竜娘が巡る終末世界【完結】   作:春の日びより

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21 婆ちゃんの家 その2

 

 

「水くみ、お願いできるかい?」

「いいよ!」

 最初のお手伝いは水くみだ。元気よく返事をした私に婆ちゃんはニコニコと目を細めた。

 水道は止まっているはずだからどこから水を汲むのかと思ったら、庭の隅に手汲みポンプ式の井戸があった。

 なるほど~井戸かぁ~。でも、手動式でもポンプならそれほど力は使わないのでは? と思ったら、その水を家の脇にある浄水樽に移すみたい。

 樽はどこかの酒造の物を貰ってきたのか、そんなに大きな物じゃないけど、人が数人使っても数日は保つくらいの大きさがあり、底には小石や砂が敷き詰められていた。

 

「よいしょ!」

 ポンプを押すのも何回もすると力仕事なのだと初めて知った。バケツに水を汲み、それを樽に移していく。十数回で満杯かな? たいしたことないけどお年寄りなら大変だ。

「……あれ? これなに?」

 よく見ると樽の上のほうに防水シートやホースが繋がっている。

「ああ、屋根からも雨水が落ちるんよ」

「へぇ……」

 随分と便利にしてあるんだねぇ……そんなことを思っていると、婆ちゃんが教えてくれる。

 

「爺っさんがそんなの好きな人で、こん世界がこんななったときに作ったんよ。ほれ、あれも、これもそう」

 婆ちゃんの話だとお爺ちゃんがアウトドアやそういうのが得意な人で、ここに残ることを決めたときに古くなった井戸を使えるようにして、浄水樽や石の竈なども作ったみたい。

 お爺ちゃんも結構なお年寄りだと思うけど、凄い人だね……。

「……この世界が、ってどうなっているか知っている?」

 ずっと知りたかったことを聞いてみると婆ちゃんは少しだけ首を傾げた。

「今のことはわがんね。でも、十年前、いぎなり大っきな動物が出てきたんよ」

「……十年前っ!?」

 

 やっぱり原因は巨大動物だった……でも、十年前? 嘘でしょ?

 ジンベエのことがあったからさすがに何十年も経ってないとは思っていた。

 でも、ジンベエのご主人があの場所に何年か留まっていて、そのときにジンベエが生まれたのだと漠然と考えていたけど、まさかたった十年とは……。

 たった十年で樹木がここまで大きくなるの? コンクリートが割れるほど育つのなら五十年以上経っていると言われても信じられる。

 でも確かにこれまでの民家はそれほど傷んでなかったし、食べ物も缶入りなら味も変になっていなかったけど……う~~ん。

 

「その頃は色々大変おっぎくなって大変だったねぇ。動物園の動物がおっぎくなって沢山の人さ亡くなったよ……。でも、野菜もすぐにおっぎくなって助かるけどなぁ」

「そうなんだ……」

 よく分からないけど、突然色々な生き物が大きくなった。

 街で見たライオンのような巨大動物の骨は、動物園の動物が巨大化したものだった。

「そんときは大変な騒ぎさなって、おまわりさんが外さ出るな言うとった」

「そのときにみんな避難したの?」

「んだ」

 きっと街を襲った奴を倒しきるまで沢山の人が犠牲になった。ううん……違う。倒しきれなかったから住民はいなくなって、あの巨大猿が残っている。

 

 でもジンベエのような犬やアライグマ、川の魚なんかも大きくは育っていたけど巨大というほどではなかった。

 その違いはなに? 一部の樹木は巨大になって、花や野菜は早く育つ程度で済んでいる。

 鹿……猪……ライオン……牛……クジラ……。

 もしかして……一定以上の大きさのものだけが巨大になる?

 この街が廃墟になった理由は分かった。

 でも……どうして樹木や動物が巨大化したのか、その理由は分からない。

 

「当時の新聞とか残ってない?」

 雑誌とかには載っていなくても、新聞とかならその日のことも載っているかもしれないと婆ちゃんに聞いてみる。

「う~ん……最初の頃に爺さんが焚きつけにしちまったかもねぇ」

 それなら仕方ないけど……。

「それで……お爺ちゃんは?」

「……んだねぇ。そんだら嬢ちゃんにも挨拶させっがら、こっち、こ」

「うん……」

 

 私はゆっくりと歩き出した婆ちゃんの後をついていく。

 玄関のほうへ回り、来た道を戻り、お墓のある墓地のほうへ向かう。

 ……やっぱりそうなんだ。と少し寂しく感じながらも墓地の中を進むと、その一角に不自然な盛られた土が幾つかあった。

「爺っさんや。めんこいお客さんがきたべ」

「……初めまして、お爺ちゃん」

 

 そこがお爺ちゃんのお墓だった。高齢から退避することなく婆ちゃんと残ることを選んだお爺ちゃんは、五年ほど前に眠るように息を引き取った。

「残った人は何人かいたんよ。みんな年寄りでのぅ。みんなで決めて、亡くなったらここで眠ることにしたんよ。ほれ、ここが私の分だべ」

「…………」

 お爺ちゃんの眠る土が盛られただけのお墓の向こうに、同じように盛られたお墓が五つあり、お爺さんの隣に土が避けられた穴が開いていた。

「難しく考えることねぇ。爺っさん婆っさんなるまで生きて死ねるなら幸せなことだぁ。線香はもうねぇけど、拝むだけで喜ぶっちゃ」

「うん……」

 

 私はお爺ちゃんと五つのお墓に近くで摘んだお花を供え、婆ちゃんと二人で手を合わせる。

 お爺ちゃんはこのお寺の娘だった婆ちゃんの入り婿になった和尚さんで、婆ちゃんより年下だったらしく、かなり元気な人だったと婆ちゃんは懐かしそうに話してくれた。

 

「ところで嬢ちゃん、そげな格好で寒くねぇのけ?」

「今更!?」

 

 婆ちゃんは私が毛皮の格好をしていても、外国人だからそんなもんだと思っていたみたい。

「どこの外国人でも、寒いときは寒いよ!」

「んだら、家にまだ昔の服さ、あっがら、それ着るか?」

「寒くないし、服も着られないんだよ」

 身体の中に〝熱〟があるからか本当に寒くないし、肌のせいで服も着られないことを話すと婆ちゃんは少し難しそうな顔をする。

「若いのに難儀だなぁ。まともな頃なら、駅の向こうにおっぎな病院もあっだがなぁ」

「別に病気じゃないんだけど」

 生まれつきだよ? それよりも……。

「婆ちゃん、病院通っていたの?」

 気になったことを訊ねてみると、私の顔を見て婆ちゃんは笑う。

「九十も生きていれば、色々ガタがくるもんさ。おっぎな病院には何ヶ月かにいっぺん、センセに診てもらっていたんだよ」

「九十っ!?」

 高齢だとは思っていたけど、思っていたよりもお年寄りだった!

「けっこうお婆ちゃんだべ? 嬢ちゃんは私の曾孫よりわけぇもんなぁ」

「曾孫さんは……?」

「元気にしとるとよいねぇ」

「うん……」

 

 婆ちゃん家族は早い頃に退避したらしい。一緒に行こうと説得されたけど、当時で八十を超えていたし、お墓を残していけないとお爺ちゃんと二人で残ることを選択した。

 ここの土のお墓の人も、似たような人たちだったのだろう。

 でも、退避した人が何処へ行ったのか? その人たちはどうなったのか? 当時は情報が錯綜していたみたいで婆ちゃんも詳しいことは分からなかった。

 つまり、何か情報が出てくる間もなく、唐突に巨大動物に襲撃されたということか……。

 

「もう随分とご無沙汰だけども、偶に曾孫が車さ出してくれて、駅向こうの病院に行ってたんよ」

「へぇ……」

 婆ちゃんは指さす遠くに、私が目印にしていたあの高層ビルが見えた。

 ……あの病院かな? もう廃墟になっていたけど。

 なんか途中で話がずれたけど。

「服が着られないのは病気じゃなくて、ほら、これ!」

 

 私は婆ちゃんに自分の〝角〟と〝尻尾〟を見せることにした。

 私はたぶん人間じゃない……。初めて会った〝人〟にそれを知られたらどうなるのか……。それが怖くて言われるまで黙っていたけど、婆ちゃんなら大丈夫のような気がした。

 

「あれまあ、最近の子はそんなものがあるんけ?」

「そうじゃないと思うなぁ……」

 私も他の人間は見たことがないから分からないけど、たぶん違うと思う……。

 婆ちゃんは角や尻尾を見ても態度を変える様子はなかった。人間とは違う角や鱗を見て……

「キラキラして綺麗だねぇ」

……と言ってくれた。

 

「それじゃ帰ろうかね。お昼ご飯のお手伝いをしてくれるかい?」

「うん」

 私は婆ちゃんと手を繋いで、ゆっくりと帰る。

 婆ちゃんがお爺ちゃんと過ごしたあの暖かな家に。

 

 




方言で場所がバレてしまう?

次回、『婆ちゃんの家 その3』
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