ありふれない”イケメン“鎌使いは残念だがモテはしない   作:翁月 多々良

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 祝羽王戦争終結!!

 南雲の兄貴が好きすぎて書きました。

 名前一緒やし白髪やんって思ったら書いてたwww


プロローグ:ハジメep

 

 

 『ハージメッ レディは全世界の宝だ!』

 

 『いい男はレディには愛情と思いやりを持って接するんだぜ?』

 

 

 耳にタコができるくらい聞いたその言葉が、その人、僕の兄さんの口癖だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ〜ッ」

 

 僕の名前は南雲ハジメ、どこにでもいる平々凡々の男子高校生だ。

 

 月曜日。それは一週間の内で最も憂鬱(ゆううつ)な始まりの日。きっと大多数の人が、これからの一週間に溜息を吐き、前日までの天国を想ってしまう。

 

 そしてそれはこの僕も例外ではなく、先程はとても大きなため息を吐いた。

 まぁ僕の場合、単に面倒というだけではないんだけど………。

 

 いつものように徹夜明けの体を押して始業チャイムギリギリに教室の扉を開く。

 

 

 ガラガラッ

 

 

 その瞬間、教室の男子生徒の大半から舌打ちやら睨みやらを頂戴する。女子生徒も友好的な表情をする者はいない。無関心ならまだいい方で、あからさまに侮蔑の表情を向ける者もいる。

 

 これでも今は(・・)まだマシな方で、少し前までは僕にウザ絡みをしてくる連中なんかもいたが、それは“去年のとある事件”をきっかけに鳴りを潜めている。

 

 だが、この後すぐクラスの視線は更に強いものとなる。なぜなら━━

 

 「南雲くん、おはよう!」

 

 

 ━━ほら来た 

 

 「今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ!」

 

 

 白崎香織(しらさきかおり)このクラス、いやこの学校で二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る途轍とてつもない美少女だ。腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげで、スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。

 

 ニコニコと微笑みながら僕に近づく彼女はこの僕にフレンドリーに接してくれる数少ない例外であり、この事態の原因でもある。

 

 「あ、あぁおはよう白崎さん」

 

 すわっ、これが殺気か!? と言いたくなるような眼光に晒さらされながら、僕は頬を引き()らせて挨拶を返す。

 

 ほほえみの耐えない彼女は非常に面倒見が良く、頼られれば学年問わず嫌な顔一つせず真摯に接する態度は高校生とは思えない懐の深さだ。

 そんな彼女がよりにもよって授業中居眠りをするほど”趣味の合間に人生“を座右の銘にしている僕に何故に構うのか甚だ謎である。

 

 「ムフフ〜ッ♪」

 

 今もこうして彼女は嬉しそうな表情を見せる。それによって更に突き刺さる視線に冷や汗が止まらない!。特に他の男子からの「なぜお前だけッ!」という怨嗟の念をひしひしと感じる。

 

 だが、僕は彼女のことを邪見にはできない、それは『女性に優しく』というあの人(・・・)による幼い頃からの英才教育(笑)の賜物だ。他にも理由はあるが、まぁそもそもの話彼女に対してそんなことをすればクラス中から袋叩きにされるのは目に見えてるし、そんなことをする度胸は僕にはない。

 

 しかし、どうにも彼女の僕への構い具合は異常だ。学校一の美少女が僕なんかにここまで構うのは僕の目からでも彼女の性分以外の何かを感じる。

 僕はほんとに冴えない人間だし、趣味のために色々と切り捨てている自覚もある。容姿だけで言えば彼女の周りには顔面偏差値高水準の良い人はゴロゴロいる。

 

 これで僕が仮にイケメンだったり、イケてる感じの人種であったならばここまで目の敵にされることはなかっただろうと思う。

 

 そんなことを考えていると三人の男女が近寄って来た。先ほど言った〝良い人〟も含まれている。

 

 

「南雲君。おはよう。毎日大変ね」

 

「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」

 

「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」

 

 

 三人の中で唯一朝の挨拶をした女子生徒の名前は八重樫雫(やえがししずく)。白崎さんの親友で二大女神の片割れだ。ポニーテールにした長い黒髪がトレードマークである。切れ長の目は鋭く、しかしその奥には柔らかさも感じられるため、冷たいというよりカッコイイという印象を与える。

 

 百七十二センチメートルという女子にしては高い身長と引き締まった体、凛とした雰囲気は侍を彷彿とさせる。

 

 事実、彼女の実家は八重樫流という剣術道場を営んでおり、彼女自身、小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者である。現代に現れた美少女剣士として雑誌の取材を受けることもしばしばあり、熱狂的なファンがいるらしい。後輩の女子生徒から熱を孕んだ瞳で二大お姉さま(・・・・・・)の俗称で慕われて頬を引き攣らせている光景はよく目撃されている。

 

 次に、些か臭いセリフで白崎さんに声を掛けたのが天之河光輝(あまのがわこうき)。いかにも勇者っぽいキラキラネームの彼は、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人だ。

 

 サラサラの茶髪と優しげな瞳、百八十センチメートル近い高身長に細身ながら引き締まった体。誰にでも優しく、正義感も強い……が正直言って思い込みが激しいところがある。

 

 小学生の頃から八重樫道場に通う門下生で、八重樫さんと同じく全国クラスの猛者だ。八重樫さんとは幼馴染である。ダース単位で惚れている女子生徒がいるそうだが、いつも一緒にいる八重樫さんや白崎さんに気後れして告白に至っていない子は多いらしい。それでも月二回以上は学校に関係なく告白を受けるという絵に描いたようなのだから筋金入りのモテ男だ。

 

 最後に投げやり気味な言動の男子生徒は坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)といい、天之河くんの親友だ。短く刈り上げた髪に鋭さと陽気さを合わせたような瞳、百九十センチメートルの身長に熊の如き大柄な体格、見た目に反さず細かいことは気にしない脳筋タイプである。

 

 坂上くんは努力とか熱血とか根性とかそういうのが大好きな人間なので、ハジメのように学校に来ても寝てばかりのやる気がなさそうな人間は嫌いなタイプらしい。現に今も、ハジメを一瞥いちべつした後フンッと鼻で笑い興味ないとばかりに無視している。

 

 「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」

 

 「それが分かっているなら直すべきじゃないか? いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」

 

 「あはは…。」

 

 

 僕がこうして彼らと会話するだけでも周りの視線はその鋭さを増す。見て分かる通り白崎さんを始めとした彼らはとても人気が高い。そんな彼らと僕が会話をするだけでもクラスメイト達は許せないのだろう。

 現に天之河くんの目にも僕は白崎さんの厚意を無下にする不真面目な生徒として映っているようで、忠告の声が飛ぶ。

 

 僕としては逆に放っておいてほしいのだが、そんなことを言えば周りからの風当たりも強くなるし、思い込みの激しい天之河くんには余計なことを言う方がかえって面倒なので代わりに苦笑で返す。

 

 そもそも〝直せ〟と言われても、僕は趣味を人生の中心に置くことに躊躇いがない。なにせ、父さんはゲームクリエイターで母さんは少女漫画家であり、将来に備えて父さんの会社や母さんの作業現場でバイトしているくらいなのだ。

 

 嬉しい事にその技量は即戦力扱いを受け、趣味中心の将来設計はばっちりである。僕としては真面目に人生しているので誰になんと言われようと今の生活スタイルを変える必要性を感じなかった。白崎さんが構って来なければ、そもそも物静かな目立たない一生徒で終わるハズだったのである。

 

 話が拗れる前に穏便に会話を切り上げようとする。が、今日も変わらず我らが女神は無自覚に爆弾を落とす。

 

 

 「? 光輝くん、なに言ってるの? 私は、私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」

 

 

 ざわっと教室が騒がしくなる。男子達はギリッと歯を鳴らし呪い殺さんばかりに僕を睨んで来る。

 

 (ヒイィィィイイィィィッ!!!(泣))

 

 

「え? ……ああ、ホント、香織は優しいよな」

 

 

 どうやら天之河くんの中で白崎さんの発言は僕に気を遣ったと解釈されたようだ。完璧超人なのだが、そのせいか少々自分の正しさを疑わなさ過ぎるという欠点があり、そこが厄介なんだよなぁ~と現実逃避気味に教室の窓から青空を眺めた。

 

 

「……ごめんなさいね? 二人共悪気はないのだけど……」

 

 

 この場で最も人間関係や各人の心情を把握している八重樫さんが、こっそり謝罪する。僕はやはり「仕方ない」と肩を竦めて苦笑いするのだった。

 

 そうこうしている内に始業のチャイムが鳴り教師が教室に入ってきた。教室の空気のおかしさには慣れてしまったのか何事もないように朝の連絡事項を伝える。そして、いつものように僕は夢の世界に誘われた。

 

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 教室のざわめきに、僕は意識が覚醒していくのを感じた。居眠り常習犯なので起きるべきタイミングは体が覚えている。その感覚から言えば、どうやら昼休憩に入ったようだ。

 

 「あっしまったッ!!」

 

 しかし今日はもう少し早いうちに起きて置かなければならないことを寝ぼけた頭で思い出す。

 

 すぐに教室を出ようとしたがもう遅かった。

 

 

 「ハジメェ〜!!

 

 

 教室の入口に背中を預けて佇む人影がそこに居た。その人物の声に反応して一気に教室がざわつき出す。勿論悪い方向で(・・・・・)……。

 

 

 「ホレ、お弁当持って来てあげたぞッ」

 

 「はぁ〜、兄さん(・・・)……」

 

 

 お弁当片手にホスト顔負けのイケメン面に笑みを浮かべた彼は、南雲梗平(なぐもきょえへい)。一学年年上の僕の兄だ。

 

 少し日焼けした肌に百八十センチメートル以上の高身長、耳には金のピアスをつけている。極めつけは銀に染めたその髪を無造作に流している。我が兄ながら同じ遺伝子を疑うほどの紛うことなきイケメンで、正直天之河くんよりもイケメンだと思う。

 

 何かと忙しい両親に変わって家事を担当してくれているため、このように僕の分の弁当を用意してくれている。

 

 兄さん曰く、

 

 「知らねえのかハジメェ、今どき料理ができる男がモテるんだぜッ」

 

 との事らしい……。

 

 「時間に遅れた僕も悪いけど、態々教室まで来なくっても」

 

 「いいじゃないかついで(・・・)だよついで♪」

 

 

 兄さんも、天之河くんに負けず劣らずの成績優秀で運動神経も高い、3年生の中でもトップだと言うのは本人の言だ。

 そんな彼が僕の教室に来た瞬間、僕みたいに侮蔑の視線を向けられている。いや、僕と違って“女子の虫を見るような目“は僕に向けられるソレよりも酷いと思う。

 

 その理由は至って単純で僕が早めに教室を出たい理由でもあった。ソレは━━

 

 

 「ご機嫌よう八重樫譲、今日もとてもお美しいですね、どうです?今日の放課後この奇跡のイケメンッ南雲梗平と一緒にお茶でも━━」

 

 「あっいえ、結構ですー」

 

 「びえ〜〜〜〜んッ!!お願いだよぉ~ッ一万払うから〜〜!!

 

 

 気がついたら兄さんは八重樫さんの目の前にいて、堂々とデートに誘い、……そして振られていた。

 

 そして数秒前の堂々たる態度が嘘だったように、苦笑する八重樫さんにみっともなく泣いて縋っていた。僕はそんな兄さんから目をそらし眉間を揉んだ。

 

 僕の兄さん南雲梗平は“恋多き残念イケメン”である。あらゆる長所をすべてチャラにするほど女性に目がなく、幼少の頃から年がら年中目についた女性に口説き続けていた。

 だが僕の兄さんがこうも目の敵にされるの理由はそれだけではない。

 

 

 「何しに来たんだ南雲梗平ッ!!」

 

 「こらこら”ブレイバーボーイ“先輩には敬語を使うもんだぞ?」

 

 「お前みたいな暴力的な不良を敬うわけ無いだろ!!」

 

 

 いつものことながら慣れているものの少し困惑気味の八重樫さんの態度を見て、勘違いを爆発させた天之河くんが八重樫さんと兄さんの間に入る。天之河くんの兄さんに対する態度は大凡学校の先輩にするものではない。

 

 その理由は1年前に遡る。

 

 

 

 その頃僕はクラスでもガラの悪い檜山大介(ひやまだいすけ)筆頭の小悪党四人組にいじめを受けていた。

 

 ある日の放課後テンプレの如く体育館裏に呼び出され、彼ら四人に僕は足蹴にされていた時だった。

 

 「おいっ豚共ッ!俺の可愛い弟に随分優しくしてくれたみたいじゃないか?

 

 

 そこに現れたのは今まで見たこと無いほどに憤怒に顔を歪めた兄さんだった。

 

チッ今が未成年であることが悔やまれるな

 

 

何事かをつぶやいた兄さんは目にも止まらぬスピードで駆け出していた。

 

 「なっはやっ!!?」

 

上級生とはいえ相手は一人とたかを食っくていた檜山達は驚愕に目を見開いて、気づいたときにはすべてが終わっていた。

 

 

 「いいかぁ豚共ッ本来であればお前たちの豚足を3本(・・)カットしてるところだが、今回はこの位で勘弁してやる。次こんな真似をしたらただじゃおかねぇぞッ

  あっ因みに今のは下ネタです」

 

 「はっはいぃぃ〜ッ」

 

 「ぢゅ、ぢゅびば……しぇん〜……」

 

 

 

 そう言って汚物を、いや養豚場の豚を見る目で、顔中ボコボコの血塗れで地に伏す檜山達にそう言った。

 

 いつも飄々とした兄さんとは乖離したその姿に僕の為にしてくれたこととはいえ始めて兄さんを怖いと思ってしまったのを今でも覚えている。

 

 その後騒ぎを聞き着けてやってきた天之河くんがまさかの勘違いを飛躍させる。

 

 なんと天之河くんには兄さんが僕を含めた5人全員に暴力をふるったように見えたらしく、兄さんを殴り糾弾。僕や当時兄さんの担任だった畑山愛子(はたやまあいこ)先生が学校側にいくら弁明しても聞き入れてもらえず、兄さんは2週間の停学を言い渡された。

 天之河くんの影響力もあってか、兄さんが女子の尻を追っかけてたり、見た目が派手なことも相まって当時から兄さんは不良のレッテルを貼られた。

 

 僕は家で兄さんに泣きながら謝った。僕のせいでこんな事になったのもあるけど、何より僕を助けた兄さんに恐怖を感じてしまった事を正直に話した。

 それに対して兄さんは

 

 「なぁ~に、気にすることはない俺は俺の任侠を通しただけだし何より、俺はお前を守れたことが誇らしいよ。それに真実は大切な人達が知っていてくれてるからな、俺はそれで十分。

 いいじゃねぇか、表じゃ誤解されてても裏じゃ正義の味方ってモテそうだろ?」

 

 そんな事をこともなげに語る兄さんに、自然と笑みがこぼれる。

 

 「ヒッグ、グスン……でも、でもよぉ〜ッ!!もうちょっとで付き合えたかもしれない詩音ちゃんに完全に振られちまったぁーー!!

 びえぇぇえぇぇえええええええん!!

 

 

 こうやって最後まで格好のつかない兄さんを見て僕はもう二度と、兄さんを怖いと思うことはなくなっていた。

 

 

 

 

 

 この事があって檜山達は僕にちょっかいをかけることはなくなったが、代わりにこの学校では、南雲梗平は不良で通ってしまった。だが、中では真実を知る人もいるため全員が全員兄さんを嫌っているわけじゃない。

 

 うちのクラスじゃ白崎さんや、八重樫さんなんかがそうだ。聞くところによれば天之河くんの暴走は彼女たちも何度も経験してそのたびに尻拭いをしていたらしい、だから僕と兄さんのところに直接謝りに来てくれた。こういう事もあって僕は白崎さんには強く出れないでいた。

 

 (一方的に)一足触発の雰囲気の天之河くんと兄さんの間に再び八重樫さんが割って入る。

 

 「まぁまぁ、光輝、南雲先輩も冗談で言ってることだし其の辺にしときなさい。」

 

 「雫……だがしかしッ━━」

 

 「俺は冗談のつもりはないんだけどねぇ八重樫譲?」

 

 「ちょっと黙っててください南雲先輩!」

 

 

 場を収めようとしてくれている八重樫さんに兄さんが頓珍漢な事を言うもんだから一瞬八重樫さんがキレた。ほんとうちの兄がすんませんッ!!

 

 そして八重樫さんは意趣返しのつもりがこんな事を口走る。

 

 「全く、いけませんよ南雲先輩?あんな素敵な“彼女”がいるのに他の女性に目移りしちゃ」

 

 

 

 一瞬で空間が凍ったと錯覚する沈黙が訪れた。数秒後兄さんが口を開く。

 

 「えっ?ちょ、ちょっとちょぉっと待ってくれぇ八重樫ちゃん?い、い、いつ俺に彼女ができたって?」

 

 カッコつけた喋り方を忘れた兄さんが慌てた様子で八重樫さんに詰め寄ろうとした瞬間だった。

 

 

 「隙ありじゃぁああッ!!南雲ぉぉぉおおおおおお!!」 

 

 「ごパッ!??」

 

 

 ハスキー気味な女性の雄叫びが聞こえた瞬間、兄さんが顔面から教室の中央へと吹っ飛ばされた。

 

 すごい物音にまだ教室にいた前の授業の担当の社会科教師、畑山先生が「何事ですかッ!?」と顔を出したのは御愛嬌。

 

 

 「ぐぅおおッ痛ってぇええ〜〜ッ、てめぇ!ナニしやがんだ室屋ッ!!」

 

 少しして後頭部を抑えながら兄さんが下手人に怒号を飛ばす。

 

 そして兄さんの視線を追って廊下に目を向けるとそこには足を振り抜いた状態の一人の女性が立っていた。

 

 

 「はんっお前が隙見せんのがあかんのやこのど阿呆が!」

 

 「しゅ、柊花姉!?」

 

 

 彼女の名前は室屋柊花(むろやしゅうか)、兄さんと同じ3年生、1年前の真実を知る数少ない一人で、僕と兄さんの幼馴染だ。ウルフカットの髪の内側を緑に染め、両耳に鈎爪のようなピアスをつけている。

 

 八重樫さん同様切れ長の目は鋭く、しかし八重樫さんとは違ってその目はまるで獰猛な猛禽類のような凶暴な光を灯している。これまた女性にしては高い百七十六センチメートルと八重樫さん以上の長身で引き締まった体は八重樫さんを静とするなら彼女は動の美しさを持っている。

 

 幼少の頃から空手をしていて男顔負けのその実力は八重樫さんと共にスポーツ紙に掲載されるほどだ。

 

 八重樫さんよりも短い髪と男勝りな言動から彼女をより猛々しく見せており、こちらも八重樫さん同様熱狂的なファンが付いている。うちのクラスを含めた後輩の女子生徒から”二大お姉さま“と慕われているが八重樫さんと違って彼女はそれを快く受け入れている。

 その理由は、彼女が両性愛者(バイセクシャル)であり、いや、どちらかといえば女性の方が好きという趣向の持ち主で、ファンクラブの何人かをお持ち帰りしたという噂があるほどだ。

 

 曲がりなりにも幼馴染である僕はそれが事実であることを知っているがそれはまた別の話。

 

 僕から見てもかなりの美貌の持ち主である彼女が白崎さんと八重樫さんと共に女神と讃えられないのはそういう趣向の持ち主だからというのもあるが、何よりも彼女の顔の右目周りの肌に他の白磁の肌とは違い浅黒い痣があることが起因していたりする。

 

 女生徒はそれも怪しい魅力のスパイスとして受け入れているが男子生徒の多くは彼女を女と見ていない。昔から知っている僕としてはそれが生まれつきのもと知っているのでそんな事で幼少より周りから色々言われていた彼女を見て幼いながらも憤慨したことがあった。しかし

 

 

 「おおきにのぉハジメェ、でも気にせんでええでぇ!こんなもんはただの個性や、言いたいやつには言わしたらええ、オトンやオカン、妹の花音も、オレを平等に愛してくれとるし、お前みたいな可愛い弟分も慕ってくれるんや、それでオレは満足やねん。」

 

 本人もこう言っていたので僕自身も気にしないことにしている。

 

 因みに大阪出身の彼女は十年以上も東京にいるにも関わらず常に関西弁だ。

 

 

 

 さて話を今に戻すと、柊花姉と兄さんが言い争いをしていた。

 

 

 「これでオレの1588戦、794勝、793敗、1引き分けやな?一歩リードしたったでぇ南雲ぉ?」

 

 「うるせぇブス野郎、数も数えらんなくなったのか?俺が、1588戦、794勝、793敗、1引き分けだよ、脳みそ耳から吸い出して磨いとけこのアマッ!」

 

 「ほーん、ええ度胸やもう一度(・・・・)閻魔に会いたいらしいなぁ、だが今度はおまえだけで逝ってこんかい!!」

 

 「上等だてめぇゴラァ!!」

 

 

 「あぁまた始まった………。」

 

 

 そう逝って僕は天を仰ぐ。どういうわけか昔から兄さんと柊花姉は仲が悪い、会うたんびにお互いを殺すんじゃないかという勢いで喧嘩をしている。

 

 1588回、冗談のような数字に聞こえるかもしれないが、僕が昔からカウントしてきたから真実だ。この途方もない数二人は喧嘩を続けている。

 

 その様子を端から見たら痴話喧嘩に見えるものもいるらしく、兄さんが女生徒から目の敵にされる要因の一つでもあったりする。

 

 八重樫さんの言う通り、喧嘩は良くないけどお似合いの二人だと思うことはしばしばある。常にフェミニズムを語る兄さんが柊花姉にだけにとる強気の姿勢は何処か兄さんにとって柊花姉が特別に見えて、微笑ましい気持ちになる。だがこんなことを僕が言えば二人に、殺されかねないのでその気持ちは胸にしまう。

 

 最初は、兄さんと天之河くんが言い争いをしていたはずだったのにいつの間にかやってきた柊花姉によって有耶無耶にされ、とうの天之河くんはなんだか可愛そうなことになっていた。

 

 

 激化する二人の喧嘩を二人の担任でもある畑山先生がそのちっちゃな体をワチャワチャ酷使して「やめなさ〜い!」と声を上げて奮闘していた。

 

 頑張れ愛ちゃん先生ッ!

 

 サヨナラ バイバイ!

 

 オレは弁当(こいつ)と旅に出る〜♪

 

 視線の端で白崎さんがお弁当片手にウキウキと僕に近付こうとしていたのが見えた為二人が喧嘩を始めて騒がしくなったこの隙にっ!!

 

 そうやって教室の外へ足を向けた瞬間だった。

 

 

 

 凍りついた。

 

 

 

 天之河くんの足元に純白に光り輝く円環と幾何学きかがく模様が現れたからだ。その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様――俗に言う魔法陣らしきものを注視する。

 

 その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。

 

 自分の足元まで異常が迫って来たことで、ようやく硬直が解け悲鳴を上げる生徒達。結局兄さんと柊花姉に揉みくちゃにされていた愛子先生が咄嗟に「皆! 教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。

 

 

 数秒か、数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消していた。

 

 

 

 この事件は、白昼の高校で起きた集団神隠しとして、大いに世間を騒がせるのだが、それはまた別の話。

 

 

 





 皆さんお久しぶりです。

 腱鞘炎になった為、イラストなどをお休みしてこちらに帰ってまいりました。

 山の翁も随時執筆中、これは思いつきで衝動的に書いたため更新は優先されません。
 ですが続きます。
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