現代の日本に転生したかつての勇者は学園生活で青春を謳歌する 作:虎武士
時刻は午後四時。
勇作・さき・桃士・王牙の四人は教室から出て、戸締りをする。
「さて皆、これから部活動を見てこよっか♪」
さきは微笑ましく言葉を紡ぐ。
「そうですね。まだこれといった部活に属しておりませんが、先ずは一通りに見て行きましょう」
「面白え部活があったら即入部もありだし、もしかしたらモテる事が出来っかもな」
むふふふっと王牙がニヤけているのは通常運転、勇作は「それじゃあ行こうか」と話を切って四人は歩き出す。
この学園にはクラブハウスと言う施設があり、様々な部に所属する生徒達が勤しんで部活に力を入れ込む傾向がある。
剣道部に水泳部、吹奏楽部に弓道部、空手部等がクラブハウスに含まれている。
校舎とクラブハウスを繋ぐ通路を通り、四人はクラブハウスへとやって来た。
暫く歩くと《剣道部・空手部》と書かれた表札を見つけた。
この扉の先がそうなのだと察し、勇作は引き戸の扉を開ける。
開けた空間があるその場所では防具を着て竹刀を打ち合う剣道部、道着を纏う空手部が組み手を行う姿が確認される。
「せい! やあ!」
「はあ! 胴っ!」
竹刀を打ち合う剣戟や素振り、空手部員達の勇んだ声が轟く。
「うわ〜〜……凄い熱気」
「何でこんなムサイ所なんだよ……せめて女子達のいる水泳部とか吹奏楽部が良かったぜ」
王牙の文句を流しながらも剣道部と空手部の練習光景を眺める。
「うん……凄まじい闘気を感じるね。それもたった一人、精錬された動きがある」
勇作は剣道部の練習スペースを指す、その箇所には防具を纏い竹刀を手にする人物が二人。
しかもその内の一人は、竹刀を両手に持参している。
端から見れば遊んでいる様にしか見えない光景であり、桃士は「独特な方みたいですね」と呟いた。
「両者……構え!」
審判役の男子の言葉に両者は身構える。二本の竹刀の人物は右膝を前に突き出し、竹刀を構える。
「うわっ、すっごい構えだね」
さきは呑気にその人物の姿勢に驚く。明らかに人体に負荷が掛かる構えであった。
『……!!』
だが勇作と桃士は目を見開く。まるで何か信じられない表情を見せており、唯々その人物のスタイルを観察する様に見据える。
相手側が一歩踏み出し、大きく竹刀を振り下ろした。
「面ッ──!!」
「ッ!!」
兜へと直撃する寸前、二刀流使いは二本の竹刀をX字にクロスさせて面への攻撃を防いだ。
「はあっ!?」
「今の見た!? 防いだよ! 防いじゃったよ!?」
二刀流使いは右足を前に出し、そのまま薙ぎ払う。
「胴ッ!」
左手の竹刀を胴体の防具へと突き立て、相手選手を吹っ飛ばす。
「一本!」
審判の判定と同時に歓声と拍手喝采が起きる。あの二刀流の竹刀捌き……決して並の人間では扱い切れないだろう、寧ろあれは達人の領域に値する。
同時にあの人物からは並々ならぬ闘気を肌で感じる中、両者は共に頭部の防具を外す。
「礼」
『ありがとうございます』
互いにお辞儀する両者、互いに下がっていく。
「お、おいおい! 彼奴って!」
「同じクラスの…!」
「成程……彼だったのですね」
片側の対戦者──二刀流使いの素顔に驚くさき達、三人と違って勇作は静観を貫いている。
「………」
彼──
自己紹介の時に語った剣道で日本一を取る、途方もない道のりだが彼の鋭い眼差しで本気だと言うのが理解出来る。
だが先程の剣の太刀筋や身体能力、あれは人間──それも男子高校生とは思えない動きだった。
「鬼瓦、相変わらずの腕前だな」
「いえ……大した事ではありませぬ」
「いやいや……大した事あるって! 全然隙ないし、半端なく強えよ!」
謙遜する狂一を部長の
「モテモテじゃねーか。……野郎限定で」
「まあいいんじゃないかな、満更でもない感じだし」
「良い物を見る事が出来ましたし、次の部活動を見物するとしましょう」
桃士達に促されて勇作も「そうだね」と相槌を打ち、そのまま去っていく。
「へえ……あの子達が狂ちゃんと同じクラスの」
空手部の練習スペースにて、道着を纏ったショートヘアーの女子がそれを見ていたのだが、勇作達はそれに気付かずにいた。
「うっひょおおおおおおおおおっ!!」
次に赴いたのは水泳部が使用するプール、水泳部員──特に女子達の水着姿に王牙が興奮して、ハイテンション気味に大声を張り上げる。
「スク水! 美女! 巨乳! 夏!」
「夏はまだ先ですよ」
語彙力が極端になる程のハイテンションで叫ぶ王牙、水泳部の女子全員が王牙をゴミを見る様な目を浮かべるも、本人は気付かずに騒ぎ立てる。
「あははは! 今年の一年は元気だねえ」
ジャケットを羽織ったスク水を纏う女子生徒が颯爽と笑みを浮かべる。ミントグリーンの短髪で、海を彷彿とさせる群青色の両眼を宿す。
「す、すいません、連れが騒いで……えっと」
「この部の部長で、三年の
小麦色の肌の彼女──水穂はニヤっと笑みを浮かべる。
「部長。そんな奴等に愛想を見せなくてもいいッスよ」
更に見慣れた青髪が海パン姿で佇んでいて、皮肉な笑みを勇作達に向ける。
「あ、蒼龍君」
「敵情視察かァ? わざわざ直接出向いて来るたぁな」
「違うって」
相変わらず敵愾心を隠そうとしない
「コラコラ蒼龍君、そう言う態度はいけないよ」
水穂が咎めようとするも、聞こえてない様子で海人は勇作への威嚇を止めない。
「そう言う君こそいいのかい? 御門さんから怒られると思うけれど」
「言うじゃねーか」
眉間に青筋を浮かべる海人、勇作は怖気付く様子もなく澄ました顔を見せるだけ。
「きちんと立場考えろよなァ? お嬢に手ェ出すんなら、承知しねェぞ」
一方的に敵意を向けられるが、何故そうまでして露骨なのか勇作には見当が付かない。
もしかしたら彼も転生者なのだろうか、もしくは単に過保護なだけかもしれないが。
「それじゃあ僕達はこの辺りで、失礼します」
「嗚呼、もし入部したくなったら申請してねー」
「ケッ…」
まだ名残惜しい王牙が「ああ〜〜……水着美女が遠のく〜〜……」と言う呟きを言いながら桃士に引きずられ、勇作達は水泳部を後にする。
美しい旋律がとある教室内に奏でられ、勇作達はそれに聞き耳を立てて思わずうっとりしてしまう。
「美しい……見事な演奏ですね」
「吹奏楽部だからねえ。綺麗な音色だね」
ピアノの演奏に合わせてバイオリンやフルート、ドラムと言った楽器で旋律が奏でられる。
「おや……あれは橘君では?」
『え?』
桃士が吹奏楽部の教室を指差した。
確かに見ればオドオドしながらフルートを奏でる気弱な同級生──
吹奏楽部に入部したのか、あの気弱な一面をどうにかしたいと思ったのだろう。
「はい、良く出来ましたね。素晴らしい旋律でした」
『ありがとうございます!』
真琴を含めた新入部員達が揃ってピアノを弾いていた音楽教師に一礼する。
右目に片眼鏡を掛けた初老の男性、英国紳士を彷彿とさせる雰囲気が漂っている。
「なんだァ? あの貴族然としたおっさん」
「音楽教師のウィリアム・ローランド先生ですよ。何度も音楽の授業で教鞭を振るっているでしょう」
「
王牙はやれやれと言った様子で語る。
「あ、彼方の人……見た事あるよ」
さきが指差す先にはバイオリンを所持する女子生徒。赤い縁の眼鏡を掛け、青いサイドテールをしている。
「
「人形の様に造形な整った顔、マジで美人じゃね?」
「王牙はそればっかりだね」
ほら行こう、と勇作に促されて一同はその場を去っていく。
「あ……」
真琴が勇作達の姿を目視するも、それ以上言葉を紡ぐ事はなかった。
次に訪れたのは弓道部。
用意されている的に矢──先端部分に吸盤が取り付けている──が命中し、弓道部の部員達から拍手喝采が起こる。
「うわ〜! 此処も大人気だね〜!」
さきが正直に感想を述べる。
「ええ。弦の引き際、指が矢を離すタイミング、そして何よりあの動体視力……素晴らしい弓捌きですね」
桃士も中々の観察眼でこの学園の弓道部のレベルを賞賛する。
「うん。パンフレットに毎年、全国の弓道大会に出場していて好成績を出している──」
カポンッと額に妙な感触を感じた。勇作が首を傾げていると、さきと王牙が彼を見てブフッと吹き出していた。
桃士は怪訝な顔を浮かべて勇作の額から
「どうして矢が?」
「……どう言うつもりですか?
「──別に。自称勇者が入ってきたから軽く挨拶しただけよ」
弓道部なりの挨拶代り、とばかりに黒髪のポニーテールを揺らして飛鳥が凛とした眼差しと共にやってくる。
桃士は彼女を睨み、両者の間で火花が散る様に見える。
「敵情視察かしら?」
「本日二回目ー」
「蒼龍君もそうだったけど、やたらと敵視してくるね君達」
もしかすると他の二人も同じ反応してくるだろう。
「その様子だと海人にも言われたみたいね。嫌なら樹里や虎太郎には後で連絡するけれど」
「いや別にいいよ」
変に気を遣われるのも釈然とせず、勇作は乾いた笑みを浮かべるだけである。
「所で真央に手を出してないでしょうね?」
「出してない! してないから!」
「もしそうなっていたら私は貴方を弓で射抜いてやるわ」
弓を握る力が強くなる、彼女の眉間に血管が浮き出ているのが明白になっている。
「面倒くせえ。
「心外ですね。同列にしないでもらえますか?」
同類に扱われるのは嫌だとばかりに、桃士は呆れた様子で王牙に吐露する。
「兎に角! 真央に必要以上に近付かない事、分かったかしら…?」
「分かっているよ」
「何処まで分かっているのやら……」
踵を返して言いたい事を言い終えて、飛鳥は部活動へと戻っていく。
「この調子でどんどん色んな部活を見ていこー!」
呑気にさきは拳を掲げて声を上げる。
天然なのか、或いは能天気か、楽観的な彼女の言葉に勇作達は同意する。
「チチチチチ……少しは情報収集も頭に入れるといいでやんすよ」
クラブハウスを出ると不敵な笑みと共に声が掛かる。
小柄な体躯の男子で丸眼鏡を掛け、前歯が二本出ている。
まるで鼠みたいな男子と思っていると、王牙が「おお!」と嬉々とした声を上げる。
「チュー坊か! 何で此処に?」
「アニキ、トーゼン自称勇者を見に来たでやんすよ!」
親しい様子で王牙はその男子と挨拶を交わす。
「チュー坊?」
「王牙君、その子は?」
「ああ、此奴は──」
「アニキ! あっしに自己紹介させて頂きたいでやんすよ」
チチチ……と怪しそうに笑う男子。
「あっしは
「あ、うん……宜しく」
雰囲気はアレだが、忠太と握手を交わす勇作であった。