「アクア収録お疲れさまです。夕食はどうしますか?」
今日はカミキさんに収録現場まで迎えに来てもらった。
他のキャスト陣は送迎バスがあるので、先に帰って貰っている。
そして、カミキさんの服装だが、以前陽東高校に迎えに来てくれた巫女服にキツネ耳では無く、黒いスーツ姿だった。
もう、キャスト陣は帰ったので、犠牲者が出ることは無いけど……本当に良かった。
「そうですね。何か美味しい物が食べたいです」
「美味しい物……分かりました。じゃあ私のおすすめの場所に連れて行ってあげます」
カミキさんのおすすめの場所?
でも、カミキさんが太鼓判を押すぐらいだからとんでもなく美味いんだろうなぁ~と期待に胸を膨らませて、カミキさんのバイクに乗った。
「アクア一旦バイクは置いて来たいので事務所に向かってから、そこに案内しますよ」
ということは、事務所から近いのか?
そんな近くに有名な飲食店なんかあったっけ?
頭に疑問を浮かべながらもバイクは走り出した。
バイクを事務所に置いて、賑わっている繁華街とは逆にうっすらと静まり返った住宅街をカミキさんと一緒に行くと、とある公園にたどり着いた。
その公園の真ん中には今は中々見ることの無い、屋台のおでんが営業を行っていた。
「あの~カミキさん?」
「まぁまぁ~アクア疑う気持ちも分かりますが、私これでも24年近くここに通っているんですよ。」
「24年って……カミキさん6歳の時からここに通っていたんですか?」
「そうですよ。あそこのおんぼろアパートの元共用便所で生活していた時からですね。私は6歳から劇団ララライに居ましたが、そんなに売れてる訳ではなかったので、生活費自体はそんなにかかっては居ませんでしたが、それでも収入が少なかったので、いつもかつかつでした。なので、たまの贅沢だってラーメンや牛丼にマック位でそれも一ヶ月に一回あれば良い位でしたね」
とんでもない苦労話が出て来た。
「でも、売れるようになったので、お腹いっぱい飯を食えるようになりましたが、そんなときには成長期が終わってしまい身長は伸びずじまいです」
苦笑まじりに答えるカミキさんだったが、その表情には陰はなくどこか嬉しそうにしていた。
「大将邪魔するよ」
「おう、カミキ今日はどうする?」
「じゃあ、卵と大根とはんぺんと熱燗で!」
「あいよ! そこのお連れはどうするんだい?」
「ああ、じゃあ適当にお願いします。あとなんかあったかい飲み物」
「おう」
「じゃあ、まずは乾杯ですね」
カミキさんは熱燗で俺に出されたのはお茶だった。
未成年だから仕方ないけど……
カミキさんはクイっと美味しそうに飲むとほっと顔を緩ませる。
以前アイにお持ち帰りされた時はすぐにダウンしたって話なのに、この間のフグの懐石料理の時なんかは馬鹿みたいに飲んでも全然倒れなかったどころか、アイが潰されてしまったのだ。
『嘘だぁーひかるきゅんおさけによわよわのはじゅなのに……』
『あの時は何にも食べて居なかったし、そもそも仕事で疲れてましたのでね。普段であれば酔いつぶれませんよ』
と動画の最後にそんなやり取りがあった。
「カミキお待たせ! はい、お連れの方もどうぞ」
カミキさんの前には卵と大根とはんぺん
俺の前には大根とがんもどきとちくわぶがだされた。
「今でこそ何百・何千万も稼げるようになったので、何十万もするフグの懐石料理やアクアが食べた松坂牛エンペラーブリアンのほかにも高い物は一通り食べましたが……ここの屋台の80円の大根が私にとっては一番美味しかったです」
「嬉しい事言ってくれるなぁカミキ! よし、サービスでウズラの卵を付けてやる」
「大将ありがとう。じゃあアクアも食べてみてください」
カミキさんはそういうと大根を食べやすい大きさにして箸で分けて美味しそうに食べ始めた。
俺もカミキさんに倣い大根を分けて食べた。
しっかりと味が染み込んでる大根はとても美味しく、先日食べた松坂牛エンペラーブリアンよりも美味く感じた。
ふとカミキさんを見ると懐からタバコ取り出して吸おうとしていた。
「ん? どうしましたアクア」
「いや、どうしたも何もカミキさんタバコ吸うんですか?」
「ああ、これ? 実は禁煙草で出来ている、ニコチンフリーのタバコなんですよ。よもぎを100%使用しているので、むしろ健康的ですらありますね」
「へ、へぇーそんなのが今あるのか……」
「事務所内では吸えないので、屋上に喫煙スペースを作って天気の良い日は吸っているんですよ。まぁアイさん達には内緒ですがね。でも、大人になればこういったストレス解消法がありますが、アクア達の年代ではそうはいきませんよね。『今ガチ』の収録は大丈夫ですか?」
カミキさんの言葉に驚いてしまった。
「……その様子だと、うまくはいってるけど、危うい状態みたいですね?」
「どこまで知っているんですかカミキさん?」
「……番組映えが悪くて出番が少ない方がおり、その方の事情は分かりませんが、ドラマを見た感じですと、かなり焦っているように見られますね」
「……なんでそんなことが分かるんですか?」
カミキさんの言葉に俺は心底驚いてしまった。
ドラマを見ただけで、相手の行動原理を読み切っている?
そんなこと気づけるはずが……
「……出演時間が極端に短いんですよ。そうなると所属事務所から役者に対して注文が入ります。そうなると真面目な子程、何とか爪痕を残そうと無茶な事を行いますが、現場的にはそれはさしたる問題では無いので、演出もテコ入れもされてないのは見れば分かりますよ。それを踏まえてアクアはどうしたいですか? アイの様に主役をかっさらって一人だけが輝くステージを作るか、脇役に徹して役者全員にフォーカスを当てるか、傍観者を気取り流れに身を任せるか? どれを選んでも構いません。私が助けるのは今現状アクアだけです」
「……俺は正直、『今ガチ』に執着は無い……なんなら今すぐに辞めても良いとすら思ってる。でも、俺にはカミキさんのいう脇役ってのが良く分からない」
「簡単な話です。主役の踏み台になるのが脇役では無く、主役を輝かせるのが脇役なんです」
「……そっかぁーじゃあ黒川あかねにスポットライトを当てる方法は?」
「それは勿論彼女の得意な事を大々的に行うことです。……ちなみに黒川あかねさんって何をされている人ですかね?」
「だ・か・ら、なんでカミキさん知らないんですか? 女優で劇団ララライに居る人ですよ!?」
「ご、ごめんなさい。私は今現状のララライは良く分かってなくて……あ、そうだ。大輝君に聞けばわかるんじゃないかな? 何分現役なんで彼女の事も知っているでしょう……」
カミキさんはそういうと慌てて姫川さんに連絡を取った。