「いーよア~クアく~ん今日もばっちり決まってるね~」
パシャパシャとカメラのシャッター音が響き渡る。
このカメラマンだけど頭のネジがぶっ飛んでる程おかしい……
妙に間延びした声で常に被写体を誉めるというのが彼のやり方らしいのだが、センスだけが飛び抜けてる。
筋骨隆々で底抜けに明るく人の良いところを探すのが何よりも好きだと公言するカメラマン
彼がその気になればもはや一生分を稼ぐなど造作も無いのに未だにこうして現場に出ている。
「いやぁ~たまんないねぇ! アクアく~んこんなんじゃあ女の子がほっとかないんじゃ~な~いの!? にくぃねこの男前!!」
よいしょの仕方が昭和なんだよ
<30分後>
「いや~今日もイイ写真が取れたよ!」
「でも俺無表情でしたけど大丈夫なんですか?」
当然の疑問なんだけど、俺はモデルの仕事で唯の一度も笑った事は無いがこのカメラマンの答えは何時だってポジティブだ。
「アッハッハ、アクアくんは真面目だね~無表情も言い換えればクールって事さ! それに笑顔の写真が欲しければ笑顔が似合うカミキちゃんにお願いすればいいのさ。そして今回はクールなアクア君の写真が撮りたかったんだから、何も問題無いさ」
豪快に笑いながらも、機材の片づけをしてカメラマンさんは帰っていた。
「あのカメラマンさんはいつもあんな感じなのアクア?」
「ああ、初めて会った時からあんな感じなんだ……ああは言ってるが俺の笑顔の写真が取れたらそれはそれで凄いよいしょしてくるぞ」
「モデルなのに仏頂面とかモデルに向いてないんじゃない? やる気ないなら仕事辞めれば~」
ニヤニヤ笑いながら煽ってくるツクヨミにイラっとした。
「やったことが無いツクヨミには分からないだろうが、カメラマンが良いって言うのならそれで問題ないんだよ。働いた事が無いツクヨミには分からないだろうけどな!」
「はぁ!? 私だってその気になればモデル位よゆーでこなせるし、むしろアクアよりも適正高いし!」
「ツクヨミを撮るくらいならカミキさんに女装させた方が事務所としては儲かるがな……」
「くぅぅぅカミキさんを出すなんて卑怯だ!!!」
もはや恒例行事と化したツクヨミとのおしゃべりに周りは一切気にせず帰る準備し始める。
唯一オロオロしているのは妹のウズメぐらいだ。
「ハイハイそこまでにして撤収するわよ」
みゆさんが手を叩いて自身に注意を引き付ける。
「ふ、ふん今回はママに免じて一旦引き下がってあげるわ」
「お前はそういっていつも引き下がってるけどな……」
「あ?」「は?」
「……ねぇルビー、アクアとあのツクヨミって子はいつもあんな感じなの?」
「そうだよ。時たま私にも絡んでくるけど、普段はお兄ちゃんにばっかり絡んでるんだよね。それでいっつも言い負かさせてるけどね」
「へぇーアクアにもそんな熱い一面があるのね」
「ハイハイそこの2人も早く車に乗ってくださいね~」
再度みゆさんが声を出してきたので、急いで車に乗り込んだ。
ツクヨミ……お前みゆさんに感謝するんだな。
車に乗り込むとアイが後部座席でよだれを垂らしながら寝ていた。
途中から見なかったのは車の中で眠っていたからだったのか……
相変わらずの自由人であった。
モデル現場から車で移動する事40分
ようやくカミキさんの事務所に到着した。
カミキさんにはもう間もなくしたら事務所に着きますと連絡したら、ご飯の準備も丁度終わったのですぐに食べれますと返ってきた。
そして、さも当然の様に先陣を切るのは……やっぱりアイだった。
「ヒカル君ただいま~」
「「「「カミキさんお邪魔します」」」」
「カミキさん戻りました」
「あの、お邪魔します」
スーツの上にエプロンを着るのがもはやデフォルトになっているカミキさんがハンバーグを配膳し、テーブルの真ん中には山の様にそびえたつ千切りにされたキャベツとオニオンスープと大きいオムレツが用意されていた。
「あ、お帰りなさい。そちらの女性はどなたですか?」
「こちらは有馬かなで、昔、映画で共演したことがある天才子役です」
「……ああ、そういえば苺プロでマネージャをしていた時に一回だけチラッと見たことがありましたが、その時は挨拶してませんでしたね。……では初めましてカミキプロダクション代表取締役のカミキヒカルです。こちらが名刺になります」
カミキさんはそういうとジャケットの内ポケットから自身の名刺入れを取り出して、有馬に渡した。
「こ、こちらこそ初めまして有馬かなですよろしくお願いします。ところでそこで我関せずご飯を食べている方は?」
「ああ、こちらは劇団ララライの姫川大輝君です」
「モグモグ姫川大輝です。よろー」
姫川さんはそれだけ言うと再度ご飯を食べ始めた。
「……皆さんお腹も空いているだろうし、先にご飯にしましょうか? 席は空いてるところに自由に座ってくださいね。後飲み物は麦茶とお茶どちらにしますか?」
「「「「「「「麦茶で」」」」」」」
「分かりました」
「兄さんご飯お代わり」
「大輝君ちょっと待っててね」
「はーい」
カミキさんはそういうと姫川さんのお茶碗持ってキッチンに移動した。
「ねぇアクア? カミキさんとあの姫川さんって一体どういう関係なの?」
「それが全く分からないんだ。知っていることはカミキさんも劇団ララライに昔所属していた事ぐらいだ」
「へぇー姫川さんちょっと良いですか?」
「うん? 何かな?」
「カミキさんって役者として当時はどうでした?」
「ああ、兄さんは主役級はあんまりやって無かったけど、それでも下手って訳じゃ無くて何でも器用に熟せてたなぁ~それこそ女性役だってお手の物だったし……兄さんが居た時が一番劇団が儲かっていたと思うよ。一人で2役位平気でこなしていた訳だし、裏方も任せる事が出来たから仕事が無くなる事は無かったんじゃないかな?」
「へぇーそうだったんだぁ~」
姫川さんの話にアイが食いついた瞬間だった。
「ハイ、お待たせしました」
そして、タイミングが悪いことにカミキさんが戻って来てしまった。
「ねぇねぇヒカル君? ヒカル君の劇団時代の話を聞かせてよ!」
「それは構いませんが……皆さん何が聞きたいですか?」
「そうだねぇ~まず主役級をあんまりやれなかったのは何でかな?」
「ああ、それはですね。単純にあんまり興味が無かったからというのもありますが、大輝君は経験してるからアレなんですけど……主役級って拘束時間が長いじゃあ無いですか、それに実際の所主役は当たればデカいですが、その分リスクも大きいし、何よりも倍率が高いので、役に選ばれないと収入無しですからね。その点脇役はあんまり出番が無いので収入も少ないですが、2役3役熟せれば問題無いですし、上にあいつは便利だと思わせればどこの現場にも呼んで貰えて、しかも裏方もこなせればその分収入がアップしますのでこっちにシフトしただけですよ」
カミキさんの考えはやたらと現実的だった。
「それに私は当時劇団以外で副業もしていたので、あんまり拘束されてしまうのは避けたかったんです」
カミキさんの副業がどうにも女性関係の話題にしか聞こえないのだが……
「なので私は自分の事を2流の役者だと思っていますよ」
「ところでヒカル君の当時の副業って何かな~?」
「……それは後でゆっくりお話ししますので、ご飯にしましょうか? このハンバーグ頑張って作ったんで食べてくださいね」
「私ヘルシーなのが食べたかったんだけど……?」
「ええ、なので頑張って作りましたよ『豆腐ハンバーグ』をね」
「兄さんこれ豆腐ハンバーグなの!? 普通に肉だと思って食べてたけど普通に美味いぞ」
「大輝君ありがとうございます。ハイ、じゃあアイさんあーん」
「あーん」
カミキさんにあーんをされてるアイを驚いた目で有馬は見ているが、ここでの常識だから気にしない方が良いぞ
「有馬……アイとカミキさんはいつもこんな感じだから気にせず食べてろ」
「……まあ良いけど、それにしても豆腐ハンバーグなんて、モグモグ美味しいーーー」
「頑張って作った甲斐がありました。お代わりもありますので遠慮せずに食べてくださいね」
カミキさんがそういうとカミキさんの膝にツクヨミが座り始めた。
「ねぇ私にもあーんしてよ」
「はい、どうぞ」
カミキさんは自身の箸で器用に豆腐ハンバーグを切り分けると、ツクヨミにあーんをしてあげた。
「なーにアクア私の顔見てどうしたの? まさか私にあーんでもしてあげたいのかな? 残念でした~その役割はカミキさんのだもんね~だ」
ツクヨミは舌を出して挑発して来た。
このクソガキが!?
「うるさい黙って食ってろよ!!!」
そして俺とツクヨミのこのやり取りもいつも通りだった。