竜娘が巡る終末世界【完結】   作:春の日びより

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44 生きる子どもたち その3

 

 

「私たち、普段は森で野菜を採ったり、芋を掘ったりしてるんだよ」

「オレ、あの赤い奴、苦手!」

「赤いの?」

 廃小学校で暮らしている、五人の子どもたち。

 子どもたちと触れあっているといつの間にか陽が沈み、一番下のソラが空腹を訴えたことで食事をすることになった。こんな子どもたちだけでちゃんとした食事が出来ているの? そう思って聞いてみると、リンが食料調達についてそう教えてくれた。

 アキが言った『赤い奴』とはよく聞いてみるとトマトっぽい? なんで森にトマトが? トマトかどうか分からないけど、半ば野生化したトマトだと青臭そう。

 

「昨日採ってきた野菜もあるけど……ザリガニとかもう無いよね?」

「そうだ! せっかくの〝おきゃくさん〟だから、缶詰開けようぜ!」

 今日は私がいることでアキがそんなことをリンに提案する。

 子どもたちは冬場などの食料が取りにくい時期のために、遠くの廃屋などを廻って缶詰や乾麺などを集めていたみたい。……意外と堅実。

 缶詰とか乾麺とか偶にでも食べているのなら、それほど酷い栄養状態でなさそう。ザリガニとか言っていたので、川も近いから魚とかも獲っているかもしれない。

 子どもたちは私のために缶詰を開けようと……というより自分が食べたいのかもしれないけど、子どもたちがせっかく集めた食料を〝お姉さん〟が消費するのは気が引ける。

「みんな、ほら、お肉あるって言ったでしょ。熊のお肉!」

 私が引っ張り出した、熊肉がパンパンに詰まった皮袋を叩くと、幼児たち三人が『肉』という単語に目を輝かせて、今日は焼き肉となった。

 

「これと、これと……」

「こんなに!?」

 でっかい葉っぱにくるんだ熊肉を次々と出していくと、皮袋の中身が本当に熊肉だけだと分かったアキが目を丸くして、リンが呆れたように私を見る。

「ツバキおねーちゃん、本当に服とか持ってないんだね……」

 ごめんね! ほぼ裸族で!

 子どもたちの服装は薄汚れてはいるけど、私みたいな野人スタイルではなく、ちゃんとしたまともな服装だ。

「オレらの服は、遠くのえっと……〝すーぱー〟? って所から持ってくるんだ。近くのは、オレやリンが行くと怒られるからな!」

「そうなんだ……」

 怒られる……誰に? 決まっている。彼らを捨てた大人たちだ。

 こうして少し関わっただけでも、子どもたちが大人を頼っているようには見えないから、大人たちは近隣の物資を自分たちの生活のために管理しているのかもしれない。

 今ある物資なんて、あと十年も経てばほとんど使い物にならなくなりそうだけど、大人たちはこれまでの生活を捨てられないのだろう。

 まぁ、あくまで私の想像だから、これ以上の言及は避ける。

 

「とにかくご飯だよ! どのくらいお肉食べる?」

「う~~ん、いっぱい!」

「いっぱいかぁ」

 熊肉は一キロくらいで足りそうな気もするけど、三キロのお肉を使うことにする。お腹パンパンになるまで食うがいい! リンが小さなジャガイモとタマネギを持ってきたくれたので、焼き肉とシチューにすればいいかな?

 この小学校には給食室があったけど、さすがに巨大鍋じゃ料理はできない。でも、家庭科室には色々な鍋や食器が残されていたので、子どもたちはそれで食事をしているそうだ。

 普段は家庭科室で調理をするけど、今回は焼き肉なので教室の外で調理をすることになった。

教室の机を持ち出してお肉を薄切りにして鍋に入れていく。普通の包丁だと巨大動物の肉は切りにくいから牙ナイフを使い、その間にアキがマッチで火を熾して、リンが家庭科室から持ってきた包丁でジャガイモとタマネギを切ってくれた。

「「「…………」」」

 その間、三人の幼児たちは、何が楽しいのか、じっと私の作業を見ている。

 何かが出来ていく作業を見るのが楽しいのかもしれないし、誰かにご飯を作ってもらうことが嬉しいのかもしれない。

 でも、そう凝視されるとちょっとやりづらい。婆ちゃんから料理は習ったけど、不揃いに切り分けてしまったお肉から少し目を逸らすと、そのとき不意にソラが手を伸ばして、生肉の破片を口にしれてしまった。

「ちょ、それ、生だよ!」

 さすがに子どもに……というより人間に生肉はまずいと慌てる私に、ソラは生肉を口に入れたまま嬉しそうに笑った。

「ぉいちー」

「え……美味しいの?」

 

 アキとリンを見ても特に慌てている様子もない。巨大動物の肉は寄生虫もつかないから、怖い細菌とかもつかないとか? そんな疑問に考えが渦巻き、答えを求めるようにアキとリンを見ると、不思議そうに予想と少しだけ違った答えをくれた。

「オレたちも偶に食うけど、ソラは特に生肉が好きだよ」

「お腹が痛くなったりしない?」

恐る恐る訊ねる私にアキがキョトンとした顔をする。

「別に平気だよ?」

「あ、私は昔ちょっと痛くなったよ! アキが平気だから食べていたら痛くなくなったけど」

 リンは以前お腹を壊しかけたけど、食べ続けることで平気になった? それって普通の動物の肉でも平気だってこと? 胃を強化する前の私よりも頑丈じゃない?

「ソラはいくらでも食べられちゃうもんねぇ」

「うん!」

「アタシも!」

「ボクも!」

 リンに頭を撫でられながらソラが満面の笑顔で頷くと、ヒナとリクも跳びはねるように手を挙げる。本当に平気なんだ……ん? あれ?

 

「大きな動物のお肉、怖くないの?」

 乾燥するまで寄生虫や微生物でさえ寄りつかず、ジンベエでも火を通すまで近づくことなかったのに、子どもたちは巨大動物の肉を最初から〝食料〟としか見ていなかった。

「なんでこわいの? ツバキちゃん」

 ヒナが本当に不思議そうに私を見上げる。本当に平気なんだ……でも、視界の隅でアキとリンが微妙な顔をしているのにも気づく。

 きっとこの子たちは、大人が巨大動物の生肉を拒絶していたのを知っているんだ。

 年上のアキやリンより、幼児である三人のほうが生肉を好むのは、アキとリンはある程度の年齢まであの刑務所跡で育って、火を通したものを食べされられていたのかもしれない。

 

 子どもたちは〝夜〟を畏れない。陽が落ちた暗い中で作業をしても気にした様子はなく、火を熾したときには眩しそうにしていたくらい、夜目が利く。

 子どもたちは巨大動物を畏れない。強い存在として認識はしているが、彼らにとってはただ大きい動物でしかない。

 大人は食べられない巨大動物の生肉を、この子たちは平気で食べられる。

 刑務所跡の大人たちは、ただの人間(・・・・・)だった。

 それなら、世界が変わってから生まれた、この子どもたちは……?

 それが、この子たちが大人と離れて生きている理由かもしれないけど、それを詳しく聞くのも躊躇われた。

 ……まぁいいか。今はとりあえず。

 

「ごはんできたよ~」

 私がそう言うと幼児たちが歓声をあげて寄ってくる。

 小学校だから机も椅子もいっぱいあるけど、みんな身長が違うから焚火の回りに座り、輪になって食事を囲んだ。

 リンが給食に使っていたのか先割れスプーンを渡してきて、これもそうなのかプラスチックの器に注いだシチューをアキから受け取ると、何故か当然のようにソラは私が胡座をかいた脚の間を席にした。

「「「いただきます!」」」

 五歳のヒナはちゃんと一人で食べられるけど、少し食べ方が怪しいリクはリンが手伝うように食べさせていた。それで一番小さいソラは。

「ちゅばき! おいちー」

「そうだね、美味しいね」

 握るようにスプーンを使いポロポロと私の脚にシチューを零す。

 まぁ、私は熱くないし、汚れるような衣服もないからいいけど、薄汚れていてもせっかくのソラのお洋服が汚れそうなので、私が食べさせることになった。

 清潔な布巾はないけど、アキとリンがご近所から集めた布があるので、それでソラの口元を拭いてあげると、それが嬉しいのかソラがにっかり笑って私を見上げる。

 やっぱり……親元を離れるのは早すぎるな。

 

 どうしてここに住むことになったのか、どうして捨てられたのか、色々聞きたいことはあるけど小さな子たちの前で聞く話じゃない。

 明日はアキとリンで食料を探しに行くそうなので、そのときに少しだけ聞いてみよう。

子どもたちはみんなで集まって眠る。大人びて見えるアキやリンでも人の温かさが恋しいのだと思う。

 子どもたちは年季の入った毛布に包まり、布地が苦手な私はそのまま寝転がって眠りに就こうとすると、ソラが私の懐に潜り込み、それを見たヒナやリクも集まってそのまま眠り始めた。

 仕方なく我慢して毛布を子どもたちに掛けていると、それに気づいたリンが私に囁くように話しかけてくる。

「ツバキおねーちゃん……私たちに文字を教えてほしいの。お料理とかも」

 

 この子たちは幼い頃に見たことを試行錯誤して生きてきたのだろう。でも、出来ることに限界を感じたリンは私に教えを請うてきた。

「うん、いいよ。でも明日ね」

「うん……おやすみ、ツバキおねーちゃん……」

 すぐにリンの寝息が聞こえてくる。

 

 とりあえず……朝まで布地のくすぐったさに耐えなければ。

 




少しずつ明らかになる子どもたちの生活。
強く生きる子どもたちはどうやって生きてきたのか。


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