披瀝   作:缶ジュース

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「………うぅぅ……ん……?」

 寝ちゃってた。ここ、どこよ? 半開きの目で辺りを見渡した。シアターの見慣れた控え室だった。窓の外は暗く、部屋は明かりがついている。騒がしい普段とは打って変わって静かだった。

 どのくらい寝ちゃってたのかしら……。寝ぼけた頭が徐々に目覚めると、寝る前に何をしていたか蘇ってくる。シアターへは、学校帰りに直接来た。どうして来たかというと、未来と翼と一緒に、今度演じる劇の本読みをするため。けど、ふたりともいつまで経っても姿を現さなくて、それで私、いつの間にか寝ちゃったんだわ。寝そべった姿勢から体をちゃんと起こすと、かかってたタオルケットがソファの下へずり落ちた。これは覚えてない。

 控え室のソファは、事務所と同じように、テーブルを挟んでふたつが向かい合わせに置いてある。落ちたタオルケットを拾おうとして、向かいに誰かが座っていることに気づいた。ビクッと身を震わせてしまった。音も気配もなく本を読んでいたのは、志保だった。目覚めた私に気づいてないはずないと思うけど、見向きもしない。

「いい加減私、あなたのお守りなんてごめんなんだけど」

 出し抜けに志保が言った。視線は変わらず、手元の本に固定されてる。

 ………私に言ってるの?

「……なによ、いきなり。お守りって。頼んでない。帰ればよかったじゃない」

 育や環、桃子が相手ならともかく、私相手で志保が、目を覚ますまで傍に寄り添って健気に待つ? 意味がわからない。私どころか可奈相手にだって、そんなことしないでしょ。

 そう思ったのに、本から私へと移された眼差しは思わずたじろいでしまうほど冷たくて、売り言葉に買い言葉で返した私が間違えたのか、わからなくなる。

「……それもそうね」

 何も言えないでいると、志保はパタンと本を閉じた。ソファの脇に置いてあったバッグにそれを仕舞い、すくっと立ち上がった。

「電話、鳴ってたわよ」

 ドアを閉める寸前にそう置き土産を残して、志保は控え室から出ていった。

「……なんなのいったい」

 人のいなくなった部屋で、戸惑いがちにポケットを触る。スマホは入ってなかった。慌てて周囲に視線を走らせれば、テーブルの上にあった。着信は5件で、全て未来から。メッセージも届いていた。提出物をだしていなかったせいで学校の居残りさせられて、今日は行けない、ごめんなさいって内容。ため息がでる。翼からは連絡なし。サボりね。

 ドアの開く音がして、スマホから顔を上げた。志保と入れ替わりのように入ってきたのは、プロデューサーだった。

「起きたのか」

 第一ボタンを外したワイシャツ姿で、ズボンのポケットに手を突っ込んでいるプロデューサーは、じろじろと私を観察しながらさっきまで志保の座っていた場所にどさっと腰を下ろした。

「随分うなされてたみたいだけど、揺すっても起きないって」

「そうなんですか? 変な夢でも見てたのかしら……『起きないって』って?」

 人から聞いたような口ぶりが引っかかって問えば、「あぁ」とプロデューサーは呟いた。

「志保が言ってた。珍しく心配してるみたいだったよ」

 眠気が綺麗に吹き飛んだ。ぞんざいに置いたままだったパピヨンマーク柄のタオルケットを畳みソファの肘置きに掛け、バッグを引っ掴みスマホを押し込んだ。「すみません、お疲れさまです! 私も帰りますから!」

 プロデューサーの引き気味な「う、うん。お疲れ様」を置き去りにして、走って部屋から飛び出した。

「志保!」

 関係者用玄関への廊下を歩きスマホでスタスタと行く志保の背中に、声を張り上げた。イヤホンでもつけてるのか、声をかけても歩みは変わらず淀みない。どうにか追いつき、横顔をうかがった。イヤホンなんかどこにもつけてなかった。なによシカト? 眉間にシワが寄りかけた瞬間、「なに?」とやっぱりスマホを見たまま、一瞥もくれずに言った。だから私も、志保の方は見なかった。

「えーっと、その、ごめんなさい。それから……あ、ありがとう」

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