竜娘が巡る終末世界【完結】 作:春の日びより
「中には何がいるか分からない。各自、警戒を怠るな!」
『はっ!』
特殊部隊の隊長の声で、私たちは廃墟となった巨大電波塔に突入する。
一階部分はかなり広く、外からでも沢山のお店や設備があるように見えるけど、案の定、巨大樹木に浸食されて入り口は塞がれていた。
私一人なら飛んで行けば良いけど、さすがに全員とその装備を運ぶのには無理がある。運ぶのが大変なのではなく、私の翼は〝熱〟をジェット噴射のようにして飛行するから、一気に上まで飛んじゃうと人間はたぶん耐えられない。
上に巨大生物がいないとも限らないので、危険を冒すくらいなら地道に登ろうということになった。
入り口の前に車両で陣を敷き、ジェニファーたちが鋼の槍を使って、ザクザクと入り口の根を掘っていく。
身体能力が高いのもあって、木の根がウエハースにフォークを突き立てるように崩れていく様子に、技術者たちが呆気にとられていた。ウエハースは食べたことないけど。
そうして対巨獣部隊が開けた穴から次々に突入していく。そこには……。
「避難した人がいたみたいね……」
「うん……」
最初に世界が変異して、当時の観光客は家に帰ろうとしたのかもしれない。でも、巨大生物が暴れ出して帰れない人が多くなり、ここは救援が来るまでの簡易的な避難所となっていたみたい。
都会だから巨大化する生物は多くない。それでも動物園はあるし、都会だからこそ混雑によって自衛隊が都心に入るのが遅れて、都心だからこそ人間は逃げる場所を失った。
一階には飲食店や店舗があり、そこで避難した人間は籠城をしていたようで、薄汚れて埃が積もった通路や、店舗のソファーでは、身体を丸めて眠るように死亡した亡骸が大勢残されていた。
「……怪我人と第二部隊はここに残り、亡骸の埋葬を行え」
特殊部隊の隊長がそう命じる。十年以上が経ち、外の亡骸は風化したのか残ってはいなかったけど、ここでなくても周辺の建物には沢山の亡骸が残っているはずだ。
それをすべて埋葬することもできないし、そもそも今の世界で生きていれば白骨死体など珍しくもないけど、それでも隊長は最低限の礼儀を払うべきだと思ったのかもしれない。
「ツバキ……」
「うん。手を合わせて、お休みなさいって心で言ってあげて」
教育を受けていなかった子どもたちに、やり方を教える。今はこれで充分だよね。
「非常階段を発見しました!」
「では向かうぞ!」
上に行かないといけないが電気がないので当然、徒歩で登る。
でも、全員で登るのは狭いし無理があるので、怪我人と志願兵は一階で陣地の確保をすることになっている。ただ、それだと巨大生物が一体でも現れたら全滅しかねないので、特殊部隊と子どもたちから数名ずつ残すことになっている。
登ると言ってもそう簡単じゃない。高さが600メートルだっけ? 目的の機材のある場所が4から500メートルくらいだとしても、百階建て以上登ることになるんじゃないかな?
しかも、銃器や食料などの装備込みで。
『…………』
最初は緊張感を持ちながら登っていた人間たちも、次第に口数も減り、足取りも重くなる。
兵士たちは数十キロの装備を担いでいるけど、最初に音を上げたのは最小限の工具しか持たない技術者だった。
まぁ、当たり前だよね。
「おじさん、それ持つよ」
「……すまないね、坊や」
余裕のある子どもたちが技術者たちに声をかけていた。内心では色々と思うところはあるはずだけど、技術者たちは本当に申し訳なさそうに、子どもたちに荷物を預けていた。
結局、一時間登り、十五分休憩のサイクルで登ることになり、その日は目的の上階まで辿り着くことができず、周囲を囲まれた非常階段で一泊する。
『わふんっ!』
そんな中でもハチベエや子どもたちには余裕があり、大人たちの邪魔にならないように階段を駆け上がって遊んでいた。
元気だなぁ……。
「すまないな……」
「別にいいよ」
階段室で火を焚くわけにもいかず、私が手の平から〝熱〟で暖めた寸胴から、出来合いのスープを配ると、隊長が疲れた顔で受け取った。
私の荷物なんてこの寸胴と食料くらいだ。巨大生物をぶん投げられる私からすればもう少し荷物を持ってもいいのだけど、子どもたちと同様に、見た目は子どものカテゴリーに入る私に頼るよりも、大人の矜恃が勝ったらしい。
階段でごろごろ危なっかしい雑魚寝をして……まぁ、一番の問題はトイレだったけど、それも全部
朝食を済ましていざ出発……というところで、ものすごく憮然とした顔の隊長を差し置いて、若い隊員たちが私に〝お願い〟をしてきた。
「私が前に出るの?」
まぁ別にいいけど……。
前日は、問題が起きたときのためにハチベエが先頭を登り、その後に子どもたちが続いて、その後に大人たちが登っていた。
それでは私は、誰かが疲労から足を滑らせて転げ落ちてきたときに、受け止めるために最後尾を登っていたのだけど……。
「ペースメーカー?」
要するに、勝手気ままに先頭を走るハチベエや、それについていける子どもたちが前だと、大人たちのペース配分ができなくなるみたい。
それから私は、ハチベエと子どもたちには好きに登らせ、大人たちのペースメーカーになるために、その間で登ることになった。
でも……。
「ツバキ……見られているよ?」
「…………」
あ、はい。私でも分かります。
わざわざ降りてきて私と一緒に登ることを選んだジェニファーの指摘通り、〝目の毒〟と言われた〝私〟を目視することで、疲労を忘れる効果があるみたい。
なんだかなぁ……。別に良いけど、隊長が苦虫を噛みつぶしたような顔をしていたのはこれだったのね。若い人たちは後で厳しい特訓とかさせられそう。
なんとなくアレだったので、微妙にペースを上げたけど、ちゃんとついてきていたから効果はあったみたい。
……全員、目的地に着いた途端、床に倒れていたけど。
さすがにここまで登ってくる巨大生物はいなかったようで、警戒していた襲撃はなかった。
鳥系の巨大生物は日本にはいないのかな?
それから一時間ほど休憩を挟んで、技術者たちが動き出した。そこから先は私たちがすることはない。必要な機材を取り外して持ち帰るだけ……そう考えていたのだけど、技術者たちは持ち運んできた機材を使って、通信テストを行うと言った。
「できるの?」
「技術的にはできるらしいが、俺には分からん」
作業を監督していた隊長に聞いてみると、彼は腕を組みながら難しい顔をする。
あの避難所には工業系企業の技術者がいるので、そう言ったものを造っていたのかもしれないと言っていた。
空のずっと上には沢山の人工衛星があって、そのほとんどはこの十年で寿命を迎えたり、軌道を外れたりして使えなくなっているそうだけど、それにアクセスできるか試しているそうだ。
まぁ、通信したいのは米国だから、そうなっちゃうのかな?
しばらく作業の時間が続き、今日もここでお泊まりかと手の空いていた人たちで食事と宿営の準備をしていると、突然技術者たちのほうから声があがった。
「――繋がった!」
その声に大人たちがそちらへ向かい、それを私が子どもたちと眺めていると、少し様子が変わってくる。
「……どうしたんだろ?」
ジェニファーが不安そうな声を漏らす。どうなったのかと近くにいた若い兵士に訊ねると、状況を確認したその人は困惑したように教えてくれた。
「通信ができたんじゃなくて、全方向に飛ばされている情報を捉えたようなんだ」
どこかから音声データが送られてきて、それを聞いた大人たちは顔色を悪くする。
「米軍の前哨基地が壊滅……?」
確定情報ではないけど、大陸の情報収集のための基地が壊滅して、今はそこから情報だけが飛ばされているような状況らしい。
その電源が尽きるまでと考えると、まだ新しい情報だと推測された。
その内容は――
「……大陸にいたドラゴンらしき個体が、東に向かって飛び立った。その推定される地域は……」
その進路上にあるのは東アジア……日本だった。
米軍の基地を壊滅させて飛び立ったドラゴン。
ツバキとの関係は?
いつも誤字報告ありがとうございます。