竜娘が巡る終末世界【完結】   作:春の日びより

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62 夏の足音

 

 

 軽トラを手に入れてから私たちの旅は順調だった。比較的まともなガソリンを手に入れるのは大変だし、あまり速くはないけど、荷物を多く積めるのがいい。

 もっとも仔犬でもハチベエの体重はかなりのもので軽トラでもギリギリだったけど、手で持っていくより多くの荷物が詰め込めた。

 問題は……。

『わふぅ……』

 暑さでハチベエがまいっていることかな?

 ジンベエのところから出たのはまだ春だったけど、私にとっては二度目の夏になる。

 竜である私は火の中でも平気だけど、モフモフのハチベエは夏が初めてということもあって、国道を南下する、炎天下に曝される軽トラの荷台でへたっている。

「……毛を剃る?」

『わふっ!?』

 

 まぁ(半分)冗談だけど、よほど嫌だったのかハチベエが荷台から転がり落ちるように距離を取る。なんだ、元気じゃないか。

 モフモフ犬は毛を剃ると貧相になるのが定番だけど、私は知っている。最近良いものばかりを食べさせているからお腹周りがヤバいのだ。普通のワンコなら気にしないかもしれないが、知能の高い巨大動物だと気にするのかも。あのお母さん狼なら絶対気にする。

 もしかして?

「狼らしくないとお母さんに叱られる?」

『……わふ』

 やっぱりか。それにしてもさぁ……

「夏バテねぇ……」

『わふぅ……』

 

 軽トラには一応、クーラーも付いているけど、整備もしていないので黴っぽいし、そもそもハチベエが助手席に収まらない。

 元気になる食べ物とかなんだろう? ビタミンとか? 野菜も結構食べているはずだけどそれとはまた違うのかな? 犬だからなぁ……お肉のほうが良さそうだけど、夏バテ防止だと豚肉とかが良いんだっけ?

 豚もあの大きさなら巨大化していそうだけど、これまで見たこともないから、たぶんこの十年で肉食獣とかのご飯になったのだと思う。

 魚の燻製はずっと前に食べ切っちゃったし、さてどうするか。

「……ん?」

 しばらく南下して小さな町を抜けるとまた河が見えた。

 ……広い河は何回か巨大動物に遭遇したので、正直あまり印象はよろしくない。でも新鮮な魚を生で食べればハチベエも元気になるかもしれないと、軽トラを止めたそのとき、ふと鼻腔をくすぐる臭いに気づく。これって――

「ハチベエ、海に行こう!」

『わふ?』

 

 河の周辺に建物はなく、草原になった川沿いに目を凝らせば、遠くに海らしきものが見えた。

 久しぶりに海の魚も食べたいし、ハチベエにも食べさせてあげたい。今の私なら網でもあれば大量に獲ることもできるはず。

「行こう」

『わふ!』

 川沿いの草原に遊歩道らしき土手があるけど、さすがに軽トラでは無理なので走り出した私をハチベエが嬉しそうに追ってくる。

 ……やっぱり元気じゃないか。

 しかし、何にもない。途中にあった風力発電の風車と草原以外はなんにもない。

『わふん!』

「どうしたの?」

 もうすぐ海というところでハチベエが私を呼び止める。あれ? ……船? 漁船?

「……漁港?」

 漁港は海に面したところにあるものだと思っていたけど、河の横手を抉り取るようにくの字型の漁港ができていた。

 さすがに船は朽ちているし、目新しいものもないけれど、漁船が少ないのはもしかしたら残った人がいて、魚を獲ろうとして巨大生物に襲われたのかもしれない。

 ハチベエが初めて嗅ぐ潮の匂いに不思議そうな顔をして、私は人が生きていた痕跡を歩きながらゆっくりと眺める。

「海のほうへ行こうか」

『わふ!』

 

 こんな入り込んだ漁港の中に大きな魚がいるとは思えない。水面を覗き込んでみても真っ暗で生い茂った海藻しか見えなかった。

「……あれ?」

 海藻の隙間に船らしき残骸が見えた。これって……。

「――!?」

 その瞬間、漁港の海の底から光る“眼”のようなものが私を射る。

 

 ザッパァアアアアアアアアアアアアアンッ!!

 

「巨大生物!?」

『わう!』

 突然浮かび上がってきた真っ黒な〝柱〟のようなものが、大量の水飛沫と共に飛び出して、再び水面に消えていく。

 威嚇するハチベエの隣で私は角槍を構える。

 あれはなに? 全長は十数メートル……。水飛沫のせいで蛇のように細長い影しか見えなかったけど、ウミヘビって巨大化できるほど大きくなるの?

 ウミヘビじゃないのならウツボか……。

 海のギャングと呼ばれる獰猛な見た目の肉食魚。でも見た目とは違ってあれは結構美味しいと、私の頭に新たな〝知識〟が浮かぶ。

 夏バテ防止に新鮮なお魚を獲りに来たけど、なんでこうなるかなぁ。そんなことを独り言ちていると、再び浮上してきた推定巨大ウツボが襲ってきた。

 

 ザパァアアアアアアアアアンッ!

「――くっ」

 私たちを追って飛び出した真っ黒な影が廃車を跳ね飛ばして再び水へ消えていく。

『わう!』

 また飛び出してきた黒い影にハチベエが飛びかかり、私も角槍を抱えて突っ込んだ。でも――

 ツルン。

「え……」

『わふ!?』

 ハチベエの牙も角槍もその黒い影の表面で滑り、攻撃が当たらない。

 素早い動きで再び水の中へ消える黒い影に、私はハチベエを呼び戻して広い駐車場へと下がる。

「ハァアアアアア!!」

 バキバキと音を立てて腕と脚が真っ赤な鱗に覆われ、鱗の隙間から炎のように〝熱〟が噴き上がった。

 

 ザパァアアアアアアアアアンッ!

 

 また水面が噴き上がり、私が灼熱する角槍を構えて真正面から激突する。

 バシュッ!!

 一瞬で表面の粘液が蒸発して黒い影の頭部を貫いた……けど、あれ? これって……?

 真っ黒なつるりとした体表。いまだに激しく痙攣する長くうねるこの生物は。

「ウナギ!?」

 

 ウナギって海にいるの!? いや、途中まで河だけど、どっちでもいいんだっけ!? 産卵するときだけ海に出る!? しかもこれ、普通のウナギじゃなくてオオウナギ!? 巨大化できるほど大きくなるの!?

「はぁ~~……」

『わう!』

 思わず脱力して座り込む私に、ハチベエがこれは食べられるのかと尻尾を振る。

「美味しいとは思うよ……たぶん」

 

 私は広い駐車場の中、角槍で目打ちをして鱗の生えた腕と爪で一気に開く。う~~ん? 蒸せないから腹開きで良いか。

「生で食べたらダメ」

『くぅ~ん』

 確か血が毒だから生はダメなんだよね? ぶつ切りにした身を串に刺し、ほぼ半日ほど焼く羽目になったけど、とりあえず美味しかったです。

 

 結果的に海の魚じゃなくてウナギになってしまったけど、そのおかげで夏バテ気味のハチベエも元気になった。

 丸一日散々海で遊んだ翌日、余った大量の身を軽トラに積んで出発しようとすると……。

 ――ブルルル……。

「あれ?」

 動きが悪い軽トラに私が調べてみると、タイヤが半分ほど沈んでいた。

「ハチベエ……」

『わふん……』

 おもむろに毛皮の中に手を突っ込んでぷにっとしたお腹を摘まむと、ハチベエは恥ずかしそうに前脚で顔を隠した。

「夏バテの原因もこれか……」

 すべての原因はハチベエの重量過多であり、運動不足だと分かったので、それから先、ハチベエは軽トラの外を走ることになりました。

 移動手段ができても運動させないとダメだね。

頑張れ、ハチベエ!

 

 




知能
狼ママ > ウナギ = ハチベエ >>>>> ダチョウ
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