旅の行商人ムコーダを召喚する魔法   作:政田正彦

1 / 3
日本から物資を買い付ける魔法(?)

 

 

 

「やはりダメでしたか」

 

「困ったな……」

 

 勇者一行、その旅の最中。

 彼らはとある困難に直面していた。

 

「まさかこれほどまでとはね……」

 

 それは、旅を続けるのに必要な食糧や物資の確保をしようと立ち寄った村で起こった、魔族との戦火の被害。

 

「……村の食糧庫が丸々燃え尽きてしまうだなんて」

 

「幸い、各々の家庭にあった貯蓄は無事だそうで、ひとまずは食いつないでいけるだろうとの事ですが……」

 

「こんな状況では、金が有っても食料を購入出来そうにないな」

 

 旅を続けるためには、必然的に、水と食料が要る。

 どんなに屈強な戦士でも、信心深い僧侶でも、気高き勇者でも、そして。

 

「……それじゃあこの先のご飯はどうするの?」

 

 千年以上の時を生きるエルフであったとしても例外ではない。

 

「君の魔法で農作物を出したり育てたりは出来ない?」

 

「出来るけど、とても口に出来ないぐらい不味いのが出来る」

 

「それならもう、旅の途中で野生の動物を狩ったり、山菜を採取したりして食いつなぐしかあるまい」

 

「ええっ……」

 

 露骨に嫌そうな顔をするエルフ。

 

 彼女とて、そうするほかに方法が無い事は分かっているが、それでも、過去に食べられるキノコと間違えて毒キノコを食べ、一人を除き全員がお腹を下す事になったり、野生の動物を追い掛けている内に迷って本来の道を見失い、危うく遭難しかけた事もある彼女にとってはあまりにも辛い選択だった。

 

「まあまあ、たまにはいいじゃないか」

 

「無いものねだりをしても仕方ありませんしね……」

 

「頼むから食べられるやつを探してね……」

 

 

 そうして、食料の収集に勤しむ事、半日が経過して……。

 

 

「釣りで魚を獲ろうと思ったが、ダメだった。川が灰や泥で汚れていて、魚が居るのかどうかも分からない」

 

「こっちもダメだ。森で動物を狩ろうと思ったが、小動物の一匹すら居なかった。恐らく、戦火に怯え、逃げ出してしまったのだろう」

 

「……この辺りの食べられる山菜を探していたんだけど、薬にはなるけど食べるには向かない物ばかりだね」

 

「すみません、村で再度交渉してみたのですが、これだけしか」

 

 

 成果、滅茶苦茶に苦い薬草、小魚一匹、黒パン二個。

 

「……とりあえず、皆でパンを分け合うか」

 

「そうだな」

 

「ううむ……」

 

 やや、いや、とてもひもじい食卓だが、無いよりはマシだと言い聞かせ、黒パンを口に運ぶ男達。その姿は、そう遠くない未来で魔王を打ち倒し、世界に平和を齎す勇者一行とは思えない程にくたびれていた。

 

「……仕方ない」

 

 エルフはそう言って杖を取り出す。

 

「どうにか出来る魔法があるのかい?」

 

「うん。あまりこの魔法に頼ってはいけないと先生に言いつけられたし、私もそう思うから……本当の本当に最終手段だけどね」

 

 聞きながら、男達の脳裏では一体それはどんな魔法なんだと思う。

 食べていないのにお腹が膨れる魔法、食べなくても済む魔法、あるいは、味がしない食べ物を出す魔法とかだったりするかもしれない。

 

 彼女が杖を掲げると、男達が見た事の無い魔法陣が現れ、その中心に白く光る円状の何かが現れる。

 

 そうかと思うと、今度はおもむろに上半身をその円の中に突っ込むエルフ。

 

「えっ」

 

「なにしてんだこれは」

 

「さあ……円の向こう側は何処かに繋がっているようですが」

 

 

―――ミミックに食われかけてる時みたいだな。

 

 

 

 

 

 

 所変わって、寸胴鍋をぐつぐつ煮込みながらかき回す男が一人。

 その傍らでは、腹いっぱいに食事をとって寝ている従魔達が寝そべっていた。

 

「うん、よし、明日の分の仕込みはこれで充分だな……後は……」

 

「ムコーダ、助けて」

 

「どぅおわぁっ!? ふ、フリーレンさん!? きゅ、急に現れるのはやめて下さいって言ってるじゃないですか!?」

 

「……ごめん、でも、緊急事態だったから」

 

 突然の声に驚いて振り返ると、そこには空中から上半身だけ出している見知っている顔のエルフが困り顔で立って……立って……? いた。

 

「実は……」

 

「……成程、まあそういう事なら、仕方ないですね。ちょっと待っててください、直ぐに準備してそっちに行くんで」

 

「助かるよ」

 

 

 

 

―――そうしてしばらく、下半身だけになったエルフの姿を見守っていると、ぬるりと円から上半身を抜いて男達に向き直るエルフ。

 

「すぐ来てくれるってさ」

 

「すぐ来る……って、誰が?」

 

 そう聞くと同時、白く光る円の中から、ヌッと誰かの足が飛び出す。

 

「もう来たみたい。早いね」

 

「何も無い所から足が生えて来たんだが……?」

 

 

 その後、その足は、そこに地面がある事を確かめるかのように何回か足踏みしたり、探ったりした後、ついにその足の持ち主が正体を現す。

 

「ど、どうも……初めまして」

 

 そこから現れたのは……黒髪と黒目、それ以外に特徴らしい特徴は無く、戦士のようでもなければ魔法使いのようでもない、至って普通の村人のようにすら見える男性だった。

 

「……これはご丁寧にどうも」

 

「……えっと、フリーレン、彼は?」

 

「紹介するよ。彼はムコーダ。この世界とは違う、異世界で行商人をやっている人間……? だよ」

 

「ムコーダです、よろしくお願いします……」

 

「……異世界?」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。