現代の日本に転生したかつての勇者は学園生活で青春を謳歌する 作:虎武士
鼠の様な前歯に鼠の耳を彷彿とさせるウイッグを被り、粘着質な小柄な男子生徒。
自身のアイアンディティに拘ってか頬に付け髭を付けており、彼自身のファッションスタイルなのだろう。
幼い頃から機械類に強くて頭脳明晰、かなり計算高くその方面では秀才とも言える。
天才と言ってもおかしくない筈だが本人は卑下しており、唯の狡い情報屋だと自負している。
王牙と同じく女子にモテたいと願望が強く、中学時代に知り合って意気投合──以来二人は兄弟分の間柄となった。
「──って言うわけでやんすよ」
「そう言やそうだったよな〜。チュー坊ともそれからの付き合いだもんな」
似た者同士か、と勇作達は思った。
「忠太君ってインテリって奴かな? それにしてはなんか俗っぽく聞こえるな〜」
「人聞きの悪い事は言わないで欲しいでやんす! オイラは欲望に忠実なだけでやんす!」
「本当に王牙君と同類みたいですね……」
校舎内の廊下を歩き、気が合う者同士の王牙と忠太に勇作達は苦笑する。
勇作はその光景に
大雑把で記憶力の疎いライオンと、姑息で狡賢い鼠の獣人族の情報屋コンビ。
彼等もこの二人みたいに欲望に忠実だった事を記憶している。
(……偶然だよね?)
流石にないと疑問を無自覚に振り払う勇作だった。
「それで小根津君、何が目的で我々に接触を」
「目的も何も……皆さん部活回りをしてるでやんしょ? 学園一の情報屋たるあっしが知恵を貸そうと思った次第でやんすよ」
チチチチ、と忠太が告げる。善意で言っているのが伝わるが、その薄気味悪い雰囲気で答えると胡散臭く聞こえるのが否めない。
「……いいでしょう、勇作君、構いませんか?」
「まあいいんじゃないかな? 他意があるわけでもなし、一先ず知恵を借りるとしようか」
「自称勇者様は寛大でやんすね、噂はアテにならないと言うわけでやんす」
納得した様子で忠太が笑みを浮かべる。彼を加えて勇作達は部活動見学を再開するのだった。
「此処が新聞部の部室でやんす」
校内の一階の西側の突き当たりの教室の戸を左に開き、忠太は勇作達に部室を披露する。
学園内のネタになる様な記事を一部分切り抜き、それを廊下や教室に貼り付けている様だ。
ある種の情報伝達の一環として職員室に設置している印刷機でコピーを繰り返し、それを学園全体に貼っている……と言った方針だろう。
「まあ部員はあっしを含めて三人しかいないでやんすが。あ、彼処にいるのが部長の
「ついでみたいに紹介すんな、クソ生意気後輩!」
後付けみたいな感じで紹介された男子生徒が青筋を浮かべてツッコむ。取り敢えずと「……三年の月詠だ」と彼は名乗る。
「其処のクソ生意気な後輩から既に聞いてると思うが、この部の方針はあくまで情報を基づいての新聞作りだ。胡乱なガセネタを掴まされたとなったら、学園の信用に関わるからな」
ピクピクと青筋を浮かべて文吾郎が述べる。こんな不機嫌そうな顔の部長で大丈夫なんだろうか、と言う一抹の不安が過るが気にしても仕方あるまい。
「後、此処じゃ静粛にしてろよな!? マジで騒いだら廊下に叩き出すぞ!」
「部長がこの中で一番五月蝿くしてる気がするでやんすけど」
「じゃかあしいわ!」
ボケとツッコミの応酬が持ち味なのか、忠太と文吾郎のコントに冷や汗を流す一同。
もう漫才クラブでいいんじゃないかと思うが、直接口に出せば文吾郎の機嫌を損ねてめんどくさい事になる事は間違いなし。
「さーて、この五月蝿い先輩は放っといて案内の続きでやんす! あ、部長。何か面白い記事になりそうな事があれば、案内ついでにメールで連絡するでやんす」
「おいコラ!」
不機嫌な文吾郎を置いて忠太は勇作達の背中を強引に押し、そのまま新聞部を退室していった。
一方、此方は手芸部。
「おおー……」
「これはまた……」
この手芸部は五人以上の部員数が揃っている。
「凄いわね、
手先を器用にこなし、編み物を作っていく
「やるじゃないの、樹里ちゃん!」
「うんうん、プロ級の才能だよ!」
「これもしかしたら、良い出し物になるかも!」
唯一男子の二年……
「いやいや皆持ち上げ過ぎやって、そないに大した事してへんよ?」
「でも裁縫だけでアートを作るとか凄くない!? ある意味天才だよ!」
美羽の横で歩美もコクコクと頭を縦に振る。
「せやから大した事あらへんって。確かにウチ手先は器用やよ? 書道や芸術、図工などが得意やけど、そないに持ち上げられても困るわ」
謙遜する樹里。しかし蓮香達は「逸材だ!」と盛り上がっていて、聞く耳を持たずに騒ぎまくる始末。
「ウチみたいなのの何処がええんやろか、全然分からへんわ」
「確かに素人には分からないかもね」
「うんうん、私にもさっぱりだよー」
「せやな、ウチもちんぷんかんぷんやし、興味本位で入部してしもうた……し……」
部外者らしき肉声に樹里は目を丸くし、ゆっくりと首を教室の扉へと向ける。
「やあ、亀本さん」
「──ひゃああああ!? な、何で自称勇者が此処に来とるん!?」
思い切り飛び上がって驚き、(一方的に)敵視する友人に集る悪い虫に思わず樹里は身構える。
「何って、部活見学だよ。っつーか蒼龍や鳳凰寺から聞いてねえのか?」
「え? ……ああ、メールが届いておるわ。熱中し過ぎて読んでへんかったわ」
知らない間にスマホに飛鳥からのメールが届いている事に気付き、失念していたと自覚する樹里。
「あらようこそ手芸部へ。此処の部長の神崎よ」
「宜しくお願いします、それにしても……これは素晴らしいですね」
壁に展示している作品の数々に桃士は関心を示し、蓮香は「先達の力作よ、せめて形だけでも残す為のね」と微笑んで答える。
過去から未来へと繋いでいる傾向があり、この学園の卒業生達の作品を飾っている手芸部は流石だと言わざるを得ない。
「過去から未来へ……この学園の理念に沿っているだけよ。この部に限った事じゃないわ、偶には過去を振り返る事も大事ではあるけど」
「ええ、確かにそうですね」
翔も蓮香の意見に賛同、それに樹里と美羽と歩美は黙って静聴。
勇作も思う事があるのか、少し懐かしむ様な心地であった。
「それはそうと、自称勇者……真央ちゃんに手ェ出してへんよな?」
本日三回目の問い、勇作は呆れつつも「出してないって」と毅然とした対応で樹里に答える。
「いーや、全然信用ならんわ! そうやって優男風の顔しとるけど、裏の顔は外道……って言うケースは多いんよ! どうせアンタもそんな所やろ!?」
「あのさぁ、いい加減にしてよ? 貴女達四人はやたらとゆーくんを敵視するけど、ゆーくんは何もしてないし、御門さんに過保護過ぎじゃないの?」
さきも幼馴染の事を此処まで言われては流石に放置出来ず、眉を吊り上げて樹里に疑問をぶつける。
「…! そ、それは…」
「多分雷導君も同じ事を言うだろうけれど、その時は──」
シュバッと樹里の右頬スレスレに右拳が横切る。掠める勢いで繰り出された
「……と言うわけで手芸部の皆さん、お騒がせしましたー」
拳を下ろしてペコリと頭を下げ、そのまま教室を去るさき。
(おい勇作……さきちゃんって)
(うん、小学生の時に合気道をやっていたんだ。中学進学を機に辞めちゃったけど、それからは我流で修めているんだ)
(………)
(姫野さんを怒らせない様に心掛けるべきですね、今後は)
勇作達四人も「失礼しましたー」と一礼し、さきの後を追って手芸部を去っていく。
「こっわ…」
「姫野さんってのほほんとしているけど、怒らせたらやばいね」
美羽と歩美は身の危険を感じ、呆然としている樹里を気の毒に思うのだった。
「あァ〜〜……もう、何であんな態度しか取れないのかなァ〜?」
眉間に皺を寄せてさきが悪態を吐く。
平和ボケの顔をしているが、今は少々機嫌を損ねていて何をするか分からない状態にある。
彼女から距離を置いて勇作・桃士・王牙・忠太がその後ろで歩く。
(機嫌が悪いでやんすねぇ)
(だな。下手な事言ったら俺らリンチされるかも)
「さき……しょうがないよ、僕達と彼等は知り合ったばかりなんだから。どう言う繋がりかは分からないけど、蒼龍君達は御門さんの事を心配してあんな事を言ったんだと思う」
「だからってさ、ゆーくんにあんな言い方はないと思うなー」
幼馴染への冒涜は流石に聞き捨てならず、気付けば口に出してしまっていた。
「いつか分かり合える日が来るよ、いつか……ね?」
「そう言われちゃったら何も言えないじゃん」
幼い頃からの付き合いである為か、互いに笑みを浮かべる勇作とさき。
「蒼龍君に鳳凰寺さん、そして亀本さん……最後の彼も勇作君を敵視するのでしょうね?」
「あ〜〜……
これまでの三人がそうだった様に、最後の一人も倣っているだろう。
「にしても……雷導、か」
「王牙、どうしたんだ?」
「いや……あの野郎の名字、どっかで聞いた事がある気がするんだよ」
「何処だったっけ?」と考えている王牙を他所に、一同はある部室へと赴く。
部室の扉が開くと同時に、室内から何やらBGMが流れてきた。
机の上にラジカセが置いていて、それから流れる音楽をバックミュージックにして二人の男女が競い合う様にダンスを披露している。
他の生徒達はミュージックに合わせて手拍子し、汗と共にダンスを披露──そしてやがてBGMが止まる。
「さあ、結果はどうかな?」
橙色のショートヘアにシニヨンを身に着け、ゴーグルをぶら下げたツナギ姿の女子生徒が部室内の反応を見る。
小さなプラカードを上げ、殆どが男子──雷導虎太郎の名で締めていた。
「はい! と言うわけで今のダンスゲーム勝負は、雷導君の勝ち〜!」
『うおおおおお!!』
「ふう……」
「ああもう! 強過ぎでしょ…!!」
この部活──恐らくゲーム部と呼称すべきか──は多いに楽しんでいる傾向がある。
亜麻色のセミロングの女子生徒は物凄く息を切らし、近くにある椅子に凭れ掛かる様に座り込む。
そんなグロッキーな彼女はさておき、虎太郎は勇作達の顔を目視すると嫌そうに顔を歪める。
「うげっ、テメェら!?」
「途中から見ていたけど、結構いい勝負だったよー」
「お見事ですよ、雷導君」
ダンスゲームの見事なダンス振りを高評価する勇作達、虎太郎は眉間に青筋を浮かべて引き攣った様子。
「およよ? もしかして其処の君、噂の自称勇者君? ようこそゲーム部へ! 部長で三年の
「せ……せめて、いきがととのった状態で、紹介させて…?」
セミロングの女子生徒──雪乃はツナギ姿の女子生徒──渚の天然振りに息を吐きながら突っ込み、渚本人は「あれ?」と首を傾げる。
「雷導君、ちゃんと挨拶しようね?」
「ウッス……良く来たな、お前等」
虎太郎は好子に促され、嫌々ながら言葉を送る。
「全然嬉しそうじゃねーな」
「たりめーだ、お嬢に害をなす可能性があるお前等が来た以上は警戒して当然だ。特に自称勇者なんてイタイ奴はな」
「ケッ、其方こそ他の三人共々御門一人に過保護過ぎんだろ」
「あァ?」
「やるかコラ」
王牙と虎太郎は互いに睨み合って火花を散らす、しかもメンチ切って今にも殴り合いになりかねない険悪ムードだ。
「喧嘩は御法度ですよ、二人共」
「そーそー。こんな所、豪本先生に見つかったら即生活指導だし、雷導君も御門さんに知られたら嫌でしょ?」
『ゔ……』
しかし桃士とさきの言葉に気まずそうになり、お互いに一歩下がる。
虎太郎は咳払いし、息を吐く。
「このゲーム部は自分で考えたオリジナルのゲームを考案して実験し、部長が顧問の先公に提出して許可を得て、どう言うものかをゲーム対決で判断するって奴だ」
「顧問の先生に?」
「一体何処に?」
「此処にいるよ」
スラスラと説明する虎太郎の言葉に勇作達が疑問に思っていると、好子が窓際に座る人物を指す。
「うわっ!? い、いたんですか…?」
「理科の
「ヒヒヒヒヒ……いたらおかしいか、凡人共」
明らかにそういう系の不気味な雰囲気を放つ壮年の教師──怪司の存在に驚くも、彼は気にすることなく怪しく笑う。
「っつーか、何であんたみたいなマッド気質がこんな部活の顧問に? 明らかに似合わな過ぎじゃね?」
「ふん、これだから凡人は。いいか、部員達は私にとっては
「うわー酷いなー」
「こんな事を言っているけど、ちゃんと顧問の先生としての意見を述べてくれるよ」
「ふん」
良い方向に解釈する渚の言葉を聞いてツンデレか、と勇作達は心中で察した。当の本人は一蹴しているが。
「用件は済んだか? ならとっとと失せな」
「雷導君、そんな事を言っちゃダメだよ?」
厄介払いとばかりに悪態を吐く虎太郎に渚が注意する。
「大丈夫ですよ。じゃあ遊佐部先輩、失礼しました」
『失礼しましたー』
「いつでも入部は大歓迎だからねー」
そして勇作達はゲーム部を後にするのであった。
ドン!と言う音が聞こえる程の迫力感。
表札には二次元部と書かれていて、勇作達は微妙な表情を浮かべる。
「えーと……」
「二次元部……二次元って言うと、漫画やアニメが好きな
「その通りでやんす」
「よかったですねぇ王牙君。恋愛ゲームが好きな君にピッタリな部活があって」
「テメェ態とで言ってんだろ!?」
桃士と王牙の口喧嘩は置いといて、明らかに掃き溜めみたいに存在している部活を存続させる学園側の意図が分からない。
まあ取り敢えず覗いてみようと思い、ゆっくり引き戸の扉を音を立てずに小さく開ける。
「──諸君!!」
中から血気盛んな叫びが聞こえてくる。
ホワイトボードを背に4〜5人程の生徒を前にし、頭部に鉢巻を巻いた男子生徒が腕を組む。
「漫画とは! アニメとは何か!?」
「押忍! 世界に偉大な二次元文化を神が与えた至高の光であります!!」
「我々の目指す境地はなんだ!?」
「押忍! 二次元を全世界に広めていき、将来宇宙に進出する事にあります!!」
やたらと血気盛んに騒ぐ二次元部、何となく雰囲気が熱血ドラマや昭和時代を彷彿とさせるシチュエーション、微妙な表情で勇作達はこっそりと部活動を眺める。
「お前達の推す漫画やアニメ、ゲームはあるかァ!?」
「転生したらエルフだった件!」
「機動侍ザンガム!」
「魔導戦士レヴァース!」
「
「因みに俺はゴジュウ戦隊ナンバージャーだ!」
「って、愛染部長だけ特撮ヒーロー物じゃないですか」
「ふふふ……この
『おおおおお……』
大袈裟に部長──愛染恵の言葉に驚く部員一同、勇作達は二次元部の光景に言葉を失うのだった。
「……オタク系と思ったら、熱血系の集まりかよ」
王牙は彼等の様子に何とも言えない様子で呟く。
「うーん、中々決まんないや」
下校中、さきの言葉に勇作と王牙も頭を抱える。
サッカー部に野球部、バスケ部と他にも部活を見学してみたが、彼等四人にはどうにもしっくりこなかった。
どれも魅力的ではあるが、どの部にも入る事はなかった。
「悩ましい所ですね」
「チュー坊も部活の関係でさっさと帰っちまったし、続きは明日にしよーぜ」
「そうだね」
「それじゃ二人共、また明日ねー」
「おう!」
「では御二方、明日に」
「うん、さよなら」
桃士と王牙はそれぞれ帰路に着くので別れ、勇作とさきも帰路へと向かう。
「あれ?」
「ゆーくん、どしたの?」
「犬がいる」
「え? ……あ、ほんとだ」
勇作が指先を示した先には綺麗な毛並みの小柄の犬がいた、種類からしてパピヨンだろうか。
「ワン! ワン!」
「可愛いなぁ、飼い主さんと逸れちゃったのかな?」
「いや……首にリードがない、多分野良犬じゃないか?」
そのパピヨン犬は人に慣れているのか、やけに此方に頬擦りしてくる。
本当に野良犬なのか?と勘繰ってしまうが、気にしても仕方ない。
勇作とさきの去っていく姿をパピヨン犬は眺め、ゆったりした足取りで後を追う様に歩き出す。