眠れぬ夜は怪異とともに 作:匿名希望
「どうすっかな…」
ワンルームに独り言を垂れ流してみたが、返事はあるはずもない。
現在時刻は04:05。薄っすら明るくなってきた空に焦りを感じる。
独り言の主は鬼頭タケル、25歳のフリーターだ。
明日の、というより今日の午前10時からバイトの面接を入れて、早めに寝るかと思ったものの、持病の不眠症が炸裂し今に至る。
「面接会場がちょい遠いから9時前出発だろ…、8時には起きときたいけど、この時間から4時間睡眠で起きる自信ねーのよな…」
ボソボソと独り言を繰り返しながらベットの中で寝返りを繰り返すが、こんな日に限って睡魔は全く襲ってこない。
「かと言って明日夜の飲みまで考えたら…多少でも寝とかんとまじで死ぬ、寝れる気はしないが寝ないとまずい、どうすっかな…」
寝不足の頭で30秒前と全く同じ思考に辿り着いたことに気づいてため息をつく。
「…まあ、諦めも肝心かね。とりあえずバイト面接だけ徹夜でなんとか乗り切って、飲みは明日の自分の肝臓に期待」
そこまで呟くと劉は布団から這い出し、プレステを起動。
「時間潰して面接だけはなんとかしよ」
相変わらずの独り言を呟きながら、起きる方へと腹を決めた。
退屈と眠気を持て余しつつ長い夜は明けていく、退屈な夜は今日限り、彼の不可思議な夜は、まだやってこない。
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「ここかあ…?」
翌朝9:50、タケルは面接場所に指定されたビルの看板前で首をかしげていた。
指定された住所をスマホのマップアプリに打ち込んで来たものの、現在位置が正確になっていないのか、指定のビルの近くまで来てから自身の位置を示すアイコンは隣のビルの中に入り込み停止していた。
指定されたのは龍山ビルの3階。どうにかそれらしき建物は見つけたが、看板はなく入り口の明かりも切れている。見た目は廃ビルと言っていいレベルだろう。
正直外観には抵抗がある、脳裏には「面接バックれて他探すか?」なんて考えもよぎるが、
「まあでも時間、時給こっちの希望も聞いてくれるって話だし、面接まではしたいよな…、行ってみっか」
不眠症がキツく、朝からや時間に厳しい職場で何度か失敗しているタケルには募集内容の曖昧さが逆に魅力的に見えていた。意を決して入り口をくぐりエレベーターに乗り込む。
「しかし探偵業の助手って何すんのかね。資料管理とかならいいけど、証拠は足で稼ぐ!とか言い出したらきっついなあ。」
募集内容を思い出していると、目的の階へ着いた。
エレベーターを降りた先には、『蘆屋探偵事務所』の看板が見え、目的地についたことに一応の安心をしながら、その扉をノックする。
「失礼します、面接をお願いしている鬼頭です!」
バイト面接を繰り返して身につけた挨拶で声をかける。
「ああ、助手の募集の子だね、入っておくれ」
落ち着いた女性の声が返ってくる。
探偵って女の人もいるのな…、などと考えながらタケルは扉をくぐり、そしてその場で凍りついた。物理的に。
「は、え?なんだこれ…?」
手足はまるで動かない、ただ凍りついているにしては痛みはない。
「やあやあ、現代社会に潜った鬼の子くん、よく来てくれた。悪いんだが話はそのまま聞いてほしい。」
女は少しの笑みを交えながら声をかけてくる。
「キミ、自分が真っ当な人間じゃないって自覚はあるかい?もっと言うなら千年前から恐れられるバケモノの仲間だという自覚。あるあはそういうことを誰かに教えられたことは?」
「いや、え、何言ってんだよ…?てかこの、凍ってんのはなんだ、あんたの言ってることも意味わかんねえよ!」
タケルは訳も分からず叫ぶ。
「なるほど、自覚なし、症状なし、被害も今のところなし…。うん、問題ないかな」
女は1人で納得した様子で言葉を続ける。
「いきなりすまないね、私は蘆屋ミツル。この事務所で怪異探偵をやっているものだ。強引な手で申し訳ないがキミには私の探偵業を手伝ってもらいたくてね、募集した通りの内容でここで働いてもらいたい、構わないね?」