竜娘が巡る終末世界【完結】   作:春の日びより

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77 雷獣

 

 

 ――轟ッ!!

 曇天から雷光と共に雷鳴が鳴り響き、その〝獣〟の姿を照らし出す。

 樹木に覆われた広い道。そこから飛び出すように乱立するビルを足場として立つ、その巨大生物はあきらかに……あまりにも異様だった。

 

 雌ライオンよりも一回り大きい巨大な雄ライオンの喉笛に食らいついたその〝獣〟の巨体は、全長で二十メートルを超えている。

 あの巨大雄ライオンは東京の都市を縄張りとしている大型個体ではないの? ライオンの群には長の血を引く雄ライオンも何頭か確認されているみたいだけど、食いつかれているそれが、その仔ライオンではないのかと錯覚するほど大きさに差があった。

 そして――

 

『――――……ァガァアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 喉笛に食いつかれ、ぐったりとしていた巨大雄ライオンが最後の力を振り絞るかのように咆哮をあげて、〝獣〟の首に爪を立てる。

 ――ガキンッ!

 およそ毛皮に爪を立てるとは思えない音を立てて弾かれ、それでも一瞬緩んだ牙から抜け出した巨大雄ライオンは、首から大量の血を噴き出しながらもビルの屋上から屋上へと跳び回り、全力の跳躍を以て〝獣〟へ襲いかかった。

 でも……。

『――――』

〝獣〟はつまらなそうに口元を歪ませると、まるで自分以外のすべての生物を見下すように睨めつけ、その〝(ツノ)〟から強烈な光を撃ち放った。

 

 ドォオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!

 

『――ガァアアアアアアアアアアアアアアアアア…………』

 放たれた〝稲妻〟に撃ち抜かれた巨大雄ライオンが一瞬で焼けただれ、口から白煙を吐きながら下の森へ落ちていく。

 ……間違いない。あれが避難所の襲撃時に聞こえた〝雷鳴〟の正体だ。

 

「――みんな下がって!!」

 雷光の光はいまだ収まらず、それが私たちへ向けられていると気づいて声を張り上げる。

 私の叫びに特殊部隊が一般兵と技術者を下がらせる。でも、ダメだ。私の側にいた子どもたちはすぐに退避できる距離じゃない!

「――ぁああああああああああああああああああああああああっ!!」

 前に飛び出すように声を張りあげる。〝獣〟の稲妻が私たちへ撃たれると同時に、私の〝竜の息〟が閃光となって放たれた。

 

 ――――ドォオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!

 

 薄闇に慣れた視界を閃光が覆い尽くし、ぶつかり合った二つの威力がまだ残っていたビルの窓硝子を粉砕して、人間たちを吹き飛ばした。

「…………」

 竜の息と稲妻が相殺して一瞬吹き飛んだ雲から差し込んだ光が〝獣〟の姿を顕わにする。

 一言で言えば黒い虎。普通の虎と違うのは毛並みが黒いことと、縞の部分が赤いこと。そしてその額から生える一本の銀色のツノ。

 その角が帯電するように雷光を放ち、同じ銀色の瞳が私だけを見つめていた。

 黒い虎……いや、〝雷獣〟は、気づいている。この中で自分と戦えるのが〝私〟だけだということを。

 

『ガァ……』

 十数階建てのビルが小さく見えるほどの巨体で、ビルを壊すことなく器用に体勢を変えた雷獣は身を乗り出すように口元を歪め、ニヤリと笑みを作る。

『ガァォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

天に向けた雷獣の咆吼に黒雲が渦巻き、雷光が瞬き――

「みんな、逃げて!!」

 

 ドォオンッ!!

 音を置き去りにするように飛び出した雷獣が私へ襲いかかる。

「――ッ!」

 瞬時に両腕に鱗を生やして飛び出した私は、振り下ろされた雷の火花を放つ雷獣の爪を、炎を吹き上げる角槍で受け止めた。

 ――ガキィンッ!!

「きゃああっ」

「ジェニファーっ!」

 雷と炎がぶつかり合った衝撃に、立ち上がろうとしていた子どもたちが再び吹き飛ばされる。

「下がって!!」

 

 私も体格の差で弾かれながらも、背後に向けて叫ぶ。こいつは今までの生物が巨大化しただけの個体じゃない。あきらかに常軌を逸している。

「ツバキっ!」

 それでも対巨獣部隊として戦ってきたジェニファーは、吹き飛ばされながらも狙撃銃を構え、雷獣に向けて撃ち放つ。

 だが、その一撃は雷獣を掠めるがその毛皮に弾かれ、雷獣が不満げな表情でジェニファーの存在を意識した。

『……グルゥ』

「くっ」

 雷獣の〝気配〟が圧となってジェニファーを襲う。

 他の子どもたちも圧を受けて動けず、特殊部隊は技術者を退避させるために離れている。

 

『わう!』

 そのとき、子どもたちと一緒にいたハチベエが唸り声を上げて雷獣に飛びかかった。

「ハチベエ!!」

 ドカンッ!!

 雷獣の爪がハチベエを切り裂こうとした瞬間、間に合った私の脚が雷獣の横っ面を蹴り飛ばし、空を切った爪がそのまま地面のアスファルトを削るように私へ向けられる。

 ――ガキンッ!

 その爪を角槍で受け止めた私が全身から〝熱〟を噴き上げると、雷獣は警戒するように間合いを取り、近場のビルの上に舞い降りた。

 

「ハチベエ! ジェニファーっ、無事!?」

『わふん!』

「……大……丈夫!」

 ハチベエは死んでいたかもしれないのに戦意は衰えていない。ジェニファーも冷静さを取り戻したのかライフルを構え、そんな彼女の姿に他の子どもたちも戦意を取り戻していた。

「無事かっ!」

 そこに技術者を退避させていた特殊部隊が戻ってくる。

 人間では雷獣の攻撃で即死する危険がある。できるなら逃げてほしい。でも彼らはそんな危険な世界の中で生き延びてきた。彼らはけっして弱者ではない。

 人間たちが援護をしてくれるのなら私は戦える。でも――

 

『グルゥ……』

 その光景に雷獣が不満そうな唸り声を漏らす。あの雷獣は戦いを求め、戦いを愉しんでいるように見える。何かを仕掛けてくるかと前に踏み出すように武器を構えると、雷獣は唐突に天に顔を向けた。

『ガァォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 雷獣の咆吼が曇天を震わせる。でもそれは先ほどのような戦いを始める〝圧〟を込めた咆吼じゃない。これは……っ。

 

 その咆吼に導かれるように廃墟となったビルの陰から、巨大雄ライオンや巨大ハイエナたちが姿を現した。

 何故ここに? 群の長と一緒に戦ったのではなかったの? でもその疑問はすぐに理解できた。巨大生物たちは戦意を失っていた。それらは脅えており、その恐怖の対象があの雷獣であることが分かった。

 微かな既視感……その異様な雰囲気は、避難所を襲ってきた巨大生物たちと同じだ。あのときの巨大生物たちは、この雷獣を恐れて逃げてきたのだ。

 そしてここに残った巨大生物たちは――

「みんな、気をつけて!」

 

『――ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 突如動き出した巨大生物たちが私たちへ……違う、人間たちへ襲いかかる。

「ジェニファーっ! ハチベエ!」

「ツバキ!」

『わう!』

 子どもたちや特殊隊が咄嗟に応戦し、ジェニファーたちを守るためにハチベエも飛び出した。その光景に、援護のために飛び出そうとした私へ、雷撃が迸る。

「くっ――」

 

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 ガキンッ!!

 雷撃を避けた私へ雷獣が襲いかかり、炎を噴き上げた私の槍と爪がぶつかり合う。

「ハァアアアアアアアアア!!」

 私の吐き出した炎を雷獣の雷が迎撃する。そのまま互いに弾かれるように跳び下がり、道路を挟んだ二つのビルの上で睨み合う。

 脚や背中にも鱗を生やし、背中から鱗で出来た真っ赤な翼を広げながら、全身の鱗を鋭利に逆立て、屋上を埋め尽くすような炎を噴き上げる私に、雷獣も角から雷を放ち、全身に纏うように毛を逆立てた。

分かった……望み通り私が相手をしてやる!

 

 




次回、通常の巨大生物とは違う雷獣との戦い!
子どもたちは生き残れるのか!


いつも誤字報告ありがとうございます。
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