ジャアナ最強 俺ノイナイ国ニ産マレタダケノ凡夫   作:圏外

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硝子の心、因果の輪

 

「は?」

 

「あれ?聞こえなかった?」

 

 百鬼夜行が集結し、影の功労者である家入硝子が京都の重症者の治療を終えて一息つけるかと思った頃。

 

 五条が高専の保健室を訪れてとんでもない事を口にした。

 

「ちょっと術式使えないと苦しかったからさ、自分で脳の術式が刻まれてる右脳の辺りを一度破壊して———」

 

「聞こえてるよ。だから『は?』って言ったんだ」

 

 家入は本気で困惑していた。

 あろう事か眼前の馬鹿は、自ら脳を破壊したのちに反転術式で治癒したのだと言う。

 

「脳を、自分で破壊してから治癒した?お前脳がどれほどデリケートな臓器かわかって言ってんのか?」

 

「しょうがなかったんだって〜、アレやらなきゃ多分負けてたしさ」

 

 へらへらと笑う五条というのはいつもの事だ。むしろ今回は危ない事をした事を相談し治療を受けにきている分、いつもより遥かにマシ。

 

「そんで反転術式で治癒したといっても、脳へのダメージってちょっと怖いじゃん?」

 

 だが……今の家入硝子には、その態度がひどく癪に触った。

 

「だから一応診てもらおうと———」

 

「断る」

 

 目も見ずに言葉を遮る。

 呪術師というのは負の感情を抑えることに長けているが、とめどなく湧いてくる五条に向けた怒りを抑える事は容易ではなかった。

 

「……またまた。そんな冷たいこと……」

 

「どうしてもと言うなら縛りだ」

 

「え?」

 

「『2度と術式の治癒なんて危ない真似はしない、その代わりに脳の検査と治癒を行う』と言う縛りを今ここで結べ。そしたら診てやらん事もない」

 

 五条は目を丸くした。

 怒られるなんて全く思っていなかったし、なんなら心配される気で来たのに、見知った顔の同級生から今までに無いほど冷たく当たられたのだから。

 

「え……いやいや、これ結構革命的な———」

 

「……ッ!!」

 

 家入は五条の胸ぐらを掴み上げ、そのまま壁まで押してぶつける。

 

 無下限の防壁で壁にぶつかる事はなかったが、それでもなお、押し込む家入の力は収まらない。

 

「殺すぞ」

 

「……えっ」

 

「無下限なんか関係あるかよ。断ったら刺し違えてでも殺す。無下限で防御しても殺す。

 結べよ、縛りを。早く」

 

「硝子……?」

 

 家入の顔を覗き込む。

 

 その目には、涙が浮かんでいた。

 

「……『分かったよ。2度とやらない』」

 

「……チッ、ちょっと待ってろ」

 

 ようやく手を離し、パソコンで手際よく書類を作成する。

 五分と経たず出来上がった書類を、投げるようにして五条に渡した。

 

「ほらよ、紹介状だ。ここの大学病院に昔世話になった教授がいるから、隅から隅まで精密検査してもらってこい」

 

「それで異常が見つかったら精密治療だ。

 切開して脳に直接反転術式ぶち込んでやるから覚悟しろよ」

 

「あ、ああ。ありがとう」

 

 いつもと同じ、気怠げだが意思を宿した家入硝子の目に戻っていた。だが、五条の目を見てはくれなかった。

 

「さっさと行け。破壊と修復で何らかの異常が起きていた場合……例えば脳動脈瘤なんかになってたら寝てる間にくも膜下出血でお陀仏なんて事もあり得るんだ。電話は入れとくから今すぐに調査行ってこい」

 

「あ、うん。

……えーっと……」

 

 元々言おうとしていた一言を言うか一寸迷ったのち、誘わずに後でどやされたら嫌だと考えて、どうせ断られると思いつつも誘いを投げかけてみる。

 

「……あのさ、百鬼夜行の打ち上げやろうと思ってて、硝子も」

 

「行かない」

 

「叙々◯でパーっと……」

 

「行かない」

 

「……そう」

 

 

 

 

 

 

 五条はそのまま病院に向かうため、伊地知を呼び出し車を出させる。

 その待ち時間、先ほどの家入の激情について考えていた。

 

「……硝子は強いやつだと思ってたんだけどなー」

 

 思えば、夏油が術師だけの世界を作ると言い出した時ですら、家入は冷静さを欠いたりはしなかった。

 

 原因は、夏油の死なのであろう。

 

 ———乙骨の戦闘で、夏油は()()()()()()()逃走した。

 

 呪いと言うのは、髪の毛一本ですら気を遣わなければいけないような世界なのだ。

 呪いの専門家集団である呪術師の本拠地にそんな絶好の霊媒を落とせばどうなるか。

 

 丑の刻参りが最も有名である、日本に古来から伝わる古典的で典型的な呪い。

 

 呪術総監部からの通達になるが、鄒霊呪法の釘崎家を始めとした呪詛掛を生業とする名家の精鋭を揃え、多種多様な呪いを遠隔で夏油にかけ続けたと言う。その呪詛による繋がりを辿り、夏油の死体を回収して処理したと伝えられた。

 

 五条と家入は死目には会えなかった。遺体を見ることすら叶わなかった。

 五条が夏油と共謀した嫌疑をかけられていたこともある。

 

 五条はそれでもいいと考えていたし、自分で夏油を殺していたとしても、家入に遺体の処理はさせなかったであろう。

 しかし、それは五条の自己満足に過ぎない。

 

 ……家入硝子は、かつての学友の死をどう受け止めていたのだろうか。

 

「今度、ちょっといいお土産でも買ってってやるか」

 

 甘いものは苦手だったはずだから、地酒にしようか。

 

 そんな事を考えていると、伊地知が着いたので紹介された病院へと向かう。

 

 ———結果的に何の後遺症も無かったが、五条は今後術式の治癒は出来なくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある森の中。

 

 夏油傑は……身体の端から腐れ落ち、目は溶け、耳は聞こえず、呪力操作もおぼつかない中———

 

「……」

 

「やぁ、夏油傑。原型を保っていてくれて嬉しいよ」

 

 ———額に縫い目の付いた老人と相対していた。

 

「それにしても健気だね。術師が死ぬ時は1人と言うのは鉄板だが……君、わざと仲間の拠点とは逆方向に進んでたろ」

 

「…………ァ……!」

 

「はは、大丈夫さ。興味なんて無いからね。

 そうだ!君の姿で現れたら手駒にできるかもしれない。なんなら使い潰してあげようか?」

 

 老人は夏油の首を踏みつけ、顔を覗き込んで———自分の額の縫い目を解き、その脳を見せつけた。既に顔面の筋肉が麻痺していて動かないはずの夏油の顔色が、変わったような気がした。

 

「こういう術式でね、脳を挿げ変えれば肉体を転々とできるんだ。勿論その肉体の術式も使えるよ。記憶も流れ込んでくるから、仲間の拠点も筒抜けさ」

 

 非常に嬉しそうに、彼は嗤う。

 

「最後に自己紹介でもしておこうかな……私は羂索。

 君の呪霊躁術と、五条悟の躊躇と驚愕が欲しくてね……彼を封じる術も考えてある」

 

「……」

 

 もう呼吸すらままならない夏油の額を軽々と割り……遂に夏油の命が尽きた。

 

「さよなら、夏油傑。

 産まれてきてくれてありがとう」

 

 総監部に連絡し、夏油の死亡を通達したのちに呪詛を全て祓いのける。脳を挿げ替え、反転術式により肉体を治癒。

 

 これにより、羂索は夏油傑の肉体……その生得術式である呪霊躁術を手に入れた。

 六眼、星晶体、天元。羂索を拒み続けた、罅の入った因果の渦。

 呪いは廻り、世界を崩す算段は整った。

 

「さて……結局は、これも因果の大きな流れと言ったところかな」

 

 ———因果の枠、それを外れた存在が、2人。

 

 1人は、禪院甚爾。呪力から脱却し、因果の外へと飛び出た存在。

 

 そして、もう1人が———

 

「いやはや、本当に想定外だった。まさか天元の結界(いんがのわ)の外からあんなのが出てくるとはね!

 禪院甚爾……天元の思惑から外れた存在は私にとって有利に働いたが、次は逆になりそうだ。世界の修正力、揺り戻しというやつなのかな?」

 

 ———天元を中心に渦巻く因果、結界(にほん)の外から現れた異能。

 

「異国からの来訪者ミゲル、彼の身柄は五条悟の手にある……五条悟の性格からして、彼を処理するよりは仲間として引き入れようとするだろう。夏油傑の遺産ということもある」

 

 しかし、羂索が止まる事はない。

 呪霊躁術、無為転変、そして宿儺の器。

 全てのピースが揃った今、不安要素の一つや二つで計画が止まるような事は許されない。

 

「さて、どう対処しようかな」




海外から来た存在は天元を中心とする因果の枠に当てはまるのでしょうか。
私は因果に認識されない甚爾と同様に、異物であると思うのです。

夏油の命日はやっぱり12/24!という事でね。
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