竜娘が巡る終末世界【完結】   作:春の日びより

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69 襲撃

 

 

『グルゥ……』

 群の雄が低く唸ると、近くにいた巨大雌ライオンたちが脅えるように離れる。

 それは苛立っていた。自分の縄張りに何度も手を出してくる〝個体〟が存在し、自分の配下を倒しているのだ。

 群れの長である巨大雄ライオンは、かつて『東京』と呼ばれていた巨大な廃墟都市を縄張りとしている。群の長は関東にある幾つかの動物園にいた巨大ライオンの群を吸収し、勢力を拡大してきた。

 子も少ないが産まれるようになり、高くなった知能は、他のすべての雄を排除するのではなく、自分の子で知恵の高い者……立場をわきまえている個体は、この広い東京の各地に置いて縄張りを与えていた。だが、その幾つかの群の個体が倒されていたのだ。

 

かつてこの世界を〝二本足〟という生物が席巻していた。

 数年にわたる抗争にて、火を噴く武器を使う〝二本足〟によって多くの巨大生物が倒されたが、それ以上の〝二本足〟が倒れ、今はその数を大きく減じている。増えすぎた故に食糧不足に陥り、気温が低下した冬を乗り切ることができずに多くが自滅した。

 巨大動物にとって、もはやその存在は餌としての価値しかない。

 だが、〝二本足〟の勢力がほぼ壊滅してから数年後……異常な身体能力を持つ〝二本足〟の幼体が現れ、仲間を殺し始めた。

 しかし、群の長が苛立っているのはそのことだけ(・・)ではなかった。

 確かにその幼体は巨大生物と戦えるだけの身体能力は持っている。だが、この数年で弱い個体を囮として、〝二本足〟の拠点が東にあることを調べていた。数を揃えて逃げ場のないその地で戦えば全滅させることもできるだろう。

 では、群の長である巨大雄ライオンが苛立っている原因は何か?

 それは――

 

『ガァアッ!』

 ついに〝それ〟が現れたと察して起き上がると、遠くから巨大な雷鳴が響き渡った。

 

   ***

 

「これから、お前たちに特別任務を与えるっ!」

 薄暗い倉庫のような場所で、日本人らしき壮年の将校が声を張り上げる。

 稼働できた火力発電所だけでも充分な電力を得られているが、倉庫に碌な明かりがないのは、電球や蛍光管のような物資が貴重なのもあるが、その場にいる十数名の部隊に、そこまでの人間性を認めていなかったからだ。

 

『ハッ!』

 将校の言葉に十数名の子どもたちが整列して返事をする。

 対巨獣部隊のうち、前線に投入できる基礎訓練を終えた八歳から十歳の子どもたち十八名。その中で最年長であるジェニファーは、下の子どもたちを守る責任感に押し潰されそうになりながら、血の気の引いた顔で一番前に立っていた。

 

「これより作戦内容を伝える!」

 作戦内容は、東京にある電波塔から長距離通信に使用できる機材を入手すること。

 米国との交渉材料を手に入れたことで、軍と企業の上層部は以前よりあった計画を前倒しして行うことにしたのだ。

 今までも電子部品や大量の工業製品を求めて、ジェニファーや一般兵も市街地などに赴いていたが、今回は重要度が違う。そのために今回は、避難民からの徴兵を含めた一般兵士五十名がジェニファーたちと共に作戦に当たることになっていた。

「その際、お前たちの役目は巨獣を発見次第、無力化することだっ。最悪の場合でも巨獣を目標から離せ。そのためにお前らの命があることを忘れるなっ」

『……ハッ』

 

 対巨獣部隊と一般兵士は囮であり盾だ。ジェニファーたちが巨獣を抑えている間に、十名の技術者を護衛しながら特殊部隊が電波塔に突入し、資材を確保した後に撤退する。その撤退が済むまでジェニファーたちは撤退することを禁じられた。

 

「…………」

 ジェニファーは作戦内容の過酷さに、無意識に唇を噛む。

 一般兵士が五十名いるとしても、おそらく役には立たない。変異前のように火力と装甲を持った戦車などはなく、装甲車両や機関砲はあるが弾薬は限りがある。

 いつ不発となるかもしれない十年前の弾薬に、ニコイチ修理を繰り返したアサルトライフルを持たされた歩兵など、巨獣に対して盾にもならない。

 必然的にジェニファーたち対巨獣部隊が前に立たなければならず、もし前線を退いて一般兵に被害が出れば問題になる。志願した兵士の中には彼女たち〝子ども〟に同情的な人もいるが、徴兵されてジェニファーたちを恐れている人たちに被害が出ればその家族から批難されるだろう。

 どれだけ力を持っていても、彼女たちはまだ子どもだ。守っている人たちから仲間意識もなく批難を受ければ、心を閉ざす子が増えてしまう。

 そして……心を閉ざした子どもから死んでいくのだ。

「それでは、明朝、0600を以て作戦を――」

 

 ――ドドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!

 

 突然、間近に雷でも落ちたかのような雷鳴が轟き、何名かが小さな悲鳴をあげる。

「なんだ……」

 言葉を遮られた将校が顔を顰めて続きを話そうとしたとき、遠くから騒ぎのような物音が聞こえて、将校は苛立ちながらも連れてきた自分の部下を問いただす。

「何が起きているっ。確認しろ!」

「はっ」

 問われた部下が携帯無線機でどこかに連絡を入れると、向こうでも何か起きていたのか、要領を得ない会話を繰り返したあと、その顔色が蒼白に変わる。

「何事だっ! 明瞭に報告せよ!」

「は、はい! 巨獣です……」

 青い顔で報告を始めた部下が言葉を纏めるように唾を呑み、一拍置いて語り出す。

「巨獣が……巨獣の群が拠点の西より攻めてきましたっ!!」

 

   ***

 

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 巨大動物の群――と言うには何かが違っていた。

〝きゃぁああああああああっ〟

〝壁が破られるぞ!〟

〝自衛隊は何をやってるんだ!?〟

〝子どもたちを中心地へ!〟

 石油化学コンビナートを使った拠点は、既存の建物が少なかったことから、備蓄タンクの隙間を縫うようにプレハブのような家が建てられ、街が作られている。

 もし、巨獣に壁の中へ入られ、備蓄タンクを攻撃されるのを防ぐために、あえて内部に防壁は造られてはいなかった。

 外壁は周辺からかき集めてきた鉄骨とコンクリートで造られ、この十年で何度か襲撃のあった巨獣の攻撃を防いでいるが、今回は襲ってきた〝群の数〟に避難民たちは困惑する。

 

 襲ってきたのは東京の廃墟を縄張りとした巨大ライオンだけではない。

 ツキノワグマやハイエナなどの肉食獣だけでなく、それらの餌になり得る馬や猪、それだけではなく水辺にいるはずの鰐やカバなどもいた。

 まるで世界の異変直後のように、すべての巨大生物が人間への敵意で協力するような様子に、人々は過去の恐怖を思い出した。

 

「門を護れ!」

 門の警備をしていた兵士たちが外壁の上から銃弾を浴びせるが、中型の巨大生物ならともかく大型では外皮を貫けない。

「眼を狙えっ!」

 反動の大きい銃器で狙うのは難しいと分かっていても叫ばずにはいられない。それでも生物なら急所である眼を狙われれば怯みはするのだろうが、巨大生物たちはお構いなしに壁への攻撃を繰り返した。

 

 ドンッ!!

 全長十メートル以上もある猪とカバが壁にぶつかってくる。コンクリート造りと言っても限りある資材では均一に強固な壁を構築することは無理があり、その一撃で罅が奔る。

『ボォオ!!』

 振動に銃撃が止んだ一瞬に巨大鹿が十メートル以上もある壁を駆け上がり、その角で兵士を突き刺した。そのあとに続くようにライオンや豹のような肉食獣が、カバと猪の背を踏み台にして壁を乗り越えて侵入してきた。

『ガァアアアアアアア!!』

 まだ避難できていなかった人々を肉食獣が襲い、蹂躙する。

 

「撃てっ!!」

 そこに到着したのは一般兵を引き連れた特殊部隊だった。

 装甲車に設置された機関砲が轟音を立てて暴れ回っていた巨大豹を襲い、血しぶきを上げて吹き飛ばした。

 二台の機関砲が巨大動物を狙い、ロケット弾を撃ち込んでとどめを刺していく。

「お前ら、久しぶりの見せ場だぞ!」

 隊長の言葉に特殊部隊の隊員たちが惜しみなく爆発物を叩き込み、その様子に特殊部隊の隊長は口元に微かな笑みを浮かべる。

 資源に限りがあるため特殊部隊はあまり活動機会が与えられず、それに不満を覚えていた。異変直後とは違い、巨獣に対する情報もある程度集まっている。あんな子どもに頼らなくても自分たちがいれば問題はないことを示し、もっと部隊運用の効率化を図るべきだ。

 自分たちは充分に巨獣と戦える。だが、そんな高揚感も次の瞬間に破られた。

 

 ドォオオンッ!!

 ついに壁が耐えきれず崩壊し、そこからダムが決壊するように大量の巨大生物が壁の中へ入り込んできた。

 コンクリートも砂がなければ作れない。足りない資材で作るとき、当時の人間が海砂を使ったのか、脆くなったコンクリートが大型巨大生物の攻撃に耐えられなかったのだ。

 機関砲をものともせず、突進してきた巨大鰐が装甲車両を噛み潰し、特殊部隊員たちを食らっていく。

 

「なんで……」

 ジェニファーたちもその場に出動し、物心が付いたときには存在していた壁が破られる光景に唖然とする。

「食い止めるよ!!」

 それでも気力を奮い起こして仲間たちに指示を出す。絶望を胸に抱きながら。

 どうしてこんなことになったのか。何が原因でいきなり巨獣の暴走が起きたのか?

 巨獣たちの行動はまるで……〝何か〟に脅えて追い立てられているようにも感じられた。

(お願い……誰か……)

 

   ***

 

 医者たちが持ち場を離れ、誰もいなくなった暗い病室で一人、花椿が拘束され寝かされていた。

「……ねぇ」

 花椿を無力化するためにガス状の睡眠剤に満たされたその部屋の中で、黒いセーラー服を着た黒髪の少女が、意識のない花椿を見下ろしていた。

「〝人間〟が助けを求めているッスよ~? いいの~?」

 少女はそう言って花椿の額を指で弾く。

「それじゃ、君の選択を期待しているッスよ」

 

 その瞬間、少女の姿が病室から消える。

 そして……。

 ――ミシッ。

 花椿を拘束していた金具が軋みをあげ、花椿の全身が真っ赤な鱗に覆われ始めた。

 

 




拠点を襲う巨大生物群
そして――

花椿(。+・`ω・´)シャキィーン☆
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