竜娘が巡る終末世界【完結】   作:春の日びより

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82 来訪者

 

 

 以前米軍の偵察機に発見された〝(ドラゴン)〟が活動を始める。

「……とりあえず拠点に帰還する。総員、撤収準備を始めろっ!」

 ドラゴンの移動……しかもその進路上に日本がある可能性が高い。しかし、これ以上の情報はなく、私たちは拠点である避難所へ戻ることになった。

 

「……ドラゴンが来るの?」

「みたいだね……」

 不安な顔を見せるジェニファーに私は曖昧に答えて彼女の頭を軽く撫でる。

 これまで大人を頼ることができなかった彼女たちが、誰かを頼ることを覚えたのは良いことだと思う。

 一般的な子どものような言動を見せ始めた子どもたちに、部隊として統率が取れなくなるのではないかと、上層部の一部が気にしていることをヤエコから聞いていたけど、私の意見としてそれは違う。

 人間は機械じゃない。感情のある生き物が力を発揮するには心の強さが重要になるのだと、私は思っている。

 

 それから嵩張るものや重いものを中心に私が先に降ろしておく。私なら上から飛び降りても平気だしね。

その後に置いていかれると思ったハチベエが飛び降りてきて慌てて受け止めるアクシデントもあったけど、また丸一日かけて電波塔から降りた私たちは、一階の部隊と合流して避難所への帰還を始めた。

 

 都心部への移動のときはいつ襲われるか分からない緊張感はあったけど、これから何か変化が起きるような期待感があった。でも、帰り道はその期待が不安に変わったことで、自然と言葉数は少なくなっていた。もちろん、来るときには駆けずり回っていたハチベエも、さすがに周囲の空気を読んで……。

『わふん!』

 あ、そうだよね。走るの楽しいよね。

 分かっているのか分かっていないのか、たぶん人間の弱さを理解していないハチベエは、元気さえあればなんとかなると思っている節がある。

 そんなデッカい柴犬が駆け回る姿はアニマルセラピー効果でもあったのか、随分と空気が軽くなってきた頃、ようやく避難所へ到着した。

 

「ツバキ、隊長は上層部に報告してくるから、私たちは待機だって」

「了解」

『わふん!』

 特殊部隊の隊長たちと話をしていたジェニファーがそう教えてくれる。

 そしてハチベエは戻った途端、待ち構えていた避難所の子どもたちから襲撃を受けて纏わり付かれていた。

「ハチベエ、頑張って!」

『くぅ~ん……』

 さすがのハチベエも普通の子どもたちは小さくて弱いと分かっているらしく、身動きできなくなって情けなさそうな顔をしていた。

 デッカいヌイグルミだから仕方ないね。諦めて。

 

 そして私のほうは、少し遅れがちになっていた子どもたちのお勉強を見ていた。

 まぁ、文字を覚えたら後は自分たちで進められるとは思うけど、対巨獣部隊の子どもたち全員が私の周りに集まり、団子状態になっている。

「……狭くない?」

『大丈夫』

 全員からそう返されるとちょっとびびるわ。

 でも、そうなってしまう心境も少しだけ理解できるんだよね……。

 私もなんとなくだけど、それを理解している。その空気を敏感に感じとった子どもたちが私を囲むように縋り付いていた。

 そうしていると、数日後、若い軍人さんが私を呼びに来た。子どもたちはそのままで私だけに話があるみたい。

 でも、あまり私と直接会おうとしなかった上層部の人たちから呼び出しとは珍しい。そう思っていると、奥にある企業のビルではなく、私と子どもたちが装備を貰った場所だった。

 

「おや、竜の嬢ちゃん、戻ってきたんだね、これ、持っていきなっ」

「ありがと!」

 目的地へ行く途中、露店のおばちゃんからニンジンを貰った。泥を洗ってあったので果物のようにそのまま齧り付いてボリボリ噛み砕くと、おばちゃんが笑っていた。

 いまだ私に忌避感を持っている人は沢山いるけれど、被害が大きかった門に近い人たちは、私を受け入れてくれている。

 ハチベエもその愛らしい外見と言動から、以前に犬を飼っていた人や子どもたちを中心に人気者となっていた。

 ……本当にただのデカいだけのワンコだからね。

 でも、この人たちも今起きていることを知ればどうなるのか……。

 

「やあやあ、よく来たね、ツバキちゃん。まぁ座ってくれたまえ」

「ヤエコ?」

 そこで待っていたのは装備の開発をしている部署で、私と子どもたちの担当をしているヤエコだった。

「他の人は?」

「私一人だよ」

 急遽しつらえたような一室で、窓を全開にしたヤエコは思いっきり吸い込んだ煙草の煙を外に吐く姿を見て、私はふと思い出した。

「あ、煙草持って帰るの忘れた」

「なんだって!?」

 本当に楽しみにしていたようで。ヤエコががっくりと項垂れる。

「覚えていたら、子どもたちの誰かが持ってきてくれているよ」

「ほんとう……?」

 しらんけど。

 

「それでね。私がツバキちゃんを呼んだのは、上の見解を伝えるためよ。まぁ、くだらない話だから真面目に聞かなくてもいいわ」

「ヤエコ……」

 どことなくヤエコが怒っているような感じがした。前回よりも煙草の本数が増えているような気がするのは、子どもたちがいないのもあるけど、その上からの話に苛立っているのだろう。

「つまりね……」

 

 電波塔から持ち帰ってきた機材で簡易的ながら長距離通信設備は完成した。

 いまだ動いている人工衛星の軌道と位置が合ったときだけ、通信ができるみたいだけど、やはり米軍の前哨基地からは同じメッセージだけが流れていて、撤退か全滅したのだろうというのが上層部の見解だった。

 

「米国ともいまだに連絡が取れないのよ。まさかそっちも全滅しているとは考えにくいけど、そのせいで上も不安になっているのよ」

「…………」

 

 大陸で発見された謎の存在――〝(ドラゴン)〟――。

 生態も目的も不明で、ただ座して動かなかったそれを監視するための前哨基地は壊滅し、竜はいずこかえと飛び立った。

 その経路上にあるのが日本であり、上層部の一部はその原因が同じ〝竜〟である私がいるからだと不安を覚えている。

「なんか言ってくるかもしれないけど、気にしなくて良いのよ? 本当に来たとしたらツバキちゃん以外になんともできないんだから。大人としては情けないけど」

 そう言ってヤエコはまた新しい煙草に火をつける。

 

(わたし)〟がいるから〝(脅威)〟が来る。

 そう考えて私を排除しようとする輩が出るかもしれない。

 でも……たぶん。その考えは正しいかもしれない。同じ存在がいるとしたら、私も会いに行こうと思うから。

 私がいなくなるかもしれないことを察して、子どもたちも不安を感じていた。

 今は〝竜〟の動向は分からない。しばらくは情報待ちかと考えたとき、不意に震えるような衝撃が襲ってきた。

 

 ――――――――…………ッ!!

 

「な、なに? 地震? 爆発?」

「分からないけど……上に行く!」

 感覚的には地震よりも爆発に近い。でも、仮に爆発だとしたら相当な規模になる。

 事態を把握するために屋上へ向かう私にヤエコがついてくる。数メートルで息が切れ始めたヤエコを抱き上げて屋上へ向かうと――

「あれは……」

「富士山?」

 

 空気が澄んでいるため遠くに見える高い山……その中央、山頂の火口辺りに空から黒い鳥のようなシルエットが舞い降りるのが見えた。

 あれってまさか……。

 

「ドラゴン……?」

 

 




富士の火口に降り立ったドラゴンらしき影。
花椿はどう動くか。

いつも誤字報告ありがとうございます。
一応ですが、この物語はこの第三章で完結となりますのでよろしくお願いします。
あと数話!
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