竜娘が巡る終末世界【完結】   作:春の日びより

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80 残されたもの

 

 

 ドォゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!

 

 水が分解された水素と酸素が引火し、幾重もの雷鳴が如き轟音と巨大な爆発が巻き起こる。

 衝撃波が河の水や周囲の窓硝子を吹き飛ばし、幾つもの建物や橋が崩壊する。

 分解されて膨張し、天に噴き上がっていた大気を導火線とするように爆炎が空高く立ち上り、曇天を吹き散らすようにキノコ雲を作りあげた。

 

「…………」

 ジュアァアアアアア…………

 あまりの高温にわずかに残った河底の水分が水蒸気となって立ち上り、即座に乾いてひび割れていく河底で、灼熱する真っ赤な鱗に全身を包まれて膝をついた私は、同じく灼熱する角槍の切っ先を〝それ〟に向ける。

 

『…………』

 そこには私と同じように身構えながら、雷獣が鋭い視線を向けていた。

 でも……。夜空のように輝いていた毛皮はその下の皮膚ごと焼けただれ、片目は無残に潰れ、残った睨めつける瞳も次第に白く濁り始めていた。

 雷獣は死にかけている……。

 だが……それでも、その戦意まで失っていない。

 

 ――ズシンッ。

 死にかけの雷獣の巨体が歩み出る。その爪は欠け、巨大な犬歯も片方が折れ、歩くごとに炭化した皮膚が剥がれ落ちた。

 私は全身に残る衝撃のダメージに顔を顰めながらも立ち上がり、震える手で角槍を構え……。

 ――バキンッ!

 雷獣の角と角槍が触れあった瞬間、どちらともなく砕け、雷獣はそのまま私の横に崩れ落ちた。

 ズズン……ッ。

 私の手から折れた角槍が零れ落ち、角が折れた雷獣と私が無言のまま見つめ合う。

 私たちの間で微かな静電気のような火花が上がり、ニヤリと笑う雷獣に私は一瞬目を瞑り――そのまま爪を雷獣の心臓へ突き立てた。

 

   ***

 

 ガンッ! ガンッ!

『わう!』

「あ、こらっ。また近づいちゃダメ!」

 私の手作業を覗き込んできたハチベエを叱ると、ハチベエはその〝熱〟に飛び退いて鼻を前脚で押さえる。

「あ~、だから言ったのに」

「くぅ~ん」

 

 ハチベエ……というか、ジェニファーたちは無事だった。

 あの爆発で飛んできた瓦礫などで多少の怪我人はいたが、そのせいで残っていた巨大生物も戦意を失い、散り散りに逃げ去ってしまったらしい。

 残りは二、三頭しかいなかったみたいだし、もう脅威ではないと、特殊部隊の隊長はそう判断して追撃はしなかったと言っていた。まぁ、そこまでの戦闘で負傷者もかなり出ていたので、追撃は無理だったみたいだけどね。

 技術者のほうも損害は軽微で、あの爆発の衝撃で転んだ負傷者がいた程度だと笑っていた。

 

 ガンッ! ガンッ!

『わう!』

 作業をする私にハチベエが合いの手を入れる。

 人間たちが負傷者の治療や装備の整備でしばらく動けないらしく、その間、私は水が戻った河辺で手作業をすることにした。

 ガンッ!

「――ツバキ、持ってきたよ!」

「ありがと、ジェニファー」

 

 そこに治療を済ませたジェニファーが頼んでいたものを持ってきてくれたので、私は一旦手を止めてそれを受け取る。

「予備はそれで最後だからねっ」

「わかった」

 ――パキンッ。

 私が立ち上がると、全身をまだらに覆っていた黒く煤けた鱗が剥がれて、傷一つない淡い赤銅色の肌が現れた。

 

 炎の中でも活動できる私でも、あの爆発の衝撃でかなりのダメージを受けた。でも、雷獣は最期の思念で、勝者の権利として〝自分を食らえ〟と強要し、その心臓を食らうことで怪我を癒すことができた。

 ……最後まで何を考えていたのか分からないけど、あれはあれなりにこの世界で生まれた誇りを持っていたんだと思う。

 

 ジェニファーが持ってきてくれたのは革衣装の予備だ。

 新装備なのにもう壊しちゃったのか、とヤエコには叱られそうだけど、あの爆発で耐えられるような装備はないんじゃないかなぁ。雷撃に耐えただけでも凄いことだよね?

 そうしてヤエコが念のために持たせてくれた予備の革衣装を身に着けていると、それを見ていたジェニファーが不思議そうな顔をした。

「ん? どうしたの? まだどこか痛い?」

「ううん、私も他の子も平気だよ。この程度なら食べたらすぐに治るし」

 

 怪我の程度は前線にいたジェニファーたちが一番酷く見えたけど、そもそも耐久力が普通の人間よりも高いので、内臓まで達したダメージはなく、この程度なら私やハチベエと一緒でお肉を食べれば治るんだって。

 子どもたちの食料は倒した巨大生物でもいいのだけど、人間たちは加工してもまだ抵抗のある人もいるらしく、さっきまで怪我の程度の低い子どもたちがハチベエと一緒に、打ち上げられた川魚を集めていた。

 それでも私が、ジンベエという柴犬が加工した肉を食べたことで、少し身体が丈夫になった……という話をしたことを覚えていたらしく、隊長が率先して加工した巨大生物の肉を食べることにしたらしい。

 

「そうじゃなくて、ツバキ……角が伸びた? 尻尾も」

「そう?」

『わふん』

 ハチベエもそう思う? 雷獣の心臓を食べてから身体能力がまた伸びた気がする。そのせいか、角がわずかに伸びて、尻尾も少し大きくなった。もしかしたら犬歯も少し伸びているかも。

 何故か、身体は成長していないけどね! そのうちジェニファーたちに身長で抜かされそう。

 

「それよりツバキは、何をしているの?」

「角槍の加工?」

 雷獣との戦いで角槍が折れてしまった。これまでどんなに粗野に扱っても折れることはなかったのに、さすがにあの戦いでは無理が来たようだ。

 そこで私は角槍の修理を試みた。最後に折れた雷獣の〝角〟を使って。

 私の血で硬化した角槍と一緒で、雷獣の角も人間では加工できないほどの強度がある。それでも他の巨大生物の骨と一緒で〝不思議な力〟が抜けてしまえば脆くなってしまうと思うけど、そこで私は考えた。

 私の鱗って使えないかな? ……って。

 私の鱗は私の血で出来ている。怪我が治って剥がれかけた鱗を粉にして、折れた角槍と雷獣の角を繋ぎ合わせた部分に使い、〝竜の炎〟で鍛え上げた。

 

 ガンッ! と、灼けた角槍を拾ってきた鉄骨で叩く。

 叩いていると鉄骨のほうがヘタレそうだけど、何度か私の炎で灼いて叩いていると、余分な部分が煤となって剥がれて、雷獣の角の部分まで赤く染まってきた。

「離れてぇ」

 ジュアァア…………ッ。

 最後に河の水に浸けて一気に冷ますと、桜色をした歪な長刀(なぎなた)のような形になった、新しい角槍が姿を現した。

 

「へぇ……分解しない?」

「……たぶん」

 本当にちゃんとくっついたかな……? ジェニファーの冷静な突っ込みを聞いて振るってみると、鉄骨が真っ二つに切り裂かれた。

「……斬れたね」

「……断面、ちょっと溶けてない?」

 雷獣の角は鋭利なので切れそうとは思っていたけど、よく見れば断面が熱に灼かれたように溶けていた。

 ……誰か近くにいるときに振り回すのは止めよう。

 

 そして――

「さあ行くぞ!!」

 半日ほどの休息を終え、隊長の号令の下出発する。

 見上げるほどに高い巨大電波塔を前にして、誰一人欠けることなく目的地に到着した私たちは、意識を新たにして足を踏み入れた。

 

 




雷獣戦決着。
巨大電波塔へ突入します。


いつも誤字報告ありがとうございます。
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