ある日の昼のバンエルティア号のことである。
「てやっ! はあっ!」
気合の入った雄叫びが甲板に響き渡る。二人の人間が剣を交えている。クラトスとロイドだ。彼等は現在、剣の修行を行っていた。この光景は最早恒例行事のようになっていて、わざわざ甲板に見に来る者までいるほどだ。
「うおぉっ!」
「はっ!」
二刀を巧みに操り襲い掛かってくるロイドの剣を、クラトスが冷静に捌いていく。二人が身を揺らす度に汗が散る。
「ロイドのやつ、腕を上げたなぁ」
見物していた誰かが呟いた。ロイドと剣を交えながら、クラトスも同じことを感じていた。内容が依然とはまるで違っている。以前は完全に稽古をつけているといった感じだったが、今では手合せと呼んでもいいかもしれない。
「はっ!」
「やらせるか!」
不意を衝いてクラトスが仕掛けた攻撃をロイドが受け止めた。この船に来た当初なら、この一撃で決着がついていたはずだった。相手の動きを見て、予測を立てることが出来ている証拠である。その余裕は、以前のロイドにはなかったものだった。
今、クラトスの剣を受け止めたロイドがバックステップを踏んだ。良い判断だと感じた。即座に攻撃に移るのか、一旦退くのか。もしもロイドが今、反撃を試みていたらクラトスはそこに蹴りを入れるつもりだった。
間合いを空けた二人は一瞬睨み合った。お互いに出るか、受けるか、相手の意図を測っていた。糸を張ったような緊張感が流れる。
(出るか)
クラトスが判断し、己の足に力を込める。それを見たロイドもまた、体に力を込める。
「はあっ!」
クラトスが間合いを摘め、脇腹に構えていた剣を鋭く振るう。ロイドも渾身の力を込めて両手の剣を重ねてそれを弾いた。今度はロイドが左の剣で突きを狙ってくる。クラトスはそれを軽く右に飛んで避ける。そして着地の反動で勢いをつけ、瞬迅剣のような形で突きを放つ。それをロイドは避けた。
「うおっ!?」
観客から歓声があがる。ロイドの回避の仕方に驚いたからだ。突きを狙った剣を引きもどしたロイドは、飛び上がり、クラトスの背後に回り込むようにして、突きを回避した。勢いをつけたクラトスに一瞬だが、隙が出来る。
「はあぁぁっ!」
ロイドが間合いに飛び込み、上段から斬撃を放つ。
「甘い!」
「あっ!?」
しかし、クラトスは間一髪でこれを受け止め、払った。今度はロイドに隙ができる。クラトスはそこに体当たりを喰らわせる。
「くっ!」
ロイドが何とか踏みとどまった。しかし、勝負はそこまでだった。勿論寸止めではあるが、クラトスの剣がロイドの首筋を捉えていた。
「くっそー! また負けたー!」
ロイドがその場で、仰向けに倒れこんだ。言葉通りの悔しそうな表情を見せる。そんなロイドに対して、クラトスは笑みを浮かべた。いつもなら最初はロイドの剣への指摘から入るところなので、珍しい光景であった。
「腕を上げたな、ロイド」
「負けた後に言われても嫌味にしか聞こえねぇ」
上半身だけを起こしたロイドが膨れ面を見せる。が、心なしか表情は緩い。褒められたのが嬉しいのだろう。
「ロイドー!」
不意にこの場にロイドを呼ぶ声が響いた。見ると、ホールの方にコレットがいるのが確認できた。どうやら彼女がロイドを呼んだようだ。
「よっと」
ロイドが立ち上がり、剣を鞘に納める。
「約束か?」
剣を鞘にしまいつつ、ロイドに尋ねる。
「ああ、コレットに買い物に行こうって誘われたんだ。ちょっと行ってくる」
「無駄な出費はするなよ」
「分かってるって」
苦笑と共にそう言ってコレットの方へ駆けていくロイドの背中をクラトスは見送る。その背中が前より大きく見えるのは、体が大きくなったからなのか、それとも剣を交えて成長を確かめたからなのか。
「強くなりましたね、ロイド」
「……クレス。ああ、そうだな」
さっきまで剣の手合せを見ていたクレスがクラトスに話しかけてきた。彼の言う通りだった。今のロイドの実力は、アドリビトムの同世代のものと比べても頭一つ抜けてきているのではないだろうか。そう思わせるだけの成長を見せている。
「ここに来てからのロイドの成長は目を見張るものがある。きっと、お前たちとの手合せが良い刺激になっているのだろう。私からも礼を言う」
「あはは、勉強になっているのはこっちも同じですよ。それに、ロイドの成長はやっぱりクラトスさんの教えをちゃんと受け止めているからだと思います」
「フッ、だといいがな……」
「きっと、そうですよ。さて、僕もロイドに負けてられない。」
これから仕事があるので失礼します、と言ってクレスが立ち去る。一人になった後で、クラトスは海を見た。空は今日も青い。
クラトスがロイドに本当に教えたいこと、教えなければならないこと。それは単なる剣の技術ではない。何のために剣を振るうのか。その剣の先には誰がいるのか。そうした剣を振るうことの重みとも言うべきものだ。そしてそれらは簡単に見つけられるものではない。いや、もしかしたら一生をかけても見つけられるものではないのかもしれない。
「……」
物思いに耽っていると、突然誰かに服を引っ張られた。その瞬間まで気づかないとは、どうやら考え込み過ぎたようだ。
「……お前か、どうした?」
クラトスの服を引っ張ったのは、ルミナシアのディセンダーだった。華奢な少女という感じの外見の彼女は、職業も主にビショップであるため、手合せをして欲しいというわけではなさそうである。たまに聖騎士の職業をやるので可能性はゼロではないが。
「……クラトス、夕飯の買い出し」
「今からか?」
「……本が欲しい」
「そうか」
ディセンダーが頷く。買い出しの当番は必ず4人制になっている。荷物が多くなるためと非力なもののみの編成になるのを避けるためである。今日の当番はクラトス自身とディセンダー、そしてスタンとエステルだった。
「他の者に了承は取っているなら、構わない」
クラトスがそう言うと、ディセンダーは頷いた後、歩いて行った。喋らないので分かりづらいが、恐らく問題ないから行こう、ということだろう。
「買い出し、か……」
そう言ったクラトスの脳裏に、不意に昔、ある人物と交わした会話が浮かんできた。
―― クラトス、悪いんだけど、買い出し行ってきてくれない?
―― 何がいる?
―― えっと今足りないのは……。お茶とポーク、あとキャベツに、ミニトマトかな。
―― ……ミニトマトも、か
―― ミニトマトも、よ。もう! いい加減好き嫌い直してよ。将来子どもが出来た時に、真似しちゃうでし ょ。
―― ……善処する。
思い出したのは、過去の話だ。今はもう戻れない、幸せだった過去の暮らし、それは自分が守り切れなかったものでもある。4000年も生きていて、本当に大切なものは結局守れなかった。
「……クラトス?」
名前を呼ばれた。ディセンダーがクラトスの方を不思議そうに見つめていた。クラトスが立ち止まっていたことに疑問を持ったのだろう。
「すまない。今行く」
そう言って、クラトスは歩き出した。歩きながら、ふと買い物に行くと言ったロイドのことが頭に過ぎる。ロイドには同じ思いをして欲しくないと思う。
(お前は強くなれ、ロイド)
己の剣で自分の大切なものを守れるように。
このお話が完成に至るまで、結構苦労しました。きっかけは先週、実家に帰り、偶然昔のwordファイルを見たことがきっかけでした。
「テイルズ書きたい」
そんな思いが私の中を駆け巡りました。
そしていざ、実家から今の住まいに戻り、早速作業開始、とはいかなかったのですが、それでも一昨日の正午辺りから作業に取り掛かることができました。さあ、まずはネタを考えましょう!
……ネタが思いつきません。悩みに悩みました。ま、まあお話書くの久しぶりだしね。自分に言い訳しながら、やっとこの思いで書き出します。
完結に至らない。書いても、「ダメだダメだダメだーー!」みたいな感じで書いては削除、書いては削除が続きました。(ちなみに最初は学パロドタバタラブコメを書こうと思ってました)
そんなこんなで、今日になってふと思いついたのがこのお話でした。
さり気なくロイコレ話のフラグも建てたし(多分回収しない、というかできない)、次回も頑張ります!
え、いつまでに? そ、そうですね。1年後までには、必ず……。