異世界マインクラフト 作:マグマダイブ全ロス
さて、ウェンディと新たに使い魔となった彼のの共同生活が始まったわけだが、早めに彼自身の部屋を用意しなければならない。
今は寝る場所として祖母のベッドを使ってもらっているが、祖母の部屋は危険な魔法道具も数多くあり、何も知らない彼に使ってもらうのはやめた方がいいだろう。*1
元々祖母との二人暮らしで来客用の部屋などないのだから、近くの集落の大工に頼んで増築なり新築なりして彼の生活スペースを確保するべきだ。
「そういう訳で、私は集落に大工さんを呼びに……えっ、なんですか?」
なぜか前傾姿勢のままゆっくりと頭を左右に振る彼。
何が気に入らないのかは分からないが、彼をいつまでも祖母の部屋で仮住まいにさせるわけにはいかない。
喋れない彼の意図を何とか汲み取ろうとウェンディがじっと見つめると、彼は器用にも後ろ歩きで玄関に向かい、私が付いてくるのを確認すると数回ジャンプして家の外へ出ていった。
(家の外に何か見せたいものがあるのかな?)
ウェンディが彼を追って外に出ると、彼はここ最近の伐採作業で出来た家の横の空き地に立っていた。
元はここにも森の木が何本も生えていたのだが、今はすべて彼が伐採し、どうやったのか地面が平坦に整えられた空き地となっている。
何があるのか、と見ていると、彼は突然ジャンプして、しかも足元に丸太を置いて上に乗るという曲芸のようなことを繰り返し始めた。
ここしばらくで彼が膝も曲げずに直上に飛び上がるのには慣れてきていたが、そんなことまで出来るとはウェンディは知らなかった。
置かれた丸太もまるで継ぎ目が見当たらず、普通に生えている木のように接着されており、彼の不思議な力が働いているのは一目瞭然である。
あっという間に柱のように丸太を置いた彼は、丸太から飛び降りて同じことを別の三か所で行って四本の柱を立てる。
そこからはまるで流れ作業のようで、どうやって作ったのか分からない分厚い真四角の板材を四本の柱の間に置いていき、陽が最も高くなる前に小屋? のようなものが完成した。
ウェンディの目にはただ置いていっただけに見えたが、彼の不思議な力で板材同士は接着されて外壁として機能している。
(正直、こんな陽のあるうちから松明なんて焚かなくていいと思うけど……)
壁にある種の執念を感じるような数の松明が付けてあることを除けば……いや、除いても結構異様な小屋である。
家主が誰か一発で分かるほど四角い家。
四隅の丸太も、流していたがなぜこんなに四角いのだろうか?
しかし、そのおかげで丸太と板材はカッチリとかみ合い、隙間一つない完璧な四角形の外観を作り出している。
正面には板材の隙間にいつの間にか扉が設置されていて、建物として機能することを示していた。
「でも、凄い! こんなにすぐ建物を建てられるなんて、凄いわ!」
『使い魔は主を映す鏡』、『使い魔を見れば主の資質が見える』と魔女たちの中では言われており、ウェンディはこの『凄い使い魔』が自分の事のように誇らしかった。
……実際には、彼は曲がりなりにも異次元の超越存在であり、格的にはウェンディよりぶっちぎりで上であるが、彼女がそれを知る事はないだろう。
扉を開けて中に入ると、中には彼が置いたのだろう生活用品のようなものが設えられていた。
壁際には上にマス目のようなものが書かれた作業用机のようなもの、なぜか縦に積まれていて煙の逃げるところが見当たらない小さなかまどが複数、長持*2のような箱が置いてあり、中央にはいつの間に運んだのか祖母のベッドが置いてあった。
室内にも松明が焚かれていて火事が起きないかちょっと心配だが、ウェンディは何よりも気になることを彼に告げた。
「……むき出しの地べたの上にベッド置くのはやめてくれません?」
一応、それも祖母の遺品の一つなんですよ?
「じゃあ、世話はお願いしますね」
今日、ウェンディは難しい調合に挑戦するため、使い魔の彼にニワトリの世話を頼んだ。
家の庭に設置されたニワトリ小屋では料理や調合に使うタマゴを採取するとともに、時には儀式の供物に使われるニワトリを飼育している。
とはいっても、小屋の大きさもたいしたものではないので軽率にニワトリを絞めることはできないし、増やすこともできない。
だが日常的に出る鶏糞は薬草園で使える肥料の素になるので管理は欠かせないのだ。
日暮れ前にようやく調合が終わり調合部屋から出ると、彼は台所のかまどで何かを焼いていた。
彼の不思議な力がここにも作用しているのか、明らかに薪ではないものをつっこんでいても木製なら問題なく燃料になっていたり疑問は尽きないが、ともかく料理をしているらしい。
彼がする料理は基本的にかまどで焼くか、作業机に並べたらいつの間にかできる不思議料理かの二択である。
不思議料理の方は粉に挽いてない小麦の束からパンが出来上がったりと、かなり不気味。
肉料理や魚料理はかまどで焼いているようで、素朴な味だが安心できる食べ物だった。
(もう少し、静かに食べてくれないかなあ)
一緒に暮らして分かったことだが、彼は滅茶苦茶食べ方が汚い。
音を立ててガツガツ食べるし、食べ終わると必ずゲップまでする。
何度注意しても治らない彼の悪癖であった。
「あ!それ鶏肉!? 勝手に絞めちゃダメじゃないですか!」
よく見れば彼が食べているのは焼いた鶏肉。
お世話を頼んだのに勝手に絞めるなんて!とウェンディは急いでニワトリ小屋に数の確認に向かう。
……そこで彼女が見たのは、ニワトリ小屋の囲いの中にひしめき合う無数のニワトリたち。
住環境など知ったことかとばかりに囲いの中に詰め込まれた姿はいっそ哀れですらある。
「いや、おかしいでしょ!昨日より数が増えてるんだけど!?」
百歩譲ってタマゴから孵ったものも交じっているとしても、ヒヨコは一匹も見当たらない。
なぜか一回り以上小さいニワトリが散見されるが、流石にヒヨコには見えなかった。
眩暈がしそうになりながらなんとか現実を呑み込んだウェンディの前で、使い魔の彼は焼き鶏をガツガツ食べながらカクカクとした動きで腰を曲げていた。