悪食と偏食のプレリュード・ノン・ムジュレ(短編集)   作:古守

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2023年Xmasつきあってない楽玲【会えなかった】√/※切なめ、高3
( それはまだ手探りで掴み寄せるだけの )と合わせると印象が変わります。


積もっている好き:それはもう息ができないほどの

 シャンフロしませんかっ! と。勇気を振り絞り約束を取り付けた二十四日から丸一年。

 成長を遂げた玲は、一年前よりもスムーズに楽郎を誘うことに成功していた。しかも今回は、ゲームを口実にせずに、だ。

 

「じゅ、受験勉強の息抜き……き、気分転換に、どうでしょうかっ!」

 

 であるので口実はあるが、それでも、舞台となるのは紛うことなき現実世界である。

 玲が指定したのはJGEに比べると近場も近場なショッピングモールの一区画で、二週間程巨大クリスマスツリーが設置される場所だった。二十四、二十五日の二日間限定でそのツリーがライトアップされることになっているのだが、周囲の飲食店も営業時間を伸ばすため、毎年そこそこの賑わいをみせるのだ。

 

 買い物施設の近辺にはその他のイルミネーションスポットも幾つか存在する。所謂恋仲にある男女だとか、映えを目当てとする学生や配信者などはそちらに流れる傾向にあるため人気のほどは言うまでもないが、だからこそ玲には「そこそこの賑わい」と形容されるそこが都合が良かった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をクリスマスに誘い出すハードルの高さとして良い塩梅であった、とも言い換えられようか。

 

 勿論、玲にしてみれば大変な勇気が必要なことに変わりない。大切な時期の、貴重な数時間をもらうことになるのだから、きっぱり断られる覚悟も持って誘いの言葉を告げた。

 そして今年も、楽郎からの「いいよ」をもらったのだ。玲はこれでもかというほど舞い上がった。

 勉強にも一層身が入り、準備期間がたっぷりあったためイメージトレーニングも捗った。当日になって慌てることがないように、事前に何通りかシチュエーションを考えプランを練るくらいには気合も乗っていたし、胸が踊り中々寝付けない日だってあった。

 現役モデルと連絡を取り合える間柄に落ち着いたことで、無理に背伸びはせず、それでいてちょっと大人っぽく見えるような服とメイクも選ぶことができた。少しだけ含みのある『頑張ってね』で送り出されたことが気にはなったが、当日を迎えた玲には最早瑣末事で。

 心身ともに余すところなく準備は万全で完璧────の、はずだった。

 

 

 

 楽郎が来なかった場合のプランなんて、玲は、考えていない。

 

 まだ学生の身であり、更には受験生であるのでなるべく早めに集合して遅くなる前に帰ろう。ならば十八時の点灯開始に合わせるのはどうか、という話をした。現地集合のため、玲は三十分以上前には到着できるよう家を出て、予定通りライトアップ前のツリーを一足先に見てから、近くの雑貨屋に入った。

 楽郎のプレゼントは既に用意してあり、その雑貨屋を選んだ理由は大きな窓越しにツリー周りがよく見えるからだ。これなら楽郎がいつ来ても分かるとだろうとただそれだけの理由だったのだが、店内の一番目立つ場所に置いてあったツリー用のオーナメントと、POPの一文に、玲は目を奪われた。

 

『大切な人と一緒に飾ってみては?』

 

 玲が手に取ったのは、何の変哲もない球体のオーナメンであった。ただ、その色味がとても、それはもう非常によく似ていたのだ。飽きることなく惹きつけられる、楽郎の瞳に。

 この深い青は楽郎の瞳にあってこそだと思いつつも、アオリと合わさるとどうにも手放し難くなる。他にも沢山可愛らしい装飾品が置いてあるのに、いつの間にか隣にいた店員にそのお色は最後のひとつだと教えられ、更に、この雑貨屋で購入したものは巨大ツリーとは別に置かれている専用のツリーに飾って帰れるのだと囁かれてしまえばもう駄目だった。大して悩みもせず、玲は即決した。

 つまり、ツリーから完全に視線を逸らしたのは五分弱のできごとで。その間に楽郎がやってきて帰ってしまった、なんてことがない限りは、玲はずっと待ち合わせ場所を視界に入れていたことになる。

 

 ツリー点灯十分前からは店を出た。ライトアップの瞬間も、その後三十分、一時間、一時間半、玲は只管待った。しかし楽郎は現れず、新着のメッセージも届かない。

 待ち合わせを三十分過ぎた頃から、玲はすっかり冷静さを欠いていた。頭の中を埋め尽くすなぜ? が思考の邪魔をして、それらしい答えを導き出せないからだ。聴き馴染みのある定番ソングも周囲のほどよい賑わいも、スロー再生したようながさついたノイズとしか思えなくなり、今の玲にとっては煩わしさ以外のなにものでもなかった。それくらい、感じ取るもの全てがつまらなくなるのだ。

 

 楽郎となら。楽郎さえいてくれたら。

 そう思うのならばさっさと連絡を取ればいい。それに尽きるのだが、約一カ月も前から準備し心待ちにしていたイベントを、もし、楽郎が忘れていたとしたら?

 他の用事が入り行けなくなった。ゲームに夢中でつい。一言そう告げられてしまえば、きっと許してしまうだろう。しかしそれは、数値化されるものでなかったとしても玲と楽郎との想いの差に違いなく、輪郭は見えてしまうわけだ。

 玲はそれがとても、途轍もなく恐ろしくて。ただの独りよがりに過ぎないのだと思いたくなくて。端末を手に取ることはできても、入力した文字を送信することは最後まで叶わなかった。

 

 

 

(……帰ろう。もしかしたら、……すれ違う可能性もあるかもしれない)

 

 体調不良など楽郎の身に何か起きていたとして、連絡がないということは連絡が取れる状況にないとも言える。であれば変に混乱させる必要や、気不味くなる可能性を広げる必要はない。

 三十分早く行動した分を引いても二時間は待ったのだ。帰る理由としては十分だろう。

 もうほとんど諦めてはいたが、もしもを考え、玲は徒歩で帰路についた。

 自宅から学校までの倍の距離はあるが、ゆっくり歩いたとしても四十五分もあれば間違いなく家には着く。雪もちらつき始めたため、未練がましくても重い足を進めなければならない。

 話し相手がいない分過ぎゆく時間を長く感じながら、玲はひとり、家を目指した。

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