こんなことになるなんて。ロイドは心の中で呟いた。彼は今、クラトスとの剣の修行を終えた後、コレットに誘われて、買い物に来ていた。それ自体は問題ない。しかし、ロイドは思う。せめて何を買うのか、それぐらいは確認しておけば、と。
「ねえ、ロイド! こ、これはどうかな!」
「なあ、コレット」
「あ、あれなんかどう!? それともあっちの方が……!」
「……何で水着?」
「……」
ロイドの質問に、先導するように前を歩きながら、やや強引なハイテンションで声をあげていたコレットの動きが止まる。彼等は今、海岸近くにあるとある街の水着売り場に来ていた。
「なあ、コレット……」
「……」
ロイドの呼びかけに、コレットは答えなかった。わざわざロイドを連れて水着を買いにくるという行動の理由をどう説明すべきか考えているのだろう。気まずい空気が流れる。今、この空気を変えるきっかけになるのなら、ダオスでもユグドラシルでも、バルバトスでも何でも来てくれ、とロイドは思った。
女物の水着売り場で、水着を手に取ったまま固まっているコレットと、疑うような目で彼女を見つめるロイド。他人に見られたら何を言われるか分からない状況だ。何とかしてこの状況を脱したい。
そんなことを考えていると、やがてコレットが口を開いた。
「ロ、ロイドが悪いんだよ!」
「お、俺ぇ!?」
頬を赤く染めながらのコレットの発言に、責任を被せられたロイドは思わず大声を上げてしまった。責任転嫁にも程があるのではないか。
「お、俺が何したんだよ!?」
ロイドが当然の如く抗議に出る。彼の中では、何の心当たりもなかった。
「そ、それは……!」
コレットも反撃に出る。いや、正確には出ようとした。しかし、彼女の言葉は途切れ、続いて出てきたのは、次の発言を迷っているかのような唸り声だった。
「それは?」
「それは……」
コレットの目が不自然に泳ぐ。何か隠してるな。彼女の表情を見て、ロイドは確信した。何を隠しているのかまでは分からなかったが。だが、続きを問うことはできなかった。
「ママー、あのひとたちけんかしてる」
「あら本当ね」
「さっきから気になってたけど、何で男の人がいるのかしら。ここ、女物のコーナーなんだけど」
「あの娘の彼氏さんじゃない?」
いつの間にか周囲の注目を集めていた。恐らく、先程ロイドが大声を上げた辺りせいだろう。
「に、逃げるぞ!」
「う、うん!」
ロイドに促されて、コレットが手に持っていた水着を元に戻したのを確認すると、彼等は足早に売り場を後にした。
場所は変わって、バンエルティア号。食堂にて数人による集まりが行われていた。コーヒー片手のアンジュ、ショートケーキを食べているシェリアと絵を描いているカノンノ、それを見ているファラという構成である。流行りの女子会というやつである。
「コレット、上手くいってるかしらね?」
シェリアがフォークを置いて、言った。驚異的な女の勘の持ち主であり、同時に恋する乙女の味方でもある彼女は今回、(半ば強引に)恋愛相談に乗り、コレットの買い物の件に一枚噛んでいた。
「うーん、どうかなぁ。理屈は通ってるとは思うけど、相手がロイドくんだし……」
アンジュが苦笑する。ここで彼女らがコレットに提案した作戦を説明しよう。現在、ロイドとコレットの間を近づけるのにあたって、最大の障壁になっているのが、ロイドのコレットに対する認識が仲の良い幼馴染という面が強いことである。その問題を解決するために考案されたのが水着購入作戦である。といっても、提案したのは彼女らではないのだが。
「水着を一緒に選びに行くなんて、ジュディスもすごいこと考えたよね」
ファラが言った。実はこの作戦を考えたのは、この場にいる人間ではなく、ジュディス。女子たちが頭を捻っているところ、女として意識させたいなら、そうせざるを得ない状況に持っていけばいいとこの作戦を持ち出したのだ。服を選ぶには、相手の魅力を理解することが必要になる。つまり、この作戦の趣旨としては、ロイドにコレットの水着を選ばせることで、コレットの女性としての魅力に気づかせ、一人の女として意識させるというところにある。買うものが水着なのは、普通の服を選んでいては、鈍感は落とせない、という結論に達したためである。尚、この作戦は準備に一か月を要しており、この作戦に対するコレットの抵抗は1時間に及んだという。
「でも、うまくいくといいよねぇ」
絵を描いていたカノンノが手を止めて言う。カノンノの言葉にシェリアが頷いた。
「そうね。そうなったら、今度はカノンノの番ね」
シェリアが意気揚々といった雰囲気で、カノンノに水を向けた。
「ええっ、私!? そ、そんな、私には好きな人なんて……」
カノンノが赤面しながら首を横に振る。
「いいえ、私は知っているわ! あなたがこの前、ロックスに相談を持ち掛けていたことを! あなたの好きな人は……」
「わーわー! そ、そういうシェリアはどうなのさ! アスベルと!」
何かを言いかけるシェリアに、今度はカノンノから話題を振る。ちなみに、この時隣にいたファラとアンジュに好きな人がいることが知れたことで、後に船内の女子に噂として知れ渡ることになる。
「わ、私のことは関係ないじゃない!」
自分に矛先が向いたことで、今度はシェリアが赤面することになる。
「……何だか、このままだとこっちにも矛先が向きかねないわね」
「あはは……。取りあえず、ここ出よっか」
自分達が狙われる前に脱出しよう。そう示し合わせたファラとアンジュは、カノンノとシェリアが会話の爆弾ゲームをしている間に食堂から抜け出すのだった。
場面はロイドとコレットの外出の様子に戻る。あの後、もう一度水着売り場に行こうとしたコレットだったが、結局ロイドに恥ずかしいから勘弁してくれ、という必死の制止を受け、作戦は断念せざるを得ない状況であった。
「……」
「なあ、コレット。元気出せって」
バンエルティアへの帰り道、コレットはすっかり落ち込んでいた。あまり気の乗らない作戦ではあったが、コレットとしても期待するところはあった。しかし、結果は失敗であった。しかも、ロイドに全く謂れのない責任を押しつけてしまった。無論、後で謝り倒しはしたのだが、だからといって、それでもう終わったことと思えるほど、コレットの心は簡単ではなかった。
「何だよ、そんなに水着が買いたかったのか?」
「そういうわけじゃないんだけど……」
落ち込むコレットを見兼ねたのか、ロイドもこんなことを言い出す始末である。申し訳ないと思い、同時に全くの見当違いであることにがっかりもする。ロイドの立場からすれば、そもそもコレットの行動が謎としか言いようがないだろうし、仕方ない話ではある。しかし、彼の様子を見る限り、もしかして作戦が実行されていても期待したような効果はなかったのではないだろうか、という思いをコレットは抱いたのであった。
「はあ……」
歩きながら、コレットはため息を吐いた。今日のために貯めてきたお金が入った財布も、入っている金額以上に重たく感じる。
「ロイド?」
コレットはロイドの名前を呼んだ。後ろをついてきていると思ったロイドが立ち止まっていることに気づいたからだ。見れば、彼はこの街にある遊園地への案内看板を見ている。一体どうしたのだろうか。
「なあ、コレット。ちょっと遊んでいかないか」
「え?」
ロイドの発言に、コレットは目を丸くした。確かに本来予定していたより早い時間に帰ることになったが、元々遊園地に行こうという約束はしていなかったため、ロイドの言葉はコレットを驚かせた。
「いや、何か水着買うの楽しみにしてたみたいだし、買えなくて悪かったからさ」
「えと、それは……」
相変わらず勘違いしたままである。遊園地に行こうとおいう提案は少し魅力的だったけれど、ここで頷くと、ロイドの勘違いが正しいかのように捉えられる気がして、コレットはどう答えようか迷った。
すると、ロイドは白い歯を見せて、こう続けたのだった。
「それにさ、わざわざ街まで出てきたんだ。楽しんで帰った方が絶対良いだろ?」
「ロイド……」
不思議なもので、ロイドのその屈託のない笑顔を見た時、コレットの中で、今日は色々上手くいかなかったけど、まあ良いかなんて気持ちが生まれてくる。惚れた弱みとはこういうのを言うのだろうか。
「……うん。そだね!」
結局、笑顔で頷いてしまった。惚れたら負け、って恐ろしい。
「ようし! それじゃあ行こうぜ!」
俄然、元気な声を上げ始めたロイド。ものすごく嬉しそうだ。これはもしかして彼はさっき看板を見て、単純に遊園地が気になったからこんな風に言い出したのかもしれない。そんなことを思いつつ、それでもいいかな、あんなに楽しそうだし、とも思う自分がいる。作戦は上手くいかなかったが、ちょっと幸せな気分を味わったコレットだった。
サブタイに関しては完全にはっちゃけたかっただけ。おはこんばんちはっす。神護景雲です。
私の作品のコレットはどうも「……ロイドの馬鹿」的な一面が強く出ちゃう気がします。こうロイドの発言一つ一つに振り回されちゃう感じが……。多分、きっと私がロイドの鈍感を上手く活かせないせい。
ただ、シンフォニア本編の温泉イベント見てると、コレットはぺったん娘のところでゼロスを止めようとした辺り、彼女のことを意識してるのでは、と思わなくもないです。……タイミングがたまたまコレットの話だっただけだったのかもしれませんが。
それと、関係ないのですが、ロイドはもうドが付くほどの鈍感ですが、コレットはどうなんでしょうね。彼女は彼女で意外と自分に寄せられている好意に気づかなさそうな気がします。天然だから。その辺どうでしょう。
これを読んでくださった方がロイコレを書いてくれたらとか思いながら、この辺で失礼します。