ある一幕が脳裏に過ってきた。

 

 

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