「え~この件についてはそう遠くない未来で発表しますので、言いふらして頂いても構いませんが……高々30過ぎの男女が結婚しただけの何処にでもある話ですよ?」
さっきまで動揺していたハズのカミキさんが不敵に笑い始めた。
確かにアイとカミキさんってだけなら、スキャンダルにもなりそうな気がするが……30過ぎた男女が結婚しただけの話って聞くと途端にありふれた話しに聞こえてしまうな
「う~ん、ま、そこまで詮索はしませんがちなみにアクアは?」
「ええ、勿論私の子ですよ。正確に言えば私の親戚の子供ですがね」
ああ、そこは認めた上で親戚の子で通すのか……
「カミキさんの親戚のお子さんか~カミキさんとは付き合いは長いけど初めて知りましたね」
「それはそうですよ。そんなこと言ったら私だって鏑木さんの家族関係や友達関係に好きな女性のタイプなんか知りませんよ?」
「……確かに」
「それに私はもう30歳なんですから、例えどこの誰と結婚したとして、それに関しては誰にもとやかく言われる筋合いは有りません」
「分かった。分かりました」
「じゃあ、早速アイさん始めますよ」
「う、うん分かったよ」
そして、カミキさんとアイの劇は始まった。
ヒロイン役のアイに主役のカミキさん? いや、違う鳴嶋メルト! メルトが居た!?
「ほっといてよ! 勝手に着いてきて!」
見るもの全てを魅了するアイの”才能”と演技ではなく”本気”のカミキさん
「お前の考えそうなことだ……」
目の前で演じてるのは偽物だ! 本物にこんな演技出来はしない! なのに……
「馬鹿なの?」
「でも」
「一人に…させねーよ」
俺は目が離せなかった。
「ふぅー。ま、こんな感じですかね? どうでしたか本物の鳴嶋メルト君?」
「舐めた口聞いてすみませんでした!」
メルトはそういうとカミキさんに頭を下げた。
「……構いませんよ。初めての演技で指導も無くて、100点を取れなんて方がそもそもおかしいですからね。ドラマに大人の思惑は付き物ですし、自覚はしても、どうすれば良いのか分からない……そんな中でも、腐らずに意地を張れるなら……それは君の立派な武器になります。私は君の事を応援しますよ」
「俺なんかに出来ますかね?」
「”偽物”に出来たのなら、”本物”に出来無い道理はありません。自信を持ちなさいメルト君」
「分かりました。……カミキさん! 拙いけど見ていてください」
「ええ、頑張ってくださいね」
カミキさんはそういうと鳴嶋メルトににこやかに答えた。
「アクアもうかうかしているとメルト君の邪魔になっちゃいますよ?」
「確かに俺にはアイみたいな才能やカミキさんがやった演技力もありませんが、それでも素人には負けませんよ。それでも小道具・カメラ・照明・役者……それら全部使ってアイみたいにやってやる」
俺はそれだけ言ってリハーサルの位置に着いた。
「……はぁ、アクアにも困りましたね。才能なんてものはあやふやなまやかしなのに……」
カミキさんの言葉は俺の耳には届かなかった。
結局の所『今日あま』の最終回は大きくバズる事も話題になる事もなく、狭い界隈でひっそりと熱烈な賞賛を受けた。
そして、ドラマ『今日は甘口で』の打ち上げパーティーに最終回だけしか出ていないけど、俺とカミキさんとアイも呼ばれていたが、アイは仕事の都合で来れず、カミキさんは関係者達への挨拶周りをしていた。
なので俺はパーティー会場で一人きりになるかとおもったんだが……有馬が終始横にいた。
「こうやって見ると……改めて多くの人が関わってるんだと思うな」
「そうよ。私達の演技には多くの人の仕事が乗っかってる。だから結果を出さなきゃいけないし……スキャンダルなんてもってのほか……ちなみにあんた彼女とかいるの?」
「居ないからスキャンダルもクソもない」
俺がそう答えると有馬は顔をそむけって素っ気無く答えた。
「そ……ふーん……」
「撮影お疲れ様でした」
振り向いたら、眼鏡をかけた女性が近寄って来た。
「あっ先生……」
有馬が先生と言ったって事はもしや『今日あま』の作者か?
「この作品は有馬さんの演技に支えられていたと思います。ありがとうございました。」
よかったじゃねーか。有馬……お前の努力ちゃんと報われているじゃん
「やあやあ最終回はアクア君のおかげで評判よかったよ。……作品の収益的にはキビかったけど、それは僕の見立てが悪かったからあれだけど……」
「いえ、俺もお役に立てれて良かったです。」
そういって近寄って来た鏑木Pはどことなく嬉しそうに語る……顔が赤いし、酒臭いことから結構飲んだな?
「やっぱりカミキさんの子の事はあるね……あいつも昔っから泥臭くて、体を張って、演技の為なら殴られる事も厭わずに……かと思えば裏方の仕事もやっていたから演出の意図を読む事も出来ていたよ。だから一度聞いた事があるんだ……どうしてそんなになってまで役をこなすのかとね。そしたらあいつなんて答えたと思う? 『少ないながらもお金を頂いてる以上は私はプロです。……なら泣き言をいう前にやるべき事をやるだけです』ってね。それが本心かどうか知りたくてね。本当に安い金額で色々とこき使ったし、嫌な役を散々押し付けたしね」
聞いてもないのにカミキさんの事べらべら喋り始めたけど、まさかカミキさんにもそんな下積み時代があったなんて……知らなかった。だからカミキさんは鳴島メルトに対しても優しかったのか……
「今回カミキを呼ばなかったのは、あいつ無しでも大丈夫だと高を括った僕が悪かったし、大人の事情にアクア君を巻き込んで、あまつさえ体を張らせてしまった以上僕としては埋め合わせをさせて貰いたいんだけど良いかな?」
「それはどういった内容ですか?」
「恋愛リアリティショーって知ってる? 僕が受け持ってる番組で『今からガチ恋♡始めます』ってのをやっててねそこに出演してみないかい?」
それは本当に埋め合わせなのか?