竜娘が巡る終末世界【完結】   作:春の日びより

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お待たせしました。新章です。


第三章 生きていく世界
57 南へ……


 

 

「ハチベエちゃん、空を飛びたいと思います」

『わふん?』

 私の言葉にハチベエはこてんと首を傾げる。

 

 ジンベエとその家族の家から出発した私は、新しくハチベエというデッカい柴の仔犬を仲間として旅を再開した。

 元気いっぱいなハチベエだけど、やはり仔犬なので脚が短く速度が遅い。見た目は大きい柴犬の仔犬でほぼ等身大のクマのヌイグルミだ。それはもう熊なんじゃないの? って感じだけど、テディベア感がすごい。

 市街地や草原なんかはそのまま走っても良いのだけど、あいにくジンベエの家は山の中にあるので、本来の目的地に向かうには山を越えなくてはいけないのだ。

 だから……。

 

「飛ぼう!」

『わふんっ!?』

 人間よりも大きいハチベエの背中に飛びついた私は、身体の〝熱〟を背中に集め、パチパキと音を立てて肩甲骨辺りから鱗で出来た真っ赤な翼を広げた。

「いっくよーっ」

『わうわうわう!!』

 大きく広げた私の身長を超える翼の鱗からジェット噴射のように〝熱〟が噴き出し、ふわりと地面から浮き始めると、ハチベエが何かを訴えるようにキャンキャンと鳴く。

「大丈夫だよ」

 私も大量の肉を抱えて飛んだ経験があるので、ある程度の重さは経験済み。

 そのときは重すぎてあんまり速く飛べなかったけど、体力の回復した今ならきっと大丈夫!

 

 ドォオンッ!!

 

『きゃんっ!?』

 その瞬間、私たちは空気を震わせるような音を立て、飛行機雲を引きながら砲弾のようにぶっ飛んだ。

「ちょ、まっ」

『きゃん!!』

 重量の目測が甘かったのか想定を遙かに超える速度に私も困惑する。それだけでなく脅えたハチベエが暴れたことでバランスを崩し、あっという間に跳び越えた山を越えたところで失速し、そのまま滑空して、どこかの河に飛び石のように突っ込んだ。

 ザッパァアアアアンッ!!

 

 そして……。

「いや、ごめんて」

『わふん……』

 河から上がって、二人ともびしょ濡れのままで私は謝り倒し、ハチベエはそんな私に一声鳴いて自分の焦げた尻尾を舐める。

 ハチベエが暴れたのは空を飛ぶのが怖かったのではなくて、どうやら翼から噴き出した〝熱〟が尻尾を炙っていたみたい。

 一応ハチベエも巨大動物の分類で、毛は焦げたけど火傷はしていなかったので、ギリセーフ。今回の件は、私の身体の大きさでハチベエの大きさをカバー仕切れていなかったことかな。

 これだと人間とか抱えて飛ぶとき注意しないと危ないね。気づけて良かった。……それ以前に、発射の重圧で潰れそうな気もするけど……。

 

「……よし、ご飯にしよう! ね?」

 ご機嫌取りにご飯を提案する。前に食事をしてから数時間は経っていて、私は戦闘しないなら燃費は良いほうだけど、ハチベエは育ち盛りなので『ごはん』と聞いた瞬間、顔を上げて尻尾を振ってきた。

『わふん!』

 ……こんなにチョロくていいの? お母さんが私に付けた理由も少し分かる。いや、それ以前になんで人間の言葉を理解しているの? 周りに喋る人いなかったでしょ? 私と過ごした数日で覚えたの? すごくない?

 

「とはいえ、何を食べようか……」

 ここは距離とか方角的に巨大鰐に襲われた河だと思うけど、見たことのある景色じゃない。とりあえず歩いていれば町でもあるかと思っていると……。

「わふんっ」

 尻尾を振ったハチベエがブルブルと水滴を弾き飛ばすと、そのまま河に飛び込んだ。

……水気を払った意味は? そのままザブザブと川遊びを始めたハチベエが深いところまで犬かきを始め、いきなり数メートルも跳んで顔を上げたら大きなお魚さんを咥えていた。

「おお~~」

 さすが野生の仔犬は逞しい。私が思わずパチパチと拍手をするとハチベエが得意げに胸を張る。

「……え?」

 

 その瞬間、ハチベエの背後の川面が大きく盛り上がる。

 ザッパァアアアアッ!!

「ハチベエ!」

 そこに現れたのは巨大な(あぎと)。それがハチベエに牙を剥こうとしたとき、私は角槍を構え、両脚と尻尾を使って矢のように飛び出した。

 

 ドゴォンッ!

『きゃんっ!?』

『――――――――――――ッ!!』

 食いつく寸前に私の蹴りが巨大な顎を蹴り上げると、ハチベエと(推定)巨大動物の悲鳴が木霊する。

 巨大と言っても、普通の動物に比べてなので巨大鰐ほど大きくない。私に蹴られた巨大動物は川面に弾けるように向きを変えて、痛手を負わせた私に襲いかかってきた。

 これって……。

「ピラルクー!?」

 

 確か南米辺りの巨大魚だよね! ま~た、どっかの水族館か動物園案件か!

「…………」

 私は慌てることなくその攻撃を避けて観察する。何を暢気なとは自分でも思うけど、観察するくらいの余裕があった。

 だってこれ、おかしくない? ピラルクーって大きなものなら四メートルくらいになるのよね? その大きさなら巨大化するのは分かるのだけど、このピラルクーはどう見ても全長十数メートルしかなかった。

 元のサイズが数メートルなら、巨大化したら数十メートルでもおかしくないよね? もしかしてまだ若い個体? 一応警戒しながら観察していると、広い河を窮屈そうに泳いでいるのを見てなんとなく察する。

「……大きくなると泳げないのね」

 

 川が大きいと言っても、湖のように水深が何十メートルもあるわけじゃない。ここにいる個体が個体なのではなく、成体になる数十メートルになると、動けなくなって餓死するのではないかと、力が抜けた。

「……えい」

『――――――――ッ!』

 浅瀬に近づいてジタバタする巨大ピラルクーの頭部に、灼熱化した角槍を突き刺してとどめを刺す。……今までで一番楽だった気がする。それでも〝熱〟を自在に使えるようになっていなかったら時間は掛かったとは思うけど。

「ハチベエは……?」

『わふん!』

 いつの間にか姿が見えなくなっていたワンコを探すと、ハチベエはすでに河から上がって、餌を貰えるのを待つように、お行儀良くお座りして尻尾を振っていた。

 

 倒した巨大ピラルクーを岸まで引っ張り、角槍と牙ナイフで解体しながら切り取った数キロもある切り身を放っていくと、待ち構えていたハチベエが片っ端から平らげていく。

「よく食べるねぇ」

『わふん!』

 私の呆れ混じりの呟きにハチベエが(たぶん)笑顔で尻尾を振る。

 すでに百キロ以上食べているはずだけど、まだ食べられるみたい。私と同じで食いだめができるのかな? そうじゃないとこれからご飯が大変だ。

 たぶん、これが普通だったら今頃ジンベエの畑も仔犬たちに食べ尽くされているはずだから、食いだめができると信じたい。

 ……それと微妙にハチベエが大きくなっているような気がするのは気のせいかな?

 

 私とハチベエで三割くらいは食べたかな? 百キロくらい持っていきたいけど、皮の袋がないのよね。

 私の今の荷物は、革の衣装と角槍と牙ナイフだけ。子どもたちの所に婆ちゃんの種籾も含めて全部置いてきちゃったけど、格好つけずに袋だけでも回収すれば良かった……。

 だって、あのタイミングじゃないと、子どもたちと別れられないと思ったんだもん。

「仕方ない……」

 さすがにピラルクーの皮で袋を作るような趣味はない。生臭そうだし。

 私は巨大ピラルクーの尻尾の辺り二メートルほど切り落として、ヨイショと肩に担ぐ。

 

「それじゃ行こうか、ハチベエ。まずは物資の回収だ!」

『わふんっ!』

 

 私とハチベエは頷きあい、駆け出すように川沿いの道を駆け出した。

 南へ……。避難所があるという場所へ。

 この世界がこうなった理由と、私が生まれた意味を求めて。

 

 

 




南へ向かう花椿とハチベエ。
物資の回収へ向かったそこで見たものは……。
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