竜娘が巡る終末世界【完結】   作:春の日びより

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あけましておめでとうございます。
まだ修正が終わらず再開はまだですが、閑話ができましたのでお届けします。
今年も宜しくお願いいたします。


29 【閑話】ジンベエの受難

 

 

 バウ!

 

 今日もジンベエは畑の見回りをする。最初はネズミやアライグマが畑の野菜を狙って来たが、ジンベエが追い払うと逃げていき、世界が寒くなってからほとんど見ることはなくなった。

 以前は〝ご主人〟が残した畑を見回るだけだったが、最近は家庭菜園を守ることもジンベエの役目だ。

 少し前まで、ここには他の者がいた。何も知らないその者にジンベエは食べ物や水の場所を教えてやり、一緒の飯を食べ、一緒に眠り、一緒に猪を倒した大切な仲間だった。

 

 ジンベエの〝ご主人〟は昔この家に住んでいた老夫婦だけだ。

 昔、遠くに見える〝塔〟のほうから煙が上がり、まだ幼かったジンベエは遠くから聞こえる獣の遠吠えに脅えた。それから何人か人が来て話し合いをしたご主人は、とても気落ちしているように見えた。

 そして何日かするとご主人はジンベエから首輪を外し、悲しそうな顔をしてジンベエを板間のほうへ入れるようにしてくれた。

 それから出かけていったご主人は戻っていない。でもジンベエはご主人がいつ戻ってもいいようにこの畑を守ってきた。

 ジンベエのご主人はあの老夫婦だけだ。でも、あの角と尾のある者は、ジンベエと一緒に戦った大切な〝仲間〟だった。

 

仲間がここを離れるとき自分に向けて手を伸ばした。きっと一緒に来いと言っているのだろう。でも、ジンベエは〝ご主人〟の畑を守る役目がある。

 ジンベエはここを旅立つ仲間が、ご主人と同じように悲しい顔をしないように、仲間が大事にしていた家庭菜園も守ると約束した。

 でも……

 

 クゥ~ン……。

 

 玉を投げて一緒に遊んでいた〝仲間〟がいないことは寂しかった。

 それから数日も経つと少しずつ寒くなり、また数日がすぎると〝雪〟が降り始めた。

 

 バウバウ!

 

 ジンベエはこの空から降る冷たくて白いものが大好きだ。

 形を変え、口の中で溶けて、土遊びと違ってご主人に叱られない。

 寒さに強い日本犬なので雪も寒さも苦ではなかった。

 ただ冬は用水路が凍ることもあり、野菜も少なくなって食べるものに困ることはあるが、今年は仲間が残してくれた〝肉〟があるのでお腹が空きすぎることもない。

 

 あの大きな猪は本当に怖かった。ご主人の畑を守るために仲間と一緒に戦ったが、仲間は最初に大きな怪我をしてしまった。

 幸い、ジンベエが傷口を舐めて治してあげたから死ぬことはなかったが、そのときの仲間もちょっとだけ怖かった。

 でもすぐに仲間は元気になり、あの大きな猪を倒して、勝利の遠吠えをすることができた。

 仲間は猪の肉を生で食べていたが、ジンベエはその〝肉〟から猪と同じ目に見えない何かを感じて、怖くて食べられなかった。

 けれど、仲間が火を通してくれると怖いのがなくなり、普通に食べられるようになった。

 仲間が置いていった薄い肉も普通に食べられた。

 肉を生で食べた仲間は何故か身体が丈夫になっているように感じた。ジンベエは生肉が怖くて食べられなかったが、仲間の傷を舐めてから、自分も何故か少しだけ丈夫になっているような気がした。

 ただ、身体が多少丈夫になっても、仲間が残してくれたジンベエよりも大きな肉塊は、硬くて食べられそうになかった。

 

 あれから雪はずっと止まない。雪遊びも一匹ではすぐ飽きてしまう。身体が丈夫になったせいか寒さは去年よりも平気になったが気は滅入る。

 遠くの塔から響くような……とても悲しい〝咆吼〟が聞こえて、旅立った仲間のことを思い出した。

 ジンベエはずっと一匹だった。十年もそうしてきたが、一時でも仲間がいてくれたことで、ご主人のことも思い出して寂しくなる。

 でも、そのときのジンベエは、その寂しさが〝平穏〟と同じだということを知らなかった。

 

 バウ!?

 

 それは唐突に現れた。雪に残る跡から森のほうから来たようだ。

 それは一頭の巨大な〝狼〟だった。

 白い雪の中、真っ白な毛で凜と立つその姿は、ジンベエが見惚れるほどに綺麗だった。

 ただ……その白狼の大きさは、体長で五メートルもあった。

 

 ウウ~~~~ッ。

 

 きっとこの巨大な白狼は、あの巨大猪と同じなのだと思い、ジンベエがへっぴり腰で唸る。だが白狼はそんなジンベエを一瞥すると、そのまま雪の中にしゃがみ込んだ。

 そこでジンベエは白狼の毛皮が血で汚れ、白い雪を赤く染めていることに気づく。

 きっとこの白狼は、あの猪のような巨大動物と戦い、勝つか負けるかして、怪我をしたままここまで流れてきたのだろう。

 よく見れば森から続く足跡の他にも血の跡がずっと続いていた。

 かなり弱っている。餌もなく、このままでは死んでしまうかもしれない。

 巨大猪と同じ恐ろしい巨大狼。……でも、仲間が旅立ち寂しさを覚えていたジンベエは、民家に急いで戻ると、引きずってきた巨大な燻製肉を白狼に差し出した。

 

 バウ!

 

『ガウ……』

 白狼がいぶかしげに、自慢げなジンベエと燻製肉を黒い瞳に映す。

 もしかしたら自分がいると食べにくいのかもしれない。ジンベエがもう一声鳴いて民家に戻るその背後で、肉と骨を噛み砕くような音が聞こえた。

 その翌朝……

 

 バウ……。

 

『ガウ』

 民家の板間で寝ていたその庭先に、あの白狼がいた。

 白狼の巨体に比べたら小さな肉塊だったが、食事をしたことで体力が戻り、峠を越したのかほぼ傷が治ったらしい白狼は、ジンベエの前に一羽の真っ白な兎を落とした。

 ジンベエも兎を見るのは随分とひさしぶりだ。少なくともこの辺りにはいないので、遠くから狩ってきたのだろう。

『ガウ』

 白狼がジンベエに早く食えと急き立てる。

 おそらく昨日の礼なのだろうが、ジンベエもこの大きさの獲物はひさしぶりで躊躇していると、白狼は兎を牙で噛み砕き、バラバラになった兎を出されたジンベエは食べるしかなかった。

『ガウ』

 ジンベエが兎を食べ始めると満足そうな顔をした白狼は、何故か狭い板の間へ入り込み、ジンベエの寝床で横になる。

 

 バウ!?

 

 慌ててジンベエが文句を言うように吠えると、白狼は顔を近づけてジンベエの匂いを嗅ぎ、ジンベエも匂いで、この白狼が〝雌〟だと気づく。

 この雌は何をしたいのか? どうして自分の寝床を奪ったのか分からず、ジンベエが唸りながらも困惑していると、匂いを嗅いでいた白狼がジンベエを見つめ、何やら寒気がしたジンベエがそこから逃げだそうとした瞬間、白狼の前脚がジンベエを押さえる。

 

 クゥ~ン……。

 

『ガウ』

 自分は食われるのか。ジンベエはそう思った。

 白狼は脅えるジンベエにニヤリと笑い、絶対に逃がさないとでも言うようにジンベエを押さえ込んだ。

『ガウ』

 

 そうしてジンベエは雌の白狼に〝食われ〟て、仰向けになったジンベエは事が終わるまで天井の染みを数えることしかできなかった。

 

 バウ~~~……。

 

 

 




色々な意味で食べられちゃったジンベエに幸せはあるのか!?

次回は気長にお待ちください!
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