独特の雰囲気がクセになりそうです。
幻想郷は初秋を迎えようとしていた。
清々しい朝の陽の光。風が汗を流していく感触が心地よい。
冷や汗であるが。
神社へ帰る前に傷付いたメタルダーを河童のアジトへ運んでいたら陽が落ちてしまったので、人里に住む霊夢の知り合いにお世話になろうという結論になった。
上白沢慧音、里で寺子屋を開いている女性だという。
実際会ってみれば、教師という前評判で予想していた通りの誠実そうな凛とした女性だった。
だった、はずなのだが。
今目の前に立っている上白沢慧音は、流麗な長い銀色の髪が逆立たんばかりの威圧感を放ちながら士と海東を睨んでいた。
それもきっと当たり前のことである。
昨夜訪れた際、慧音は家に不在だった。しかし霊夢の根拠不明の「大丈夫」という言葉で半ば無理矢理納得させられてしまい、結局それ以上深いことは考えず眠りに就いた。
朝を迎えて目覚めてみれば、縁側に慧音が座っていて。
振り向いた彼女に前述の感想を抱いた直後にこのざまである。
慧音「無断で人の家に上がり込んだことは許そう。その上寝泊まりまでしたこともまあ許す。やむを得ない事情があったのだろう。だがな…」
威圧感が一層強くなる。士と海東は極力素知らぬ顔で、だが正座で、慧音の次の台詞を待っていた。
表情を青ざめさせているのは、未だ眠っているルーミアに腕に組み付かれ身動きのとれないコウタだけであった。
慧音「それが里を騒がすディケイド、そしてディエンドとなれば話は別だ!!」
士「お前既に何かやらかしてんのか?」
海東「覚えがないね。むしろ里を守ったことを表彰されてもいいぐらいさ。士の方こそどうなんだ?」
士「俺が知るか…」
きっと慧音は里の守護者としての立場にある神経質さ故、誤解しているだけだ。
そうは思っても、目の前の巨人には話が通じそうにもない。
霊夢「慧音、いい加減にしなさい」
慧音「霊夢!?いや、しかしだな…」
ぼーっと眺めていた霊夢が、慧音の襟を引っ張って宥める。
あれほど二人を包み殺さんとばかりに放たれていた威圧感がすっ、と身を潜めた。
霊夢「前にも言ったでしょ?この人たちは悪い人じゃない。私が保証するわ。慧音、あんたも里の守護者だからって神経質になりすぎよ」
慧音「う、むぅ…」
慧音は一応理解を示したが、まだ納得がいかなそうに、二人に猜疑の視線を送る。
士も海東もその類の眼には慣れていたので、何とも思っていなかった。
霊夢「はあ…私がいなかったら、あんたたちどうなってたのかしら?」
士「考えたくないな」
慧音「むうう…」
ひとまずの和解。
それからすぐ後にルーミアが目を覚まし、少し遅い朝食をとり。
またルーミアがコウタの腕で眠りに就いたところで、慧音は縁側でお茶をすする霊夢の隣に腰かけた。
霊夢「…慧音、このお茶古くない?」
慧音「新品だ。いや、そうではなくてな……」
霊夢「?」
慧音の神妙な面持ちに、霊夢は言ってやろうと思っていた文句を押し込め、その話に耳を傾ける。
霊夢「…どうかしたの?」
慧音「……何、最近妙な噂が流れていてな…」
霊夢「噂?」
慧音「ああ。何でも、各地の強力な妖怪たちがこつぜんと姿を消しているそうなんだ」
霊夢「…噂を信じるなんてらしくないわね。てかその噂が本当なら、私からすれば好都合この上ないんだけど」
慧音「ああ、その通りなんだが……何か嫌な胸騒ぎがしてな……」
嫌な胸騒ぎ。それなら霊夢も最近感じていたが、慧音には黙っていた。
自分の勘はよく当たる。だが里の守護者たる彼女にはあまり気苦労をかけさせたくなかった。
士「……強力な妖怪、か。少し覚えがあるな」
霊夢「つ、士さん?」
先ほどまで里の風景をカメラに収めていた士が、いつの間にか背後にいた。
士の口ぶりに霊夢は一抹の不安を覚える。
士「文が怪人に誘われた、とか言っていたな」
慧音「文…射命丸文か!?やはり噂は本当なのか…!?」
士「お前も狙われるかもな。霊夢に魔理沙……萃香も危なそうだ」
慧音の心身を思って黙っていたことをさらっと吐いてしまった士に、霊夢は落胆する。
あまつさえ相手を不安にさせるような物言い。私の気遣いが台無しではないか。
そんな思いは直後に吹き消された。
士「ま、俺が守ってやるから心配するな」
霊夢「んなッ!!」
無神経だとか期待外れだとか、そんなレベルじゃない。門矢士は誰が巻き込まれようが意に介さない程、どうしようもなく自信家なのだ。
それを目の当たりにした霊夢は、肩をずるっ、と落とした。
慧音「おいおい、私はまだお前を信用していないぞ?」
士「これからさ。俺は行動で信用させるタイプだからな」
慧音「ふふふ…面白い奴だな、お前は」
霊夢「………はぁ」
何も分かっていなかったのは自分の方ではないか?
霊夢はため息をひとつ吐く。
霊夢「守るのは私の役目なのに」
士「相性だから仕方ないだろ。F.o.Dに太刀打ちできるのは俺たち仮面ライダーだけだ。ま、任せておけ」
不撓不屈の自信に満ち溢れた、士のその表情。
まだ門矢士という人物を計り知れない霊夢は、ただ苦笑いを返すのであった。
ルーミア「じゃー私はコウタが守ってね!!」
コウタ「起きてた!!」
紫「………で、あなたたちはいつになったら紅魔館へ向かうのかしら?」
霊夢「あら、紫。どうしたの?」
紫「どうしたの、じゃないわよ!」
昼を過ぎ、そろそろ神社へ戻ろうかというタイミングで現れたのが八雲紫であった。
額に血管を、顔に引きつった笑みを浮かばせ、スキマから士たちを見下ろしていた。
紫「紅魔館がッ!!占拠されてッ!!大変なのッ!!今すぐ助けに行って頂戴ッッ!!」
コウタ「そういえばそんなこと言ってたな」
霊夢「面倒ねえ。なんで妖怪を助けに行かなきゃならないのよ」
紫「……幻想郷の未来と、ディケイド……あなたのためを思ってのことよ」
士「どういう意味だ?」
紫は扇子をばさっ、と開くと、士の問いに答えを返す。
紫「ディケイド。あなたに託した強化カード、覚えているわよね?」
士「ああ。何度か使ったな」
紫「ええと…ジレネーションフォーム、だったかしら」
コウタ「ジェネレーション、じゃないか?」
紫「ゲフンッ、そう、ジェネレーションフォーム。その“真の力”を引き出すためには、紅魔館の解放は必要なことなのよ」
紫の言葉を聞きながら、士はジェネレーションフォームの強化カードを眺める。
十四のライダーの紋章。そして、裏側に描かれた謎の『眼』。
紫「ただディケイドを強化するだけではない。ジェネレーションフォームの真の力……それが私が見つけ出した『対抗策』なのよ」
霊夢「……真面目に探してたんだ!?」
紫「何で意外そうな顔するのかしら!?」
いじけてしまった紫は放っておいて、霊夢が士からカードを受け取る。
すると、眼の紋章が赤く発光し、左上にクウガの紋章が現れた。
だがそれ以上は何も反応を示さなくなってしまう。
コウタ「何だこれ?」
コウタが触れても何も反応を示さない。
続けて慧音が手に持つと、再び赤く発光し、ファイズの紋章が現れる。
慧音「光ったぞ」
コウタ「あれ?俺は無反応?」
ルーミア「見せて見せて!!」
コウタが慧音から受け取ろうとしたカードを、ルーミアがひったくる。
すると今度は鎧武の紋章が現れた。
コウタ「あれえぇ!?何で!?」
霊夢「…紫?どう使うのよこれ?」
紫「………」
霊夢「ああもう、悪かったわよ。幻想郷を守るために頑張って見つけてくれたんでしょ?凄いことだわ、だから元気出して!!」
紫「まったく…仕方ないわねえ。私がいなくちゃどうしようもないわねえ?」
本音を言うと、少しイラッとした。
霊夢はまた面倒を起こさないようそれを押し止め、カードを紫に手渡す。
紫「それは力ある者を十四の仮面ライダーのいずれかに覚醒させるカードよ。霊夢は…クウガに覚醒したみたいね。慧音はファイズで、ルーミアが鎧武…凄いわ、もう三人も覚醒してる!」
霊夢「……何一つ意味が分からないんだけど」
紫「今に分かるわ。ともかく、それぞれの仮面ライダーに相応しい力を持つ人妖を探し出して、そのカードで覚醒させなさい。三人覚醒したから、残りは十一人ね」
士「そのために紅魔館を解放しに行くってわけか。まあ深く考えるのは後だ。とにかくやってみるか。コウタ、行くぞ!!」
コウタ「お、おう!! ……ルーミア、ここで待ってろ。俺は」
ルーミア「私も行く!!」
コウタ「…そっすか」
士「果物の天敵は大食らい妖怪、か」
ルーミアに押し切られたコウタと、それを嘲る士。
それを無気力に見送る霊夢の頭を紫の扇子が一撃した。
紫「霊夢、あなたも行くのよ」
霊夢「え、私が行っても役には…」
紫「後で私がフォローするから!!」
霊夢「わ、分かったわよ…」
コウタ「んじゃ、行くか!」
慧音「待て」
いざ出発、というところで一行を呼び止めたのは慧音だった。
士「何だ?」
慧音「終わったらまたここへ来るといい。神社まで戻るのは大変だろう?いつでもいいからな」
士「……信用されてしまったな。んじゃ、そうさせてもらうか。これは期待に応えてやらないとな」
慧音「吉報を待っているぞ、ディケイド……いや、門矢士」
士たちを見送った、すぐ後のこと。
「せんせぇーーー!!けーねせんせぇぇぇーー!!」
慧音はこちらへ駆け寄ってくる一人の少女の姿を視認する。
慧音「どうした、初。今日は授業は休みだろう」
初、というらしい少女は慧音の言葉も聞かず、彼女に縋り付いて大泣きを始めた。
初「い、
慧音「何だと!?一里が!?」
一里とは彼女の親友である少女の名前。そして慧音の教え子でもあった。
白昼堂々、無粋な妖怪もいたものだ。
慧音は初に案内を頼み、その妖怪の現れた場所へと向かう。
そして。
海東「これは彼女に僕たちを認めさせる絶好のチャンスかな?」
今まさに外出から帰ってきて何も知らない海東が、その後に続いて走り出した。
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霧の湖には今日もラプソディとプリズムリバー三姉妹の音楽が鳴り響く。
あれだけの激闘が起きたこの場所にも、散り散りに逃げていた妖精たちの姿が確認できるようになってきた。
そんな妖精たちが再びざわつき始める。霧の湖に、メタルダーとスプリンガーが現れたのだ。
メタルダー「………」
その足は真っ直ぐ、ラプソディたちの元へ向っていく。
ラプソディは彼に気付いたが、演奏の手は止めない。
ラプソディ「………」
メタルダーにとっては想定外の寄り道だった。
スプリンガーの案内で博麗神社とやらへ向かう途中、懐かしさを覚えるメロディが聞こえてきた。
始めて聞いたのはどれくらい前のことだろうか。
最後に聞いたのは………昨日のあの戦いか。
「ツィゴイネルワイゼン」。大分アレンジされているが、メタルダーはすぐに理解した。
風に乗って流れてきたその旋律に引き寄せられるように、霧の湖へ踏み込んだ。
何も言わずについてきてくれたスプリンガーは、離れた場所で寝そべり湖を眺めている。
メタルダー「……ラプソディ」
ラプソディ「………」
演奏は止まらない。
止めるのも悪い、とメタルダーはロボットと騒霊の合奏を静聴する。
最初はメタルダーを警戒していた先客の妖精たちも次第に心を許し、周囲を飛び回る者まで現れ始めた。
メタルダー「………」
演奏が終わる。ビン、とバイオリンの弦を弾く音。
直後に妖精たちの大喝采が沸き起こった。
メタルダー「ラプソディ」
ラプソディ「……ああ。改めて………久しぶりだな、メタルダー。またお前に会えて嬉しい」
メタルダー「僕もだ」
二人は固い握手を交わす。
そんなやりとりを見ていたプリズムリバー三姉妹の三女、リリカ・プリズムリバーが二人の間に割って入る。
リリカ「いいねえ、友情ってやつだねえ。熱いねえ!」
メタルダーは瞬時に理解した。この子は少し面倒な性格をしている。
何てことを思っていると、今度は次女のメルラン・プリズムリバーがリリカの反対側に現れた。
メルラン「私もこんな熱い親友が欲しいなあ!」
今の自分は一体どういう状況に置かれているのだろうか。
メタルダーが答えを探っている間に、長女のルナサ・プリズムリバーが二人の妹をガッシと引き離した。
ルナサ「リリカ、からかわない。メルランもそんなキャラじゃないでしょ」
メルラン「キャラって何よう」
リリカ「素直に羨ましいって思っただけなのにー」
ルナサ「ほら、感動の再会を邪魔しない。ラプソディ、私たちは先に帰ってるわ。再会を楽しんでね?」
二人の妹を引きずっていくルナサに頭を下げると、ラプソディはメタルダーに向き直る。
メタルダー「彼女たちは?」
ラプソディ「私の恩人にして、家族だ。今の私はラプソディ・プリズムリバーだからな!」
メタルダー「……………なるほど」
ラプソディ「……ツッコミを期待していたんだが」
メタルダー「何の話だ?」
ラプソディ「いや、いいんだ。やはり変わっていない、安心したよ」
メタルダー「僕に変化なんて起きない」
ラプソディ「ハハハッ!それもそうか……」
何故だか少しだけ気恥ずかしい沈黙。
次に口を開いたのはメタルダーだ。
メタルダー「ラプソディ。君はこの世界で生きていくのか?」
ラプソディ「…………」
ラプソディが答えを返したのは、数十秒ほどの沈黙の後であった。
ラプソディ「………ああ。私の居場所はここに辿り着いた。旅行く仲間もいたが……彼女にも、この世界を見せてやりたかったなぁ……」
メタルダー「………」
ラプソディ「メタルダー、お前はどうなんだ?」
メタルダー「僕は……いずれ、何としてでも元の世界へ帰らなくてはならない。向こうにも、待たせている大切な仲間がいる」
ラプソディ「そうか。ならば、そう遠くない未来、本当に永遠の別れを告げることになりそうだな…」
それ以上、交わす言葉はなかった。
ラプソディが奏でるバイオリンの音色を聴きながら、ただ何も語らず、湖を眺め続けた。
彼とどうやって別れたのかはよく覚えていない。
隣にラプソディの姿はなく、代わりにスプリンガーが座り込んでいた。
メタルダー「スプリンガー……僕はこの世界を何としてでも守ろうと思う。輝き営む命と自然、大切な仲間、それらが生きるこの世界を……」
スプリンガー「当然だ。懲らしめてやろうぜ。ネロスの残党も、F.o.Dとかいう連中も!!」
最も澄み渡る空と湖に、超人機メタルダーはひとつの誓いを立てるのであった。
ひとまずラプソディの役目は終わりました。出番はまだあると思いますが。