※この作品に出てくるミゲルは、『どうせあの手のキャラはもう2度と出てこないだろうし出したろ!ヒグマみたいなもんやろアレ』と考えていた作者が、原作にミゲルが登場する以前に書いた作品です。
要は原作のミゲルとは完全な別物で、術式も領域もオリジナルです。
そんな訳なので、このミゲル君はそう言うオリキャラだと思って見ていただけると幸いです。
前編
「一人、面倒臭そうな奴がいるな」
「ナルホド、アノ包帯カ」
12月24日、東京新宿区。
特級呪詛師夏油傑が起こした百鬼夜行の最中、夏油本人が居ないことに違和感を覚えた現代最強の呪術師・五条悟は夏油の目論見を看破。
狗巻、パンダ両名を呪術高専に転送し……自身が面倒臭そうと評した、サングラスをかけた黒人の男を見る。
———この黒人の男はミゲル。ケニア出身のフリーの呪術師であり、正史では単独で五条悟を十数分も足止めした怪物である———
その体からの呪力の漏出はほぼ見えない。しかし六眼を持つ五条には理解る。
目測で自分の倍以上……乙骨をも超える莫大な呪力量を持っている。
異常なほどの呪力総量に、恵まれた体格。術式を使わずとも力の限り暴れるだけでかなり厄介となる存在。これだけでも新宿に集まった一級術師が複数人で当たらねばならない相手。
それに……
(なんだ……? 術式の情報が読めない)
六眼には術式を看破する機能があるが、ミゲルの術式が読めない。完全に見えないと言うわけでは無いが、テレビの砂嵐のようにノイズが掛かった様に写っていて読み取ることができない。
六眼でも見通せない術式……?
いや、呪具か呪霊の効果でジャミングをかけていると見るべきだろうか。
そんな事を考えているうちに、彷徨いていた呪霊どもが動き出し、百鬼夜行が開戦する。
いつの間にかミゲルの側にいた女性は姿を消しており、五条は眼前の黒人が自分と
圧倒的な呪力総量、見えない術式に、不遜な態度。たった一人の親友である夏油傑が自分を甘く見るはずも無い。まず間違いなく何かを隠している。術式を隠蔽するモノだけで済むとはとても思えない。
山盛りの不確定要素。普段の五条なら警戒して様子見を行う所だが……そうはいかない。
現在、五条は生徒たちを人質に取られているに等しい。夏油の狙いが乙骨、ひいては乙骨に憑いている里香だと判明した以上、目の前の黒人を瞬殺し生徒の元へ向かわねばならない。
「悪いけど、今忙しいんだ」
跳躍し、一瞬のうちに接近する。
右手の形は帝釈天印。
五条は初手から最大の矛を振り翳す。
「領域展開——『無量空処』」
当たれば確実に瞬殺できる領域を迷う事なく展開。
しかし……領域がミゲルに触れようとした途端、結界が乱れて解れ、崩壊する。
「何ッ!?」
「オイオイ、ガッカリサセテクレルナヨ、特級!」
領域が強制的に解除され、無下限の術式が焼き切れ使用困難になる。
ミゲルは右手の黒縄をグローブのように握り込み、五条に近接戦闘を仕掛けた。体格ではミゲルに分がある。
しかし五条には六眼があり、動体視力も常人のソレとは隔絶した性能を持つ。近接戦闘でも呪術界に並ぶ者など存在しないが……
(ありえねぇ……!?)
しかし、攻めきれない。
それどころか何発かの有効打を身に受けてしまう。
(クソ、こいつ呪力量だけじゃない! 体術だけでいえば僕よりも上……!)
五条は圧倒的な性能を誇る反面、同格との戦闘経験がほぼ存在しなかった。
本気の組み手が成立したのは唯一夏油傑のみで、命の危険を感じるほどの闘いといえば伏黒甚爾以降経験がない。
それも仕方が無く、五条悟と戦いを成立させうる敵自体がそもそも存在しないのだ。圧倒的な才覚と高校時代の組み手だけで世界最高レベルの体術を会得しているのは流石五条悟と言わざるを得ないが、世界最高レベルの中の頂点こそがミゲルである。
パワー、体格、そして技。全てミゲルが上であり、五条は人生初の防戦一方の戦いを強いられる。
「だが調子に乗りすぎたな」
しかし、それも術式が回復するまでの事。
ミゲルの蹴りが五条に触れる寸前で止まる。
「what’s!?」
「術式反転『赫』」
全力の術式反転。しかしミゲルの拳に巻かれた黒縄がそれを相殺する。
だが、それは先程無量空処をかき消された事で想定ができている。
赫を囮にした回し蹴りがミゲルのボディに突き刺さり、吹き飛んで行った。
(あの縄……珍しい呪いが編み込まれてるな。こっちの術式が乱される)
二度術式をかき消された五条は、黒縄の能力をほぼ完全に把握。
(アレは対象の術式に別の情報を割り込ませ、そのまま術式の方向性をずらし、対消滅させる事で相殺している。相手の術式の出力をそのまま使う事ができるから赫だろうと問答無用でかき消してくる。性質上、当然ながら無下限も突破されるだろうな)
(アイツは常にあの縄を身に纏うことで自分の術式にノイズを割り込ませて六眼を誤魔化しているっつーことか。
術式を乱すだけなら、術式を発動さえしなければ影響はない……いや、常にノイズをかけられながら呪力操作に翳りがないのはアイツの技量によるものか?)
「露骨な僕対策……傑も考えてるな」
正直に言うと、五条はかなり焦っていた。
この場において最良なのは無量空処でミゲルを戦闘不能にし、術式が回復したら即座に高専へ向かい夏油を止めることだった。
しかし無下限呪術どころか無量空処まで無効化してくるミゲルを瞬殺する事は、どうやら出来そうにもない。
不意打ちの打撃や即座に打てる程度の赫ではミゲルに有効打を与える事はできそうに無いし、切り札である虚式『茈』は発動に時間がかかる。避けられる可能性が高い上に、そもそもこんな所で茈を使うと味方を巻き込んでしまう。余波による建物の破壊だってシャレにならない。
正直甘く見ていた。自らが最強であるという慢心もあった。
夏油傑の信条、そして性格からして、狗巻やパンダ、乙骨は殺される事はないだろう。高専で猿と呼んではいたが、真希も同様に殺される事はないと断言できる。
根拠は乏しいが、五条は夏油への信頼からそれを確信していた。
しかし、だからと言って放置出来るわけがない。
夏油の狙いは乙骨憂太……その彼が身に宿す呪いの女王、特級過呪怨霊・折本里香の奪取なのはほぼ間違いないのだから。
既に六眼で視た情報から、折本里香の性能は把握している。乙骨とのバグじみた縛りによる底なしの呪力の塊……乙骨本人自体が五条悟よりも多くの呪力量を持っている上に、里香の呪力は乙骨のさらに数倍。
疑う余地も無く観測史上最大最強の怨霊、底なしの呪力の塊。
しかし、そんなバグとはいえど特級過呪怨霊……呪霊のカテゴリーから脱してはいない。当然ながら呪霊躁術の術式対象だ。
この場における最悪……それはミゲルを倒した後、折本里香を従えた夏油傑との消耗した状態での連戦……
どころではない。
(最悪はこの黒人に長く時間を稼がれ、傑と合流される事だ)
そうなれば、幾ら呪術師最強の五条悟であろうと勝ち目は薄い。
夏油傑の力量と里香の膨大な呪力量……そして六眼で確認した、その変幻自在の呪力特性。
自身の最強は疑う余地もないが、仮想敵は観測史上最大最強の怨霊を従えた、自身が認めた世界で唯一の同格。故に、絶対に慢心はしない。
「リミットは……10分ってとこか」
五条悟は覚悟を決める。
一切の出し惜しみ無くミゲルを片付け、高専に向かわねばならない。
「イマノハヤバカッタ……」
「しぶといな」
無下限を応用した高速移動で、吹き飛ばされたのち立ち上がったミゲルの背後を取る。
「術式順転『蒼』」
「WAO!」
そのまま蒼を叩きつけるが、ミゲルは黒縄で相殺する。
(成程……見えてきた)
五条の狙いは蒼による攻撃ではなく、黒縄の性能の解析。
(無量空処1発で3割強……赫なら1割、蒼ならその半分って所だな)
黒縄は術式を相殺するが、その分黒縄を消費する。放っておいても回復する事はない。
消費量を把握した五条は戦いを続けながら戦略を練り上げる。
(モウ半分モ残ッテナイ……)
「コノ縄一本編ムノニ俺ノ国ノ術師ガ何十年カケルト思ッテル!?」
「知るか。ボビーオロゴンみたいな喋り方しやがって」
口から出る言葉に思考も乗せることはなく、必殺のプランを組み上げた。
これから五条悟は全力で術式を奮い黒縄を破壊し、無量空処でギリギリ破壊できる地点を見極め、その瞬間に無量空処を展開する。
無量空処は呪力防御で防げるような代物では無い。簡易領域程度ではほんの僅かな時間稼ぎにしかならず、無量空処から身を守る術は実質一択。領域を展開し相殺することだけだ。
(奴がまだあの縄で僕の領域をギリギリ防げると思ってるライン……さっきの3割強を超える4割に届く程度の残存量になった瞬間に領域を展開し、全力で領域を維持する。
……いけるはずだ)
黒縄で防げると誤認させ、領域もしくは領域対策で防御する隙を与えない。そもそもミゲルが領域を展開した所で、黒縄を握りしめている以上は先に崩壊するのはミゲルの領域となる。
無量空処は数秒に満たない時間当たっただけでも術師相手であれば完全に戦闘不能にできる。崩壊寸前であろうとも、ほんの一瞬当たりさえすれば脳に甚大なダメージを受けて動く事すらままならなくなり五条の勝ちなのだ。
すぐさま戦闘不能になったミゲルの両手両足をへし折り、そして術式が回復するまでの間に瞬間移動用の刻印を準備し、回復したら即座に高専へ向かう。
「Foooo!」
「喧しい!」
それが最速。それが最善。
蒼を纏った拳による殴打を3発。牽制の蒼を1発。
ミゲルは黒縄で受ける。
(今だ)
「領域展開」
五条が領域を展開する。当然ながらミゲルは黒縄を翳し領域を相殺しようとする。
無量空処が崩壊するより一瞬だけ早く、黒縄が消滅する。
終わった、そう五条が勝利を確信し———しかし勝利を確信したのはミゲルも同じだった。
ニヤリ、と笑ったミゲルの頭部には、異質な呪力が纏わりついている
「何———」
「夏油ノ忠告ヲ聞イテイテ助カッタヨ」
「『自分の判断より、五条悟を信頼しろ』……ッテネ」
ミゲルが使用したのは領域展延と呼ばれる技術。
術式を付与していない領域の外殻を取り払い、不定形な領域を体に纏う事で身に降りかかる術式から身を守る高等技術。
無量空処が、崩壊した。
「不味———」
自身のプランが崩れた事。
反射的に初見の技術を六眼で解析してしまった事。
それらから生まれた一瞬の硬直により、ミゲルのカウンターによる領域展開に対して本来なら間に合ったはずの簡易領域での防御が間に合わない。
「
『
領域が展開され———同時に、ミゲルの手から黒縄が完全消滅した事により、ミゲルの術式が六眼によって看破される。
(……やられた!)
「五条悟、六眼ヲ持ツオマエハ既ニ理解シテイルダロウガ、俺ノ術式ハshamanism……日本風ニ言エバ精霊操術カ?」
一瞬遅れて簡易領域を展開するが、その頃には谺喚山嶺は既に解かれた後だった。
五条悟は自身の体が重くなるのを感じる……否、身体から力が煙となって抜けていく。
「土地、物質、生物。コノ世ノ全テニハ精霊ガ宿ッテイル。俺ノ術式ハソレヲ喚ビ、使役スル」
身体から抜け出した力は、ミゲルの隣で人形を成して……徐々にその輪郭がはっきりとしてきた。
「精霊トイウノハ高位ニナルトホボ神ニ等シイ存在ダ。夏油ノ操ル様ナ呪霊トハ格ガ違ウ」
五条は全てを理解する。
理解していながら、反射的に力の塊を殴り飛ばしに跳躍した。完全に形をなす前に破壊する事が出来れば……という、淡い期待を込めて。
「マァ、夏油ノヨウニ多数ノ精霊ヲ取リ込ムコトハデキナイシ、使役シタ精霊トノ契約モ一時的ナモノナンダガネ」
しかし、
「シカシ、俺ノ領域『
ミゲルの側に形を成した、白い髪に黒い体の小さな
「『五条悟』ノ精霊ダヨ」
六眼を持つ五条は完全に理解した。
この精霊は、自分自身の分体。呪術的には完全に自分の同一人物。
「精霊トイウヨリハ、分霊ト言ウ方ガ正シイカモ知レナイナ」
力が抜け、呪力も全開の7割ほどしか出せない。呪力を奪われただけならまだしも、膂力や呪力出力までもが削り取られたようだ。
「俺ノ領域、
五条の領域、『無量空処』から逃れる術は主に3つ。
1つは領域から脱出し効果範囲から逃れること。
2つは自分も領域を展開して押し合いに持ち込むこと。
そして……殆ど誰にも知られていない3つ目の手段は、五条悟に触れ続けること。
3つ目の条件……それは五条と存在を分割され、全くの同一人物である精霊化した五条に触れていても満たされている。
五条悟の精霊化に成功し、ミゲルは無量空処に対して無敵となった。
「FUUUU!」
「ぐっ……!?」
ミゲルは五条を思いっきり殴りつける。
既に力を奪われた五条悟に全力のミゲルの殴打を防ぐ術はない。
(傑の奴……! 一体どこでこんなのを見つけてきやがった!)
無下限呪術は無下限呪術を相殺する。
例えば無限を展開していても蒼による引き寄せの影響を受けるので、自分の近くで蒼を使うならば自分の展開する無限で相殺できる程度の反応しか作れない……などの制限がある。
五条悟の『最強』は多岐に及ぶが……その中でも、自己補完の範疇で常に身体に纏っている無限の防壁による不可侵こそが、五条悟を最強足らしめる最大の要素だろう。
だが、しかし。
ミゲルは精霊五条を通じて身体に無限を纏わせることで、五条の無限を貫通することすらも可能となった。
「サテ……」
ミゲルは五条悟を倒す必要はない。
ミゲルに課せられたノルマは、『夏油傑が乙骨憂太から里香を簒奪するまでの時間稼ぎ』である。
「ノルママデアト何分カカルカ分カラナイガ……別ニ、俺ガ五条悟ヲ倒シテシマッテモ構ワナインダロウ? 夏油!」
年内に終わらせられれば良いな。