(遅イナ、夏油……何ヲ手間取ッテイル?)
ミゲルと五条の戦いが始まってから、約1時間半。
『『
実に18度目の領域展開。
依然として戦況はミゲルの有利に進んでおり、このまま進めばミゲルの勝ちはほぼ動かないだろう。
本来であれば、精霊五条を手に入れた時点でミゲルの勝ちは揺るがない。無量空処は効かず、無下限の防壁を纏い、ただでさえ近接戦闘で上回っているのに相手の力は全開時の7割。
度重なる領域展開と反転術式の多用により、五条の呪力総量は既に3割程度にまで落ち込んでおり、対してミゲルはまだまだ余力を残している。
六眼による圧倒的な呪力効率と緻密な呪力操作で誤魔化してはいるが、五条は真綿で首を絞められるかの如くじわじわと追い詰められていた。
実のところ……ここで本気の領域勝負を仕掛ければ、ミゲルは勝利するだろう。領域を展開したまま殴り合い、五条が領域が展開できなくなるほどのダメージを与えることが十分に可能な上、単純な領域の押し合いを五条よりも長く持たせる事が出来るほどに、五条の力を削いでいる。
しかし、ミゲルの目的は五条の打倒ではなかった。
(夏油……速ク来イ。オ前ノ望ム世界、ソコヘ向カウ道ガ見エテイルゾ)
ミゲルの目的は、ただ一つ。
ほんの数年前まで、ミゲルは神と崇められていた。
ケニアのとある精霊信仰の強い集落で爆誕したミゲル。産まれながらに底すら見えぬ圧倒的な呪力量と強靭な肉体を併せ持ち、その上術式は住民にとって神に等しいと言っても過言ではない精霊躁術。
森の声を聴き大地に祈りを捧げる彼らにとって、アフリカ大陸そのものの精霊すら支配下に置くことの出来るミゲルは余りにも絶対的で理想的な存在だった。
余りにも強すぎる力を持つが故に、最早争いすら起きる事はない。
術師であるだけで神官や祈祷師として絶対的な地位を得ることができると言うのに、無敵に近い力と精霊を使役すると言う神秘性には、叛旗を翻すという発想すら生まれる事はなく、ミゲルの下に全てが平伏した。
長く続いていた集落同士の争いも無くなり、ミゲルを中心とした一つの大きな村が出来た。
嘗ての友に供物を供えられ、愛する父母に祈りを捧げられる。
しかし、ミゲルは全てを理解して、それを受け入れていた。ただ故郷の価値観と自分と言う存在を天秤にかけ、神として生きる事を齢6歳にして決めていた。
自身の命と他者の命を同価値として見た上で、村の発展と平穏な循環を円滑に進める為に神であろうとする……幼いながらにミゲルは、超越者の視点で世界を見ていた。だからこそ求められるがままに神として振る舞い神として生きてきたのだ。
そんな中、悪魔を従える魔王が現れた。
初めて会った自分と近い存在は、酷く歪んでいた。
ミゲルはそんな夏油に興味を持ち、友になった。
彼らは語り合った。数の力で虐げられる恐怖の無い理想的な世界と、自らの家族について。
夏油の目的がミゲルの力である事は理解していたが、物心ついた時からそれが当然であったが故に、自身の力を求める理由について興味を持った。
『術師だけの世界を作るんだ』
そう語る夏油は余り嬉しそうではなかった。大切な家族を穢らわしい獣から守る為に、理想を望んで捻じ曲げているように思えた。
家族の為に世界を敵に回す覚悟を持ちながら、夏油は何処か自分を捨てていた。
『君の力を貸して欲しい。私のただ1人の親友を打倒する為に』
世界の為に己を捨てたミゲルにとって、苦しみ、悩み、背負い、切り捨て、それでも尚理想を信じて進み続ける夏油は、どこか眩しかった。
その道の先はきっと間違っている。そう理解しながらもミゲルは過ちを正すのではなく、共に理想を見届ける道を選んだ。
(夏油。オ前ノ選ンダ道ノ先ニハ底知レナイ地獄ト、息苦シイ程ノ愛ガ詰マッテイル)
夏油が嫌いなものは非術師ではなく、自らの利益と安心の為に他者を蔑ろにする世界。理不尽な現実ではなく、片方のみを是とする歪な思想。
それを覆すには、迷ってはいけない。
何者も虐げられない世界を作りたいなら、強者が弱者に脅かされる歪な世界を覆したいなら。
自身が圧倒的な強者となり、世界を滅ぼすしか無い。
(ソノ地獄ト愛ヲ背負ウ事ガ、オ前ノ罪ダ、夏油)
そして、罪を全て被って生きる夏油の
(俺ガ五条悟ヲ殺シテハ意味ガナイ。夏油、オ前ガ背負ワナケレバナラナイ罪ナンダ)
五条悟を殺すのは、夏油傑でなくてはならない。
たった一人の親友……その輝かしい過去を自らの手で葬り去ることで、夏油は初めて、過去を精算して歩き出す事ができる。
夏油が里香を手にし、五条悟を殺せば世界に敵は居なくなる。その圧倒的な力で非術師を蹂躙し、人々の恐怖と怨嗟に彩られた最強の呪霊が出現し……それすら呪霊躁術で取り込んで、夏油はミゲルをも超えて最強となるだろう。
ミゲルの目的は、ただ一つ。
(俺ハ、夏油ヲ王ニスル)
鬱屈とした闇の先に燦々と輝く、愛と幸せに満ちた地獄の王に。
そして、一級術師たちと大自然の精霊たちとの戦いは、意外な事に術師の有利に進んでいる。
「今だ!冥冥!」
日下部が叫ぶと、綻んだ防御を狙い撃ち烏が突撃してくる。
『
『グォ……』
「ヒット……が、健在か。五条君に神風を防がれた事はあるが、まさか耐えられるとはね。しかしダメージは大きいと見た」
『……!』
海の精霊は中空に水を放出する。烏にぶつけ、自身に突撃される前に命を消費させ切ることで神風を防ごうという意図だ。
「ふむ、有効な手だね。操られてて自我は無さそうだけど、満更考えなしってわけでも無さそうだ」
しかし、烏は構うことなく突撃してくる。海の精霊は水を放出し防壁を形成して防ぎ切るが……その背後からもう一体。先に命を散らした烏によって開けられた穴に寸分違わず飛び込み、命を懸けた縛りで呪力制限を取り払った烏が、海の精霊の頭部目掛けて突撃する。
海の精霊は咄嗟に腕を翳して致命傷を防ごうとするが……
「『シン陰流』」
一級術師の中でも肉体強度はトップクラス。
その鍛え抜かれた脚力で跳躍した日下部篤也が死角から接近。
「『上段打ち』ィ!」
『……!』
峰から呪力を放出し、速度を上げた上段打ち。
ガードを斬り落とされ、ガラ空きになった頭部にそのまま神風が直撃し、海の精霊は消滅した。
「フー……流石に強えが、コイツらもしや……ん?」
日下部の携帯が鳴る。冥冥だ。
「もしもし?コイツは特級呪霊扱いで良いのかな?」
「この守銭奴が……
それにまだ木の奴が残ってる。お前の神風が最大火力なんだ、まだまだ働いてもらうぞ」
「向こうはだいぶ硬そうだね……いや」
冥冥の視線の先には、森の精霊を取り囲む一級術師数名。適切な距離を取り、全方位から襲いかかる樹木に捕まらないよう上手く立ち回っている。
「コイツの出す呪種に呪力で触れるな!呪力を吸われる上に、呪力を吸った成長した木に拘束される!」
炎を放出する術式を持つ一級術師が、呪種を焼き払いながら注意を促す。
「攻撃速度はそこまでじゃない!拘束に気をつけろ!」
空気を硬め透明な壁を作り出す術師が、突撃する術師を地面から伸びる枝から保護して森の精霊に続く透明な道を作り出し、
「表皮は尋常じゃない硬さだ!並の攻撃は通らない!
火力に自信のある奴か、一級以上の呪具を持ってるやつが前衛に向かえ!弱点は眼に生えた木だが欲張るな!」
炎を纏う妖刀の一級呪具を持つ筋骨隆々の術師が、森の精霊の顔面に強烈な一撃を加える。森の精霊の体制を崩す事に成功した。
徒党を組んだ高専所属の一級術師の本領……個々の強さもさる事ながら、その鍛え抜かれたチームワークで、難攻不落の森の精霊を袋叩きにしていた。
「出る幕は無さそうだね」
「ああ、アイツらの勝ちだ」
更に一発、弱点に強力な一撃を叩き込まれる。そこから罅が全身に広がり、がらがらと崩れて消滅した。
本来、精霊たちが3体同時に連携してかかると一級術師が何人集まろうと勝ちの目は薄い。しかし、分断してしまえば話は別。
呪種や質量攻撃で数こそ減らされたが、歴戦の一級術師が徒党を組めば、手数で圧倒し押し切る事ができる。
「日下部!」
「ッ!?」
突如として背後に小さな火山が出現し、火口から熱線を放つ。冥冥の注意により、日下部は間一髪の所で飛び退いた。
「っぶねぇ!おいそっち行ったぞ!」
大地の精霊が疾走する。
先ほどまでの二体の精霊は、硬さや耐久力こそ途轍もないものがあったが、本体がそこまで動き回らなかったため、ダメージを与える事ができた。
しかし、大地の精霊は違う。凄まじい速度で走り回り、ヒットアンドアウェイで術師に攻撃を仕掛けてくる。
「クソっ……誰か止めろ!」
「任せろ」
空気を固め壁を作る術式を持つ術師が、大地の精霊の移動先を予測して箱のような壁を作り、一瞬拘束する。
「今だ!」
その瞬間を狙い、日下部が全力で刀を振るうが……
「クソが!ここでお前が来るのかよ!?」
『ケケッ!』
精霊五条の無下限によって、それを阻まれる。
今まで術師の周辺を飛び回るばかりで邪魔でしか無かった存在が、遂に明確な脅威として立ちはだかった。
「日下部さん!」
「秤ィ!何やってんだお前ボーナスはどうしたァ!」
「スイマセン!」
坐殺博徒の大当たりは5回転し、大当たりが終了してしまっている。演出中に大地の精霊に熱線を浴びせられ、擬似連を多用させられた事が原因。もう一度坐殺博徒を使っても、演出中に殺されてしまう可能性の方が大きかった。
しかし、精霊はあと2体。
(コレしかねぇ!)
秤は、最後の博打に打って出る。
「集合!!!」
「「「!?」」」
秤が大声で号令をかける。
本来であれば、この場は分散して、できる限り五条の巻き添えによる犠牲を減らすのが最善。一手に集まるというのは寧ろ敵の思う壺であり、愚策中の愚策。
しかし、この場の術師たちは秤の声に従った。高専生ながら大地の精霊を抑え続けた力、その勝負強さへの信頼。
「五条先生!」
「……ナンダ?」
「金次……なるほどね」
集合の掛け声と秤の声を聞いた五条は、作戦を理解。
「さて……カッコいいとこ見せないとね」
(何ヲスル気カ知ランガ……逃ガサナイサ)
『『
再度、領域がぶつかる。
しかし今までの領域勝負とは異なり、ミゲルは縛りを取り払った全力の領域を展開。秤が何かをしようとしている事は明白であり、夏油に五条を打倒させると言う目的よりも警戒の方が上回ったからだ。
「コレハ……!」
「そうだ。パクらせて貰ったよ」
五条はミゲルが結んでいた縛りを自身の領域に再現。一瞬且つ術式効果の付与されていない無量空処を展開した。しかし対価は消費呪力の軽減ではなく、押し合いの強度である。
コレを今までやらなかったのは、押し合いに勝ったところで意味がないからだ。寧ろ領域解除のタイミングが取りづらい分、下手に領域勝負に圧勝した方が不利ですらある。
「ははっ……」
「……!何ッ!?」
領域勝負は結界術の練度によってその勝敗が決まる。呪力量が減ってはいるが、領域展開の押し合いにそれほど不利とはならない。
無量空処が谺喚山嶺に押し勝つ。
当然無量空処はすぐに解除されるが、明らかに谺喚山嶺の崩壊の方が
(コノママダト次ノ領域ハ俺ガ先ニ発動デキル……!五条ヲ逃ガサナケレバ俺ノ勝チダ)
「最終ラウンドと行こうか!」
「コッチノ台詞ダ!」
五条はミゲルに殴りかかるが、当然ながらダメージを与えることはできない。
五条が耐え、ミゲルが攻める。幾度となく繰り返されてきた光景。
しかし、その戦いの終わりは意外な形で訪れる。
「最大出力……!」
「!?」
ミゲルの術式は未だ回復していない。
「術式反転……『赫』!」
「What’s!?」
領域を崩壊させるのが遅れたはずの五条の術式が先に回復した。
無下限の防壁を貫通し、赫はミゲルを軽々と弾き飛ばした。
「ナゼ……焼キ切レタ術式ガ!?」
「さあな!自分で考えろ!」
五条は秤たちの元へ駆ける。
その右手には赫を、左手には蒼を構えて。
「流石は『最強』。意味わかんねーことやってくれるな!」
秤は五条が何をしたかを全く把握していない。しかし、術式の修復速度を速め、自身の元へ向かって来ることだけを把握した。それで十分。
術師は一手に固まった。
大地の精霊はその周囲を徘徊し、精霊五条は日下部の髪を掴んで遊んでいる。
「んじゃお前ら!」
秤は掌印を構え、精霊二体を嗤う。
「あばよ」
『領域展開』
秤は辺りの術師を全員領域に引き摺り込み———精霊たちを領域から除外。
精霊たちは坐殺博徒の領域の縁に押し出され、弾き飛ばされた。
「ははっ!完璧!」
その刹那、五条は赫と蒼を炸裂させずに飛ばす。
中空に投げ出された二体の精霊に、コレを躱す術も防ぐ術も無い。
「虚式———『茈』」
瞬間、生み出された仮想の質量が大爆発を起こし、大地の精霊と精霊五条は仮想の質量の暴威に晒されて、一瞬で消し飛ばされた。
ついに———五条悟が十全な性能を取り戻す。
同時に秤の領域は崩壊するが、秤は茈炸裂の直前、領域の端に術師たちを集めていた。
当然茈に巻き込まれていない訳ではないが、全員が健在。
「領域内の座標をズラすなんて高度なことを……!」
「はは、教師がいいんじゃね?」
秤は満足そうに親指を立て、五条に向ける。
「後は頼んだぜ、五条先生」
「さっすが僕の生徒だ。
あとで焼肉奢ってやるよ、金次」
「アトデ、ダト?」
近付いてきたミゲルに対して、五条は再度赫と蒼を生み出し、構える。
しかしミゲルは怯む事なく更に加速。
「オ前ハココデ終ワリダ!」
(茈ハ溜メガ大キイハズ……!ソレニ、サッキノ爆発!
遠隔発動デハ指向性ヲ持タセズ爆発スルダケ!故ニ自分ノ側デハ発動デキナイ!)
ミゲルの読みは正しかった。実際に茈は自身を巻き込むリスクがあり、おいそれと発動できるものではない。
しかし、五条はその一歩先を行く。
ミゲルは
領域展延を一瞬見ただけとはいえ、六眼を持つ五条はその性質を完全に把握し、ミゲルの行動を完全に読んでいた。
ミゲルは最初の領域以降、徹底的にリスクが低い攻め方をしている。現時点で茈を喰らうよりも、展延を纏い近接戦闘に持ち込む方が遥かにリスクが低い。
故にミゲルが近づいてくることを理解していた五条は、約1時間半ぶりに全身全霊で拳を振るう。
ミゲルがスピードを上げたことが逆に災いし、先程より出力が上がって早く振り抜いていた五条の拳と、完全な噛み合いを見せる。
「ドンピシャ……!」
インパクトの瞬間、呪力が黒く光った。
「NOOOOOOOOOOOO!」
黒閃……『この世の打撃の頂点』の称号が五条悟の物となる。
しかし、ミゲルのフィジカルもまたこの世の頂点。こと耐久力に於いては伝説の呪いの王すら歯牙にも掛けぬ史上最強の防御性能。
腹筋を貫かれ、中空へと殴り飛ばされて行くが……そこまで。ダメージは大きいが依然健在。
五条悟の黒閃ですら、ミゲルを倒すには至らなかった。
しかし、それでも五条は黒閃をキメた。
『最強』のボルテージが、上がる。
「クソ……コノママ茈ヲ撃ツツモリカ……!
……イヤ!違ウ!」
しかし、ミゲルも未だ冷静に思考を巡らせる余裕があった。
背後に多数の呪力を感知するミゲル。
(コノ方向ハ背後ニ高専ノ救護拠点ガアル!ソウデナクトモ溜メガ必要デ避ケラレルリスクガ高イ茈ハ発動デキナイ!)
ミゲルの勝ち筋は、依然夏油が来るのを待つ事。しかし2時間近い時間を稼いでいるのにも関わらず、夏油は未だ姿を現さない。夏油の身に何らかのトラブルが起こった事は想像に難くない。
(トナルト五条ハ領域ヲ展開スルダロウ。シカシ残念ダッタナ。
それに加え、状況が変わった。五条は消耗が激しく、未だ有利なのも変わらないが……五条には自分を打倒するだけの必殺の手段が複数ある。
既に理想論を述べる段階にはない。
何としてでも、ここで五条を戦闘不能にする必要がある。
勝ちの目はまだある。それは領域勝負。
(ソレニ加エテ……五条ハサッキノ領域ノ押シ合イヲ見テ、自分ニ分ガアルト勘違イヲシテイル……ダガサッキトハ訳ガ違ウゾ)
(俺ノ領域ハ精霊化サレテイナイ相手ニノミ、3割マデシカ存在ヲ奪ワナイ縛リデ押シ合イノ強度ヲ上ゲテイル!黒閃ヲ加味シテモ今ノ
仮に領域勝負が互角だったとしても、ミゲルは展延を使う事で五条に触れる事が出来る。近接戦闘はミゲルに分がある。
しかしここでミゲルが受け切れないレベルの茈を撃たれ、避けるのに失敗すれば確実に大ダメージを受けるだろう。
もしガードできても両腕を持っていかれる事は必須……掌印が結べなくなり領域を発動できなくなる可能性が高い。
(五条ノ最善ハ背後ノ仲間ヲ犠牲ニシテ全力デ茈ヲ放チ、ソノ後ニ領域デ確実ニ潰ス事!シカシソレハ出来ナイダロウ!?)
ミゲルは、五条が領域を展開することを確信していた。
しかし、万が一……五条が救護拠点を犠牲に茈を放てば、ミゲルは敗色濃厚。
(サア、茈カ!領域カ!?)
五条が、掌印を構える。
その形は———
(勝ッタ……!)
———領域展開。
この時点でミゲルは完全に勝利を確信した。領域展開を基点とする戦闘に於いて、五条がミゲルを打倒する術は無い。
「俺ノ勝チダ!五条悟!」
『『
突如、謎の衝撃により横から弾き飛ばされ、ミゲルの掌印が崩され……領域展開が不発に終わる。
(ナンダッテ……!?一体何ガ……)
ミゲルは驚愕の最中、目を凝らして吹き飛ばされた地点を見る。そこには道のように伸びた薄い呪力が見えた。
(ナンダ……遥カ遠クマデ伸ビル呪力……イヤ、マサカコレハ……残穢……!?)
その瞬間、ミゲルの脳に無限の情報が送り込まれる。
今際の際にミゲルが確認した残穢……それは、ミゲルとの戦闘が始まる前に作られた、勝利へと繋がる道。
五条は谺喚山嶺を食らった直後、ミゲルに吹き飛ばされた際……転送を行った位置に新たに転送用の呪術刻印を上書きしていた。
転送のメカニズムはレールガンに近しい。
本来は座標の圧縮による高速移動……しかし長距離の転送は、刻印とあらかじめ定められた地点に、蒼によるチューブのような道を繋ぐことで、通常では不可能な曲線軌道の高速移動を行い、擬似的な超長距離瞬間移動を可能としている。
その瞬間移動を、予め準備していた刻印に、黒閃を放つ直前に展開していた蒼をぶつけることで遠隔発動させ、赫を中央で停止。
刻印に込められた収束反応の道を利用し、パンダと狗巻を転送した際の残穢を目印とする事で、赫の弾丸でミゲルを狙撃したのである。
当然ながら本来なら不可能な技術である。
通常の瞬間移動ならば対象は経路を通って進むだけだが、対象が赫となると少し道がずれた時点で道である蒼と干渉し暴発してしまう。故に、経路に干渉しないように超高速で弾き出される赫をコントロールしなければならない。
六眼を持つ五条を以てしても至難の業。
黒閃後の覚醒状態が可能とした神業を超える神業。
(馬鹿ナ……アノ黒閃デ……残穢ヲ狙ッテ俺ヲ殴リ飛バシタトデモ言ウノカ……!?
アリ得ナイ……!)
この思考を最後に、ミゲルの意識が完全に落ちる。
百鬼夜行、新宿の地で行われた一年早い頂上決戦。
勝者———五条悟。
「サ……サッキノハヤバカッOh!?」
「何で意識あんだよ!死んどけよ人として!!」
黒閃の蹴りをアゴにぶち込み、何故か耐えていたミゲルの意識が今度こそ落ちた。
改めて、勝者———五条悟。
思ったより見てもらえてるので、後日談もそのうち上げます。