旅の行商人ムコーダを召喚する魔法   作:政田正彦

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異世界に跳ぶ魔法(?)

 

 

「じゃあムコーダ、早速で悪いんだけど」

 

「ええ、大丈夫です、材料は持ってきているので」

 

 そう会話を交わすと、手慣れた手つきで準備を始めるムコーダ。

 何も無い所に手を突っ込んだかと思うと、その空間からテーブルや食器、まな板等の調理器具、そして形容しがたい謎の道具、その後、食材を取り出した。

 

「おお!?」

 

「何も無い所から色々出て来たぞ」

 

「違う。彼は容量無制限で、中に入れたものの時間を止める不思議な空間に物を出し入れする『荷物を沢山持つ魔法(アイテムボックス)』という魔法を使うんだ」

 

「それは凄い!」

 

「あはは……生物とかは入れられないんですけどね(てかそもそも、魔法では無いんだけどね……まあ、そっちの方が違和感が無いらしいから言わないけど)」

 

「いやいや、容量無制限に荷物が持てるってだけで充分以上に凄い事だから……フリーレンは使えないのか?」

 

 そう問われたフリーレンは首を横に振る。

 

「是非とも使いたい所だけど、異世界の魔法だから、どこか仕組みが違うみたい。……でも、容量無制限では無いけど、その劣化版なら再現出来た。いつも私が杖を出し入れしているのがそれ」

 

「ああ~……なるほど」

 

「(初耳なんですけど……)」

 

 あの何も無い所から急に杖が出てくる仕組みはそういう理由だったのか~と手を打って納得する三名と聞いてないぞと内心で驚愕する一名。

 

「……その異世界ってのはなんなんだ?」

 

「なんなんだと言われても……そのままの意味だよ」

 

「ま、まあまあ、その辺りは後で私から説明しますから」

 

 説明すると長くなる。長くなるとその分食事の準備が遅れてしまう。それはいけない。四人は早々に黙った。

 

 

 

 そして、ムコーダは流れるように調理を始めた。

 

 豚に近い魔物(レッドボア)(魔物である事は彼らには伏せる)の肉を薄くスライスし、フォークで穴を空けていく。それを、茶色くてテラテラしたタレ(生姜焼きのタレ)に漬け込んでいく。

 

 漬け込む間に、別に料理の準備をする。

 

 ベーコンを角切りに、キャベツ、ジャガイモ、野菜を一口大に切り、油を引いた鍋で炒め、火が通ったら水を加えて煮込み、薄黄色の粉末(コンソメの素)を入れる。

 

 その後、漬け込んでいた肉を取り出してフライパンで焼いていく。

 ジュウ、と食欲をそそる音と共に、感じた事の無い、しかし、間違い無く美味いと分かる匂いが辺りに漂い始める。

 

「……腹が減り過ぎて、どうにかなりそうだ」

 

「ま、まだですか?」

 

「もうちょっとですからね」

 

 今まで幾つもの死線をも潜り抜けて来た彼らだったが……その匂いを感じながら、しかし、出来上がるまではその食事にありつくことが出来ないというのは一種の拷問に等しい。

 

 今が極度の空腹状態である事もまた拍車をかけ、もうフライパンごと齧り付いてやりたいと思う程であった。

 

 そんな熱のこもった視線と催促を受けながらも、そんなものは慣れていると言わんばかりにスルーして調理を続けるムコーダ。

 

 

「さ、出来ましたよ! レ……豚の生姜焼きと、コンソメスープと、付け合わせのパンです」

 

「おおー!!」

 

 

 食事が取り分けられた木皿と器を受け取り、辛抱たまらんと誰からともなく口をつける。

 

 瞬間、彼らは目を見開き、お互いにお互いの顔を見合わせた。

 高速で咀嚼し、飲み込み、開口一番、打ち合わせをしたかのようにこう言った。

 

 

 ――美味いッ!!

 

「なんだこの甘じょっぱいタレは……!? 肉の旨味が引き立たされ……くうっ、手が止まらないッ!! 隣の葉野菜との相性も最高だッ!!」

 

美味(ンマ)い、美味(ンマ)い」

 

「このスープも……パンも! 全部が今まで食べて来た何よりも美味い!!」

 

 

 そう言いながら、半狂乱と言っても良いぐらいの勢いで食事にありつく三名。

 

「はは……喜んでもらえたなら良かったです」

 

 実を言えばムコーダにとってこういった状況はよくある事だが、それでも、こうして喜んでくれるのは嬉しい。作った甲斐があるというものだ。

 

「……ありがとうムコーダ、おかげで助かったよ」

 

 ガツガツとかきこむ男性陣をよそに、スープを口に含み、ほう、と息をついたフリーレンは、ムコーダに感謝を告げた。

 

「いえいえ、フリーレンさんにはこの世界に落ちて来た時にお世話になりましたし……折角なのでその時の料理を作ってみたんですが、どうですか?」

 

「うん……前より美味しくなっている気がする」

 

「それは良かった」

 

 これで前の方が美味しかったなんて言われたら落ち込むところでしたよ、なんて冗談を言いながら、この分だと、おかわりが必要そうだと思ったムコーダは再び調理に向き合った。

 

 

 

 それからしばらくしてからようやっと落ち着いた彼らは、片付けを手伝いながらムコーダについて聞いてみる事にした。

 

 

「で、ムコーダさん。異世界って言うのは?」

 

「ああ、え~っと……そのままの意味です。私はこことは違う、別の世界の住人なんですよ(……本当はその世界の出身でも無いんだけど、ややこしいから黙ってよう)」

 

「別の世界……そんなものが」

 

 

 魔王を倒す。その目的がどうあれ、世界を旅する彼らにとって別の世界、異世界という単語は視界が広がるかのような思いさえ抱く魅力的な響きだった。

 

「異世界ってのは皆ムコーダみたいな奴ばっかりなのか?」

 

「いえ、そんなことは……自分で言うのもなんですけど、私みたいなのは二人と居ないと思いますよ」

 

「そもそもこっちに来た異世界人も、ムコーダのほかに見た事が無い。もしかしたら何処かには居るのかもしれないけど」

 

「……そうだ、そういえばフリーレン、ムコーダさんとはどこで知り合ったんだ? 彼は異世界の人なんだろう?」

 

「ああ、それは……私がたまたまこっちの世界に落ちてきてしまったんですよ」

 

「うん。懐かしい。あれは確か……えーっと、確か先生との修行中に出会ったから……?」

 

「……ちょっと待て、先生って、フリーレンが何時も話してくれているあの先生か?」

 

 フリーレンの先生、それは、この世界では『魔法界の祖』と呼ばれる伝説の人物であり、1000年程前に存在していた故人である。

 

「……ムコーダさんっていくつなんだ?」

 

「……私にも分かりません」

 

「ともかく、すっごい昔に、ムコーダはひょんな事からこっちに落ちて来て、それで出会ったんだ」

 

 

 

 時は遡る。

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