【一章完結】クソザコTS商人ちゃんは引きこもりたい(願望)   作:水品 奏多

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17 火炎剣

「っ……」

 

 ティナの部屋を飛び出した後。

 身の縮む思いで母親の墓の前を掘ったリズを出迎えたのは、一本の剣だった。

 

 真っ赤な刀身をした、リズの背丈ほどありそうな巨大な大剣。

 S級冒険者イリーナ・カローンの愛用品、火炎剣レーヴァテインだ。

 リズにとっては納棺以来の約6年ぶりの対面となるそれは、当時と同じ姿のまま棺桶の上に埋められていた。いや違う、たった一つだけ明確な差異があった。

 

 ――燃えるように揺らめく、赤い靄。

 魔導の根源たる魔力が、大剣の刀身に纏わりついているのだ。

 

「……やっぱり嘘じゃなかったのね」

 

 魔導剣を筆頭とする様々な魔導具は、いわば触媒だ。

 使用者が込めた魔力を、特定の奇跡(まほう)へと変化させる道具。それゆえに魔力という資源がなければ意味を成さない。もしここで魔力が充填されていなかったら、リズはこの剣の性能の10分の1も発揮できなかっただろう。

 

 さりとて今、目の前のレーヴァテインには有り余るほど膨大で強力な魔力が込められていた。

 そこにあるのは十数年にも及ぶ歴史の積み重ねだ。

 かつては母親のイリーナの愛剣として活躍し、その没後は父親のディックの手によって丹精込めて育てられてきた。父親と母親からの最初にして最後の贈り物。

 

 ティナに譲ってもらったものの重さを理解して、リズは唾を飲み込んだ。

 

 確かにこれは劇薬だ。新四天王とやらも瞬殺できるのかもしれない。

 でも、でもだ。はたしてレーヴァテインはリズを選んでくれるだろうか?

 

 人類の切り札たる魔道具にもいくつかの欠点がある。

 そのうちの一つが、他人用の魔道具は基本的に使えないという点だ。

 取り込んだ魔力は個人個人によって微妙な違いがあるらしいのだ。そして魔道具はオーダーメイドで使用者の魔力に合うよう調整された上で製造される。それゆえ、全くの赤の他人が触ったら暴走してしまうくらいには属人性が高い。

 例外は遺伝的に魔力の波長が近い親族などごく少数。ただしそれでも、絶対に使える保証があるわけではない。

 ティナにあんな啖呵を切っておきながら、結局使えませんでしたという可能性もある訳で――

 

「……あたしなら、出来るっ」

 

 迷いを振り切るように、リズは魔導剣を手に取る。

 手のひらに感じる重量感。やがて彼女の心に広がったのは、一つの光景だった。

  

『あらあら、リズは本当に剣が好きね』

 

『うん。

 あたしねっ、お父さんとお母さんみたいにりっぱなぼうけんしゃになるんだっ。

 それでてきをばったばったなぎたおすのっ』

 

『う、うーむ。そうは言っても俺たち冒険者には危険も多いんだぞ?

 この前なんか移動中に賊に襲われたりしたし、女の子はやっぱりお嫁さんとかそういうのを目指した方がいいんじゃないか?』

 

『あら、それは聞き捨てならないわね。

 まるで現役冒険者のあたしが女の子っぽくないみたいじゃない』

 

 それはかつての思い出。まだ三人が揃っていた頃の記憶。

 

 その剣はまるで最初からそうだったように、リズの手に馴染んだ。

 ……ああ、そうだ。だからあたしはずっと稽古を続けてこられたんだ。

 3か月前にやめてしまったけど、それでもまだ体は覚えている。お母さんから受け継いだこの剣があれば、あんな妖魔くらい簡単に倒せるはずだ。

 

 母親との記憶を手に、走り出す。

 目的地は案外すぐについた。いや、リズ自身が速くなっているのだ。魔導剣に秘められた魔力が全身を駆け巡り、唸るように彼女の手足を動かしていた。

 

「っ……おいおい、何て魔力量だよ。

 まさかそんな隠し玉があったとはっ」

 

 どうやら本当にギリギリだったらしい。

 膝をつくディックの前で腕を振り上げていた妖魔へ向け、火炎剣レーヴァテインを構える。全能感と憤怒のままに、強く宣言する。

 

 ――全ては、此処にいないもう一人の家族のために。

 

「なに、怪我人相手にイキってんのよ、虎野郎っ。

 あたしのお父さんをいじめていいのは、あたしだけなんだからっ」

 

 

 ……。

 …………。

 

 

 時は少し遡り。

 

「え、ええー……?」

 

 嵐のように外へと消えたリズに、俺は完全に呆気に取られていた。

 

 何だったんだ、今のは?

 「本当の両親は別にいるんでしょ」とか言ってたし、もしかして俺が転生者だってバレた? 

 いやでもどう考えてもそんな推測が出てくるような情報は与えてないよなあ。あの時はつい「何で知ってんの?」とか素で聞いちゃったけど……。

 

 それに抱擁からの「あたしには全部わかってるんだから」コンボは一体……?

 「抱きしめたくなかっただけ」とか言ってたけど、妙に意味深な雰囲気だったし……はたして彼女は何が見えていたんでしょうか?(哲学)

 

 うーん……分からん。

 ま、いっか。帰ってきた時に聞いたらいいし、とにかく今はやるべきことを終わらせねば。

 

「……っ」

 

 というわけで、まずは状況確認から。

 部屋の奥に設置された金庫を開けて、中身を確認する。

 

 そこに入っているのは商人ギルドで受け取ったティナの両親の遺品。

 金貨などの硬貨に加え、換金前の大量の魔石を合わせて総額600万G。

 俺の全財産にして、文字通りの生命線だ。これがなければ、俺は帝国までの旅費をこの体で稼がなくちゃいけなくなる。R18的な展開を避けるためにも、何とかこれだけは死守せねばなるまいよ。

 

 ひー、ふー、みー……ヨシッ! 異常なし。

 それじゃあしっかりと鍵をかけて、押し入れの奥に置いて……最後に、さっきまで寝ていた布団をその上にのっけて――完成。

 これで外から見えなくなった。泥棒とかには入られても多少の時間は稼げるはず……多分きっと、そうだといいなあ。

 

 無力感と共に、体育座りで腰を下ろす。

 悲しきかな、もうやるべきことも終わってしまった。後はもうこの部屋に籠って、ティナたちが何とかするのを待つしかない。

 リズの話を聞く限りじゃ、多分ベルベロの作戦は最終段階――つまりは、直接的な武力行使に入ったとみていいだろう。

 今、この村に迫っているのは三千の妖魔と新四天王の中でも最強格の敵。

 リズを追いかける? 村人たちと一緒に戦う? 否、戦闘力がクソザコの俺では足を引っ張るだけである。というか、さっきから断続的な戦闘音が響いているし、怖くて外になんて出たくないよぉ。

 

 不幸中の幸いなのは、何とかリズの説得に間に合ったことかな。

 

『……ねえ、ティナ。

 本当にあたしがレーヴァテインを使っていいの?』

 

 何故か心ぐるしそうに、そう聞いてきた彼女。

 うん、そうだね。俺だって使えるもんなら使いたいよ。でも無理なんよなあ。

 なにせ「火炎剣レーヴァテイン」はリズ・カローンの専用武器だから。

 

 専用武器はキャラ専用だから専用武器なのである(当たり前)。

 一応特殊なパッチとかで他のキャラも使えるようになるらしいけど、残念ながらこの世界でパッチを導入する方法なんて俺は知らなかった。

 

 ただそれでも、大団円に向けて大きな懸念があった。

 はたしてリズは新四天王フーマに勝てるか問題だ。

 フーマは「黎銘のフロージア」における中ボス的な存在。普通なら、12歳の子供がたった一つの武器を手に入れただけで相手になるはずがない。

 

 でもこれは割と初期に答えが出ていた。

 多分――というより十中八九、勝てるだろうと。

 

 というのも「火炎剣レーヴァテイン」は作中屈指の最強武器だからだ。

 これはまあ、原作それ自体の問題が大きい。一応はマルチエンディング形式を採用していた「黎銘のフロージア」。しかしその実態はシナリオのボリュームの半分以上をメインヒロイン2人の√が占めるという圧倒的な依怙贔屓具合だった。

 その弊害で、他ヒロインの√は敵キャラの一部が突然行方不明になったり、唐突に「その何年後……」のカットインが入ったりやりたい放題。リズ√なんかその影響をもろに受け、後半のボスラッシュを突破させるためにどう考えてもおかしい強さの専用武器を与えられていたのだ。あまりにズバズバ倒すもんだから「あれ、これ他の√でレーヴァテインを手に入れていたら、あんなに苦労しなくて済んだんじゃ……?」とか、考えてはいけない発想が頭に浮かんだくらいだ。

 

 つまり「火炎剣レーヴァテイン」は製作会社の費用と尺を圧縮させるために生まれた、作者サイド公認のチート武器なのである。

 まあボイスを付けるにも結構なお金がかかるし、同じような展開はプレイヤーも飽きるからね、仕方ないね。

 

 因みにそんな具合でもシナリオに対する一般的な評価は結構高かったりします。

 そうだね、みんな俺みたいにファンタジーRPGをギャルゲーだとは思ってないからだね、メインストーリーの完成度が高かったらそれでいいんだろうね。

 

 ……それでも、俺はっ、ティナ・ルター√が見たかった!!

 「実は彼女は古代人の末裔で、全世界の生き物の心に干渉できる魔道具を使って平和をもたらした」とか適当展開でいいから、女主人公とティナちゃんのもっとイチャイチャを見たかったんじゃああああ。

 ティナちゃんが映ったCGなんて、初登場の奴と集合絵の二つくらいしかないんだぞっ。シーン数で見れば、まだ敵キャラの方が扱いが良かったわっ。

 

「っ……はあ、はあ」

 

 はっ。いかんいかん。あまりの理不尽についブちぎれてしまった。

 あれ、何の話をしていたんだっけ? ……ああ、そうそう、今週の星屑テ〇パスも神回だったっていう――

 

「漸く見つけましたよっ、ティナ・ルターぁああ」

 

「っ!?」

 

 その思考は、見覚えのある男の乱入によって遮られる。

 何故か目ん玉をぎらぎらと輝かせた彼の名前は――アイエッ!? 何でここにベルベロ・ベロッティがっ!?

 

 

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