ジャアナ最強 俺ノイナイ国ニ産マレタダケノ凡夫   作:圏外

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乙骨(?)の修行パートです。


乙骨憂太育成計画(後編)

「はぁ……はぁ……ッ!」

 

 息も絶え絶えで、身体中が泥まみれ。

 

 師匠になると決まったミゲルが『マズハ今ノ実力ヲミセテホシイ』と言うので組み手をしているのだが……

 

「踏ミ込ミガ重スギルヨ」

 

「えっ……うわぁっ!?」

 

 足をかけられ、地面に転がされる。先ほどから何度も何度も殴りかかるが、有効打どころか触れる事さえできていない。

 

(嘘でしょ……!?全然当たんない!?

 あの夏油にだって、攻撃は当たったのに……!)

 

「ウーン、思イ切リガイイノハ褒メテアゲタイトコロダガ、全体的ニ避ケヤスイ大振リ(TelephonePunch)バカリ。チャント訓練シテタ?」

 

 落胆したような表情を見せるミゲルに、乙骨は歯噛みする。

 

「呪力モダダ漏レ、体捌キハ素人同然……ソレニシテモ呪力ノ漏出ガ多スギルナ。ナゼ五条ハ呪力操作ヲ教エテイナカッタ?基礎中ノ基礎ダロウ」

 

「ごめんごめん。それより里香を抑える術の方が大事だったから後回しにしてたんだ。

 里香から供給される呪力があるから呪力切れも無いし、先に力の使い方を学んでほしくてね」

 

「成程……ソウ言エバ、乙骨ハ術師ニナッテカラ日ガ浅カッタナ。厳シイコト言ッテ悪カッタネ」

 

「……いえ、本当の事ですから」

 

 しかし、今の自分の地点なんて分かっている。里香を失い四級術師と認定され、みんなに追いつこうと必死に頑張ってきた。

 

 みんなと一緒にいたい。みんなを守りたい。その心さえあれば、乙骨憂太は戦える。

 

 ミゲルと五条は笑みを浮かべる。強くなろうと言う気概がなければ、どれほど巨大な才能の原石だろうと意味がないからだ。

 

「マズハ乙骨。自分ノ弱点ガナンダカワカルカ?」

 

「えっと……非力なところ、とかですか?あとは、技術が拙くて動きが読みやすいとか……」

 

「イヤ、呪力以外ノ全テダ」

 

「うっ……」

 

 強くなると決意した乙骨も、その厳しい物言いには流石に項垂れてしまう。

 

「コラコラ、最初からへこませてどうすんのさ。褒めて伸ばすんだよミゲル」

 

「ウルサイナ……マアイイサ。乙骨、俺ノ呪力ガ見エルカ?」

 

 ミゲルが身体に纏う、膜のような呪力。目を凝らさないと見えない程に薄く、穏やかだ。

 

「えっと……はい」

 

「ヨシ……ホラ、分カルダロウ?」

 

 その瞬間、ミゲルの呪力が爆発し、周囲の木々が悲鳴を上げる。

 

「い゛いっ!?」

 

「コレガ呪力ヲ制御(Control)スルト言ウコトダ。必要ナ時ニ必要ナ呪力ヲ使ウ。ドンナニ莫大ナ呪力ヲ持ッテテモ、ソレジャア宝ノ持チ腐レッテヤツダヨ」

 

 乙骨は正直、ミゲルの呪力量をかなり低く見積もっていた。

 

 里香が成仏してから、流石に自分の強みくらいは理解していた。五条も呪力量は自分より多いと太鼓判を押していたし、これだけは誰にも負けないと、自信すら持っていた。

 

(嘘でしょ!?明らかに僕より……!それどころじゃない、僕の倍近い呪力量……!)

 

 ミゲルの呪力量は乙骨と五条を束ねたよりも上を行く。これに匹敵する呪力量を持つのは、伝説の呪いの王ただ1人。

 

 ミゲルは満足気に呪力を抑える。

 

「コレカラ乙骨ニハ自分ノ呪力ヲ制御(Control)シ、好キナ時ニ引キ出ス為ノ訓練ヲシテモラウ。才能ハ本物ダ、スグニ慣レルサ」

 

「本来は映画とか見ながら感情をコントロールするような修行するんだけど……憂太なら普通に訓練した方が強くなれそうだ」

 

(えぇ……ちょっとやってみたいけど……)

 

 なにやら楽しそうな修行法が聞こえたが、乙骨は出来ないらしい。

 

「ソノ後ハ実践訓練ダ。俺ノ術式ガ役ニ立ツ」

 

 ミゲルは手印を組み、術式を発動する。

 

 すると木々から力が抜け出し、集まって人形を成していく。

 木目のある肌とエメラルドグリーンの瞳をした木人が現れた。

 

「これが精霊躁術……」

 

「ココラノ木々ノ精霊ヲ喚ビ出シタンダ。2級呪霊程度ノ(Power)ガアル」

 

「マズハコレヲ自力デ祓ッテモラウ、リカヲ使ッテハイケナイヨ。最初ハ自動デ動カシテ、慣レテキタラ俺ガ操ル。段々ト高位ノ精霊ニ格ヲ上ゲテイクカラ覚悟シテネ」

 

「ソコデ瞬発力ヤ対応力ヲ鍛エテモライ……最後ハ俺トヒタスラ組ミ手ダナ。ココマデ来タラ、リカヲ使ッテ良イヨ」

 

「ミゲルさんと……」

 

 ミゲルを仰ぎ見る。身長は2メートルを超えており、五条より更に大きい。サングラスを付けていることも相まって、かなり厳ついと言うか……なにやらギャングのようだ。

 

(……本当はギャングどころかテロリストなんだけど……)

 

「何カ失礼ナコト考エテナイ?」

 

「全然そんなことはないです!」

 

 ミゲルはこう見えて意外と鋭い。

 

「後ハ体作リノ為ニイッパイ食ベテ貰ウヨ。ゴ馳走シヨウ、最強ノ調味料Roycoヲタクサン持ッテキテル。コレガアレバナンデモケニア味ニナルンダ」

 

「へ、へぇ……」

 

 ケニア味。聞いたことのない響きだ。

 

「アハハ、まぁ方針が決まったのは良いんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、次は僕とミゲルが戦う番だね。手加減は無しで頼むよ」

 

「え?」

 

「ハ?」

 

 突如、五条が物騒な事を言い出した。2人の困惑をよそに、五条は勝手に話を続ける。

 

「ルールを決めよう。範囲はここから半径100メートルくらいの円形って感じで。

 あ、領域は無しね。僕の領域は危険すぎるし、何より憂太から戦いが見えない」

 

「何ヲ言ッテルンダオ前ハ」

 

 乙骨のみならず、ミゲルも怪訝な顔をする。突発的にこう言うことを言い出すのは流石に慣れてきたが、今回ばかりは前提からして無理があるのだ。

 

「俺ハ縛リデ高専関係者ニ危害ヲ加エラレナイシ、修行ダトシテモ全力ハ出セナ……

 ……マサカ……」

 

「あれ?あれあれあれぇ〜?ミゲル先生ともあろうお方が気付いてなかったんですかぁ〜!?」

 

 バカにするように煽り散らかす五条を見て、ようやくミゲルはその意図に気がついて、天を仰ぎ見た。

 

「……ハァ、ナルホドナ」

 

「そう!あの縛りには、僕本人は含まれていないんだよ」

 

 悪戯が成功した五条は満足げだ。対するミゲルも、満更ではない。

 2人が共に、獰猛な笑みを浮かべる。

 

「ナラバ、手加減ハイラナイネ」

 

「最初からそう言ってんだよタコ」

 

 百鬼夜行での戦闘は五条に軍配が上がったが、外部要素がかなり大きかった。それは2人とも理解している。

 

 もし、ミゲルが夏油にトドメを刺させようとせず、押し切れると確信した段階で決めにかかっていたら。

 もし、京都から秤が来ておらず、術師たちが精霊たちを対処できなかったら。

 

 勝っていたのはミゲルだっただろう。

 

「憂太!」

 

 五条は乙骨に語りかける。

 

「君は強くなる。いずれ、僕らに並び立つほどの術師になるよ。他でもない僕が保証する。

 でも今の憂太はまだまだひよっこさ。とりあえず僕らの戦いを見て勉強しなさい。見取り稽古だ」

 

「乙骨、俺モオ前ガ気ニ入ッタ。ビシバシ鍛エテアゲルカラ、俺タチノ戦イヲ見テ、理想ノ動キヲイメージシテネ」

 

「……はいっ!」

 

 意図せず、最強の師匠たちに囲まれた乙骨は……いずれ彼らのいる場所まで到達するだろう。

 

 しかし、ここに一つだけ誤算が存在する。

 

 五条もミゲルも、いつまでも()()にいるとは限らない。

 

(強くなってよ、憂太。僕らに置いていかれないように……)

 

「……ねっ!」

 

「甘イゾ!五条!」

 

 ミゲルは五条の全力の殴打を、軽々と受け止める。なんなら牽制で放つ拳程度なら筋肉で受け止め、反撃に転じてくる。

 

 しかし、五条も負けてはいない。百鬼夜行では術式を封じられていた関係上扱えなかった、蒼を応用した合気道にも似た格闘術を扱い、ミゲルを翻弄する。

 

 さらに五条は新宿でミゲルと戦った際、黒閃による集中状態の中で赫を瞬間移動させる芸当により得たイメージから、戦闘中の曲線軌道の高速移動をモノにしていた。

 

 対するミゲルも負けてはいない。連続での領域展開により結界術の練度が研ぎ澄まされ、領域展延の変形速度と可変域が向上。展延を一点に集中させて、より強力に無限をこじ開ける術を会得し、五条を追い詰める。

 

 加えて、ミゲルは精霊五条を通じて無限を纏い、空中軌道を行う経験を得た事で連鎖的に空気を捉える感覚を会得。

 当然自由自在とはいかないが、空気の面を捉えて足場とする空中機動を習得した。これにより空中での曲線瞬間移動も、タイミングさえ掴めば回避が可能。

 

 まさに、呪術界の頂点……世界最高の模擬戦だ。

 

 ただ一つ問題は———

 

「凄いのは分かるけど……速すぎて何やってるか全然わからない。

見取り稽古って、見えてなくても成立するのかな……」

 

 ———2人とも熱くなり過ぎて、見取り稽古と言う建前を忘れているのであった。

 




明日は忘年会があるので、次回の投稿は明後日です。

追記:ちょっと本日の投稿は無理そうです……でき次第投稿します。
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